転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫

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6巻

6-3

「なんだい? あたしをそんなに見つめて」
「……さっさと用件を言ったらどうだ」
「女性との食事は楽しむもんじゃ」

 ロイは老婆をにらみながら、内心で舌打ちをする。
 そのままエールを持ち上げようと手を動かすが、身体からだが全く動かないことに気づいた。

(くそ、なんだこれ)

 目の前の、一口も飲んでいないジョッキとポレンタフライが老婆の手元まで自然に移動するのをロイはなすすべもなく見つめた。
 老婆が相当な魔法使いだということをようやく思い出す。

「クソババァ」

 老婆はポレンタフライを口に投げ入れると、ロイのエールをゴクゴク飲んだ。

「ほぉ。これは相性が良いの。ロイ、そんなに恨めしそうな顔をするな。新しいエールはすぐに来るぞ」

 愉快そうに笑いながら、再びエールに口を付けた老婆。そのままロイが注文していた野菜サミコ酢をむしゃむしゃと食べ始めた。

「おい、婆さん。早く用件を言えって」
「婆さん……はて、あたしのことか? あたしは婆さんって名前じゃないがな」
「……俺にあの恥のかたまりのような名前を言わせるつもり――」
「エール、それから注文の品、お待たせしました!」

 老婆が、ロイのエールを飲んでいることにやや不思議そうな顔をした給仕の少女。
 食べ物とエールをテーブルに置くと、老婆がとんでもない発言をする。

「嬢ちゃん、この男はデートで女性を優先できるいい男なんで、先にあたしにエールを分けてくれたんじゃよ」
「お、おい――」
「いやだねぇ。照れちゃって。嬢ちゃん、しばらくここの注文は来なくていいからの」

 老婆が給仕の少女に銅貨を握らせる。
 給仕の少女は一瞬困惑した表情を見せたが、笑顔で頷きながら言う。

「デート、楽しんでください!」

 そうして、屈託くったくのない笑顔でうれしそうに銅貨をポケットに入れテーブルから去って行った。
 その直後、騒がしい食堂の音がまるで遮断されたかのように聞こえなくなり、ロイが目を見開く。

「な、何をしやがった」
「お前と内緒の話をするために雑音を消しただけじゃよ。さて……そうそう、用件だったな。まぁ、とりあえず乾杯じゃの。腕だけは動かせるようにしてやったぞ」

 上半身の拘束が解かれ、ロイは腕を自由に動かす事ができるようになったが、足はビクともしなかった。
 不敵な笑みでエールのジョッキを上げる老婆を怪しみながらも、ロイもエールを上げ乾杯をする。

(この婆さんこんな魔法まで使えたのか)

 エールをテーブルに置きロイがあきらめたように言う。

「どこにも逃げねぇから、この縛りから解放してくれ」
「それは、あたしの素性すじょうを探らない約束を反故ほごにしたのと同じ口が言っているのかい?」
「分かった。このままでいい……」

 ロイは老婆から目を離さずにエールに口をつける。
 ため息をつき、老婆は頬張っていたクリームコロッケを皿に置いた。

「それで……今日は、またなぜこんな遠くの店を訪れているのだい?」
「そ、それは、東区の飯屋の開拓をしていて、たまたま入っただけだ」

 市場調査だと誤魔化ごまかし、ロイが目をらすと老婆が呆れたように笑う。

「商人の癖に、なんだい、その下手くそな嘘は」
「クソ。あんたの前だと調子が狂うんだよ。分かった。正直に言う。この宿に気になる子供がいるから調べるために来た。ただ、それだけだ」

 ロイがテーブルにエールをドンと置き、不貞腐ふてくされたように言うと、老婆はボアバーガーに伸ばしていたフォークを止めた。

「わざわざ、坊の秘書にこの場所を何日も探させてか?」
「なんで知ってやがんだよ! あんた、怖ぇよ」

 老婆が自分の行動を監視していたのだと思うと、ロイは寒気がした。

(なぜ、俺を監視していた。いや、考えないといけないのは、なぜこの婆さんがここにいるかだ)

 ロイは、この老婆が八年前から今日まで、自分の動向を探っていたとは思っていない。では、なぜ、この老婆がロイの行動に感づき、脅迫まがいな事をしているか。
 その答えが一つしかないことに、ロイは軽く息を吐く。

「……あんた、東ギルド長の手先だったのか?」
「なんだい。やっと分かったのか? なら、次にあたしが言いたいことは分かるだろう?」

 むしろなぜ気づけなかったのかとロイは自分を責めた。
 八年前、アズール商会を助けたことで、不用意に商人にちょっかいをかける貴族たちをけん制することができた。
 それで得をするのは商人たちをまとめる立場の人間だ。
 今なら簡単に分かる。

「東のギルド長の親族に、余計な干渉をするなということか?」
「ちょっと違うね。不本意だが、もうすでに坊とこの宿屋には縁がある。そういう縁を邪魔するつもりはないよ。けれど、それが坊の面白半分の興味のためなら別だ」

 エンリケと今後も良好な関係を保つかどうかは、アズール商会にとっても重要なことだ。

(あの爺さんを敵に回すことは避けたい)

 これは軽い警告だ。それなら、穏便なうちに受け入れるしかない。

「分かった。こちらから余計な干渉はしない。だが、また縁があれば……それは別、ということでいいか?」

 ロイが満面の笑みで老婆に告げると、老婆の口角がかすかに上がっているのが見えた。

「少しは言い返せるようになったな。まぁ、それでいいよ。話は終わりだ。ここの食べ物はどれも絶品だから、今日はそれを堪能して、大人しく帰れ」
「ああ、分かったよ」

 老婆が笑うと、先ほどまで静かだった店内が急にガヤガヤと騒がしくなった。
 誰かが床に皿を落とした音が聞こえ、ロイが音の鳴ったほうへと振り向いた。
 給仕の青年が落ちた皿を掃除する姿に一瞬気が取られる。

「婆さん、今日は俺がおごるから一緒に食お――」

 そう言い掛けて止まる。先ほどまで老婆が座っていた場所に、その姿はすでになかった。

(魔法か? ったく……恐ろしい婆さんだよ)

 拘束の魔法もいつの間にか解けていた。
 残りのエールを飲み干し、ロイは給仕の少女を呼び止めた。

「お嬢さん、エールのお代わりと追加注文を頼む!」
「はーい! あれ、お連れさんは?」
「どうやら、振られたようだ。急用だと帰ったよ」

 老婆との約束通り、ロイはその日、大人しく食事だけを楽しんだ。
 食べ過ぎて膨れ上がった腹をさすりながら、ロイは猫亭を後にした。
 木陰の猫亭の品のいくつかが、ペーパーダミー商会の物だと気付いたが、それはエンリケ経由で使用が許されているのだろうと考えた。

(しかし、美味い店だったな。下町にあるのがもったいねぇ)

 そんなことを考えながらロイは家路についた。



    教会での事件


 月光さんが私の護衛兼見張りを始めてから一週間が経った。
 あれ以来、常に私の護衛をしている月光さんだが、爺さんとは連絡をしっかり取り合っているようだ。
 スマホのないこの世界で、どうやって頻繁に連絡をとっているのかは聞いても教えてくれなかった。スペシャルな鳩でもいるのだろうか……?
 私はというと、この一週間、主に猫亭とリサとの往復を繰り返した。
 月光さんは猫亭とリサにいる時はルイジさんに変装しているが、送り迎えの時は新キャラである真面目な青年キースにふんしている。
 新キャラキースは寡黙かもくだが丁寧な物腰で、ジョーやマリッサからの好感度は高い。
 リサからの帰り道、隣にいるキースな月光さんを見上げる。変装のことを知らなければ、これが月光さんだなんて想像もできない。この変装、本当にどうなっているの?
 キースな月光さんが私を真顔で見下ろす。

「エンリケ様から例の二つの商会についての情報をいただきましたが、お聞きになりますか?」
「え? あ、はい」

 キースな月光さんから淡々と例の婚約者騒動の二つの商会の近況を報告される。
 どうやら爺さんは二つの商会に見張りを付けているらしいが、今のところ目立った動きはないそうだ。

「エンリケ様の圧力が想像以上で手出しができないと思われます。このままあきらめそうですが、用心するに越したことはないでしょう。まだしばらくは我慢してください」

 棒読み報告をされる。寡黙かもくなキースのキャラを守るのはいいけど、月光さんは変装すると性格ごと変わるので、これ以上キャラが増えたらこんがらがってしまいそうだ。
 でも、そんなキャラの徹底がすごい月光さんでも、ある一点に関しては現在進行形でキャラブレをしている。
 キースな月光さんの足元を見れば、一センチ程度浮いていた。

「月光さん……隙あらば浮遊するのはやめてくれませんか? ここ数日、ずっと浮遊していますよね」

 月光さんは浮遊をマスターした次の日から、常に周りが気付かない程度に地面から浮きながら歩いている。しかも、最小限の魔力で!

「いや、つい楽しくて」

 キースな月光さんがキャラブレしながら苦笑いをする。
 最小限の魔力とはいえ、常に魔法を使用しているのだから、魔力の高い人はその違和感に気づくと思う。
 実際、昨日からラジェはことあるごとにキースな月光さんをジッと見ている。
 もしかして何かに気づいているのかもしれない。
 月光さんがキースの無表情キャラに戻る。

「練習は自分の時間にします」
「お願いします。それで、ギルド長は他に何か言っていましたか?」
「……マリッサ嬢のことを少々」

 キースな月光さんが言いよどんだので、きっと手紙の内容はほとんどマリッサのことなのだろう。ブレないな、爺さん。
 猫亭に到着したので、キースな月光さんに礼をする。

「キースさん、今日も送り迎えをしていただきありがとうございます」
「ミリー様も良い夜をお過ごしください。それではまた明日、お迎えに参ります」

 どうせすぐにルイジさんになって戻って来るのだけどね。
 キースな月光さんの後ろ姿を見送りながら、この茶番劇がおかしくて笑みをこぼす。
 月光さんはキースの姿で私を送ったあと、今度はルイジさんになって猫亭に戻って来る。
 早着替えが何度も見られて私としては楽しいけれど、月光さんは忙しそうだ。
 いつ寝ているのだろうか? そして、変装道具はどこから出しているのだろうか? 
 尋ねても、秘密だと誤魔化ごまかされた。
 今日も入れ替わりで姿を見せたルイジさんに手を振る。

「おかえりなさい。ルイジさん」
「ああ、出迎えありがとうね」
「無理はしないでくださいね。リサへの訪問、今週はお休みしますから」

 こっそり耳打ちすれば、口角を上げながらルイジさんが部屋へと上がっていった。
 厨房ちゅうぼうを覗きながらジョーに帰宅の挨拶をする。

「お父さん、帰ったよ」
「帰ったか? お? キースは一緒じゃないのか?」

 ジョーが鍋の木べらを回しながら言う。この匂い、絶対クリームシチューだ。

「さっき帰ったよ」
「そうか。夕食でも食ってけと言おうと思ったんだがな」
「今度誘ってみるね。今日の夕食はクリームシチューなの?」
「ああ、それと雄鶏の旨いのが入ったから焼いてある」
「わーい!」

 四階に上がると、すでに夕食を済ませたマリッサとジークがダイニングテーブルでのんびりしていた。
 私も自分の席に座り、雄鶏の焼き物を頬張る。
 ああ、至福。
 八の月から引き続き魔物過多で、一般王都民は森に入るのを規制されている。
 魔物が増えたのも悪いことばかりではなく、その恩恵は食卓に出ている。
 この雄鶏も本体は豚鳥ピッグバードと呼ばれる魔物らしい。
 肉質は筋肉質に見えるが、軽やかな食感で旨みとコクがある。
 私の中での旨い肉ランキング歴代一位のオーク肉、二位の御祝い事に出るコカリス肉の次くらいに美味おいしい。

「やっぱり、美味おいしい。コカリスといい勝負かも」
「ミリー、食べ過ぎないようにね」

 マリッサがジークをあやしながら言うと、ジークが大声で叫ぶ。

「ジークも、もっと!」
「あらあら。ジークはもうダメよ。これからお風呂だから」

 どうやらジークも夕食の雄鶏を気に入ったようだ。でも、マリッサの言う通りなので心を鬼にしてジークから雄鶏を隠す。

「あー! ねぇね! ジークの、やなの、もっと」
「ジーク。明日ね。明日、また食べよう」

 ジークをなだめたがややねている。
 マリッサがジークを抱き上げ、背中をトントンと優しく叩きながら言う。

「今日は、猫さんのニギニギもジークと一緒に洗いましょう」
「ネコさん、ざぶーんする!」

 雄鶏のことをすっかり忘れ、ジークは楽しそうにマリッサに風呂おけへと連行される。

「行ってらっしゃい」
「わんちゅー、わんちゅー」

 ジークが掛け声とともに足をばたつかせて去っていく。尊い。
 一人になり、残りの食事をモグモグしていると、夕食のトレーを持ったラジェがやって来た。

「ラジェ、お疲れ様。今日の雄鶏焼き、美味おいしいよ」
「うん。ガレルもそう言っていたよ」
「お茶をれるね」

 お茶を出していると、思い出したようにラジェが言う。

「そういえば、次の青空教室がもうすぐだよ。あの神官と約束していたけど、行くの?」

 あ、そうだった。
 いろいろイベントが重なっていたので忘れていたけど、もう十一の月になるんだ。
 前回の青空教室の時に、次回も参加するとシルヴァンと約束をしていた。

「もちろん行くよ。ラジェも行くでしょ?」
「うん。僕も行くよ」


    ◆


 数日後。
 今日は、誰よりも早く目覚めると家の中の掃除を開始した。
 休みなく私を護衛をする月光さんのことを考えて、ここ二日は外出を遠慮していた。
 おかげでエネルギーがみなぎっている。
 ほこり抹殺まっさつ開始だと、独り言を言いながらキレよくカニ歩きで部屋にクリーンを掛けていく。
 起きてきたマリッサが驚いた顔をしながら言う。

「ミリー、今日はずいぶん早起きね。こんなに早くから家の掃除をしているの?」
「うん。今日は早く起きたから、なんとなく掃除したくなっちゃって」
「そうなのね。それにしても、今日は少し肌寒いわね。みんなの冬用の服の準備をしておくから、明日の青空教室にも羽織る物を持って行きなさい」

 そう、明日は二回目の青空教室がある。
 神官長のシルヴァンが本を見せてくれると言っていたから楽しみだ。

「なんだ、ミリー。もう起きていたのか?」

 欠伸あくびをしながら寝室から現れたジョーに向かって元気に挨拶をする。

「おはよう、お父さん!」
「んー、はよ。朝から元気だな」
「今日は朝食のお手伝いできるよ!」
「あー、いや。今日は、マルクとネイトが朝食のシフトに入っているから人は足りているぞ」

 最近、マルクに計算を教えてもらっているネイト。週に一、二回ほど食堂の朝食シフトに入っているという。
 今朝は働くつもり満々だったのになぁ。

「そうなんだ。分かった……」

 仕事に向かうジョーとマリッサを見送る。
 お手伝いすることがないので、ジークと遊ぶ。そんなジークも遊び疲れウトウトしながらすぐにお昼寝タイムに入ってしまった。
 もうすぐランチの時間だけど、残りの時間は何をしよう……
 そうだ。せっかくなので、前回シルヴァンに喜んでもらったオーツクッキーを作って、青空教室に持参しようかな。
 厨房ちゅうぼうでランチの準備が終わったジョーに声を掛ける。

「お父さん、明日の青空教室のためにオーツクッキーを作りたいんだけど……」
「お? いいぞ。――って材料がいくつか足りねぇな。丁度、ガレルが買い出しに行くところだ。ついでに必要なものを頼んでおく」

 ジョーが、ガレルさんに渡す買い物リストにオーツクッキーの材料を追加する。

「あ、それなら私も一緒に行っていいかな?」
「俺は構わないが。ガレル、頼めるか?」
「問題ない。荷物多いから、ラジェも連れて行く」

 ガレルさんが頷きながら言う。
 ずっと家に閉じこもっているのはつらい。少し息抜きをしたいと思っていたし、市場に行くくらいならいいよね?
 ここ二日間、月光さんは私の前には姿を現していない。だけど、ジョーが言うにはルイジさんは毎晩食堂を訪れているらしい。
 廊下の掃除をしていたラジェと一緒に仕事を終わらせ、昼を食べ猫亭前でガレルさんを二人で待つ。二人と言ったけれど、たぶん、月光さんがどこかにいる。
 無意識にチラチラと辺りや裏道を気にかけていたら、ラジェが首をかしげながら尋ねる。

「ミリーちゃん、何を見ているの?」
「確認だよ。確認」
「なんの確認?」

 ラジェの美しい宝石のような瞳で見つめられる。この瞳の前ではなんでも白状してしまいそうだけど、月光さんのことは一応言わないことになっている。どうにか、適当に誤魔化ごまかす。

「ば、馬車の……」
「……そうなんだ」

 疑われている……
 最近、月光さんの存在を肌で感じて敏感になっているラジェの視線は痛い。急いで隠し持っていたボーロを賄賂わいろとして渡す。

「ありがとう。美味おいしいね」
「うん!」

 ラジェは意外とボーロ好きだ。ラジェが護衛の月光さんに気づくことがあれば、その存在を教えるつもりではいる。
 でも、それは最終手段だし、常に監視されているという生活もつらいので早く終わってほしい。
 ラジェと二人で仲良くボーロを食べていたら、猫亭からガレルさんが出てきた。

「出発できる。二人とも待ったか?」
「全然!」

 二人で声を揃えて言う。

「市場では俺の横にちゃんといろ。特にミリー嬢ちゃん、頼むぞ」

 ガレルさんから名指しでの注意……反論しようと思ったけど、これまでのガレルさんに対しての自分の行動を思い返す。ぐうの音も出なかったので、元気に手を上げ返事をする。

「はーい」


    ◆


 二十分ほど歩いて市場へと到着した。
 冬目前、市場はまだにぎわっている。野菜などは瓶詰めも目立つけれど、新鮮な野菜もまだ数多く並んでいる。
 ガレルさんが、木簡に書かれた買い物リストに一つずつ線を引き、消していく。子供でも抱えることのできる軽い荷物は、私とラジェで分担して持つ。
 ガレルさんがリストの最後に線を入れながら言う。

「日用品店で最後だ」

 ガレルさんがムクロジの実などを購入する間、ラジェが何かをジーッと見つめていた。

「ラジェ、何を見ているの?」
「ミリーちゃん、これなんだろう?」

 ラジェが指差したのは、ポニーテールを途中で切って棒に結んだ、前世で言う棒たわしのような物だった。
 何に使うのだろう、これ。
 たわしを手に取り、もしゃもしゃと毛先を触れば、想像より柔らかかった。

「それが気になるのかしら?」
「え?」

 急に知らない女性に話し掛けられ、ラジェも私もビクッと身体からだを揺らす。
 ――誰?


感想 501

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