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天使様
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神父は頭を抱えていた。神に身を捧げた者である自分が禁忌を犯してしまったのだ。
それは昨晩のことだった。ある女が教会に訪れた。彼女は信仰深く、毎日礼拝を欠かさず行っており、真面目で慎ましやかな女だった。神父はいつのまにか彼女に好意を持ってしまった。彼女もそれは同じだっだようだ。彼女の赤く染まった頬。深い後悔の色を滲ませながらも欲を孕んだ表情に、神父は釘付けになった。そして二人は一線を超えてしまった。
私はなんてことをしたのだ。神よ、お許しください。神父は教会のキリスト像に許しを乞う。すると、キリスト像が光り輝く。驚く神父の前に、白い羽の生えた人間が現れた。白い羽が優美に舞う光景に、神父は息を飲んだ。
「天使様だ……」
思わず声を上げた神父に、天使様は笑みを浮かべる。
「お困りのようですね」
鼓膜を優しく撫でる声に、神父は許しを乞うた。清らかな身体ではなくなってしまった、己を許して欲しい。神父の言葉に、天使様は笑みをたたえたまま言葉を紡ぐ。
「それは困りましたね。神は貴方を許さないでしょう」
「そんな……!そこをどうか、どうか……!お許しください!」
必死で頭を下げる神父に、天使様はその美しい瞳に涙を浮かべた。
「なんと素晴らしい信仰心でしょう。神に許されるのならば何でもすると誓いますか?」
「ええ、ええ!なんでもします!」
天使様はその言葉を聞くと、両手を上に上げる。すると頭上に一枚の紙が現れた。
「ではここにサインをしてください」
「サイン……?」
唐突に現れた紙に、神父は首を傾げる。
「これは決意表明です。形に残すことで、信仰心が強いという証明にもなるでしょう」
「なるほど!」
神父は紙に、自分の名前を書いた。すると、天使様が笑った。先程の神々しい笑みではなく、ニタニタと笑いが堪えられないような、下品な笑い方だ。
「おめでとう!人間よ、これで契約は完了だ」
「け、契約?どういうことですか?!私は神に許されたのではないのですか?!」
天使様はついに大笑いしてしまった。
「プッ……アハハハハ!あの頑固な神がお前を許すはずがないだろう。お前は私と契約をしたのだ。己の命を差し出すと」
「い、いいや!私は契約を交わした覚えはない!」
天使様は大笑いしながら、先程の紙を取り出した。そこには、自分の命を無償で悪魔に捧げるという旨の文章と、神父の名前が書かれていた。神父が天使様だと思っていた相手は、白い羽を生やした悪魔であった。
「お前は私の言葉のみを信じ、この紙に書かれている内容を読むことなく己の名前を書いた。しっかりと目を通していればこんなことにならずに済んだのにな。恨むならば己の愚かさを恨め」
「そんな……!」
あまりの絶望に膝から崩れ落ちる神父。
「その表情、とてもいいぞ。食べたらさぞかし美味いのだろうな。では、お別れの時間だ」
「い、いや、いやだ!誰か!誰か助けてくれ!!」
神父の叫び声など気にもとめずに、悪魔は指を鳴らす。目の前の神父は光の玉へと姿を変えた。
「いただきます」
悪魔はその玉を口に入れた。絶望の味が口いっぱいに広がる。それは悪魔にとって大好物の味であった。
羽を白にして正解だったな。魂を舌先で転がしながら悪魔は思うのだった。
Fin.
それは昨晩のことだった。ある女が教会に訪れた。彼女は信仰深く、毎日礼拝を欠かさず行っており、真面目で慎ましやかな女だった。神父はいつのまにか彼女に好意を持ってしまった。彼女もそれは同じだっだようだ。彼女の赤く染まった頬。深い後悔の色を滲ませながらも欲を孕んだ表情に、神父は釘付けになった。そして二人は一線を超えてしまった。
私はなんてことをしたのだ。神よ、お許しください。神父は教会のキリスト像に許しを乞う。すると、キリスト像が光り輝く。驚く神父の前に、白い羽の生えた人間が現れた。白い羽が優美に舞う光景に、神父は息を飲んだ。
「天使様だ……」
思わず声を上げた神父に、天使様は笑みを浮かべる。
「お困りのようですね」
鼓膜を優しく撫でる声に、神父は許しを乞うた。清らかな身体ではなくなってしまった、己を許して欲しい。神父の言葉に、天使様は笑みをたたえたまま言葉を紡ぐ。
「それは困りましたね。神は貴方を許さないでしょう」
「そんな……!そこをどうか、どうか……!お許しください!」
必死で頭を下げる神父に、天使様はその美しい瞳に涙を浮かべた。
「なんと素晴らしい信仰心でしょう。神に許されるのならば何でもすると誓いますか?」
「ええ、ええ!なんでもします!」
天使様はその言葉を聞くと、両手を上に上げる。すると頭上に一枚の紙が現れた。
「ではここにサインをしてください」
「サイン……?」
唐突に現れた紙に、神父は首を傾げる。
「これは決意表明です。形に残すことで、信仰心が強いという証明にもなるでしょう」
「なるほど!」
神父は紙に、自分の名前を書いた。すると、天使様が笑った。先程の神々しい笑みではなく、ニタニタと笑いが堪えられないような、下品な笑い方だ。
「おめでとう!人間よ、これで契約は完了だ」
「け、契約?どういうことですか?!私は神に許されたのではないのですか?!」
天使様はついに大笑いしてしまった。
「プッ……アハハハハ!あの頑固な神がお前を許すはずがないだろう。お前は私と契約をしたのだ。己の命を差し出すと」
「い、いいや!私は契約を交わした覚えはない!」
天使様は大笑いしながら、先程の紙を取り出した。そこには、自分の命を無償で悪魔に捧げるという旨の文章と、神父の名前が書かれていた。神父が天使様だと思っていた相手は、白い羽を生やした悪魔であった。
「お前は私の言葉のみを信じ、この紙に書かれている内容を読むことなく己の名前を書いた。しっかりと目を通していればこんなことにならずに済んだのにな。恨むならば己の愚かさを恨め」
「そんな……!」
あまりの絶望に膝から崩れ落ちる神父。
「その表情、とてもいいぞ。食べたらさぞかし美味いのだろうな。では、お別れの時間だ」
「い、いや、いやだ!誰か!誰か助けてくれ!!」
神父の叫び声など気にもとめずに、悪魔は指を鳴らす。目の前の神父は光の玉へと姿を変えた。
「いただきます」
悪魔はその玉を口に入れた。絶望の味が口いっぱいに広がる。それは悪魔にとって大好物の味であった。
羽を白にして正解だったな。魂を舌先で転がしながら悪魔は思うのだった。
Fin.
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