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4巻
4-1
親子でお料理タイム
今日は、ジョーから火の使い方を教わる日だ。通常プレゼントを贈らない年の誕生日にほろ酔い気分で陽気になったジョーからどさくさに紛れて取りつけた約束だ。
いつもよりもやや真剣な表情でジョーが人差し指を上げる。
「ミリー、火を使う際に一番に気をつけることはなんだ?」
「猫亭を焼かないこと!」
手を上げてそう言うとジョーが苦笑いしながら答える。
「それも大切だが……一番に気をつけるのは怪我をしないことだ」
「はーい」
「ミリー、ちゃんと聞け」
「はい!」
ジョーが壁際の私の身長より位置に備えつけられたオーブンの前で、私を抱っこして中を見せてくれる。以前ジョーがいない時に、風魔法で飛んで中を覗き見たことはあったが、その時よりも弱火なようで、近寄っても強い熱気は感じない。
「オーブンには四六時中いつでも小さな火が付いていて、使う時にはすぐに火が付く状態にしている。実際に火を扱う必要があるのはコンロだ。ほら、これを使え」
ジョーは私を下ろすと、準備していた私用の木の踏み台を出す。トントンと踏み台に乗り、コンロを眺める。丁度いい高さだ。
ジョーはコンロの掃除を徹底してくれているようで、クリーンをかけていない状態でも比較的綺麗だ。
「コンロ、綺麗だね」
「うちの小さな天使がうるさいからな」
ジョーが笑いながら言うので、釣られて笑ってしまう。
確かにうるさい小さな人間がいる、私だ。
「俺は火魔法が使えるから必要ないが、ミリーはまずこいつらで火をつける練習をしないとな」
ジョーに渡されたのは、私の手でも持てるゴツゴツした石と先の少し尖った鉄の棒だった。
まさかコレで火をつけるの? 猫亭で誰かがこれを使っているのは今までに見たことがなかった。火関係はジョーが全て取り仕切っていたから、特に気にしてもいなかった。
この国は文明の進み具合が不思議だ。地球が歩んだ進み方と違う。
魔道具はあるのに火打ち石で火をつけている……多分、魔法や魔石があるので一部の技術は改善する機会がないのかもしれない。
渡された棒の赤錆が手に移る。
「錆びてるよ……」
「ああ、普段は使わずに箱に入れっぱなしにしてるからな。ミリー、この手袋を着けろ。火傷したら大変だ」
手袋をはめ、ジョーの説明通りに専用の器の上で石を棒に叩きつけるが何も起こらない。
「貸してみろ。こうやって石の上に黒布を置いて、鉄の棒を叩くように擦れば――」
ジョーが火打ち石を使ってカチンカチンと音を立てると火花が飛び、黒布に火が移る。火のついた黒布を、あらかじめ準備しておいた鉄箱の麻紐の上に置いたら火が燃え上がった。原始的だ。
ジョーにやってみろ、と火打ち石を渡される。
カチ、カチ、と寂しい音が台所に広がる。思っていたよりも難しい……
「うーん」
「気にすんな。最初は誰でもコツを掴むのに時間がかかる。ナイフの裏でもできるが、それは危ないからやるなよ。ま、営業中はコンロも含めて厨房の火は常についているから、猫亭でコレを使うことは少ないだろうしな」
これは、できなくても問題なさそう。ジョーは知らないけど、火魔法使えるし!
手袋を外し手の匂いを嗅ぐ。鉄臭い。マッチやライターがあれば便利なのに。作り方? 知らない! とりあえず、手をクリーンする。
「じゃあ、次だな。コンロの下の扉は薪を入れる場所だ。毎朝、俺の火魔法で火をつけるが、ミリーはオーブンから火種を使え」
私の身長でも踏み台に上がれば一応オーブンから火種も取れる。
ジョーはコンロって呼んでいるけど、これはかまどだよね。薪を入れて、前も使ったことのある缶に入っているスライムに移した火種で火をつける。スライムのおかげか薪に火がつくのは早い。さすが、放火魔の魔物だ。
「ミリーなら分かっているだろうけど、コンロの上は無闇に触るなよ。火傷するから」
コンロの前にある木の踏み台に上る。コンロ口は四つで一番左の火力が一番弱くなるよう、火の出口が調整されている。それに加えてジョーは弱火から強火の微調整を火魔法でしながら料理をしている。右側には鉄板がある。
「手始めに朝食用の卵でも焼いてみるか? 水を入れると、湯気が出るから気をつけろよ」
ジョーが見守る中、私は鉄板の上に卵を割り落とした。水を加え、ジュワッと湯気が出たらすかさず上から木の取っ手がある鉄の蓋をする。
今回はジョー好みのベースドエッグを作る。蓋を取ると丁度いい感じにできた卵が現れる。
こちらの世界の卵の焼き方は、今みたいに蓋をして片面を蒸し焼きにするベースドエッグか、両面をしっかり焼くオーバーハードが好まれる。ちなみに、私は蓋をせずに片面だけを焼くサニーサイドアップが好きだ。ジョーからは、それはほぼ生だろって心配されているけど……
「ミリー、ばっちりだな」
「お父さんが、最初に食べてね」
卵を載せた皿をジョーに渡すとその場でペロリと平らげる。
「うん、美味いな。みんなの分も作ってくれ」
「はーい!」
みんなの分の朝食を作り終わったところで、ガレルさんが厨房にやってきた。
「旦那さん、ミリー嬢ちゃん、おはよう。今日は二人、朝早いな」
「実は今日からコンロの使い方を習うことになったのです。これ、ガレルさんとラジェの朝食です」
みんなのために張り切って作ったいつもより量を大目の目玉焼きとハムが盛られた皿から二人の分を取り分け、ガレルさんに渡す。ガレルさんは微笑みながらお礼を言った。
「ありがとう」
「よし、火の練習については一旦ここまで。ガレル、食ったら客の朝食の準備を始めるぞ」
「私も今日お手伝いの日だから準備してくるね」
朝食は忙しかったがマルクと二人だったので、余裕で捌くことができた。朝食のシフト後、掃除を済ませジョーの料理を手伝いに厨房へ向かう。
「ミリー、今日のランチは、からあげとオークの生姜焼きだ。揚げ物はまだ早いから、オークの生姜焼きを手伝ってくれ」
鉄板に少量の油を引き、野菜とオークを焼く。良い頃合いで魚醤、生姜、ニンニク、レモン汁を入れ、最後に塩で味を調整して蓋をする。ジョーがそんな私の姿を見ながら訝し気に尋ねる。
「手際がいいな。こっそりコンロを使っていたんじゃないよな?」
「そんなことしてないよ。お父さんをいつも見ていたからだよ」
「照れくさいことを言うなよ」
本当はこっそり魔法を使って火を調整したり重い蓋を軽くしたりしているけど……そこはいいよね。
ジョーの後ろではガレルさんが夜用の肉を切っている。包丁さばきが速いし正確だ。
そういえば、ガレルさんは以前、冒険者ギルドで解体の仕事をしていたってラジェが言っていたな。それなら、この手捌きは納得だ。ガレルさんが切り終えた肉を氷室に片付けるのを見て慌てて声を上げる。
「おおう! 待って!」
「ミリー嬢ちゃん、どうした?」
「ガレルさん、お肉は氷室の一番下の段にお願いします」
肉の置き場所を注意する。これは絶対、絶対、絶対に重要だ。ジョーが思い出したように頷きながら同意する。
「おう。そうだった。ガレル、肉は下の段に頼む」
「分かったが、どうしてた?」
ガレルさんが肉を一番下の段に置き直しながら尋ねる。
「お肉を上の段に置くと肉汁が下に垂れてしまうかもしれないからです。他の食材に付くと菌――お腹を壊します。それに下の段は温度が低いので傷みにくいです。他の物に生のお肉が接触しないようにお願いします」
「分かった」
危ない。細心の注意を払わないと、猫亭集団食中毒ウエルカムコースまっしぐらだ。菌の説明をしてもきっと誰も理解をしてくれないと思う。
これは仮説だけど、前にも言ったように菌は多分クリーンでは完璧に消えないような気がする。だって、『汚れ』じゃないから。それは、毒も同じだと思う。ポテトスキンの調理の時もクリーンでは不安だったから、白魔法の浄化を使った。思うに白魔法の浄化は身体に悪質な物を除去しているのではないだろうか。クリーンよりも強力なのは確かだ。理由は単純、魔力をもっと使うからだ。あくまでも、仮説だけど。
どちらにしろ、回りのみんなが使えるのはクリーンの方だ。白魔法は使えないから、菌の蔓延には気をつけないと。病気になってみんなで三日三晩のおトイレハグは絶対に嫌だから。
うーんと次の生姜焼きを作りながら唸る私にジョーが声をかける。
「ミリー、何をまた難しい顔をしてるんだ? 生姜焼きはできたか?」
「うん。完璧だよ!」
「どれどれ。自信ありそうな顔だな」
ジョーが私作の生姜焼きを味見する。
「どう? 美味しい?」
「おう! 俺のよりも美味いんじゃないか? さすがミリーだな」
「えへへ」
それから忙しいランチも捌き、片付けも終了して部屋へ戻ろうと厨房のドアへと向かうとジョーに引き止められる。
「お! そうだ。今月分のお手伝いの小遣いを渡さないとな。ミリーは自分でも稼いでいるから少なく感じるかもしれないが、一応今月から値上げしといたぞ。週に小銅貨五枚だ」
「本当! 嬉しい。えへへ」
お小遣いアップはお手伝いの範囲が広がったという理由もあるけど、ラジェに掃除の仕方を教えたりマルクに計算を教えたりしたからジョーが教えることが減った分、時間が浮いたので私のお小遣いをアップしたのだと言われた。素直にうれしい。
ジョーから貰ったお金を猫の財布に入れると違和感に気づく。
(あれ? え? 赤い玉がない)
え? どうして? お金はあるから……誰かに盗られた訳ではない。もしかして、落としてしまった? どこで落とした?
「あ……」
やばい。絶対この前行ったステファニーさんの家だ。ハンカチを落とした拍子に猫の財布から落ちた可能性が高い。くっ、赤い玉には魔力をマシマシに込めている……魔力を込めなければよかった。
「どうしよう。うーん」
しばらく考えたけど、どうすればいいか分からないので保留することにした。
万が一ステファニーさんに尋ねられてもいつものようにとぼけるか、屋根裏部屋で拾ったと嘘をつく予定だ。それに厳密に言えば、屋根裏部屋で拾ったというのは嘘ではない……よし、それでいこう。次にいつ会うか分からないし、今悩んでも仕方ないよね。
菓子店アレコレ
数日後、爺さんの執務室にポーズを取りながら元気よく入る。
「シャキーン」
「来たか」
「ギルド長、お久しぶりです」
今日は商業ギルドを一人で訪れている。執務室にはミカエルさんもいたので挨拶をする。
いつものソファに座るよう爺さんに促されると、目の前のテーブルに箱を置かれた。これは――
「お主、七歳になったそうだな。これは、祝いだ」
パズルボックス………しかもこの前貰った物より大きく、より難解になっている気がする。
「ギルド長……大変嬉しいのですが、七歳の誕生日にお祝いの品は必要ないですよ」
「なんだ、お主、これを解く自信がないのか?」
「誰もそんなこと言ってないです」
「クク。まぁ無理だろうが、精々頑張るのじゃな」
爺さん……ニヤニヤして本当に性格悪いな。でも確かに今回のパズルボックスは時間かかりそうだな。こんな繊細な物を誰が作ったの? 技術の無駄遣いじゃない? わざわざ解かなくても、壊せば良いかな?
「これが解けたら、また中に何か入っているんですか?」
「それは、解いてみないと分からんな。壊したら中身も壊れるから気をつけよ」
「……そうですか。『お祝い』をありがとうございます」
「私はそろそろ出かける。ミカエル、後はよろしく頼む」
「はい、ギルド長」
爺さんが退室すると、ミカエルさんから菓子店リサの進行状況の説明を受ける。内装の修復工事はほぼ完了したとのことだ。作業をお願いしていたギルド専属の大工のリーさんは現在外装と看板の作業、それから家具の修復作業に取りかかっているそうだ。
雇った料理人たちは、ルーカスさんとレイラさんを中心に日々お菓子作りの練習を重ねている。販売員の雇用もすでに終わっているという。
ミカエルさんに新しく雇用した従業員のことを尋ねる。
「販売員はどのような方たちですか?」
「中心人物としてビビアンという、二十年以上食事処で接客業務をこなしていた経験者を。それ以外にも四人の優秀な者たちを雇っております」
内装工事が全て終了したら八の月のオープンまで商品の勉強と接客のトレーニングをするそうだ。順調に進んでいるらしい。さすがはミカエルさんだね。
「食器類については以前のレストランから引き継いだアイボリーを基調とした物を使う予定です。足りないものはすでに追加でオーダーしました」
こちらもすでに承諾していた内容だ。
「ありがとうございます」
「次にこちらですね」
ミカエルさんがお店で出す紅茶、果実水、お酒などがリストアップされた資料を見せる。
「うーん。酒類はなくても大丈夫だと思いますが、いかがですか?」
「そうですね……菓子店という新しい試みですので、ひとまず酒類は取り扱わずに客の反応を見てみましょう」
「お茶は、確かお店のお隣がお茶屋でしたよね? そちらとの取引は可能ですか?」
「はい。私もそのように勧めるつもりでした」
ミカエルさんも隣のお茶屋と商売するのに賛成のようだ。近所の店とは仲良くしておいて損はないよね。
お茶のリスト項目の一つにカフィとある……これはもしかしてコーヒーのこと?
「このカフィは、どのような飲み物なのでしょうか?」
「焙煎豆を煮出した黒い飲み物ですが、香りがよく、気持ちが落ち着くとここ最近人気です」
やっぱりコーヒーのように聞こえる。東区で見かけなかったが西区では数年前から取り入れているお店が多いという。コーヒー、懐かしいな。
「ぜひ、飲んでみたいですね」
「それでしたら、商業ギルドにカフィ用の道具があります。少々お待ちください。今、お持ちしますね」
ミカエルさんが持ってきたカフィ用の道具は、記憶にあるドリップコーヒーのようなものだった。水に浸かっている金魚掬いのポイに見えるのは……布製のネルフィルターか。
ミカエルさんが早速準備を始める。少し粗めに挽いた豆にお湯がゆっくりと注がれると、辺りに芳醇な香りが漂う。
(これは完全にコーヒーだ)
「こうやってゆっくり淹れるのが美味しいコツのようです」
ミカエルさんから出来立てのカフィを入れたカップを受け取る。
「いい匂いですね」
コーヒーの匂いは久しぶりだ。前世では、毎朝飲む一杯のコーヒーが楽しみだった。
「ミリー様のお年頃の子は好みが分かれる飲み物だと思います。苦手なら全て飲まなくても大丈夫です。ご注意ください」
カフィを一口飲みやめる。残念だ。子供舌のせいで随分苦く感じる。匂い自体はこんなに芳醇でフルーティなのに……
「残念ながら私には苦いのでミルクをお願いします。カフェ・オ・レにします」
「かふぇ・お・れですか? 初めて聞きます。もちろんミルクのご用意もしていますよ」
カフィと温めたミルクを半々に入れた、カフェ・オ・レを飲む。これは美味しい!
カフェ・オ・レを味見したミカエルさんが目を見開く。
「これはこれは、カフィの苦さがダメな方も美味しくいただけますね。ミルクを足すことは今までもありましたが、温めたミルクを半々にして飲んだことはありませんでした」
「他にどのような飲み方があるのですか?」
「先程の淹れ方、ブラックが主流ですね。カフィは新しい飲み物ですので、王都でもそこまで定着はしておりません」
ミカエルさん曰く、数年前に焙煎方法の登録がされてからカフィはいろいろな店で見かけるようになったそうだ。
「どんどん人気になりそうですね」
「かふぇ・お・れは商品登録されますか?」
ミカエルさんがカフェ・オ・レに視線を落とし尋ねる。
今はブラックで飲み方が主流のようだけど、広まればカフェ・オ・レの飲み方は思いつく人は多いはず。なんでもかんでも利益ばかりを独り占めしても意味がないと思う。私のゴールはたくさんの美味しい物を広め、砂糖の値段を暴落させることなんだ。
「……無料登録にしてください」
「ミリー様ならそう言われると思っていました。こちらはそのうち、自然と広まりそうですね」
反対されるかと思ったけど、ミカエルさんもこの意見には賛成のようだ。よっぽど好みに合ったのか、ミカエルさんがカフェ・オ・レを飲み干す。
「カフィの原材料のお値段は高いのですか?」
「いいえ。カフィの豆は現在二か国からの輸入が可能です。紅茶の平均額よりも高額ですが、裕福な平民だったら常用として購入可能な値段です」
カフィの豆は小袋で銅貨五枚だと言う。東区も日常的にお茶を飲む、嗜好品だけど余裕があればコーヒーも買えるかもしれない。
カフェ・オ・レを再び口に含む。砂糖があればもっと美味しいだろうな。
ミカエルさんが思い出したようにカフィについて話を始める。
「砂の国では、粉状のカフィを銅の小鍋で水に溶かし、熱した砂の上で煮詰めて飲むとギルド長が言っておりました」
それはトルココーヒー風なのかな? 前世では専門店で飲んだことあった。確か、コーヒー占いなんてものもあったな。コーヒーを飲んだ後のカップをソーサーの皿にひっくり返して残った粉末の模様で占った記憶がある。あの時、私のコーヒー占いは星型の模様で旅行運がアップすると言われた。確かに、遠くまで『旅行』するという不思議な状況にはなったけど……
ミカエルさんが使用したコーヒーのフィルター、フランネルに残った豆カスを捨て、念入りにクリーンをして水に浸ける。
「お手入れが大変そうですね」
「確かに、掃除は手間がかかります。このフィルターも氷室で保管をしなければなりません。お店の販売員にはカフィ道具の扱いを心得ている者がおりますので、ご安心ください」
「それなら、安心ですね」
ミカエルさんが全てのカフィ道具を片付け、ソファに腰をかける。
「実はこちらが開店するのと同時期におかしな偶然にもオーシャ商会から菓子店が出店する予定です。縁なのか策略なのか同時期に菓子に特化した専門店が二つ、並ぶことになります」
オーシャ商会……ソフトクッキーや、たこ焼きカヌレなオーシャ焼きを出しているところか。オーシャ焼き、また食べたい。
「お菓子屋が、他にも出店することは素晴らしいですね」
「ミリー様らしい意見ですね。オーシャ商会はアズール商会の傘下ですので汚い手を使ってくることはないと思いますが、クッキーの件で揉めましたので……慎重にいきましょう」
「そうですね。分かりました」
ミカエルさんはアイシングクッキーを登録した際に突っかかってきたロイを思い出しているのか、静かにため息をついた。私もできればロイさんとは衝突したくないな。ネチネチが凄そう。
「ミリー様、それから複層ガラスの件での相談なのですが……途中までは順調に進んでいたのですが、ボリスが悩んでるようなのです」
お店用に複層ガラスで作ったショーケースを、ギルドの魔道具技術者のボリスさんに依頼していた。
「そうですか。魔道具は詳しくはないのですが、お手伝いできることがあれば助力しますよ」
「それなら、この後はご予定がありますか?」
え? 今から? 少し驚きながらも返事をする。
「えーと……迎えが、六の鐘に来ます。それまででしたら大丈夫です」
「それなら、まだ時間がありますね。早速、ボリスの元へ向かいましょう」
◆
ミカエルさんの案内でボリスさんの研究室がある別館へ向かう。
(別館なんてあったんだね)
研究室は商業ギルド別館内の、歩いてすぐの距離にあった。
それにしても、この別館、やけに警備が多くない? ミカエルさんはここに来るまでの間、何度も商業ギルド職員の身分証を警備員に提示していた。
「別館ではギルドの新商品開発が行われています。機密事項が多いので警備も多いです。こちらが、ボリスの研究所になります」
大きな扉の前で足を止めたミカエルさんが備えつけの赤いボタンを押すが、音は何もしない。
こんな赤いボタンは見たことがないけど……このボタン、もしかしてドアベルなの?
やや呆れ顔をするミカエルさんに尋ねる。
「このボタンはもしかしてベルですか?」
「よく分かりましたね。中で灯りが付き、音がする魔道具です……音がしているはずなのですけどね」
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