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6巻
6-2
下を見れば、手を差し出したまま月光さんが停止していた。
あっ、さっき落ちた時に私を手助けしようとしたのか……
「ありがとうございます……」
気を取り直した月光さんが、私を見上げながら真面目な声で尋ねる。
「なんだそれは。どうやって飛んでいる」
「え? 風魔法ですよ。月光さんも使っているじゃないですか?」
「いや、違う。私が使っているのはあくまで飛躍だ。そのように空中で停止なぞできない」
あれ? そうだった……?
思い返せば、確かに月光さんが浮遊していたことはない。
まずかったかな? でも、バレたなら仕方ない。そんなことを考えていると、月光さんの口元から邪悪な笑い声が聞こえた。
あー、嫌な予感がする。
「私にも使えるということだな」
「えーと……」
結局、その日は、月光さんの気が済むまで浮遊の魔法を教える羽目になった。
飲み込みが早い月光さんは、次の日には浮遊法を完璧にマスターしていた。
私が試行錯誤して浮遊を習得したあの日々は一体なんだったのだろう……
Side:月光
「月光、誰も入ってこないように鍵を掛けろ」
苛立っているエンリケの言う通り、月光は執務室の鍵を掛けた。
そして、顔を覆っていた仮面と布を外す。
人よりも少し長い尖った耳、それから白髪の髪、珍しいエルフ族の特徴だ。月光はこの容姿を好きでも嫌いでもなかった。
「エンリケ様、クリス様との話し合いは上手くいかなかったようですね」
「見ていたから分かるだろ? あのクソ猿め」
「まだ、子供ですので、反抗期でしょう」
「月光にはあれが反抗期に見えるのか。私には、あいかわらず躾のされていない猿にしか見えない」
本日はエンリケはクリスと月一での面会の日で、月光は天井からその一部始終を見ていた。
エンリケとクリスは本当に水と油であると、月光は内心笑う。
(だが、二人はよく似ている)
月光は、自分が初めてエンリケに会った日を思い出す。
月光……この名前を付けたのはクレメント――今は亡き先々代のローズレッタ会頭でエンリケの父親だった男だ。
砂の国でたまたま見つけた、珍しい種族の混血の孤児だった月光に目を付けたクレメントは自身の息子、エンリケの従者もとい影として魔力の高い月光を宛がった。
表に出ることのない、夜にだけ輝く月の光。
クレメントが、遠くの異国で影武者に付けられるという名前を気に入って与えられた名前だった。月光はこの名前を気に入っていた。
月光のクレメントへの印象は「心底貪欲な人間」であった。
対して、その息子のエンリケは冷たい態度とは裏腹に信頼できる人物であった。
信頼はいつのまにか家族愛になり、いつしか月光はエンリケに人としてほれ込んでいた。
この先、エンリケが死ぬときまで、その身に仕えることは、月光の中ではすでに決定事項だった。
「クリスの奴め、私をまた老いぼれジジィと罵りおって……年は取るものではないな。月光、お前もそう思うだろう?」
月光は、エンリケがひ孫のクリスのことで愚痴を言う姿を静かに見ていたが、主人に問われて答えた。
「まだ衰えていませんよ」
「いや、衰えてはいる。ただ、まだ老いぼれではない。しかし……私と違って、お前はここ四十年衰え知らずだな」
これはエンリケの前だけに素顔を晒す月光に毎回言う嫌味、もといほめ言葉だった。
「ゆっくりとですが、確実に私も年は取っております」
エルフ族の血のおかげで、月光の外見は年齢に比べれば若い。
だが、年を取っていないわけではなく、衰えはしっかりと感じていた。
「互いに爺さんになって丸くなったのか? お前らしくない返事だな」
「エンリケ様は昔から優しいお方のままですよ」
「世辞を言ってもなんの得もないぞ」
視線を逸らし、背を向けるエンリケ。
月光はこういう態度の時のエンリケは大抵照れているのだということを知っている。
「本当のことでございますから」
エンリケが眉間に皺を寄せ言う。
「今日のお前は気味が悪い。それより、ミリアナに婚約なんぞを吹っ掛けた商会ども。何かしかけてくるはずだ。警護をよろしく頼んだぞ。あやつ自身も変な事をせんようしっかりと見張れ」
「畏まりました」
月光は返事をすると、再び顔を布と仮面で覆う。
(さて、嬢ちゃんの警護に徹するとするか)
◆
ミカエルがミリアナを猫亭まで迎えに行っている間、菓子店リサの周辺をうろつく怪しい男たちを発見した月光はため息をつく。
「さて、ゴミの片付けをするか」
菓子店リサにはオープン当初から他商会が探りを入れようと客に紛れたり、従業員を引き抜こうとする行為があった。
それは、どこの商会でも起こる些細な問題に過ぎないと月光は考えていた。
第一、探りも引き抜きも、菓子店リサの従業員には通用しないほどの契約魔法が結ばれている。加えて、あれほどの好条件の就職先を離脱したい人材などいるはずがない。
月光は老女の変装に着替えると、菓子店リサを張っていた二人組の男を拘束した。
「さてさて、坊やたちはどこの誰に雇われたのかのぉ」
「老いぼれババァ、離しやがれ」
どうせ、この男たちも捨て駒であろうと月光は予想していた。
しかし『老いぼれ』と言われたのが非常に気に入らなかった。
(最近の若者は『老いぼれ』という罵り方しか知らないのか? やれやれ)
月光から見れば、男たちは素人同然だ。これならば、少し痛めつければすぐに雇い主を吐くだろうと二人を風魔法でゆっくり宙に上げ、質問を繰り返した。
「誰に雇われた?」
「くそっ、ババァの癖に! なんなんだよ、この魔法は!」
「離せ! ババァ!」
男たちは月光の魔法に驚いたようだが、口はまだ達者のようで罵りをやめない。
月光は呆れながら風魔法を使い、二人を宙でクルクルと回し始めた。
そしてニヤつきながら言う。
「お楽しみはこれからじゃよ」
月光は回る二人を見ながら、ミリアナの考えた洗濯機を思い出す。
(こいつらの根性も、洗うことができればいいものを)
少し回転させただけであったが、片方の男は早々に気絶した。もう片方はまだ威勢がよく、叫び続けている。
「ババァ! やめろ!」
「あたしゃ『ババァ』じゃから、耳が遠いでのぉ。なんと申した?」
男の叫びは耳が痛くなるほど聞こえていたが、月光は聞こえない振りをしながらさらに口角を上げる。
「だから、やめろって!」
「聞こえんのぉ」
月光が笑いながら回転の速度を上げると、男は観念したのか具合が悪そうに許しを請い始めた。
「ババァの知りたいことなんでも言う! だから、頼む! もう回すのをやめてくれ!」
「あたしの名前はババァじゃないよ。プリティープレシャスじゃよ」
「ふざけ――」
「ずっと回し続けてもいいんだがのぉ」
男が、宙に浮かんだままガクッと頭を垂れ、諦めたかのように口を開く。
「プリティープレシャス……様、なんでも話しますから、許してください」
月光は満足して頷くと、男を地面におろした。
「さぁ、吐きな」
男は洗いざらい話すが、めぼしい情報は掴めなかった。
月光は舌打ちをしながら尋ねる。
「本当に知っているのはそれだけかい?」
「本当に何も知らねぇんだ! 飲み屋でフードを被った野郎に先払いでいい仕事があるって言われただけで――」
男は雇い主の素性はおろか、依頼理由も知らないようだった。
ただ、菓子店リサを見張りその様子を知らせろと言われただけだという。
月光は男たちに次にフードの男と情報をやり取りする場所と日時を聞き出し、男たちが受け取る予定だった依頼金の倍の金を渡した。
「口止め料じゃよ。あたしはそのフードの男に用がある。お前たちは約束通りフードの男に報告に行き、その後は消えな。このことを誰かに何か言おうものなら――」
「分かった、分かったから。ババ……あんたの言うとおりにする」
月光が鋭い目線で男を見下ろし尋ねる。
「あたしの名前はなんだい?」
「……プリティープレシャス様の言うとおりにする」
「よろしい。それじゃ、もう今日は早く帰んな」
男は意識を失った仲間を抱え急いで走り出すと、すぐにどこかへと消えていった。
頭の上がらないロイ
執務室で仕事をしながらロイは頭の端にある事柄を悶々と考えていた。
それはミリアナ・スパークが東ギルド長エンリケのひ孫であったことだ。
(まさか、王太子が探ってくれと言っていた子供とミリアナが同一人物だったとはな)
祭りでミリアナがロイとミーナの間に男女の関係があるような発言をしたせいで、あのあと、ロイは同行していた男爵令嬢レベッカ・ラムゼン――ベッキーの機嫌を取るのに骨を折った。
ベッキーの父は、アジュールの漁業に深く関係のあるラムゼン男爵だ。ラムゼン男爵はとことん娘に甘いことで有名であり、ロイはベッキーを不機嫌なまま領地に帰すわけにいかなかった。
(おかげで……次回の王都滞在では、最低二回はデートをすると約束させられたんだよな)
ミーナには「女性の心を無闇に誑かすからですよ。自業自得です」と冷たい表情で言われた。
ロイにとっては、ベッキーは妹みたいな存在で、ミーナもそれを知っているはずだった。ロイは自分が悪者みたいに言われたことが腑に落ちなかった。
だが、収穫もあった。ミリアナのフルネームを手に入れることができたのだ。
ミリアナの素性を調べ上げ、ロイは木陰の猫亭まで辿り着いた。
(これはルール違反じゃねぇよな?)
ロイは以前、姉のレシアから聞いた「東ギルド長が、マリッサを溺愛している」という話から、マリッサを調べる許可をレオナルド王太子に伺った手紙を思い出しながら心の中で呟いた。
その中でロイは、ひ孫ではなく、東のギルド長の家族について調べる許可を申し出たが、レオナルド王太子から戻ってきた返事は『今はそれより、王都にいる姉君の歓待に力を入れた方が良いのでは?』というものだった。
(あれは、完全に俺のことを見張っているという脅しだったな)
当時、手紙を読んだ後すぐに、ロイは急いで自分と姉の身辺に人を付け見張られていないか調査させたが、それらしき人物は見当たらなかった。
「王太子の慎重さと腹黒さは変わらないから、下手な動きは気を付けないとな」
ロイは舌打ちしながら小さく呟いた。
◆
王太子の手紙のあと、ロイは少しの間は大人しくしていた。だが、それから少しして、別口で偶然ミリアナと遭遇したわけだ。
(これなら王太子も文句を言えねぇはずだ……)
ロイは、自分が屁理屈的な言い訳をしていることは十分承知していた。
そして、レオナルド王太子の返事が届いてからさらに数か月経ち――
ロイはもう自分に影が付いていないことを確信した。
そして、ミーナに調べさせていたミリアナ・スパークの資料を確認しながら東区へと向かった。
ロイは今日、たまたま下町の飯屋を訪れている……という体で木陰の猫亭を確認する予定だ。
ミリアナに見つからないよう、もしものために少々変装もしていた。
(カシアンよりもマシな変装だから、簡単にはバレないだろう)
普段は訪れない木陰の猫亭のある地域。
街の様子を眺めながら、目的地を発見する。
「木陰の猫亭……ここか。この辺では結構立派な宿だな」
ロイは近くにいた近所の少年に猫亭とミリーのことを尋ねたが、訝しげに睨まれる。
「おっさん、ぺどふぃあだろ」
「は? ぺどふぃあってなんだ?」
少年はロイの質問には答えず、そのまま近くの店の中へと消えて行った。
(なんだ、今の)
ロイは首を傾げながら木陰の猫亭の表扉を開けると、すぐに店員らしき十歳ほどの元気な少女に声を掛けられた。
「お一人ですか?」
「ああ」
「今、入り口側の席しかないんですけど、大丈夫ですか?」
まだ夕食前のはずなのに、木陰の猫亭がほぼ満席なことにロイは驚いた。
(繁盛してんな)
ロイが扉に一番近い席に向かうと、カウンター越しにミリアナの父親が見えた。
カウンターから顔が見えない位置に座ると、ロイは口角を上げた。
(この店で、間違いないな)
満足しながらエールを注文。別の給仕の青年がすぐに運んでくるが、エールのジョッキと共に置かれた黄色い棒にロイは眉を上げ店員に尋ねる。
「おい、これはなんだ? 頼んでないが」
「あ、お客さん。エールを頼んだ人には最初の付け合わせに、そのポレンタフライを出しているんですよ」
青年の後ろから給仕の少女が補足した。
「無料でか?」
「はい」
当たり前のように給仕の少女が返事をする。ロイは、無料で何かを提供される違和感から眉間に皺を寄せた。
聞けば、トウモロコシの粉からできているという。
(トウモロコシの粉か。なるほど。それなら安いな)
目の前のポレンタフライからはニンニクとバターの香ばしい匂いがした。
ポレンタフライを口に入れたロイは目を見開く。
「なんだこれ、旨いな」
巷で出回っているあの安パンと同じ材料とは思えない味だ。
口の中で広がるニンニクとバターがエールに合う!
それからロイはエールとポレンタフライの絶妙な組み合わせを楽しみながら、店内を観察した。
他の客のテーブルに出されたものも、見たことのないものばかりだった。
さっきの給仕の青年と少女は明らかに兄妹のようで、その関係性の手綱は完全に妹が握っているようだった。
青年が少女の手に持っていたエールを手伝おうとすれば、少女が眉間に皺を寄せ言う。
「お兄ちゃん、中途半端にジョッキを取ってもバランスを崩すだけだよ」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だって! 任せて!」
「分かった」
青年が別のテーブルに向かおうとすれば、少女が止める。
「お兄ちゃん、一番端のジョッキが落ちそう! やっぱり手伝って! 早く、お願い!」
「うんうん」
ロイは自分と姉の状況にそっくりだと給仕の青年に同情した。
給仕の少女は、ジョッキを別のテーブルに配膳すると、注文を取りに来た。
「食べ物の注文は決まりましたか? 今日のおススメはクリームコロッケ、野菜サミコ酢、それからボアバーガーです!」
店員に勧められた食べ物が、ロイには一個も分からない。
迷っていると、給仕の少女がメニューをある程度説明してくれる。
コロッケはあれだと隣のテーブルを指差す。
視線を移すと、男がひとり、山盛りの茶色い物を食べていた。
「あんな量が来るのか?」
「いえ。あの人は特別で……通常は、ワンオーダーで一つです」
「そうか……聞いている限り、全部美味そうだな。じゃあ、そのおススメの三品を持って来てくれ。あと、エールもお代わりで」
「お客さん、ありがとうございます!」
ロイは注文に向かう給仕の少女を見送りながら残りのエールを飲み、ポレンタフライに手を伸ばそうとした。すると、目の前に人が座った。
「おい、ここは俺の席――」
「坊主。久しぶりだのぉ」
「あ、あんたは」
苦虫を噛み潰したようにロイが老婆を見ると、老婆が笑い出す。
目の前に座った老婆と最後に会ったのは八年ほど前だったが、忘れもしなかった。
「ちゃんとあたしを覚えてくれていたのだね」
「……変な名前のクソババァだろ」
「口が悪い坊主だね」
ロイは婆さんに杖で頭をポカンと叩かれた。
「痛っ。急に叩くなって。それに、あんた、まだ生きていたのか? もうとっくに――」
「おい、失礼じゃないかい?」
老婆の低い声がロイの座るテーブルだけに静かに響く。
老婆を見れば、満面の笑みでロイを見ていた。
(目が笑ってねぇんだよ!)
しばらく老婆と睨み合いのあと、ロイが口を開く。
「急にこんな場所に姿を現して、一体なんの用だ?」
「冷たいねぇ。坊はあたしを探していたんじゃろ?」
「何年前の話をしてんだよ」
八年前、アズール商会がまだ王都に出店したての頃、王都のとある大貴族からアズール商会が嫌がらせを受けていたトラブルがあった。
なんの意図があったか知らないが、その問題に助力したのがこの老婆だった。
問題自体はアズール商会でも解決できない訳ではなかったが、大貴族相手なこと、アズール商会が王都に進出してすぐなことから、ロイは足元を掬われそうになっていた。
その後、王太子公認の店になってからは表向きの衝突こそはないが、未だに子飼いの商会を通じて嫌がらせをしてくる大貴族を思い出し、ロイはうんざりした表情をした。
ロイは確かに目の前の老婆に感謝はしていた。
だが、一切素性の分からない老婆はいくら手助けをしてくれるといっても、胡散臭い人物以外のなにものでもない。
実際、老婆の素性を調べようとしたが、尾行をしても毎回風のように消えてしまい、何も情報を得ることはできなかった。
そのまま、問題解決後、老婆は消息不明になった。
(この婆さんは相当性格の悪いクソババァだ)
当時は、ことあるごとにロイに嫌味を言う、叩く、叱るのオンパレードだった。
恩人ではあるが、クソババァには変わりないとロイは老婆を見る。
八年前ですら棺に入る寸前の老人に見えたのに、一歳たりとも衰えたようには見えない。
(ぜってぇ怪しいだろ)
そんなロイの様子に、老婆は傷ついた顔をしながら言う。
「最近の若者は敬老の心がなくなったのか? 困ったのぉ。相変わらず失礼な奴じゃ」
ロイが反論しようとした時、先ほどの給仕の少女がやってきて、注文した品の一つをテーブルに置いた。
「野菜サミコ酢とエールをお待たせしました。あれ? お客さんのお連れさんですか?」
「ちが――」
「そうじゃ。あたしにもエールをおくれ」
「はーい。エール、一つ入りまーす!」
少女はロイが訂正する前に、元気よくカウンターに向かって注文を入れてしまう。
老婆が微笑ましげに給仕の少女を見る顔は、本当に何一つ変わっていなかった。
(いや、これ下手したら若返ってるだろ。この婆さんは化け物かよ)
あっ、さっき落ちた時に私を手助けしようとしたのか……
「ありがとうございます……」
気を取り直した月光さんが、私を見上げながら真面目な声で尋ねる。
「なんだそれは。どうやって飛んでいる」
「え? 風魔法ですよ。月光さんも使っているじゃないですか?」
「いや、違う。私が使っているのはあくまで飛躍だ。そのように空中で停止なぞできない」
あれ? そうだった……?
思い返せば、確かに月光さんが浮遊していたことはない。
まずかったかな? でも、バレたなら仕方ない。そんなことを考えていると、月光さんの口元から邪悪な笑い声が聞こえた。
あー、嫌な予感がする。
「私にも使えるということだな」
「えーと……」
結局、その日は、月光さんの気が済むまで浮遊の魔法を教える羽目になった。
飲み込みが早い月光さんは、次の日には浮遊法を完璧にマスターしていた。
私が試行錯誤して浮遊を習得したあの日々は一体なんだったのだろう……
Side:月光
「月光、誰も入ってこないように鍵を掛けろ」
苛立っているエンリケの言う通り、月光は執務室の鍵を掛けた。
そして、顔を覆っていた仮面と布を外す。
人よりも少し長い尖った耳、それから白髪の髪、珍しいエルフ族の特徴だ。月光はこの容姿を好きでも嫌いでもなかった。
「エンリケ様、クリス様との話し合いは上手くいかなかったようですね」
「見ていたから分かるだろ? あのクソ猿め」
「まだ、子供ですので、反抗期でしょう」
「月光にはあれが反抗期に見えるのか。私には、あいかわらず躾のされていない猿にしか見えない」
本日はエンリケはクリスと月一での面会の日で、月光は天井からその一部始終を見ていた。
エンリケとクリスは本当に水と油であると、月光は内心笑う。
(だが、二人はよく似ている)
月光は、自分が初めてエンリケに会った日を思い出す。
月光……この名前を付けたのはクレメント――今は亡き先々代のローズレッタ会頭でエンリケの父親だった男だ。
砂の国でたまたま見つけた、珍しい種族の混血の孤児だった月光に目を付けたクレメントは自身の息子、エンリケの従者もとい影として魔力の高い月光を宛がった。
表に出ることのない、夜にだけ輝く月の光。
クレメントが、遠くの異国で影武者に付けられるという名前を気に入って与えられた名前だった。月光はこの名前を気に入っていた。
月光のクレメントへの印象は「心底貪欲な人間」であった。
対して、その息子のエンリケは冷たい態度とは裏腹に信頼できる人物であった。
信頼はいつのまにか家族愛になり、いつしか月光はエンリケに人としてほれ込んでいた。
この先、エンリケが死ぬときまで、その身に仕えることは、月光の中ではすでに決定事項だった。
「クリスの奴め、私をまた老いぼれジジィと罵りおって……年は取るものではないな。月光、お前もそう思うだろう?」
月光は、エンリケがひ孫のクリスのことで愚痴を言う姿を静かに見ていたが、主人に問われて答えた。
「まだ衰えていませんよ」
「いや、衰えてはいる。ただ、まだ老いぼれではない。しかし……私と違って、お前はここ四十年衰え知らずだな」
これはエンリケの前だけに素顔を晒す月光に毎回言う嫌味、もといほめ言葉だった。
「ゆっくりとですが、確実に私も年は取っております」
エルフ族の血のおかげで、月光の外見は年齢に比べれば若い。
だが、年を取っていないわけではなく、衰えはしっかりと感じていた。
「互いに爺さんになって丸くなったのか? お前らしくない返事だな」
「エンリケ様は昔から優しいお方のままですよ」
「世辞を言ってもなんの得もないぞ」
視線を逸らし、背を向けるエンリケ。
月光はこういう態度の時のエンリケは大抵照れているのだということを知っている。
「本当のことでございますから」
エンリケが眉間に皺を寄せ言う。
「今日のお前は気味が悪い。それより、ミリアナに婚約なんぞを吹っ掛けた商会ども。何かしかけてくるはずだ。警護をよろしく頼んだぞ。あやつ自身も変な事をせんようしっかりと見張れ」
「畏まりました」
月光は返事をすると、再び顔を布と仮面で覆う。
(さて、嬢ちゃんの警護に徹するとするか)
◆
ミカエルがミリアナを猫亭まで迎えに行っている間、菓子店リサの周辺をうろつく怪しい男たちを発見した月光はため息をつく。
「さて、ゴミの片付けをするか」
菓子店リサにはオープン当初から他商会が探りを入れようと客に紛れたり、従業員を引き抜こうとする行為があった。
それは、どこの商会でも起こる些細な問題に過ぎないと月光は考えていた。
第一、探りも引き抜きも、菓子店リサの従業員には通用しないほどの契約魔法が結ばれている。加えて、あれほどの好条件の就職先を離脱したい人材などいるはずがない。
月光は老女の変装に着替えると、菓子店リサを張っていた二人組の男を拘束した。
「さてさて、坊やたちはどこの誰に雇われたのかのぉ」
「老いぼれババァ、離しやがれ」
どうせ、この男たちも捨て駒であろうと月光は予想していた。
しかし『老いぼれ』と言われたのが非常に気に入らなかった。
(最近の若者は『老いぼれ』という罵り方しか知らないのか? やれやれ)
月光から見れば、男たちは素人同然だ。これならば、少し痛めつければすぐに雇い主を吐くだろうと二人を風魔法でゆっくり宙に上げ、質問を繰り返した。
「誰に雇われた?」
「くそっ、ババァの癖に! なんなんだよ、この魔法は!」
「離せ! ババァ!」
男たちは月光の魔法に驚いたようだが、口はまだ達者のようで罵りをやめない。
月光は呆れながら風魔法を使い、二人を宙でクルクルと回し始めた。
そしてニヤつきながら言う。
「お楽しみはこれからじゃよ」
月光は回る二人を見ながら、ミリアナの考えた洗濯機を思い出す。
(こいつらの根性も、洗うことができればいいものを)
少し回転させただけであったが、片方の男は早々に気絶した。もう片方はまだ威勢がよく、叫び続けている。
「ババァ! やめろ!」
「あたしゃ『ババァ』じゃから、耳が遠いでのぉ。なんと申した?」
男の叫びは耳が痛くなるほど聞こえていたが、月光は聞こえない振りをしながらさらに口角を上げる。
「だから、やめろって!」
「聞こえんのぉ」
月光が笑いながら回転の速度を上げると、男は観念したのか具合が悪そうに許しを請い始めた。
「ババァの知りたいことなんでも言う! だから、頼む! もう回すのをやめてくれ!」
「あたしの名前はババァじゃないよ。プリティープレシャスじゃよ」
「ふざけ――」
「ずっと回し続けてもいいんだがのぉ」
男が、宙に浮かんだままガクッと頭を垂れ、諦めたかのように口を開く。
「プリティープレシャス……様、なんでも話しますから、許してください」
月光は満足して頷くと、男を地面におろした。
「さぁ、吐きな」
男は洗いざらい話すが、めぼしい情報は掴めなかった。
月光は舌打ちをしながら尋ねる。
「本当に知っているのはそれだけかい?」
「本当に何も知らねぇんだ! 飲み屋でフードを被った野郎に先払いでいい仕事があるって言われただけで――」
男は雇い主の素性はおろか、依頼理由も知らないようだった。
ただ、菓子店リサを見張りその様子を知らせろと言われただけだという。
月光は男たちに次にフードの男と情報をやり取りする場所と日時を聞き出し、男たちが受け取る予定だった依頼金の倍の金を渡した。
「口止め料じゃよ。あたしはそのフードの男に用がある。お前たちは約束通りフードの男に報告に行き、その後は消えな。このことを誰かに何か言おうものなら――」
「分かった、分かったから。ババ……あんたの言うとおりにする」
月光が鋭い目線で男を見下ろし尋ねる。
「あたしの名前はなんだい?」
「……プリティープレシャス様の言うとおりにする」
「よろしい。それじゃ、もう今日は早く帰んな」
男は意識を失った仲間を抱え急いで走り出すと、すぐにどこかへと消えていった。
頭の上がらないロイ
執務室で仕事をしながらロイは頭の端にある事柄を悶々と考えていた。
それはミリアナ・スパークが東ギルド長エンリケのひ孫であったことだ。
(まさか、王太子が探ってくれと言っていた子供とミリアナが同一人物だったとはな)
祭りでミリアナがロイとミーナの間に男女の関係があるような発言をしたせいで、あのあと、ロイは同行していた男爵令嬢レベッカ・ラムゼン――ベッキーの機嫌を取るのに骨を折った。
ベッキーの父は、アジュールの漁業に深く関係のあるラムゼン男爵だ。ラムゼン男爵はとことん娘に甘いことで有名であり、ロイはベッキーを不機嫌なまま領地に帰すわけにいかなかった。
(おかげで……次回の王都滞在では、最低二回はデートをすると約束させられたんだよな)
ミーナには「女性の心を無闇に誑かすからですよ。自業自得です」と冷たい表情で言われた。
ロイにとっては、ベッキーは妹みたいな存在で、ミーナもそれを知っているはずだった。ロイは自分が悪者みたいに言われたことが腑に落ちなかった。
だが、収穫もあった。ミリアナのフルネームを手に入れることができたのだ。
ミリアナの素性を調べ上げ、ロイは木陰の猫亭まで辿り着いた。
(これはルール違反じゃねぇよな?)
ロイは以前、姉のレシアから聞いた「東ギルド長が、マリッサを溺愛している」という話から、マリッサを調べる許可をレオナルド王太子に伺った手紙を思い出しながら心の中で呟いた。
その中でロイは、ひ孫ではなく、東のギルド長の家族について調べる許可を申し出たが、レオナルド王太子から戻ってきた返事は『今はそれより、王都にいる姉君の歓待に力を入れた方が良いのでは?』というものだった。
(あれは、完全に俺のことを見張っているという脅しだったな)
当時、手紙を読んだ後すぐに、ロイは急いで自分と姉の身辺に人を付け見張られていないか調査させたが、それらしき人物は見当たらなかった。
「王太子の慎重さと腹黒さは変わらないから、下手な動きは気を付けないとな」
ロイは舌打ちしながら小さく呟いた。
◆
王太子の手紙のあと、ロイは少しの間は大人しくしていた。だが、それから少しして、別口で偶然ミリアナと遭遇したわけだ。
(これなら王太子も文句を言えねぇはずだ……)
ロイは、自分が屁理屈的な言い訳をしていることは十分承知していた。
そして、レオナルド王太子の返事が届いてからさらに数か月経ち――
ロイはもう自分に影が付いていないことを確信した。
そして、ミーナに調べさせていたミリアナ・スパークの資料を確認しながら東区へと向かった。
ロイは今日、たまたま下町の飯屋を訪れている……という体で木陰の猫亭を確認する予定だ。
ミリアナに見つからないよう、もしものために少々変装もしていた。
(カシアンよりもマシな変装だから、簡単にはバレないだろう)
普段は訪れない木陰の猫亭のある地域。
街の様子を眺めながら、目的地を発見する。
「木陰の猫亭……ここか。この辺では結構立派な宿だな」
ロイは近くにいた近所の少年に猫亭とミリーのことを尋ねたが、訝しげに睨まれる。
「おっさん、ぺどふぃあだろ」
「は? ぺどふぃあってなんだ?」
少年はロイの質問には答えず、そのまま近くの店の中へと消えて行った。
(なんだ、今の)
ロイは首を傾げながら木陰の猫亭の表扉を開けると、すぐに店員らしき十歳ほどの元気な少女に声を掛けられた。
「お一人ですか?」
「ああ」
「今、入り口側の席しかないんですけど、大丈夫ですか?」
まだ夕食前のはずなのに、木陰の猫亭がほぼ満席なことにロイは驚いた。
(繁盛してんな)
ロイが扉に一番近い席に向かうと、カウンター越しにミリアナの父親が見えた。
カウンターから顔が見えない位置に座ると、ロイは口角を上げた。
(この店で、間違いないな)
満足しながらエールを注文。別の給仕の青年がすぐに運んでくるが、エールのジョッキと共に置かれた黄色い棒にロイは眉を上げ店員に尋ねる。
「おい、これはなんだ? 頼んでないが」
「あ、お客さん。エールを頼んだ人には最初の付け合わせに、そのポレンタフライを出しているんですよ」
青年の後ろから給仕の少女が補足した。
「無料でか?」
「はい」
当たり前のように給仕の少女が返事をする。ロイは、無料で何かを提供される違和感から眉間に皺を寄せた。
聞けば、トウモロコシの粉からできているという。
(トウモロコシの粉か。なるほど。それなら安いな)
目の前のポレンタフライからはニンニクとバターの香ばしい匂いがした。
ポレンタフライを口に入れたロイは目を見開く。
「なんだこれ、旨いな」
巷で出回っているあの安パンと同じ材料とは思えない味だ。
口の中で広がるニンニクとバターがエールに合う!
それからロイはエールとポレンタフライの絶妙な組み合わせを楽しみながら、店内を観察した。
他の客のテーブルに出されたものも、見たことのないものばかりだった。
さっきの給仕の青年と少女は明らかに兄妹のようで、その関係性の手綱は完全に妹が握っているようだった。
青年が少女の手に持っていたエールを手伝おうとすれば、少女が眉間に皺を寄せ言う。
「お兄ちゃん、中途半端にジョッキを取ってもバランスを崩すだけだよ」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だって! 任せて!」
「分かった」
青年が別のテーブルに向かおうとすれば、少女が止める。
「お兄ちゃん、一番端のジョッキが落ちそう! やっぱり手伝って! 早く、お願い!」
「うんうん」
ロイは自分と姉の状況にそっくりだと給仕の青年に同情した。
給仕の少女は、ジョッキを別のテーブルに配膳すると、注文を取りに来た。
「食べ物の注文は決まりましたか? 今日のおススメはクリームコロッケ、野菜サミコ酢、それからボアバーガーです!」
店員に勧められた食べ物が、ロイには一個も分からない。
迷っていると、給仕の少女がメニューをある程度説明してくれる。
コロッケはあれだと隣のテーブルを指差す。
視線を移すと、男がひとり、山盛りの茶色い物を食べていた。
「あんな量が来るのか?」
「いえ。あの人は特別で……通常は、ワンオーダーで一つです」
「そうか……聞いている限り、全部美味そうだな。じゃあ、そのおススメの三品を持って来てくれ。あと、エールもお代わりで」
「お客さん、ありがとうございます!」
ロイは注文に向かう給仕の少女を見送りながら残りのエールを飲み、ポレンタフライに手を伸ばそうとした。すると、目の前に人が座った。
「おい、ここは俺の席――」
「坊主。久しぶりだのぉ」
「あ、あんたは」
苦虫を噛み潰したようにロイが老婆を見ると、老婆が笑い出す。
目の前に座った老婆と最後に会ったのは八年ほど前だったが、忘れもしなかった。
「ちゃんとあたしを覚えてくれていたのだね」
「……変な名前のクソババァだろ」
「口が悪い坊主だね」
ロイは婆さんに杖で頭をポカンと叩かれた。
「痛っ。急に叩くなって。それに、あんた、まだ生きていたのか? もうとっくに――」
「おい、失礼じゃないかい?」
老婆の低い声がロイの座るテーブルだけに静かに響く。
老婆を見れば、満面の笑みでロイを見ていた。
(目が笑ってねぇんだよ!)
しばらく老婆と睨み合いのあと、ロイが口を開く。
「急にこんな場所に姿を現して、一体なんの用だ?」
「冷たいねぇ。坊はあたしを探していたんじゃろ?」
「何年前の話をしてんだよ」
八年前、アズール商会がまだ王都に出店したての頃、王都のとある大貴族からアズール商会が嫌がらせを受けていたトラブルがあった。
なんの意図があったか知らないが、その問題に助力したのがこの老婆だった。
問題自体はアズール商会でも解決できない訳ではなかったが、大貴族相手なこと、アズール商会が王都に進出してすぐなことから、ロイは足元を掬われそうになっていた。
その後、王太子公認の店になってからは表向きの衝突こそはないが、未だに子飼いの商会を通じて嫌がらせをしてくる大貴族を思い出し、ロイはうんざりした表情をした。
ロイは確かに目の前の老婆に感謝はしていた。
だが、一切素性の分からない老婆はいくら手助けをしてくれるといっても、胡散臭い人物以外のなにものでもない。
実際、老婆の素性を調べようとしたが、尾行をしても毎回風のように消えてしまい、何も情報を得ることはできなかった。
そのまま、問題解決後、老婆は消息不明になった。
(この婆さんは相当性格の悪いクソババァだ)
当時は、ことあるごとにロイに嫌味を言う、叩く、叱るのオンパレードだった。
恩人ではあるが、クソババァには変わりないとロイは老婆を見る。
八年前ですら棺に入る寸前の老人に見えたのに、一歳たりとも衰えたようには見えない。
(ぜってぇ怪しいだろ)
そんなロイの様子に、老婆は傷ついた顔をしながら言う。
「最近の若者は敬老の心がなくなったのか? 困ったのぉ。相変わらず失礼な奴じゃ」
ロイが反論しようとした時、先ほどの給仕の少女がやってきて、注文した品の一つをテーブルに置いた。
「野菜サミコ酢とエールをお待たせしました。あれ? お客さんのお連れさんですか?」
「ちが――」
「そうじゃ。あたしにもエールをおくれ」
「はーい。エール、一つ入りまーす!」
少女はロイが訂正する前に、元気よくカウンターに向かって注文を入れてしまう。
老婆が微笑ましげに給仕の少女を見る顔は、本当に何一つ変わっていなかった。
(いや、これ下手したら若返ってるだろ。この婆さんは化け物かよ)
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