当たり前の幸せを

紅蓮の焔

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三章 炎は時に激しく、時に儚く、時に普遍して燃える

129話 『自慢も疑問もかき消して』

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 ──トランプ。

 それは、最も頭を使うテーブルゲームで多用されるカード達のことだ。

 全五二枚のカードを使うゲーム、その中でも今、この盤上で最も熱を博しているのは『ブラックジャック』だ。

 ブラックジャックとは、最初にゲームマスター──通称GMが各プレイヤーにそれぞれ二枚ずつカードを配り、その後、勝負に出るか、更に手札を追加するかを決められる。
 最終的に、その手札の数字の和が二一以下で尚且つ、その数に最も近い数を有する者が勝者となる。ただし、記号で書かれたカードは基本的に十の扱いとなり、また、『A』だけは例外として十一としても、十でも良いことになっている。

 ──レイカは今、瞳孔を細めて固唾を呑んだ。

 自分の手持ちは、七のハートと九のダイヤ。それを一心不乱に見詰めながら数秒間、息を止めていた。そしてその数秒間が終わると、ゆっくりと右手を挙げ、しかしやはり、躊躇うように右手が頭の上下を何度か彷徨った挙句の果てに──レイカは自信を喪失した手を挙げた。

「はい、レイカちゃん」

 GM担当のネネが新たなカードを一枚、裏を向けてテーブルの上を滑らせるようにしてレイカに配る。
 一度、深呼吸をする。そして右手でそのカードを手に取って顔の前へ──、

「やったー! 二一! きたきたきたぁぁっ! 絶対に負けないもんねー! にゃふふー……!」

「あー……。ボクは二十だったよ……。残念」

「意外と僅差だった!」

「あはは……案外、難しい言葉知ってるね」

「これがネットの力だよ、レイくん!」

 レイカは胸を張ったが、その後に「案外」と言われたことに気づいて息を呑んだ。
 その隙にレイはカードをネネに渡したが、レイカの詰問からは逃れられず、腹部に抱きつかれてしまった。しかしあまり強い力で抱きついているわけでもなく、「もー! レイくん酷い!」と言いながら顔を擦りつけてくるレイカに、苦笑しながら「ごめん」と返すことしかできなかった。

 それを何か思案げに眺めるネネは、レイカがカードを持ったままレイに抱きついているので既に折られてしまったカードを、テーブルの角の向こうにチラチラと見えて「レーイーカーちゃーんー……ッッッ!」と眼光鋭く立ち上がった。
 それを見上げ、レイカはえ、え、ときょろきょろ辺りを素早く見回した後、レイの腰の向こうで自分の手に収まっているそれを見つけて、渇いた笑みを浮かべる。

「……ま、まあまあ、落ち着こうよ、ネネさん。か、可愛い美貌が、台無しだよ?」

「レイカちゃんこそ、もうちょっと物を大事にする習慣をつけなさーいッッ!!」

「に、にぎゃあああああああああああああ──ッッッ!!」

「うぐっ!? い、いたた、痛いよ……!?」

 涙を溜めながら叫ぶレイカ、そのレイカの腕にしがみつかれてこれまた痛みに目を細め、口を縛るレイ、そしてそのレイカをひっぺがそうと腿を掴んで引っ張るネネ、三人はそれぞれ、あらゆる意味で叫んでいた。
 恐怖と痛みと怒りと。

 既に食事は終えた後だ。食事中もレイカの自慢話のリサイタルがスタートし、ネネは死んだ目で相槌を打つのみに終えたのだが、レイはその場に居合わせて知っているのにも関わらずまともに対応していた。それも最初の数回までの話だが。

 十何回、何十回、五十を超えた辺りでレイはその話に栓をするように話題を別のことに、例えばゲームや学校での出来事に変えてもやはり、最終的にはレイカの自慢話に戻ってしまったので、最後にはネネが提案したこの、トランプゲームをすると言うことで落ち着いた。
 なので、トランプはネネが自室から持って来た物なのだが──……、

「敢えて言わせてもらうけれど、レイカちゃん! あなたはもっとちゃんと物を大切にしなさい! さもないとゲームを禁止にするわよ!」

 結局、レイからひっぺがされたレイカはフローリングの床に正座させられていた。
 正座した膝に少しべたつくフローリングを気にしていると、ネネが腰に手を当てて顔を寄せてきて、レイカはハッと我に返ってべたつく足など気にせずに立ち上がり、身を引いて体を守りながら指を指す。

「そ、それは卑怯だ! 抗議しますネネさんっ!」

 指した指をぶんぶん上下に振り回すが、その手首をいとも容易く片手で掴まれ、もう片手の人差し指で鼻先をぴんっ、と弾かれて「うにゃっ」と後ろに倒れそうになったがしかし、ネネがその手首を引き寄せてそれを阻止した。
 レイカの後ろでは、レイが椅子に座ってその光景を傍観している。

「抗議は受け付けません! でも、こちょこちょを受けるのならっ、──今回は許してあげますっ!」

「な、なんという事を……」

 絶望に打ちひしがれて膝から崩れ落ちる矢先、レイカはぴょこっ、と顔を上げてきょろきょろと部屋中を見回した。いない。振り返ると、レイがそこにいる。そのまま前を向くとネネの足が。そして今ここに崩れているレイカ。──一人いない。

「あれ? コウくんは?」

 レイカの疑問に、ネネが少し沈黙した後、息を呑んで目を丸くする。
 レイはネネの対応を伺うように目を向けている。
 それからネネは「あー」と面倒くさそうに、何かを探すようにして部屋を見回した。目的の物があったようで、それへと目を向けながら「あっ、そう言えば……」と切り出した。

「まだ帰って来てないわね……ちょっと電話してみるわ。流石にもうすぐ八時だし……あっ、電話してるから、今の内にレイカちゃん達はお風呂に入って来て」

「はーい。……って、えっ? 一緒に?」

 レイカが驚きに瞳孔を震わせていると、ネネは少し固まった後で腹を抱えて蹲るように上体を前に倒して笑った。

「もー、そんなわけないでしょー? 別々に決まってるじゃなーい」

「だ、だよねー! びっくりしたなぁーもうっ!」

 どぎまぎした笑顔で誤魔化そうとしているが、紅く染まりに染まった頬は隠し切れず、それでも熱くなっていく顔を隠すために「入って来るー!」と大きな声で宣言しながら走って行った。
 ──体を折ったまま、腹を抱えたまま、ネネは無表情でレイを伺うように目だけをぎょろりと動かしたまま固まっている。

「ほら、レイカちゃん早く入って来てね」

「はーいっ」

 レイカのことなど伺う気すら無い様子で、ネネはずっと動かない。
 レイカが脱衣所へと入って行くのを、レイは見送ると、今度はネネに視線を向けそうになり、すぐにレイカが脱衣所から出て来て再びそちらへと視線を向けた。

「ネネさーん、タオルどこー?」

 開いたドアから体を半分だけ出して首を傾げるレイカに、上体を起こして振り返るとネネはいつも通りの面倒くさそうな笑みを浮かべて見せ、「はいはい、着替えと一緒に置いとくから」と手で犬を追い払うような真似をして「早く入りなさい」と無言で訴えている。

「じゃーこのまま入って来るー! レイくん! おっさきー!」

 ぴしんっ、と敬礼のように片手を額に当てて眉尻をきりりと引き上げると、速攻で脱衣所へとその体を吸い寄せるように入って行き、大きくばたんっ、と音を立ててドアを閉めた。

「それじゃあボクは、部屋で勉強をして来ます」

「うん、分かったわ。行ってらっしゃい」

 リビングから出て、階段を上っていくレイを見送ると、ネネは安堵の溜め息を吐く。

「……ひやひやした」

 小さく、誰もいないリビングで呟いた。
 家具だけが、その台詞に耳を傾けて黙りこくっていた。

 その日は、もう何事もなく過ぎていき、夜が更けていった。





[あとがき]
 三章書き終わりました! 作者ですっ!
 この作品で、今の所一番ギクシャクしてそうな三章ですが、あと十万字くらいで終わります。意外と字数が多かった。予想では十万字行くか行かないかくらいだったのに……。軽く十五万字は行っている……。やはり予想の倍くらいに……。
 内容スカスカですが、楽しんで頂ければ幸いです。もうしばらく作者の妄想と理想とにお付き合いください。……あと、伏線って、張るの難しいですね。このせいで書き切れなかった描写が幾つかあるんです。それは、これからの課題として考えていきます。

 さて、一週間更新も今日で最終回。明日からは一日更新とまでは行かないけれど、三日更新くらいのペースで進めます。一日更新は、流石にまた追いつかなくなる気がしてならないので。

 ほんと、昔はなんであんなに早く更新できたのかいまいち分かりません。一日二回更新とか、ほんとにすごい……。それも頻繁にやってましたしね。

 色々言いましたが、三章、後味と言うか、歯切りが悪いんですよね。やっぱり。
 問題は山のようにあるから、それを一つ一つ解決していかないと。
 そんなこんなでてんやわんやしてますが、投稿初期よりもストーリーも技法も上手くなると信じて執筆していきます。
 長くなりましたが、次回は九月十一日です。

 それでは、また次回。
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