1 / 1
奴は四天王の中でも最弱
しおりを挟む異例の出世を果たしてしまった。私は何の強さもないミノタウロスの亜人だ。それも、人間が食用として品種改良した種族の末裔だ。種族の経緯から、私達ミノタウロスは他の魔物から忌み嫌われていた。そのため、私達家族はひっそりと暮らしていたのだ。当然、強さなどはない。
なのに。それなのに。この私が、四天王になってしまったのだ。しかも魔王様直々の命令らしい。本来、四天王は強さを基準に、他の魔物の支持を得て昇進をするものだ。誰の支持もなしに魔王様の命令で四天王になるなど、前代未聞だ。他の四天王から睨まれることは必須だろう。
それに、だ。面識のない魔王様の命令とは一体どういうことだろう。まさか、こうしてヘイトをミノタウロスに集めて絶滅させようと企てておられるのだろうか。人間に飼われた下等種など、生きている意味はないとお考えなのかもしれない。それは、あり得る。大いにあり得る。そうか、私はヘイトを集める的として昇進したのか。そう思うと全てが腑に落ちた。悲しいことだが。
他の四天王からの鋭い視線が突き刺さる。魔王様のヘイト活動は順調のようだ。私は身を小さくして、魔王様の登場を待つ。今日は四天王と魔王様の作戦会議があり、私は一番に到着し席に座っていた。何も、張り切っているわけでは決してない。四天王になりたてのミノタウロスが遅刻など、更にヘイトを集めてしまうと思ったからだ。
靴音が響く。周りの四天王が身を正した。どうやら、魔王様の登場のようだ。私も背筋を正して魔王様の登場を待つ。
「やあ、皆。待たせたかな?」
「「「いいえ、時間通りです!」」」
彼らは魔王様の言葉に即座に返す。私は言いそびれてしまった。
「おい、新入り。挨拶ぐらいしたらどうだ」
四天王の一人が睨みながら言った。私は震える唇で挨拶をする。
「は、はは、初めて、お、お目にかかり、ます。み、ミノ子と、申しましゅッ!」
噛んだ。死にたくなりながらも、頭を下げる。ちらりと魔王様を仰ぎ見ると、魔王様は眉間に皺を寄せていた。挨拶があまりに粗末だったからだろう。こ、殺される……。そう思っていると、頭に何かが置かれた。
「……え?」
「まあまあ、緊張しないで。リラックスしていいよ」
先程の表情とは一転して、魔王様は笑みを浮かべて私の頭に手を置き形を確かめるように撫でている。私は全身が凍り付くのを感じた。これは、俺はいつでもお前の頭を潰せるぞ、という警告なのだろう。
「は……はい、ありがたき、お言葉……。胸に、染み入ります……」
「ああ、そうだ」
魔王様は他の四天王の方を向いた。
「紹介がまだだったね。彼女は新しく四天王として加わってもらったミノ子さんだよ。ただ、戦闘要員ではないからよろしく頼むね」
「……あの、質問を許可していただけないでしょうか」
四天王の一人がおずおずと声を出した。
「ああ、いいよ」
「ありがたきお言葉に感謝致します。その、『戦闘要員ではない』とは、一体どういうことでしょうか?」
「そのことね。彼女には、僕のモチベーションを高めてもらうために来てもらったんだ」
「「「「え?」」」」
四天王の言葉が重なる。初めて意気投合できたような心地だ。
「僕ね、ゆくゆくは、ミノ子さんの旦那さんになりたいなあって思っていてね」
「「「「え?」」」」
他の四天王が私を見つめるが、私だって初耳だ。反応の仕様がない。
「だから、ミノ子さんを傍に置いて、僕の気持ちを鼓舞したいんだ。必ず人間を滅ぼして魔物だけの世界を作るよ。そうしたら、僕達、結婚しよう」
魔王様は笑みを浮かべて私の手を取った。
「え?あ、あの……」
「なんだい?」
拒否権は、と言おうとして口をつぐむ。これを言ってしまったら魔王様の逆鱗に触れるかもしれない。それは避けたい。つまりは、拒否権などないわけで。
「なんでも、ないです……」
四天王の目が嫌悪から哀憫となって私に向けられる。
「良かった!じゃ、そういうことだから。よろしくね」
自分の未来が強引に決められてしまった。それからの会議は耳に入って来なかった。私は一体何をしてしまったのだろうか。魔王様の風貌に見覚えはないのだけれど……。
「あ、ミノ子さん」
「は、はいッ!」
会議が終わると、魔王様からお声をかけられた。思わず声が上ずってしまう私に、魔王様は笑みを浮かべた。それは愛しい人を見るような、柔らかく優しいもので、私は思わず心臓が跳ねる。
「そうかしこまらないで。この後、少しいいかな?」
「だ、だだ、大丈夫、です」
「実はね、少し話があるんだ。付いてきてくれるかな」
「は、はい。分かりました」
魔王様は笑みを深める。私は後に、彼の異常とも言える執着心を目の当たりにすることになるのだった。
Fin.
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる