当たり前の幸せを

紅蓮の焔

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二章 無意味の象徴

115話 『道』

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 金色の風が童女のか弱い骨を断つ

「ぁ、ぐっ──!」

 たらたらと、血が、こけて無くなってしまった彼女の膝から下から溢れてきている。しかし、彼女は──アオイは、それでも立ち止まれない
 狂気にも似た執念で立ち上がり、執拗に襲い掛かってくる童女に、ろーざは飽き飽きとしていた

 向かってくる度に、足を切り、手首を切り、腕を切り、肩を、膝を、腿を。それでも彼女は立ち上がり──現在は起き上がり、胸焼けしそうなほど執拗い炎をその瞳に宿して、彼女は何度も何度も襲いかかって来る

「──かえで、たま……」

「ここまで来ると、アンタの事を少しは評価しようかどうか、迷うじゃない。しないけど。──それよりも、そこの木陰に隠れてる人、出て来てよ。どうせこの子の仲間なんでしょ?」

 少し離れた位置にある木陰に威圧的な言葉を投げかけると、その人物はあっさりと出て来て、ろーざは少し様子を伺うように目を細めた

「おう? バレちまったかい」

「あれだけ殺気を滾らせてたら、嫌でも分かるわよ」

 少し怒りを含有した言葉で伝えるが、木陰から出て来た男はへらへらと眉根を下げて、眉尻を引き上げながらいたずらっぽく笑って返してくる

「すまんすまん。強そうなやつを観て、ちっと疼いただけだぜ」

「気持ち悪い」

 心の奥底からの本音が漏れてしまい、だがしかし、気づいた時にはもう出てしまった後で、収集がつかなくなってしまった。そこで、今一度様子を伺う事に決めた。今度はもう少し慎重に。けれど、素早く

「そうかい? ならすまんなぁ。謝るぜ」

 思いの外軽くいなした男にホッとする反面、怪訝が生じて仕方がなかった。それをこれから確認しようと、少し身構えて言葉を選び、だがしっかりと求める答えに直結させる質問を投げかける

「この子を助けないの?」

「オレはそいつを助けろって命令されたわけじゃねぇからなぁ。それに、たぶんだけどよ、俺の回収を頼まれたんだと思うぜ。俺はな」

「ふーん。で?」

「つまりだな、お前と戦うのは楽しそうだが、やめとくぜ。今は」

 少なくとも数分は殺気を振り撒いていたにも関わらず、のほほんと笑って見せる男の真意が見出だせず、けれど、戦闘意識が無い事を確認できたろーざは足下のアオイを指さしてニコッと笑いを振り撒いた

「なら、この子も連れて行ってくれる? 邪魔なのよ」

「おうおう、どーせ、そこのオカマは見てるだけだろうからよ」

 しかし、この言葉に反応したろーざはその笑顔を瞬時に破顔させ、崩れた笑顔の奥には怒号にも似た逆鱗に触れられた龍のような形相を浮かべるろーざがいた

「誰がオカマよ。私はちゃんとした女性よ……?」

 ただそれでも、まだ辛うじて怒鳴り暴れる事を抑えられているのは、自分一人の事だからだ

「お前じゃねえよ。……とまあ、与太話もここまでにしとこうぜ。な? オレはそいつを連れて帰る。お前も帰れるなら帰れ。じゃあな」

 そう言いながらとぼとぼと歩いて来て、四肢の無くなったアオイをまるで荷物か何かのように担ぐと、そのままろーざに「じゃあな」と背を向けて歩き去って行った
 ──担ぐ反対側の手に、童女が無くした四肢を持って。それを、男が見えなくなった後に気がついたろーざは固唾を飲んでヒヤリとした汗を掻いた

「……私が負けるはずない。こんな力を手に入れて……。──今は、あの子を……。約束は、破りたくない。──お兄ちゃん……ちゃんと、守ってるから」

 呟いた口の端に、涙が伝う

 金色に光っていた髪もゆっくりと萎れるように空中を漂うのをやめた

「……あの子が遠くに行くまで凌いだ。名前はたしか──ナツメ? だったかしら……。でも、なんか引っ掛かるのよね……。──でも今はこれくらいしかないものね。……行こう、メィリル」

「ええ、分かった。そうしましょ、ろーざ」

 ──今この場には一人しかいない。ろーざのみ。それでも、声は二種類、その場に響き渡る。その異様な光景を目にする者は、この場にはいなかった

 歩き始める。たった一人。まだいつ終わるとも知れぬ捜索を続けて──……

 ※※※

「えっ? それじゃあ……」

「はい。今、ここから帰る事が可能です」

 さくらが、レイの疑問を先読みして言葉を繋げた

 レイは今、上着を脱いでナナセにかけて血にまみれた、腹部に猫が描かれた白いシャツが表に出ている。ちなみに、レイはコーイチに木を背もたれに座らされ、話を聞いていた
 泣き疲れて眠っているナツメも、レイの肩に頭を預けて座っている。ナナセもレイの隣で寝息を立てている。先程のように『竜』に成る気配は無い

「驚いただろ」

「え、っと……うん。でも、どうやって『竜』を……?」

「そりゃあな、アレだ。オレの才能が開花したぞ的な展開だろーが。少年マンガみたいな。覚醒っつーやつだな。うん」

「分かんないよ、それじゃあ……」

「ったく……オレもよく分かんねーんだよ。とにかく、なんか、オレが力を込めて殴ったらこういう力が使えなくなるっつーわけらしい」

「すごいね……。それがあれば──って思ったけど、ムリそうだね」

「剣崎くんの言おうとしている事はなんとなく分かります。魔力を持った者全員を殴っていけば消えるのではないのか、という事ですよね?」

 レイが頷くと、さくらは「ええ、確かに」と前置きしてから「──それはできません。魔力の才能があるか無いかは完全に先天的なものなので。あと、数が多過ぎる事も理由の一つです」とコーイチの隣に座る。少し離れた所でバドルドと話しているナツミ以外、ここで円を作って会話している

「──さて、話を戻しますが」とレイに微笑みを見せた「今、帰りますか?」

「ボクは、帰るよ。今すぐにでも。──レイカちゃんを、待たせてるから」

「分かりました。……でも、その血などを洗ってからの方が良いかもしれませんね」

「……そう、ですね、心配させたくないですし」

 ──二人が会話している間に、ナツミは、バドルドと共に消えていた
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