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やったね、ガイアちゃん! 家族が増えるよ!
しおりを挟む国王の鋭い眼光と衆人環視の中だというのに、魔王が解答に用いた時間は数える間もないほど。
つまり即答だった。
「害獣だからです。国の象徴とは言え、人々に危害を加えるものは害獣です」
至極単純な答え。
一見、一般論を述べている過ぎないように見える言葉だが。
その言葉の中には、皮肉が多分に含まれていた。
飼っている帝龍を従わせられない国王と、最強種である龍を国の象徴としてあがめるこの大陸の文化全体に対する痛烈な皮肉が。
だが慇懃無礼を形にしたような男に対しても、国王は冷静だった。
怒りにとらわれることなく、ただ怜悧そうな眼を細めて魔王を見据え、指を組んだ。
「肝が据わった奴だ。この大陸を批判するとは。だが貴様だけがその因習を是正しようという意思を持っていたとしてもどうにもならない。国王たちにとって、帝龍は武力と王政の象徴。国民にとっては国が安寧であることの保証する信仰の対象。実際がどうであれ、人々の意識は揺るがない。この国は今、国の象徴を失い危機に陥ている。他国は武力と信仰を失ったこの国を落とす好機だと言い出していつ進軍してもおかしくない状況だ。貴様はこの事態をどう収集するつもりだ?」
国王は迂遠な口調で問うことはやめ、単刀直入に魔王に対して切り込んだ。
彼が欲しいのは理想や正しさではなく、この事態を犯したことにたいする収集をつけることだろう。
魔王は徐に首を少し中立派の方に動かすと、初老の男――代表と呼ばれていた男が頷いた。
その瞬間、余裕をもって魔王に応じていたはずの国王の顔が険しいものとなった。
「セールスマンか……。若くともお前もノースクラメルの悪魔ということか」
その名を聞き、ゼウスもアダルトと同じ様に理解した。
これからの話合いはガイアにとって、全て都合のいいように話が進むと。
目の前の初老の男の存在はそれほどまでに大きかった。
豪商セールスマン、この男の名は戦場に居る者なら知らぬ者はいない。
遠征、および他国への進軍はこの男を介さなければ出来ないのだから当たり前のことだろう。
それというのも戦場で果たす商人の役割は非常に大きいからだ。
食物の保存がきかず、たとえ保存が聞いたとしても荷物を持ってる限界のあるこの世界において、長期の進軍を商人なしで行うのは自殺行為だ。
確実に軍が干上がる。
そんな軍の生命線を担う商人の中でも頂きに位置するセールスマンを敵に回すのは、たとえ王であったとしても避けなければならないことだ。
もしここでセールスマンを敵に回すことになれば、軍事機能に致命的な損壊を受け、更には国内の商人が担っている流通機能を放棄され、値崩れが起きたあげく、農家が干上がるなど内部から国が壊れることになる。
それは他国に進軍されるよりも、よっぽど避けなければならないことだ。
セールスマンという男は国王に対抗することができる唯一絶対のジョーカー。
その男が魔王の隣に立ち、王と対面しているということはもうすでにこの話しあいの分は国王にはない。
話しあいが始まる前から、魔王は国王に勝利していた。
「国王。アニムゾンさんの言葉をただの皮肉と受け取られたようですが、それは違います。彼は六帝龍全てを葬り去り、さらにはこの国に対してとてつもない恩恵をも授けるつもりなのです」
セールスマンは魔王の隣に立ち、まるで彼の言葉の不足を補い、さらに聞き心地のいい言葉に変換して、国王に語り掛ける。
国王は目を閉じ、黙ってそれに耳を傾けている。
「それに彼がこのアイズに行ったのは、侵略などではありません。彼が提案したものの中で彼が利益を得られるものなど一つも存在せず、彼が実際に干渉できるものも存在しないのですから。これは施しにすぎません」
国王はセールスマンがそこまで言うと、再び双眸を開いた。
「……貴様の人を見る目。慧眼は確かなものだと知っている。その言葉全て狂言ではないのだろう」
セールスマンに向けていた瞳をそこで魔王に戻すと、鋭い眼光で射抜いた。
「だが、それは今現在だけのことだ。これから先、この男がこの国に牙をむかないという保証はない。貴様はそのことにたいしてどう考える? 最悪の場合、俺とお前を亡き者にしてこの国どころではなく、大陸を蹂躙することさえあるかもしれんぞ」
国王も一国を抑えてきただけもあり、力技だけでは参らない。
未来という不確かなものに話を移し、セールスマンの揚げ足を取ろうと狙う。
「では枷をつけられてはどうでしょうか?」
セールマンはゼウスの側に居るアダルマンティーに目配せを送る。
それを見ると、アダルトは目を閉じると、しばらく黙考すると目を開けた。
「腹立たしいことこの上ないが、帝龍を失い、国力に不満が残るこの国から姫を娶ることはない。それが最善手か。二体の帝龍を倒した男として、帝龍の代わりになってもらうならばつり合いもとれるだろう」
彼は前半、理解できる言葉を吐いたが、後半に至ってはゼウスには理解できなかった。
ガイアを帝龍の代わりにする?
武力と王政の象徴に?
ゼウスの頭が混乱のただなかに居る中、王は席を立った。
「これで沙汰は終わりだ。アニムゾンいや、ガイア・フォース。一か月後に貴様に公爵の地位を与えるとともに、娘との婚礼を行ってもらう。首を洗って待っておくがいい」
それだけ言い置くと王は踵を返す。
だが、そこで沈黙を保っていた魔王が声を上げた。
「一つお願いがあるのですが、アダルト様が連れてきたあの幼女の素性を調べてもらっていいでしょうか?」
「あれに何かあるというのか?」
「ええ、あの子の親に?」
「なるほど。奴の雇い主おやに何かあるというか……。ウォージマ、娘の足と素性を洗い出せ」
「御意」
国王がそう告げると盗賊騎士団はその場から姿を消す。
ゼウスは驚きを魔王の手腕に驚きが隠せない。
この国の実行支配を確実に推し進め、さらには幼女を使うことで次の布石を打ちこんだ。
危機感のままに魔王の背中を見つめるが、その背中には喜びも奢りも見当たらない。
まるでこの結果は当然のことだと言っているようだ。
国王が去るのを確認すると魔王は徐に立ち上がってこちらに振り返った。
「帰りましょうか」
ただ平凡な魔王の言葉がひどく傲慢にゼウスには聞えた。
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