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対面せずしてわからせる悪役令息
しおりを挟む「最後に勝つのは賢いものだけ。そして私は教会で一番賢いもの。つまり私こそが勝者ということです」
教皇がリアーナをお役御免にすることを決めた後。
自分が罷免されるとも知らずに光の聖女ことリアーナは自室でそんなことを呟いていた。
今現在リアーナが持っている情報では同じ聖女であり、派閥を二分していた目の上のタンコブ──ロマンナがシド襲撃に失敗して失脚し、残っているのはシドだけ。
ロマンナの公算ではシドの生身で鎧を倒したという怪しすぎる戦績を暴いて、聖女候補から脱落させれば教会の全てが自分のものになるはずだった。
「焚き付けたロマンナさんを潰してくれたのは見事ですシド君。ですがここでその化けの皮を剥がさせてもらいますよ」
一気に畳み掛ける心持ちでリアーナは自身の持つ真実を光の照らし出す加護を発動して、シドの鎧を生身で倒したという奇跡を暴く。
「そんなバカな!? あり得ない!! これが嘘偽りのない真実だなんて!? それに何です!? 馬車を再生させているこのお嬢さんは!?」
加護の力が働き眩い光の果てに見えたのは本当にシドが鎧を生身で撃ち倒した姿と今まで眼中に入ってなかった小娘──ステラが馬車を再生させる姿だった。
土台嘘ぱちだと思っていたシドが起こしたとされる奇跡が本当だったことも驚天動地のことだったが、もう一人がやったとされることも前者と同等レベルの驚きに値することだった。
人以外のものを再生させる力など教会どころか、世界が欲する力だ。
こんなものが明らかになれば直ちに聖女と登用されることは間違いない。
まさかシド以外の眼中になかった小娘にまで追い詰められるとは思わずにリアーナは冷や汗を掻く。
これを知る前は鮮明描けた自分が聖女として教会で君臨するために道筋を描こうとするが全く思い描けない。
このままではシドとステラが聖女となり、数的劣勢に陥った自分が両者のサンドイッチになり、ズタボロになることしか見えない。
十六年間の人生の中で訪れることのなかった絶望が今リアーナを苛み始めた。
「こ、こんなの嘘です!」
自分の真実を照らし出す力──加護の確かさをリアーナ自身がよく知っており、逃れられない事実に追い込まれたリアーナは現実逃避に嘘だと自分に言い聞かせる。
「リアーナいますか?」
現実逃避に浸っていると不意に扉を叩く音と教皇モンローの声が聞こえ、そちらに意識が向かう。
どうせ「ああするなこうするな」という小言を言いに来たのだと思ったが今自分を苛む恐怖を誤魔化せるならそれでもいいと思い返事をする。
「はい。どうぞ」
「じゃあ入りますよ。なんだか顔色が悪いですね。改めた方がいいですか?」
「気のせいです。早く要件をおしゃって下さい」
『聖女を罷免する』というリアーナにとって精神的に負担の重い話をするのでモンローがそう申し出るとリアーナからすげなく否定されたのでそのまま話すことにする。
「ではリアーナ。新しくステラさんを聖女に認定する上で、度重なる暴走を繰り返すあなたが聖女としての威光を使って危害を加える可能性があると判断したのであなたを聖女から罷免します」
「いやあああああ!!」
逃避した先でまさかの止めを刺され、リアーナが膝から崩れ落ちる。
「大丈夫ですか!?」
想像以上の反応を見せたリアーナにモンローが驚いて問いかけるが返事はなく完全にリアーナはノックアウトされていた。
対面もせずしてリアーナはシドに敗北した。
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