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第三章
二十三話
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「よぉ、村が大騒ぎになってたから来てみたが」
聞き慣れた声だ。
この声は……。
「燈倭……」
やっぱりトウワさん……心配になって来てくれたのかな。
彼も村の妖狐たちに、今はっきりと姿を見られてしまっているけど、大丈夫なのだろうか。
うっ……またお腹がズキっとする。
心なしか胃もムカムカするような……。
「ん? 志帆殿、どうした?」
「実はお腹が痛くて……」
トウワさんは何か変なものでも食べたのか? と聞いてくるが、そこの店のお団子しか食べていないことを伝えると、あれはもち米で作ってあって、人間でも普通に食べれるやつだと教えてくれた。
じゃあ、やっぱりこの腹痛は別の理由のようだ。
「燈倭、とりあえずこのままだと志帆の体に障る。できれば場所を変えたい。話したいことがあるから、戻ったら俺の階層まで来てくれ。入口で少し待ってもらうことになるとは思うが」
「おう、わかったぜ」
トウワさんの返事にシンラは黙って頷き、二人は姿を消して空を飛んだ。
私の姿も今は見えなくなっているようで、村の妖狐たちは皆あさっての方向を見渡しながら、二人の名前をしきりに呼んでいた。
◇ ◇ ◇
私はシンラに抱き抱えられた状態で寝室まで戻ると、すぐに体を降ろしてもらった。
お腹の痛みには波があって、今はちょっと平気である。
私はその場でシンラにお礼を言って、腰につけたままだったファーの尻尾を外し、買った鞄と一緒に横の棚に置いた。
次いで湯屋のところの洗面所に行き、メイクを落とす。
来ていた着物は盗賊に転ばされ汚れてしまったので、サノメがすでに用意してくれていた浴衣に着替えた。
部屋に戻るため廊下を歩いていたら、またお腹が痛み出したため、たまらず床にしゃがみこんだ。
すると、様子を見ていたシンラがすぐにやってきて、ベッドまで連れてきてくれる。
「シンラ、何度もありがとう……」
「いや」
私が準備を終えるまで、入口の方で待っていてくれていたトウワさん。
彼を呼び寄せたシンラは、寝室の床に胡座をかいて座った。
どうやら今日は客間ではなく、ここでトウワさんと話しをするつもりみたいだ。
私にも聞かせるためだろうか。
「んで? どうしたんだよ。志帆殿は妖狐に擬態して村を堪能してたんじゃないんか? なんであんな騒ぎに?」
「あ? あぁ、そっちはね……」
「トウワさん、実は私が村で盗賊に遭ってしまって、あそこで妖狐の髪の毛を外されてしまったの……」
「あぁ、それで神羅が出でこずにはいられなかったのか」
「まぁ、そういうこと」
それは別に良いんだけど、とシンラが付け加えたあと、それよりももっと大きな問題ができたと、深刻な顔でトウワさんに告げた。
「燈倭……志帆も聞いてくれ……腹痛の原因は、志帆が新しい神を身籠っていたからだ……さっき腹に触ったら、七神以外の狐神エネルギーを強く感じた」
「へ?」
「は?」
私とトウワさんは同時に驚きの声をあげた。
え……嘘でしょう?
まさかシンラの子を妊娠?
もしかしてこの痛みや吐き気は……妊娠の初期症状なの……!
「はぁ?! なんだ、そりゃ……人は神の子を身籠らないんじゃなかったのかよ?!」
「前例がないだけで、身籠らないとは決まっていない。なぁ……燈倭は、志帆の中にいるのが、本当に俺たちの子だと思うか?」
「普通に思うが? お前ら、たぶんそれなりにヤリまくってただろう?」
(ト、トウワさん……そんな大声で……)
シンラはそういう事じゃないんだと真剣な顔で言った。
「普通に妊娠ではなく、次の狐神が生まれるためのただの器にされている可能性もある。それに、成長が早く莫大なエネルギーを持つ狐神なんか産んだら、志帆の体はどうなる? 妖狐とは体の造りが全然違うんだぞ? まだ胎仔が大きくない今のうちに、俺がこの手で消すべきではないかと考えているんだが……」
そんな……そんな……。
でも、もしもシンラと私の子どもだったら?
まだ何も分からないうちに消してしまってもいいの?
急に色々と怖い話ばかり聞かされて、不安ばかりが募る。
私は一体どうしたらいいのだろう。
「神羅、らしくねぇな。ちょっと落ち着けよ……まぁ、確かに心配だが、そこはじじぃ供に相談した方がいいんじゃねぇか? それにまだお前らの子じゃないって決まったわけじゃねぇんだぞ? 前例がないってお前もさっき言ってた通り、神と人間の異類婚でもたまたま体の波長が合っちまったとかあんだろ?」
「そうだとしても……志帆の命には代えられない。それに年寄りどもには相談できない。なぁ、燈倭、なぜこの村にはいつも八神が揃うと思う? このY山が八つに分かれている山だからだ。だから、欠けた分は絶対にあとで補充される。お告げがあって他所の狐神がやってくる場合もあるが、今は妖狐から生まれる方が多い。その方が都合が良い理由があるんだ」
Y山が八つの山に分かれているから、ここの神の数も八?
ここの狐神が八神であることは、何か意味があるんだろうなとは思っていたけども……。
「都合が良い理由ってのはなんだよ?」
「この前消えた最古の狐神に、俺の力が他の狐神より規格外な原因は、俺を産んだ妖狐の能力が異常なほど高かったからだと、過去に聞かされたことがある」
「産んだ妖狐の力が左右されるなんて初めて聞いたぜ」
シンラのお母さんはとても能力の高い妖狐さんだったんだね。
でも、同じ狐神のトウワさんですら知らないなんて……他の狐神も把握していないのだろうか。
「もし、次に生まれてくる狐神が、俺の力を受け継いだ神だったら? しかも事実上は人間とのハーフだ」
「その神の力は計り知れねぇ……さらに言えば、人間との縁がまたできる……もしかして、それが狙いか? それだと最古の狐神が消えたタイミングも怪しいぞ」
「……そういうこと。今回の嫁取りも、結界の入口が消えたことも、どうにも踊らされているような気がしてならない」
人間との縁……。
私が新しい神を産んで育てれば、私たち嫁の生死を問わず、この子の力で人間側の世界も守ることが可能ということだろうか。
それならば、この子が生きている限りは天変地異も防げる?
しかも生贄や誘拐のような形で狐神が嫁を娶ることもなくなる……。
それって……。
聞き慣れた声だ。
この声は……。
「燈倭……」
やっぱりトウワさん……心配になって来てくれたのかな。
彼も村の妖狐たちに、今はっきりと姿を見られてしまっているけど、大丈夫なのだろうか。
うっ……またお腹がズキっとする。
心なしか胃もムカムカするような……。
「ん? 志帆殿、どうした?」
「実はお腹が痛くて……」
トウワさんは何か変なものでも食べたのか? と聞いてくるが、そこの店のお団子しか食べていないことを伝えると、あれはもち米で作ってあって、人間でも普通に食べれるやつだと教えてくれた。
じゃあ、やっぱりこの腹痛は別の理由のようだ。
「燈倭、とりあえずこのままだと志帆の体に障る。できれば場所を変えたい。話したいことがあるから、戻ったら俺の階層まで来てくれ。入口で少し待ってもらうことになるとは思うが」
「おう、わかったぜ」
トウワさんの返事にシンラは黙って頷き、二人は姿を消して空を飛んだ。
私の姿も今は見えなくなっているようで、村の妖狐たちは皆あさっての方向を見渡しながら、二人の名前をしきりに呼んでいた。
◇ ◇ ◇
私はシンラに抱き抱えられた状態で寝室まで戻ると、すぐに体を降ろしてもらった。
お腹の痛みには波があって、今はちょっと平気である。
私はその場でシンラにお礼を言って、腰につけたままだったファーの尻尾を外し、買った鞄と一緒に横の棚に置いた。
次いで湯屋のところの洗面所に行き、メイクを落とす。
来ていた着物は盗賊に転ばされ汚れてしまったので、サノメがすでに用意してくれていた浴衣に着替えた。
部屋に戻るため廊下を歩いていたら、またお腹が痛み出したため、たまらず床にしゃがみこんだ。
すると、様子を見ていたシンラがすぐにやってきて、ベッドまで連れてきてくれる。
「シンラ、何度もありがとう……」
「いや」
私が準備を終えるまで、入口の方で待っていてくれていたトウワさん。
彼を呼び寄せたシンラは、寝室の床に胡座をかいて座った。
どうやら今日は客間ではなく、ここでトウワさんと話しをするつもりみたいだ。
私にも聞かせるためだろうか。
「んで? どうしたんだよ。志帆殿は妖狐に擬態して村を堪能してたんじゃないんか? なんであんな騒ぎに?」
「あ? あぁ、そっちはね……」
「トウワさん、実は私が村で盗賊に遭ってしまって、あそこで妖狐の髪の毛を外されてしまったの……」
「あぁ、それで神羅が出でこずにはいられなかったのか」
「まぁ、そういうこと」
それは別に良いんだけど、とシンラが付け加えたあと、それよりももっと大きな問題ができたと、深刻な顔でトウワさんに告げた。
「燈倭……志帆も聞いてくれ……腹痛の原因は、志帆が新しい神を身籠っていたからだ……さっき腹に触ったら、七神以外の狐神エネルギーを強く感じた」
「へ?」
「は?」
私とトウワさんは同時に驚きの声をあげた。
え……嘘でしょう?
まさかシンラの子を妊娠?
もしかしてこの痛みや吐き気は……妊娠の初期症状なの……!
「はぁ?! なんだ、そりゃ……人は神の子を身籠らないんじゃなかったのかよ?!」
「前例がないだけで、身籠らないとは決まっていない。なぁ……燈倭は、志帆の中にいるのが、本当に俺たちの子だと思うか?」
「普通に思うが? お前ら、たぶんそれなりにヤリまくってただろう?」
(ト、トウワさん……そんな大声で……)
シンラはそういう事じゃないんだと真剣な顔で言った。
「普通に妊娠ではなく、次の狐神が生まれるためのただの器にされている可能性もある。それに、成長が早く莫大なエネルギーを持つ狐神なんか産んだら、志帆の体はどうなる? 妖狐とは体の造りが全然違うんだぞ? まだ胎仔が大きくない今のうちに、俺がこの手で消すべきではないかと考えているんだが……」
そんな……そんな……。
でも、もしもシンラと私の子どもだったら?
まだ何も分からないうちに消してしまってもいいの?
急に色々と怖い話ばかり聞かされて、不安ばかりが募る。
私は一体どうしたらいいのだろう。
「神羅、らしくねぇな。ちょっと落ち着けよ……まぁ、確かに心配だが、そこはじじぃ供に相談した方がいいんじゃねぇか? それにまだお前らの子じゃないって決まったわけじゃねぇんだぞ? 前例がないってお前もさっき言ってた通り、神と人間の異類婚でもたまたま体の波長が合っちまったとかあんだろ?」
「そうだとしても……志帆の命には代えられない。それに年寄りどもには相談できない。なぁ、燈倭、なぜこの村にはいつも八神が揃うと思う? このY山が八つに分かれている山だからだ。だから、欠けた分は絶対にあとで補充される。お告げがあって他所の狐神がやってくる場合もあるが、今は妖狐から生まれる方が多い。その方が都合が良い理由があるんだ」
Y山が八つの山に分かれているから、ここの神の数も八?
ここの狐神が八神であることは、何か意味があるんだろうなとは思っていたけども……。
「都合が良い理由ってのはなんだよ?」
「この前消えた最古の狐神に、俺の力が他の狐神より規格外な原因は、俺を産んだ妖狐の能力が異常なほど高かったからだと、過去に聞かされたことがある」
「産んだ妖狐の力が左右されるなんて初めて聞いたぜ」
シンラのお母さんはとても能力の高い妖狐さんだったんだね。
でも、同じ狐神のトウワさんですら知らないなんて……他の狐神も把握していないのだろうか。
「もし、次に生まれてくる狐神が、俺の力を受け継いだ神だったら? しかも事実上は人間とのハーフだ」
「その神の力は計り知れねぇ……さらに言えば、人間との縁がまたできる……もしかして、それが狙いか? それだと最古の狐神が消えたタイミングも怪しいぞ」
「……そういうこと。今回の嫁取りも、結界の入口が消えたことも、どうにも踊らされているような気がしてならない」
人間との縁……。
私が新しい神を産んで育てれば、私たち嫁の生死を問わず、この子の力で人間側の世界も守ることが可能ということだろうか。
それならば、この子が生きている限りは天変地異も防げる?
しかも生贄や誘拐のような形で狐神が嫁を娶ることもなくなる……。
それって……。
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