転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫

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5巻

5-2

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 スライムちゃんは持ち帰りについてはもちろんだが、ショーケースの中ですら長持ちしない。そのため一日に作る量は限られていて、売り切れ次第その日は終了という販売スタイルにしている。
 ご家族へのお土産みやげにしたかったのだろうか?
 そういえば以前来店した時、次回は奥さんと息子さんを連れてくるって言っていたけど……今日はスライムちゃんを食べに急いで一人でやってきたのかな?

「そうか。フルーツ好きの妻にも是非食べさせてあげたかったな……期間限定とのことだけど、これはいつまでやっているのかな?」
「本日から半月ほどの予定です。一日の数にも限りがありますので、お早めにご来店していただければと思います」
「そうか……おお! 申し訳ないが会計をしてくれるかな」

 カシアンさんが焦ったように財布を出す。どうやら仕事の合間に抜け出してきたようだ。早く戻らないとまた怒られると言い、急いでお金を支払うと席を立った。

「ありがとうございました」
「うんうん。また来るから」

 ビビアンさんが慌ただしく出ていくカシアンさんを見ながら尋ねる。

「お急ぎだったのかしらね?」
「はい。どうやら仕事を抜け出してご来店されたみたいです」
「ふふ。あの方の変わった変装はなんでしょうかね? 見ていて飽きない方ですよね」

 ビビアンさんが優しい目でカシアンさんが出ていったドアのほうをながめて言う。
 カシアンさんは実は凄くモテるのかもしれない。
 あの母性本能をくすぐるちょっと天然なところに、カワウソのような愛らしさ、子供に対する分け隔てない温厚な対応――やるな、カシアンさん。
 それに奥さんに一途って感じなのも私の中では好感度が高い。カシアンさんの奥さんは、ロイさんのお姉さんだ。ミカエルさんが言うには、オーシャ商会の経営手腕は奥さんによるものらしいから、しっかり者とちょっと天然者の二人はお似合いなのかもしれない。
 それにしても、カシアンさんのお菓子に関しては妥協しないってところには、私と同じ匂いを感じる。
 オーシャ商会の菓子店レシア、一度行ってみたいな。
 でも、一人では行けなそう。ミカエルさんはオーシャ商会にも顔を知られているから誘えない……。うーん。
 厨房にいるルーカスさんを凝視すると、気づいたルーカスさんがすぐにこちらへとやってきて小声で尋ねる。

「何か問題でも?」
「ううん。今度、私とデートに行かないかなって思って」

 こっそりと耳打ちすれば、ルーカスさんが声を押し殺しながら言う。

「ちょ、お、おい! 何を言い出すん――言いだすのですか」
「オーシャ商会のお菓子、気になりませんか?」
「あぁ。そういうことですか……驚いてしまいました」
「あ、本当のデートが良かったですか?」
「冗談でもやめてください。ジョーさんに殺されてしまう」

 結局、菓子店レシアには、スライムちゃんの販売期間が終わった後にルーカスさんと一緒に行くことになった。
 せっかくなので、ルーカスさんの家族も招待することにした。そのほうが家族連れの子供の一人として溶け込めるだろう。きっとカシアンさんの変装よりは誤魔化ごまかせると思う。
 その後、忙しく働いていたら七の鐘が鳴るのが聞こえた。午後六時、リサの閉店の時間だ。
 いつもなら私はすでに帰っている時間だけど、今日はルーカスさんが他の従業員にエッグセパレーターと泡立て器を披露するというので、この時間まで残っていた。
 ジョーたちやミカエルさんには今日は遅くなると承諾をとっている。あとでミカエルさんが迎えに来てくれる予定だ。
 掃除を終えたビビアンさんに声をかける。

「お疲れ様です」
「ジェームズ君もお疲れ様ね。今日は迎えが遅いのね」

 ビビアンさんが心配そうに尋ねる。中央街の治安は比較的良いが、昼と夜ではまるで雰囲気が違っていて別の街になる。

「大丈夫です。今日は後でミカエルさんが迎えに来ます」
「そうなの? 分かったわ。私はもう帰るけど気をつけてね」

 ビビアンさんと他の接客相当の従業員が店を後にする。
 店内の灯が消え、暗く静かになった店内……それがなんとなく寂しく感じた。
 窓から見える正面の本屋の前には、数台の馬車が停まっている。
 数日後には新学期が始まるので、学園関係のお客さんで忙しく、この時期が本屋にとっての繁忙期だと、この前ミカエルさんに聞いた。
 昼間は書籍の保護のために窓を閉め切っているので中に入ったことはないけど、その影響でリサも学生の客層が増えたとビビアンさんが言っていた。
 地方の新入生は、学園が始まる数か月前から王都入りしているらしい。在学生も新学期の準備のため、二週間前からすでに寮や別邸で準備をしているということだ。
 厨房にいたルーカスさんが扉から顔を出す。

「ジェームズ、厨房に来てくれるか? これからみんなに説明をする」
「はい。今、行きます」

 厨房には、ルーカスさんに集められた料理人が揃っていた。副料理長のレイラさんたちをはじめ、新たに雇った料理人たちと見習いのベンジャミン、それにフィンもいる。彼らの後ろには主に雑用をこなす下働きの静かな女の子もいた。彼女の名前はルーというらしい。とても素敵な名前だ。カレーが食べたくなる。

「みんな、集まったか? 休みだった奴は呼び出してすまんな」
「二階から降りてくるだけだから、大したことはない」

 料理人の一人が答えると、みんなが笑い出した。

「確かにそうだな。ま、夕食も準備したから食べていけ。今日、みんなを呼んだのはこの調理器具の使い方を説明するためだ」

 ルーカスさんが準備していた泡立て器とエッグセパレーターを披露する。

「これは、泡立て器と……穴の空いた皿のほうは何に使うのでしょうか?」

 レイラさんが不思議そうにエッグセパレーターを持ち上げると、後ろにいたフィンが目を見開いた。

「あ!」
「え? フィン、どうしたの? 急に大声を出して」

 フィンの目がテーブルに準備されていた卵に移る。
 どうやらフィンはエッグセパレーターの用途に気がついたようだ。さすが卵の黄身と白身を分ける作業をたくさんしているだけある。

「これは、もしかしたら卵を分けるための調理器具ですか?」
「そうだ。よく分かったな、フィン。これはエッグセパレーターという、オーナーからいただいた調理器具だ。今はこの店にしかないものだから皆、他言無用たごんむようで頼む」

 ルーカスさんが秘密にするように釘を刺すと、全員が頷きながら『はい』と声を合わせた。
 エッグセパレーターをフィンが最初に試すことになった。卵をスプーン型のエッグセパレーターの上で割り、綺麗に黄身と白身に分かれると厨房から歓声が上がった。
 業務用に作ってもらった七個分のエッグセパレーターも問題なく使用することができた。

「これは凄い。俺、卵を分けるのにすげぇ時間がかかっていたから」
「フィン、これで俺たち別のことも練習できるぜ」

 ベンジャミンとフィンはエッグセパレーターから落ちる白身を嬉しそうに見ながら言う。

「よし、次は泡立て器を試してみてくれ。レイラ、頼む」
「はい。それでは、いきます」

 レイラさんがルーカスさんから渡された泡立て器を使い、短時間でメレンゲを作り上げると、料理人全員が目を見開いた。
 レイラさんの泡立て技術はきっとこの店で一番だけど、今まではこんなに早くメレンゲを作ることはできなかった。
 レイラさんがルーカスさんに詰め寄りながら尋ねる。

「こ、この泡立て器はどこで売ってますか?」
「レイラ、近い近い」

 泡立て器へのこの反応は、どの料理人でもほぼ一致するのが面白い。
 ジョーなんて泡立て器を使いたいがために、最近マヨネーズを大量生産したせいで、ここ数日、毎日マヨネーズを使った料理が出ている。今日の朝食もポテトサラダ、ハムと野菜のマヨサンド、たまごサンド、それから山盛り野菜と共にテーブルには大きなマヨネーズの瓶が置いてあった。
 おかげでジョーはもうマヨラーの一歩手前だ。その内、マヨネーズ料理を極めそう。
 ああ、マヨネーズのことを考えていたら、ケチャップとマヨネーズを混ぜたオーロラソースを付けたエビが食べたくなってきた。ジュルリと出たヨダレを急いで隠す。
 料理人全員が交代で泡立て器を使い始める。

「こんなに簡単に泡立つのか?」
「あんなに時間をかけて習得したのに……」
「これは楽しい」

 全員が従来の泡立て器より断然使いやすいと評価してくれる。良かった。
 今までの泡立て器も決して使えない道具ではなかった。
 ただ、あのほうきみたいな形のものでメレンゲを綺麗に泡立てるのには、それなりにテクニックと時間が必要だった。そのせいで素材が無駄になることもあったという。
 できるだけ無駄を省き、料理人たちが少しでも楽ができるようにこれからもいろいろと作りたいと思う。

(実際に作るのはジェイさんだけど……)

 新しい調理器具の披露後、ルーカスさんの作ったグリルした鶏と煮豆をみんなで食べる。鶏はハーブと酸味の調和がよく取れていて美味おいしかった。お代わりをしようと思ったけど、きっとジョーが夕食を作って待っているだろうからやめる。
 お皿の後片付けをしていると、ミカエルさんが裏口から顔を出す。

「ジェームズ、迎えに来ましたよ」
「ミカエルさん! 今、出ます」

 従業員たちと別れ、ミカエルさんと馬車に乗る。

「ミリー様、新しい調理器具を拝見しました。私は料理人ではないので分かりませんが、商業ギルドの器具開発者も絶賛しておりました」
「そうなんですか! それは嬉しいです」
「今は非公開とのこと、売り時が来たら是非お声がけをお願いいたします」
「もちろんです!」

 調理器具に関しては、簡単なものは低価格や無料で公開する予定だとは……ミカエルさんたちにはまだ伝えないでおこう。今日は安全に帰りたいしね。
 無事に猫亭ねこていへ帰宅、今日はいつもよりだいぶ遅くなったので裏口からこっそりと帰る。
 ディナーの忙しい時間が過ぎ、この時間は飲みの時間だ。食堂に昼とは違う雰囲気が漂っているが、顔見知りもちらほらいた。

(あ、ザックさんがまた別の女の子といる)

 一応、帰ってきたことを伝えるために厨房を覗くとジョーと目が合う。

「ミリー、帰ったか」
「遅くなったけど、ちゃんとミカエルさんに送ってもらったよ!」
「夕食あるぞ。食うか?」
「うん。今日は何?」
「野菜とハムのマヨネーズ炒めと、グラタンのマヨネーズ掛けオーブン焼きだ」
「……わーい」

 マヨネーズ祭りだぁ……


  ◆


 二回目の夕食を終え、よろよろしながら四階へと上がる。

(今日は完全に食べすぎた)

 二回も夕食を食べたのは失敗だった。お腹がいっぱいで苦しい。
 魔法を使用すればお腹が減るので、夜の魔力消費を頑張ろう。
 関係性は詳しくは分からないけど、これだけ食べているのにもかかわらず、ふくよか幼女にはなっていない。やはり魔力を使うと同時にエネルギーも使っているのだろうか?
 部屋に戻るとマリッサが奥から顔を出す。

「ミリー、帰ったのね。思っていたより遅くて心配したわよ」
「下で夕食を食べていたら遅くなっちゃった。ジークは?」
「これから寝かしつけるところよ」
「私が寝かしつけるね!」

 風呂上がりのジークをベッドへ寝かせ、プラネタリウムを点けてポンポンと背中を優しく叩く。すぐに寝息が聞こえてくる。プラネタリウム、本当に優秀だ。

「おやすみ。ジーク」

 寝室のドアをゆっくりと閉め、いまだに満腹のお腹をさすりながら自分の部屋へ向かう。
 気のせいか息がマヨネーズ臭い……ジョーのマヨラー化を阻止しなければ。家族のためにも最重要案件だ。こういう時はいつもならマリッサがストッパーになるんだけど、マリッサもマヨラーだった……
 マヨネーズはほぼ油だ。ジョーが作るマヨネーズの油はオリーブオイルではあるが――

「打倒。マヨネーズ!」

 私だってマヨネーズは好きだ。でも、いくら好きでも何日も連続で食べると……
 マヨネーズを変化させることはできる。タルタルソースとか、ハニーマスタードとか、オーロラソースとか……でも結局どれもマヨネーズなのだ! 
 毎日ではなく、たまに食べるから美味おいしいと感じる。砂糖は……別腹です!
 少し前まではなかった贅沢な悩みだ。
 マヨネーズは衛生面を考慮して、猫亭ねこていで使う以外、まだ世間には出していなかったけど……こちらの人はマヨネーズの味が好きなのかもしれない。確かに刺激臭もなく色も禍々まがまがしくない。味は美味おいしく、ほぼなんにでも合う。考えれば最強の調味料だ。
 この国では、みんなよく働き動くのでふくよかな人は少ない。貴族だと平民ほど肉体労働はしないのかもしれないけど、やっぱりふくよかな人は見かけない。魔力でエネルギーを消費しているのだと思う。以前遭遇した意地悪貴族のフィット男爵は例外だから、魔力が低くて大食いなのか……それとも、消費が追いつかないくらい食べているのか? 体質ってこともあるだろうが、巨体のせいで馬車に乗るのも大変そうだった。
 ジョーが最近よくマヨネーズを作っているのは、新しい泡立て器を使いたいからだ。
 少ししたら飽きて、マヨネーズ祭りも終了すると思っていたけど……まさか、エブリデーマヨ地獄に陥るとは思っていなかった。
 泡立て器が使える別の食材……生クリーム? それとも、アイスクリームか? でも、デブ食にデブ食をぶつけて意味はあるのだろうか? 
 普通にアイスクリームを食べたい……
 すでに魔法の話を二人にした今なら、氷魔法でアイスクリームを作ることができる。エブリデーアイスのほうがエブリデーマヨネーズよりはマシだよね……?
 よし! 明日はアイスクリーム日和びよりだ。

「アイ・スクリーム・フォー・アイスクリーム!」

 拳を上げ、一人叫ぶ。
 そうと決まれば、今日の魔力消費のお題はアイスクリーム対マヨネーズにしよう。プレーンアイスとマヨネーズは同じ色になってしまうけど……どうせ土魔法から出てくるものは結局どれも土色なんだよね。
 とりあえず、人の大きさほどあるチューブ型マヨネーズを土魔法で出してみる。手足を生やし……あれ、バランスが悪い。こうしてああして――

「わぁ……妖怪ができた」

 想像力の欠如なのか? チューブ型まではちゃんとマヨネーズだったんだけどなぁ。
 歩けるように手足を生やしたところでいびつな形になりすぎた。最初に生やした二本の足ではきちんと立たなかったので三本目の足を加え、手を床につくまで伸ばした。それでもバランスが上手く取れず、次に大きな車輪を付けた。
 上手く動かすことができずに前後に揺れるマヨネーズをながめる。

「これじゃまるで水のみ鳥の置物……」

 土魔法で作ったマヨネーズの容器の中には、粘りのある水を水魔法で入れたんだけど……マヨネーズを歩かせようとする度に、バランスを崩して上の部分から粘り気のある水が飛び出す。
 これは、ポップコーンウーマンとマシュマロマン以来の謎の大作かもしれない。
 マヨネーズ一人では可哀想なので、ケチャップとソースを今度はパウチ型で出す。これならこのまま動きそうだ。マヨラー、ケチャラー……ソースラー? が揃ったところで、次はアイスクリームの番だ。
 まずはコーンに入ったアイスとカップアイスを土魔法で作ってみる。地味な見た目だけど、綺麗にできた。次にソフトクリームを作ってみたのだけど……色が土色なのでビジュアルが悪い。すぐにソフトクリームは消す。代わりに中に板チョコが入ったモナカアイスを土魔法で出してみる。

「おお。ちゃんとチョコレートに見える!」

 チョコレートか……私のチョコレートへの切符は王太子であるレオさんのみが握っている。金持ちニートだと思っていたのに……王族ってことでなんだかハードルが上がったけれど、次回は必ずレオさんからチョコレートの情報を聞き出したい。
 さて、マヨネーズにモナカアイスと、戦いの選手も揃ったので、部屋の中央に試合会場を設置する。観客は夏祭りにも使った盆踊りのネズミと同じものをたくさん土魔法で出す。
 ライトでスポットライトを作り、自分に向けながら中央のステージに上がると、場外には部屋を埋め尽くすほどのネズミがいた。あれ、いつもより多く出たのかな? とにかく、ネズミで埋め尽くされた観客席に向かって手を上げる。

「右コーナー! マヨネーズ。左コーナー! モナカアイス。はじめ!」

 土魔法で作ったゴングを鳴らす。
 最初の攻撃はマヨネーズだ。マヨネーズ搾り攻撃だ。一気にマヨネーズの中身がモナカにかかり、チョコレートの隙間を埋めていく。身体が重たくなったモナカアイスはバランスを崩し、リングの上に片膝を突く。
 勝負は決まったかのように見えたが……マヨネーズも全身の水分が抜け、バランスを崩してひっくり返った。これは、引き分けだな。
 いろいろと汚れたリングと床を無言でながめる……

「うん、寝るかな」

 全ての魔法を消して、白魔法を連発してベッドへと倒れ込み気絶する。

「むにゃ……アイスクリーム~」



  アイスクリーム


 気絶から目覚め背伸びをしながら部屋を出ると、すでにテーブルには朝食が並べられていた。もちろん、ここのところ毎日登場しているマヨ様も並んでいる。
 ジョーがジークを膝に乗せている。マリッサが野菜にマヨをつけてパクパク食べながら挨拶をする。

「おはよう、ミリー」
「お母さん、おはよう。いい匂いだね」

 席に座り、野菜にマヨをつけ食べる。あ! これは、ニンニクマヨだ! ジョー、さすがだね。ジョーの料理の進化が凄い。

「むー」

 ジークはニンニクの匂いが嫌いなようで、ニンニク臭がするエプロンを着けたジョーはジークに全身で拒否される。

「臭かったか? ジークにニンニクの香りはまだ早いのか?」 
「ジークはマヨネーズ自体、あまり好きではなさそうだね」
「ああ、そうなのか。ガレルの奴もマヨネーズは苦手みたいだしな」

 確かに酸味があるしね。マヨネーズが苦手な人もいるだろうね。ガレルさんの場合、毎日味見をさせられて嫌になったのかもしれないけど……
 今日は、昨日の夢にも出てきたアイスクリームを作りたい。

「お父さん。今日は作りたいものがあるのだけど」
「なんだ? 菓子か?」
「うん。泡立て器を使えるよ」
「おお! そうか、いいな!」

 ジョーが嬉しそうに返事をすると二人で厨房へと向かう。今日は、ケイトがお休みの日なので猫亭ねこていのお手伝いをする予定だ。ケイトは休みを使って三階の部屋を掃除するそうだ。
 今日のランチはポテトサラダについたハンバーグと、コールスローについた唐揚げ……メインと付け合わせの量が完全に逆になっている。お客さんは気にせず、みんな美味おいしそうに食べているので問題はなさそうだけど……
 ランチの最後のお客さんが帰ると、笑顔のジョーがドスンとバケツコールスローを目の前に置く。

「みんな、おつかれ。昼食だ」
「マヨネーズ……」

 バケツを見るガレルさんの顔色が悪い。
 コールスローの中身は、キャベツ、ニンジン、コーンとシンプルなものだ。レシピはジョーのオリジナル。そしてたぶん、マヨネーズマシマシだ。これはこれで美味おいしいんだけどね。

「ミリー、こっちもあるぞ」
「わーい、唐揚げだ!」

 しかも、揚げたてだ! 
 昼食をお腹いっぱいに食べ、厨房へと向かうと、泡立て器とボウルを持ったジョーが不思議そうに尋ねてくる。

「ミリー、卵がないんだが……何か知らないか?」

 ジョーにそう尋ねられ無言の笑顔を向ける。卵は少し前に別の場所へとさっさと隠した。アイスクリームにも必要だけど、不必要なマヨネーズをさらに量産されそうなので一旦隠したのだ。

「お父さん、今日は別のものを作ろう!」
「おう……そうだったな。それで、どんな菓子を作りたいんだ?」
「えーと。冷たいお菓子、アイスクリームだよ!」
「あいすくりーむ……?」

 ジョーはアイスクリームの想像がつかないようで、クリーム系の冷たいスープかと尋ねてくる。

「スープとは違うけど……冷たくて甘い――雪のようなお菓子だよ」
「雪か……まぁ、とにかく作ってみるか」

 ジョーが見ていない間に下の棚に隠していた卵を取り出し、手渡した。

「ミリー。卵はどこから出したんだ?」
「え? 普通にここにあったよ」


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