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第一章

十話

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 随分と長く寝てしまったらしい……次に起きた時にはすでにもう朝だった。
 昨日の夕方に帰ってきて、すぐにベッドの中へと潜り込んだ私は、今の自分の悲惨な状況に気がつく。
 私は慌てて洗面所へ向かい、メイクを落としてついでにシャワーも浴びた。

 一晩経って……自分の気持ちもだいぶ落ち着いてきている。
 私は濡れた髪の毛をタオルドライしながら、鞄の中に放置したままだったスマホを取り出した。
 そこには昨日の夜の日付で着信が一件と、私を気遣う内容のLINNメッセージが真宵くんから送られていた。
 私はコスモワールドからすぐに帰ってしまったこと、帰ってきて早々に寝てしまったことのお詫びのメッセージを送る。
 そして真宵くんの返事も待たずに、スマホを再び鞄の中へと仕舞った。
 今の自分がかなり空腹だったことに気がついたからだ。

 私は軽く顔を整えてから普段着に着替え、近所のカフェへと足を運んだ。
 カフェの席にて、店員さんにパンとサラダ、コーヒーを注文し、ホッと一息ついた私は再びスマホを鞄から取り出す。
(通知が一件……)
 私はスマホのロック画面を開いた。
 するとそこには『また会いたい』という主旨のLINNメッセージが真宵くんから届いていた。
 その文面を見た時、私の心はまるで跳ね返ったように過剰な反応をする。
(落ち着け、心臓……)
 とりあえず私は深呼吸をした。
 こんな状態で、私はまた真宵くんと会うことなんてできるのだろうか。
 とりあえずしばらくは、彼との対面は無理かもしれない。
 私は『また連絡する』という文面だけをLINNで送り、スマホの画面を下向きにしてテーブルの上に置いた。

 そしてカフェの店内から窓の外を見ると、だいぶ雲行きが怪しくなっていることに気がつく。
(今日って予報では雨だったっけ?)
 どうせ日曜日だし、ここは家から近いし……とあまり深く考えず店員さんから運ばれてきた食事を取った。
 ここのカフェはお洒落でとても素敵なお店だ。
 私も大学近くのカフェレストランでアルバイトをしているが、そこはチェーン店でもあるためもっと店内が広くて客層も多く、店員の動きもスピーディ……こんなにゆったりと落ち着く雰囲気ではない。
(なんかホッとできるカフェってのも魅力的よね)
 そんなことを考えながら、窓から外の様子をぼんやりと眺めていると、私はふと……確かこの上の店舗って本屋だったよなと思い出す。
(良い新作が出てるかもしれない。朝ごはんを食べ終わったら、ちょっと行ってみようかな)
 雨の降る中、買ったばかりの本を自分の部屋でゆっくりと読書する……なんて日がたまにはあっても良いだろう。


 カフェで会計を済ませた私は、上の階へと上がるためのエレベーターがある場所に向かった。
 そして二階に着くと、乗ったエレベーターの扉が開くと同時にすぐ目の前に本屋の入口が現れる。
 私はワクワクとした期待を膨らませながら、本屋の中へと入った。
 思っていたよりも広い店内だったが、日曜の早いこの時間帯では客の数もまだまばらである。
 なにかオススメはないかなぁと、新刊コーナーの辺りをじっくり見ていると、私の好みに合いそうなミステリー小説が目に入った。
 私はその場で上下巻ともに手に取る。
 そして店舗の中をゆっくりと見て回り、さらに何冊かの本を選んだあと、店員さんのいるレジの場所まで向かった。
 支払いを済ませようと財布を出した時、コスモワールドで買ったチケットの残りが目に入る。
(真宵くん……今日はどうしてるのかな)
 そんなことを思いながら、トレーの上に代金を置いた。
 そしてお釣りをもらい、買った本を雨で濡れないように鞄の奥へと仕舞う。
(ビニールにも入れてもらったから、たぶんこれで大丈夫ね)
 私は本屋を出てから、少し小雨が降っている中を家に向かって歩いていた。
 その間、私は真宵くんのことをまた考えている。
 昨日は彼とみなとみらいまで出かけて、普通に楽しかった。
 観覧車でのことがあるまでは、自然体で一緒に過ごせていたと思う。
(別に全然嫌な気持ちじゃないんだよね……思ってもいなかったことを突然告げられて、戸惑ってるだけで……)

 家の前に戻ってきた時、ポストの中を確認すると、赤レンガ倉庫周辺のイベントで見かけた赤い靴のキーホルダーが包装された状態のまま入っていた。
(え……これって、みなとみらいの……? もしかして真宵くん……昨日あれから一度ここへ来たの?)
 私はキーホルダーを手に取って、すぐに家の中へ戻る。
 そしてスマホを取り出し、真宵くんにキーホルダーの存在に今気づいたとLINNのメッセージを送った。
 するとすぐに既読がつき、『あげる』という文字。
 私はお礼の返事を送ってから、スマホのカバーに取りつける。
(可愛い……)
 私は嬉しくなって、しばらくキーホルダーが付いたスマホを眺めていた。
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