龍神  

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雨乞い

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「は、はい・・では失礼して一献・・」

女は徳利に盃を傾ける・・

「あら!お前さん、手が震えてんじゃないのかい?」 その時・・座っていた女の裾から白い鱗が垣間見えた。

「ズル ズルッ」

息をのむ権次、咄嗟に・・
「あ、そうそう、肴がありませんな?ちょいと取ってまいりやす」

権次はその女に酌するや否や慌てて窯場へ走り出します。



「かかあ!かかあ!あれ、あれはどごさやった?」
「なんだい慌てて、いったいあれって何だい?」

「たまごだよ、たまご!朝方したやづだよ!」

「目に入らないのかい、ほれそこの籠の中にたんまりあるじゃないかい」籠の中には20個ほどでしょうか、所々糞のついた茶色い矮鶏ちゃぼの卵が重なっております。

 権次その卵の入った籠を抱えると、あの女の部屋に戻ってまいります。そして、恐る、恐る、障子を少しだけ開けるとその籠を部屋の中へ。

「どうぞ、つまらねえものですがお召し上がりを・・では、あしはこれで」

 権次そう言うと急ぎ足で窯場へ引き返す。


「なんだいあんた!卵なんか、いったいどこさ持ってたんだい?血相かいで」

「はぁはぁ・・あ、あの女んどごよ。あの女はなぁ、おそらぐ”龍神様”が化げでるに違ぇねえ。今日、龍神の祠でおらぁ見だんだよ、あの女を!きっと、龍神様が出で来たんだよ!」

「龍神様だって?寝ぼけだこと言ってんじゃぁないよ!お祭りであんた呑みすぎだんじゃないのがい?」

「いや、間違まぢげねぇ!尻尾だよ、尻尾!さっきがだ、白い尻尾が見えだんだよぉー!」

 次の朝、卵は殻ごと全てなくなり、女の姿も消えておりました。この時から、部落には豊作が続き、大きな災難も一切なくなったということでございます。

 それから龍神宮の祭は何年も続きます。しかし時の移り変わりとともに、祭り事も徐々に忘れ去られてゆくのでありました。


 時は過ぎ、大正年間初期ごろになりますと、龍神をないがしろにしたせいか、日照りが幾日も続き、米も作物も凶作に見舞われてまいります。待てど待てども雨は降りません。

「ああ!こんではだめだぁ、御祈祷でもしてもらぁしかねえべ?」

 祈祷のために水戸の雷神様、加波山神社などから神主を招くと”お水迎えの御祈祷”をいたしますが、無情にも日照りは続くばかり、田畑の作物は枯れ死寸前でございます。

「あぁ、どおすっぺ?」
湿気部落の一人の若者が日照りで乾いた畑の中へ鍬を振り下ろし、ふわっと巻き上がる土煙を見て思うのでありました。 そして・・

「よし、雨乞いすっぺ!」 









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