転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫

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本編

疲れた爺と幼女

 年輩の侍女が、私を探るような視線を送ったので誤魔化す。

「申し訳ございません。クッキーを喉に詰まらせてしまいました」
「こちらをどうぞ」

 リュヤさんが、魔法でコップに水を入れてくれる。彼女は水の魔法の使い手のようだ。
 レベッカさんが戻ってくると、オーレリア王女が紅茶のカップをソーサーの上に置き尋ねる。

「ミリアナは、どんな魔法を使うのかしら?」

 答えに言い渋る。王国では、魔法の属性についての質問は避けるべき話題だからだ。
ラナさんが、間に入ってくれる。

「王女殿下、王国では魔法の属性を公に語るのは避けられております」
「そうでしたわね。帝国と王国の魔法事情が異なることを失念しておりました……ミリアナも気に障ったかしら?」
「大丈夫です。私は水魔法を使います」

 今度は躊躇なく答える。どうせ隠してもどこからか情報を仕入れる。それが貴族や王族だと思う。ラナさんは、私が気にせずに答えたことに対して眉間に皺を寄せているけどね。

「それはリュヤと同じね。わたくしは土魔法の使い手よ」
 オーレリア王女が兎型の土人形を魔法で数匹出すと、可愛らしく床で飛び跳ね始めた。
「可愛いです!」

 子供らしい表情で言ってみると、オーレリア王女は優しく微笑んだ。
 兎の土人形はどれも違う動きをしているので、オーレリア王女は魔力が高いようだ。
 私も最小限の魔法で兎の回りにシャボン玉を出す。魔力を誤魔化すためにようやく二つ、シャボン玉を出したフリをする。意外と魔力を誤魔化すほうが神経を使う。
 オーレリア王女が案じるように褒める。

「ミリアナ、可愛い魔法を見せていただきありがとう。ですが、あまり無理はしてはいけませんよ」
「はい!」

 扉からノック音が聞こえると、カルメンさんたちが再び商品を部屋いっぱいに並べた。その商品のほとんどが子供用品だったので嫌な予感がした。
 立ち上がり宣言する。

「お、お花を摘みに……」
「それでは、戻るまでにミリアナに似合う装いを選びましょう」

 オーレリア王女は、侍女たちとキャッキャしながら私の服を選び始めた。
 クッ。なんとなくその運命になるのではないかとは分かっていたけど……付き添いのラナさんの後をトボトボと歩きながら部屋を退出した。

「どこに行くのだ?」

 扉のすぐ外にいたバートさんがラナさんに尋ねた。そうだった、女子の花園に入れないバートさんは部屋の外で待機していたのだ。
 ラナさんが早口で答える。

「ミリアナ嬢をパウダールームにお連れしております」
「分かった」

 付いてきたバートさんにラナさんが邪険に言う。

「え? まさか、ついてこようとしているのですか? パウダールームは、ここからでも見える距離ですよ」
「そ、そうであるな。では、任せた」

 バートさんをジト目で見る。変態騎士は健在だったか……
 トイレを済ませ、息を呑み試着室に戻る。そして、そこからは着せ替え人形に徹した……

 何度もドレスを着ては脱ぐというつらい時間、それがようやく終わる。誰が一番私に似合う服を選べるかの勝負は、オーレリア王女の勝利で終わった。
 オーレリア王女が、コーディネートされた私を指差しながらカルメンさんに指示を出す。

「着ているものを全てエンリケ・ローズレッタ邸に送るように」
「かしこまりました」

 え? これ、全部を買うの? 遠慮すると伝えようとすれば、ラナさんが首を横に振っているのが見えた。どうやら、これは受け取らないと失礼に当たるようだ。
 丁寧にお礼をする。

「本日は素敵な贈り物をありがとうございます」
「買い物につき合ってくれたお礼よ」
「カカオもありがとうございます。後から大切に食べます」
「きっと大好きになるわよ」

 もうすでに大好きなんです!
 爺さんと合流すると、なんだか爺さんも疲れた顔をしていた。レオさんとどんな時間を過ごしたのだろうか……逆にレオさんは、私を見ながら口角を上げた。嫌な予感がするけど、今日はもう疲れたので気にしない。
 オーレリア王女とレオさんの見送りを済ませると、爺さんと共に馬車に乗り込み同時にため息をついた。
 爺さんが私をじろりと見る。

「疲れたのか?」
「はい。いろんな服を着せられて大変でした」
「それは、お主のせいであろう……」

 言い返せない。確かに私のチョコレートへの執念で始まったことだった。

「チョコレートの有意義な情報も聞けたのでいいのです」
「ちょこれーと……お主まだあれを探していたのか」
「ちゃんと見つかりました。ブルガル帝国です。ほら!」

 銀紙を開き、カカオニブを爺さんに見せる。

「お主が言っていたのはこれか。これは、お主から聞いていたちょこれーととはずいぶん違うが……」

 爺さんが勝手にカカオニブを一粒取り、口に入れる。

「あ! 貴重なのに!」
「ケチケチするな。うーむ。これは面白い味だな。しかし、ブルガル帝国か……」
「帝国に行ったことがあるのですか?」
「ないな。あそこは私が若いころに内戦が酷かった国だ。今は、平和になったと聞く。だが……」

 爺さんが口ごもる。

「だが、なんですか?」
「気にするな」
「気になります」
「忘れろ」

 爺さんが始めた物語なのに……爺さんがカカオニブに再び手を伸ばしたのを避ける。

「チョコレートが作れなくなるので。これ以上はダメです」
「お主の執着するちょこれーととやら……興味があるな」
「ギルド長の世界が仰天しますよ」

 ドヤ顔で言い放つ。きっと儲け魂に火が点くに違いない。
 爺さんが訝しげに私を見る目ながら、言う。

「この国にない食材を扱うのにしては、ずいぶんと自信があるのだな」
「……今日は本屋に行けるでしょうか?」
「あからさまに話を変えるでない……」
「だって、また質問の時間になりそうだったので……」

 今日は結構精神的に疲れているから、爺さんの根掘り葉掘り質問タイムを躱せるほどエネルギーは残っていないのだ。

「ほれ、爺を楽しませると思ってレシピを考えた経緯を言ってみろ」
「まだ試行錯誤しないといけないのでレシピは完成していません。でも、本屋に行けば、お伝えできるレシピが閃くかもしれません。爺が疲れて歩けないなら話は別ですけど」
「ぐぬぬ。よく回る口じゃわい!」

 爺さんが馬車の小窓を開け、御者のサリさんに本屋へ向かうように小窓から叫んだ。
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