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バレバレリーナ
しおりを挟む5歳の誕生日のことだった。
あのころはイースバルツもノースクラメルも戦争をしておらず、ヘルメスの誕生会にも近隣のノースクラメルの貴族が訪れていた。
そんな誕生会のおりにまだ令嬢だったころのヘルメスは少年から告白された。
時は巡って今、その少年は成長して自分の前に現れた。
ガイア・フォース。
「絶対に戦うな」とイースバルツ中にお触れが出されている『ノースクラメルの悪魔』の次期当主だ。
今しがた潜伏しているのがバレたばかりだというのに、ガイアは動じることもなくヘルメスを量るように凝視するだけだ。
ヘルメスが何を考えているのかと考えを巡らしている間も、ガイアの聡明な深緑の瞳は彼女を射貫き続ける。
―|―|―
公爵バレバレリーナした俺は言葉を紡げず、ヘルメスを見続けるしかない。
奴はこちらを責め立てるように、凝視し続けるだけだ。
めちゃくちゃ怖い。この沈黙にはあと五秒も耐えられそうにない。
「誤解です。僕はもう公爵家の人間ではないですし、潜伏しているなら、そこのアサシンが僕の存在をばらすわけがないでしょう」
「では、どういうわけでここにいるというのですか」
なぜだ……。
素直に話したはずだというのに警戒がことさらに深まったような気がする。
てかもはや、問いかけではなく、何かお前は企んでいるはずだという言いがかりに近い。
何でこんなに信用がないんだ。
クリムゾンが「冗談が大好き」とか言ったせいだな、くそ。
「あなたと交わした約束を果たすためです。無論、ヘルメスさんも覚えているでしょう?」
「最初に出会ったあの時の約束ですか?」
「そうです」
俺がそう答えると、ヘルメスはまた驚いた顔をした。
なんだ、ここの領地防衛依頼したこと忘れてたのか、このイケメン。
凛とした顔つきなのに、意外にうっかりしてるな。
「なんで国を捨ててまでこんな所に……。あなたのような賢い人が」
皮肉か、畜生……。
公爵うっかり時点で馬鹿丸出しだよ。
この流れで、裏切り者コノヤローとか来ても困るし、ヨイショして話を逸らすか。
「ここには国を捨てても守りたいものがありますからね」
これでもうネチネチ責めれんだろと、ヘルメスの方を見ると少し涙ぐんでいた。
領地ヨイショがよほどのこと彼の胸には響いたようだ。
我ながらファインプレーだ。
もう一押しして、俺が忠誠心に溢れていることをアピールしとくか。
「必ずここを防衛して、あなたとの約束を果たしてみましょう」
ヘルメスは俺のあまりの忠誠心に感極まったのか、顔を赤くして、何かをこらえるように俯く。
少しすると奴は決意したように顔を上げた。
「あなたは私の為に国を捨てたのです。それなのに答えないなんてできるでしょうか。ええ、防衛を果たした暁には、あんたとの約束は必ず果たしましょう」
よし、何とか丸く収まったようだ。
一時はどうなるかと思ったが何とかなるもんだ。
くそ、でも俺を落ち詰めたクロノスちゃんは許せんな。
一歩間違えたら、断頭台だよ。
クロノスちゃんの方を見ると、彼女は静止したまま微動だにしない。
何かおかしい。
クロノスちゃんを手刀で叩く。
少しの反動が返ってきたと思うと姿が消えた。
やっぱり残像のようだ。
俺をだしに使って、逃げたらしい。
「な、残像?! いつの間に……。あたしが担いでいるときは確かに本体だったよ」
「おおよそ、僕に注目を集めた後、アーツを発動させて逃げたんでしょう」
「追いかけるかい?」
「すばしこいアサシンのことですし、追いかけても無駄です。ほっといて軍備を進めましょう」
クロノスちゃんを逃がしたのは痛いが、ヘルメスの信頼は得られたし、プラマイゼロだろう。
ここ最近不調だったので、なかなか幸先のいい出だしのように感じられる。
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