転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫

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5巻

5-1




  お遊びは素晴らしい


 猫亭ねこていの表を掃除しているとジョーに声をかけられた。

「ミリー、今日は商業ギルドに行くんじゃなかったのか?」
「ううん。今日は何も予定はないよ」
「そうか。それなら芋の皮をいてくれ」
「まかせて!」

 厨房の隅のほうで軽やかに芋の皮をきながら、忙しく昼食の準備をするジョーとガレルさんをながめる。家族会議から少し経ったが、ジョーとマリッサの私への接し方はいつも通りだ。

(あれ? 私、ちゃんと魔法と魔力について告白したよね?)

 あまりにもいつも通りで……逆に悩んでしまう。
 家族で池にピクニックに行った時に使った、複数属性の魔法に対してもジョーは別に問題視はしていなかった。もちろん、いつも通りが一番だけど……
 ラジェも朝の猫亭ねこていの掃除が終わったようで厨房にやってくる。

「ラジェ、おはよう」
「芋の皮き? 僕も手伝うよ」

 ラジェとしばらく一緒に芋の皮をくことに集中する。
 互いに無言のまま、シャリシャリという音だけが聞こえる。時折、ラジェがいた芋をボウルに投げ、その度に私がき終わった芋の数を確認しているのが分かった。

「ラジェ、気になるの?」
「う、ううん。そんなことないよ」

 私やマイクに感化されたのか、ラジェも勝負事が好きなようだ。
 残っていた芋を全てき終わった後にラジェを見て口角を上げる。

「私の勝ちだね」
「ミリーちゃんのほうが先に始めたからだよ……」
「確かにそうだね!」

 二人でケラケラ笑っていると、私たちの会話を聞いていたジョーとガレルさんの生暖かい視線を感じた。二人はその後もハンバーグのタネをこねながら、私とラジェが芋の皮を片付ける速さで勝負をするのを見守った。
 ラジェの耳が治った事実を、ジョーもマリッサも自分のことのように喜んでくれた。
 マリッサの提案で、ラジェに耳の治療を施したのは、宿にたまたま泊まった他国の白魔法使いの冒険者だった、という話で辻褄つじつまを合わせることになった。
 白魔法使いは教会に囲われることが多いのだが、冒険者の中にも少数存在しているらしい。
 そういう冒険者は自身の能力を秘密にしていることが多いので、詮索しようにも誰かも分からないのだという。
 誰も深く突っ込んでくることはないだろうと、ガレルさんも嘘の片棒を担ぐことに賛成をした。
 食卓のテーブルを拭き終えたマリッサが厨房にやってきて言う。

「ミリー、そろそろ青空教室にラジェと二人で参加してみたらどうかしら?」

 青空教室とは月に数回、教会にて字の勉強ができる無料の教室だ。
 マリッサの私への『女の子の友達を作って欲しい』という願望はまだ消えていないようだ。
 女の子の友達ならニナがいるけど……最近はほとんど遊んでいない。
 マルクとはよく遊んでいるみたいだけど、ニナは基本インドア派だからだ。反対に私はマイクと外で元気いっぱいに遊んでいる。
 それに加えて、最近は特に忙しくてニナとは会えていない。マリッサが言うにはニナも油屋の勉強で忙しいようだ。
 マリッサの女の子の友達を期待する目から猛烈にプレッシャーを感じる。

「そ、そうだね。今度、覗きに行ってみようかなぁ」
「うんうん。いいわね。それで、いつ参加するの?」
「え、うん。次の機会かなぁ……」

 これは、青空教室に行くまでマリッサから無言の圧を感じる日々が続きそう。興味がないわけではないので来週にでもラジェと参加しよう。
 今日の昼食は鶏のトマトパスタと煮込みハンバーグだ。どちらも美味おいしそう! 
 今年はジョーとトマト瓶を大量に作った。厨房のそこら中にトマト瓶が並んでいて、食糧庫の中にもストックがある。
 これは頑張って消費しないと、そう考えながらパクリと煮込みハンバーグを頬張る。

(あ、これ、チーズ入りだ! ジョー、また腕を上げた?)

 ジューシーで旨味のあるハンバーグは百点満点だ。

「お父さん! これ、今までのハンバーグの中で一番美味おいしいよ!」
「そうかそうか。猫亭ねこていのみんなには今日は特別にチーズ入りだ」
「わーい!」

 ジョーが嬉しそうに笑いながら残りのハンバーグを焼く。それから思い出したように続けた。

「お、そうだ。ジェイが調理器具が仕上がったから取りに来いと言っていたぞ」

 そうだった。鍛冶かじ屋のジェイさんに、エッグセパレーターと泡立て器の製作を頼んでいたんだった。完成したんだね。ジェイさんには代金の支払い時、子供にとっては高額だからジョーと一緒に訪問するように言われていた。
 ランチ終了後、急いで片付けをした後にジョーと一緒に鍛冶かじ屋へと向かう。

「ミリー、ジェイに何を注文したんだ?」
「卵の黄身と白身を分ける道具と、泡立て器だよ」

 ジョーは、エッグセパレーターという調理器具のイメージがあまり湧かないらしい。

「今ある調理器具で十分じゃないか?」
「うーん。それは使ってからのお楽しみだね」

 注文した二つの器具をジョーに使ってもらうのが楽しみだ。

「ジェイ、俺だ」

 鍛冶かじ屋に到着してジョーが声をかけるが、表には誰もいない。
 少し待っていると、鍛冶かじ屋の従業員の大きな笑い声が奥から聞こえた。声は裏の作業場ではなく、部屋のほうからしているようだ。
 呼び鈴を何度鳴らしても誰も出てこないことに業を煮やしたジョーが、勝手に中に入っていく。声のする部屋へと向かう後ろ姿についていく。
 ジョーが足を止めた部屋の中には若い従業員が集まっていた。
 その中心にいる青年が手に持っているのは、コップに顔が彫ってある……たぶん、エッグセパレーターだ。
 コップに彫られた顔には、ちょうど鼻の辺りに穴が空けられていて、そこから卵の白身がズルズルと外に流れ出ていた。

「ミリー……」

 ジョーにジト目で見られる。
 待って! 
 確かにそんなエッグセパレーターを考えてはいたけど、これに関しては私の仕業しわざじゃない。
 私は無実です!

「私じゃないよ!」

 そう言ったけど、ジョーは信用できないという表情でジト目のまま私を見つめている。そうしていると、後ろからジェイさんの声が聞こえた。

「ジョー、あの意匠いしょうを考えたのは嬢ちゃんじゃないぞ。おい、お前たち! いつまで遊んでいる! 仕事をしろ!」

 ジェイさんの怒号で、蜘蛛くもの子を散らすように鍛冶かじ屋の従業員は部屋からいなくなった。
 テーブルに残った顔面コップを手にとり、彫られた不格好な顔を見る。
 こんな下らない物を作る楽しさをこの世界でも共感できるなんて……笑みがこぼれる。
 コップの彫りは荒いし、ギリギリ顔に見えるか見えないかの代物だ。でも、エッグセパレーターとしての機能は悪くない。
 私のオーダーした物じゃないけど……ちょっと欲しい。コップを持ったままジョーを上目遣いで見る。

「ダメだ」

 即答で撃沈だ。
 聞けば、このコップはジェイさんの作ったエッグセパレーターを見た若い見習いが、おふざけで作った物らしい。
 ジェイさんはコップを見ながらため息を漏らす。

「ったく。あいつらはふざけすぎだ」
「でも、少なくとも私はこれ欲しいです」
「はは。ジョーは嫌そうな顔をしているけどな。それより、嬢ちゃんが注文した物はちゃんと仕上がっている」

 早速ジェイさんに完成した品物を見せてもらう。泡立て器に関しては注文した通り、前世のオーソドックスな物だ。
 複数のワイヤーを根元で束ね、先端部分を丸くした泡立て器をジョーが興味深く観察している。どうやら興味を持ってくれたみたい。
 エッグセパレーターは二種類、卵一個用のスプーン型と、七個同時に黄身を分けられる皿型の二つだ。
 ジェイさんがテーブルの上に転がった卵を取り、ジョーに渡す。顔型エッグセパレーターの実験に使っていたものだろう。

「ちょうど、ここに卵とボウルがある。具合を試してみてくれ。何度か改良したから、黄身も破れないはずだ」

 皿型のエッグセパレーターに卵を割って入れる。黄身は上の部分に残り、白身は下のボウルへと問題なく落ちる。完璧だ。

「お父さん、今度は泡立て器を試してみて」

 ジョーがぎこちなく泡立て器を動かせば、綺麗にツノが立った、ツヤと張りのあるメレンゲがあっという間に出来上がった。
 ジョーはしばらくメレンゲをながめたと思ったら、ジェイさんに詰め寄り嘆願した。

「ジェイ! これをもう一個作ってくれ!」
「お父さん! それなら、これも!」

 鼻水コップを持ち上げながら言う。こんな下らない物なのになぜか欲しい。

「ミリーがマリッサに鼻水コップの必要性を説明できるならいいぞ」
「ワタシコレイラナイ」

 マリッサの目が笑っていない笑顔を思い出しながらブルッと震える。


  ◆


 別の日、商業ギルドで『スライムちゃん』こと水まんじゅうの最終確認を、ルーカスさん、ミカエルさんとすることになった。
 来週からついに、菓子店リサでスライムちゃんが売り出される予定なのだ。
 試作のスライムちゃんが固まるまでの間、ルーカスさんにエッグセパレーターと新しい泡立て器を披露し、その反応を確認する。

「エッグセパレーターと新しい泡立て器ですか……ふむ、確かに時間短縮になりますね」
「作業時間が大幅に短くなると思います」

 ルーカスさんのエッグセパレーターに対する反応はやや薄い。
 まぁ、実際これを喜ぶのは卵を分ける見習いたちだろうね。
 ルーカスさんは新しい泡立て器を手に取ると、卵白をあっという間に泡立てた。

「この泡立て器……、これは素晴らしいです。個人的に購入することは可能でしょうか?」

 泡立て器への反応はジョーと全く同じだ。
 店の泡立て器は全て新旧交換する予定だけど、個人的に欲しいということであれば、ジェイさんに追加注文をお願いする予定だ。
 泡立て器とエッグセパレーター、この二つの調理器具は猫亭ねこてい鍛冶かじ屋の連名で登録をした。
 ジェイさんは始めこそは連名の登録を遠慮していたが、エッグセパレーターに関してはジェイさんの試行錯誤しこうさくごがなければ完成していなかった。
 今後、調理器具の登録商品に関しては、構造が複雑なものを除いて、低価格から無料公開へ段階を踏んでいくことでジェイさんと話がついた。
 今回の二つの調理器具は、ひとまずは非公開で登録した。
 非公開の理由は二つ。鍛冶かじ屋が洗濯機の制作で忙しく手が回らないこと。びない鉄の素材が不足していること。
 聞けばここ最近の魔物増加のせいで、今まで鉱山に素材回収に行っていた冒険者たちまでもが、魔物討伐系の依頼にかかりっきりなのだという。そういうわけで、鉄系の素材不足はしばらく続きそうだ。
 それとは別に、鍛冶かじ屋の従業員からあの鼻水エッグセパレーターを登録したいという申し出があったらしい。ジェイさんに詳細を聞いて了承。時期が来るまで非公開で登録するようにお願いした。鼻水エッグセパレーターに関してのその後の判断はジェイさんに任せた。
 あれだったら陶器でも作れそうだけど、どうだろう? 
 しかし……鼻水エッグセパレーターがいつか世に出て、王都民のお茶の間で使われるのかと思うと――思わず笑ってしまう。
 いきなり笑い出した私を不安げに見るルーカスさん。物思いにふけっていた私は泡立て器について返事をした。

「ごめんなさい。もちろん一、二本でしたら、泡立て器の融通は可能だと思いますよ」
「それは嬉しい」
「そろそろスライムちゃんが固まったんじゃないでしょうか?」
「良い頃合いですね。味見をお願いします」

 ルーカスさんから数種類のスライムちゃんが載った皿を渡される。
 スライムちゃんの種類はうぐいすあん、白餡、その白餡にフルーツを練り込んだ赤ベリー系のピンク色と、青ベリー系の紫色の四種類だ。ピンクと紫のフルーツ餡はルーカスさんが考案した。
 その他にボーロに使う甘芋で甘芋餡も作ってみたのだが……コレジャナイ感が拭えなかったのでそちらは却下済みだ。
 上手くいかなかったのは芋の種類のせいかな? 使ったのはホクホク系の甘芋だったからいけると思ったんだけどね。ホクホク芋はスイートポテトで再チャレンジするかな……
 プルプル揺れる可愛らしい四種類のスライムちゃんが目の前に並ぶ。

「フルーツ餡のスライムちゃん、ピンク色と紫色で可愛いですね。ルーカスさん、素晴らしいです!」

 隣で見ていたミカエルさんも、スライムちゃんの最終の仕上がりに感心している。ミカエルさんは可愛いのが好きだもんね。
 ピンクのスライムちゃんを口に入れる。ああ……これいい。甘酸っぱいけど優しい味だ。
 今回のルーカスさんのフルーツ餡のように、これからもリサのみんなにはバンバン自分のレシピや考えを出して活躍して欲しい。そのほうが賃上げしたり、ボーナスを出しやすいし。
 そう思いながらミカエルさんにウインクをすると、スライムちゃんを食べていたミカエルさんがせ始めた。

「ミリー様?」

 困惑しながらこちらを見るミカエルさんを無視して二口目を頬張る。
 この甘酸っぱさは例えるのならば――

「恋の味ですね」
「恋の味……ですか?」


 困惑したルーカスさんに、もし私が恋をしているならジョーには伝えないほうがいいと助言される。
 そういう意味で言ったのではないのだけど……

「恋の味……いい宣伝文句になるかもしれませんね」

 ミカエルさんからもスライムちゃんに合格点が出たので、ルーカスさんとは別れ、爺さんの執務室へと戻る。ミカエルさんと一緒に部屋に入ると、書類仕事をしていた爺さんが口角を上げた。

「来たか」
「恋の天使ミリーちゃんがギルド長にお土産みやげを持ってきました。恋の味ですよ」
「お主……元気になったようで何よりだが、恋の味とはなんだ?」

 最後に爺さんに会った時、私はジョーとマリッサへ魔法の告白をどうやって切り出すかで悩んでいたからね。今はその話は解決して肩の荷が下りた分、すこぶる元気だ。
 爺さんが持ってきた箱を早く見せろと急かす。

「待ってください。今出しますから」

 爺さんの前にルーカスさんが新作のフルーツ餡のスライムちゃんを置く。

「ふむ。これはこの前の目玉とほぼ変わらんであろう」

 爺さんがピンクのスライムちゃんをぐちゃぐちゃに崩しながら食べ始める。

「恋心がぁ……」
「なんじゃい。欲しいのなら、お主も食べればいいだろう」
「私はさっき食べてきたばかりなので……」

 さっき食べてきたばかりのはずだけど、爺さんがもぐもぐと美味おいしそうに食べているのを見ると……もう一つくらいいけるかな?

「しかし、これはまた良い味だ。恋の味か……悪くない宣伝文句だ」
「私もそれをうたい文句にしようかと思っております」

 ミカエルさんと爺さんが互いを見ながらニヤニヤと商人の顔をする。

「ピンク色と紫色のスライムちゃんは、従業員からのアイディアなんですよ」
「そうか。良い従業員と巡り会えたな。で、いくらでこれを売るのだ?」

 うぐいすあんと白餡の原価は小銅貨一枚半くらいだ。フルーツ餡は小銅貨二枚。
 それなら一律で小銅貨五枚――いや、氷室ひむろの時間や手間や期間限定のことを考えると……

「ダイニングのお客さんのみの提供で、値段はどれも小銅貨七枚にします」
「うむ、成長したな。小銅貨五枚などと言っておったら、次来た時にお主に出す菓子を抜いてしまうところだったぞ」

 爺さんが恐ろしいことを言いながら笑う。ギルドでの一番の楽しみは爺さんがくれる菓子なのに。

「ミリー様、ギルド長のおたわむれですよ」

 ミカエルさんはそう言うけれど……本当かな? 爺さんの顔は結構本気だったのだけど。
 かくして後日、スライムちゃんは無事に店頭へと並んだ。
 映えのために二つあるショーケースの一つをスライムちゃんたちがジャックした。色とりどりのスライムちゃんが並ぶショーケースは壮観な光景だった。
 ミカエルさんの推しなのかフルーツ餡の割合が多い。確かに一番可愛いけど。

「変わった形と名前ですけど、こうやって並べるとキラキラして綺麗ですね」

 スライムちゃんを並べたビビアンさんが満足げに言う。
 スライムちゃんを初めてお披露目した時こそ少し戸惑っていた従業員たちだが、今ではそのプルンとした形を気に入ってくれているようだ。
 リサの営業が始まると、オーシャ商会のカシアンさんが一番乗りで来店して目を輝かせた。

「わぁ! 素晴らしい! これはなんだろう? 全て食べたいなぁ」
「い、いらっしゃいませ」

 今日もカシアンさんは一人だ。新商品の宣伝は、フルーツ餡の『恋の味』のキャッチコピーと共に数日前からお客さんに口頭のみで伝えていたけど……情報が届くのが早くない? 
 今日は私がカシアンさんを席へと案内する。

「こちらの席へどうぞ」
「ありがとう。ありがとう」

 新しいお菓子が楽しみでソワソワと待ちきれない様子のカシアンさんが椅子に腰をかける。
 以前よりも変装らしき格好は劣化しており、謎の口髭くちひげは少しズレている。額の汗を拭きながらカシアンさんが尋ねる。

「あのケースの中のお菓子、あれはなんというのかな?」
「スライムちゃんです」
「魔物の?」
「はい。外見からその名前をつけましたが、中身はうぐいすあん、白餡、ベリー系のフルーツが二種類で、合わせて四種類です」

 カシアンさんに餡の説明をする。

「スライムちゃんは、全ての菓子カシに餡という豆を練った甘い詰め物が入っております。カシのアンは優しい味で仕上げていて、それぞれのアンを薄いおカシの皮で包んでおります」

 カシアンさんはそれぞれのフレーバーの説明を興味深く聞きながらも早く食べたいという気持ちを抑えているらしい。その姿がなんだろう……カワウソのようで表情豊かだ。
 おまけに、カシとアンという言葉を使う度にカシアンさんの身体がビクッビクッと揺れる。
 いけない……イタズラ心が揺さぶられる。

「アン、か。初めて聞くお菓子だね。それにしてもスライムか。確かに似ている。魔物という恐ろしい存在があのように可愛らしい菓子になるとは……こちらの店の料理人は本当に素晴らしい。まさに奇才だ」
「ありがとうございます!」
「うんうん。それでは早速だけど、新商品を全種類注文したいな」
「かしこまりました!」

 カシアンさんの注文したスライムちゃん四種類をガラスの皿に載せ、一緒に注文した紅茶と共にカシアンさんの目の前へと並べる。
 カシアンさんはスライムちゃんを色んな角度から見たり、プルプルと皿ごと動かしたりしてから、緑色のうぐいすあんへスプーンを入れた。

「これは! 食べたことのない食感だ。つるりと口の中に入りほんのり甘く優しい。餡は野菜なのにえぐみがなく、後味もスッキリしている。今日のように暑い日には最高の菓子だ」

 カシアンさんの食レポをいただく。ありがとうございます!
 次から次へとスライムちゃんを口に運ぶカシアンさんにお礼を言って厨房に下がろうとしたら、追加で注文をされた。

「このピンク色のスライムちゃんをもう一つお願いしたいな」
「かしこまりました!」

 せっかくなので氷魔法で出した小さな氷をガラスのボウルに入れ水を注ぐ。そこにピンク色のスライムちゃんを盛り付けてカシアンさんに出すことにした。カシアンさんの席は他の席から見えにくいのでこれくらいのサービスは大丈夫だろう。

「お客様、こちらの食べ方も美味おいしいですよ」
「氷とは、贅沢だね。この水に浮いているスライムちゃんも涼しげで素晴らしい」

 カシアンさんはスプーンでスライムちゃんを切って口へ運ぶと、ニンマリと笑った。

「ピンク色のスライムちゃんは、フルーツの甘酸っぱさもあって『恋の味』なんて言われています」
「恋の味か……これは、持ち帰りはできるのかな?」
「申し訳ありません。こちらは賞味期限が短く、店内でのご提供のみとなります」


感想 501

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