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四章 進む道の先に映るもの
211話 『可能性があるのなら』
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──ふわり、と。
自由の効く体が、縛りから解放されたばかりの体が、驚いたように力が入らなかった。
前に倒れ、四つん這いになったレイは、その姿勢のまま辺りを見渡す。
戻って来れた。
たったそれだけの事なのに、状況は何一つ変わっていないのに、レイにはとても嬉しく思えた。だが、それは正面に立った人物を見て、警戒心へと移り変わる。
「…………」
「気分はどうですか?」
「……最悪」
そっぽを向いてぼそりと言ったレイに、カエデは苦笑する。レイの前にしゃがんで、目の高さをできるだけ合わせたものの、少しばかりカエデの方が目線は高い。
「そう言わないでくださいよ。私も危なかったんですから」
「……あんな事、やめてよ」
少し冗談めかしたように話すカエデに、顔をしかめて頼んだレイは、ぱちくりと完全に的を外した態度を取るカエデに奥歯を強く噛み締める。
「あんな事……。──? あ、この街の事ですか?」
「それ以外に、何があるって言うんだよ……!」
怒りを内包した、静かな叫びにカエデは目を閉じ、思いを馳せるように静かな声音で返す。それはどこか寂しげな憂いを帯びていて、レイは頬を引き攣らせる。
「……これは、勇者に課した、試練のようなものなのです」
「……は?」
「知っていますか? この世界が今、どうなっているのか」
「なんでそんな話になるんだ……! ぼくは、この街を壊すのをやめろって……!」
「──続けますね」
一つのため息の後、カエデは、目の前の相手から浴びせられる罵詈雑言を無視して、その続きを、この世界の現状を説明し始める。
「この世界は、とある存在によってあらゆる生物の『可能性』と言う力を無理やり捻じ曲げられて、一つの方向に向くようになるよう、力が働いています。私は、私達は、その元々の可能性の力を全ての生物に還すため、こうして奔走しているのです」
「可能性なんて、誰でも持っているじゃないか……! そんな屁理屈、聞きたくもない!」
「……なら、その可能性が何者かに操られていないと、証明できますか?」
「…………」
「できませんよね? ──だから、その存在の影響を受けていない、元々の可能性の力を宿した『勇者』と呼ばれる人の力が必要なのです。それは、どれだけ絶望的な状況からでも、自分の願うものに限り無く近い未来を作り出せる力。その力を持つ勇者の力を借りなければ、可能性すらも得られないのが私達なのです。それが、あなたです」
「……仮に」
俯いて、レイは直前の内容を咀嚼しながら、ぽつぽつと罵詈雑言ではなくそれに対する答えを返す。それはまるで、諭された子供が、叱られたように縮こまったようだった。
「仮に、ぼくにその力があるとして、どうしてぼくが、そんな事をしなくちゃいけないんだ……。ぼくは、ただ、皆一緒に、仲良く暮らしたいだけなのに! 皆で笑って、遊んで、ご飯を食べて、お風呂に入って、眠って、朝起きて顔を合わせる! それだけで良い! なんで、どうして、そんな事もさせてくれないんだ……。ぼくから大事なものばかり奪っていくんだ……! ふざけないでよ! 大概にしろ! あの時、あの場所にお前が呼び出したせいで、あの子達は親を亡くして、ぼくも……」
まるで体に絡みつくように、あの時の血が、自分の手にべっとりと付いている気がして。あの時に手に掛けた人達が、自分を呪うかのように全身に纏わりついてくるような心地さえして。
「──レイくん」
「……っ」
かけられた声に気付いた時、見つめていた床に、雫が落ちた。
ぽた、ぽた、と。雨が降り始めたように、止み始めたように。
「……ミズキ、さん?」
顔は上げず、ただただ床を見続けて、言葉だけを返した。
「はいです。レイくんを大切に想っている、ミズキです」
「……なに」
「帰ったら、一緒にレイカちゃんにイタズラしてやろうです」
「……ぇ」
「そのためにも、今だけ、今だけは、この人達と協力しないですか? 可能性だとか、『勇者』だとかの難しい話は置いておいて、帰るために、協力する。そうしないですか?」
「…………」
「帰ったら、きっとレイくんも驚かされるですよ。楽しい事や嬉しい事、いっぱいいっぱいで。だから、そのために、この状況と、戦わないですか?」
それは、酷く簡単な事だった。
そんな力があるのなら、自分のために使えと、そういう事だった。
今までそうして来たように、これからもそうすれはいいじゃないかと。例え壮大な話を聞かされても何も変わらないと。つまりはそういう事だった。
──自分のために、戦わないですか?
「──ぁ」
思えばこれまで、誰かのために戦っていた。
初めてここに来たのは、ナツミのため。次にここに来たのも、皆を守るためで。何一つ、自分のために戦ってはいなかった。その事に気づき、不思議と笑いが溢れた。
「は、はは……はははは……」
「レイくん?」
「そ、だよね……。うん、うん。決めたよ、ミズキさん。──ミズキちゃん」
ぺたん、と。
その場に座り込んで、レイは正面にしゃがんでいたカエデに見つけた答えを告げる。
「ぼくも、レイカちゃんにイタズラしたくなっちゃった」
そう、涙を一筋流して、楽しげな笑みを浮かべたのだった。
※※※
ひとまず、この状況を打開するべく、彼女の『勇者』としての協力を申し出たレイは、どこまでも続いていそうな白く無機質な通路を歩かされていた。
「そう言えばレイくん」
「なあに、ミズキちゃん」
「懐かしいですけれど、なんだかむず痒いですね……。その呼び方……。あ、いえ、話が逸れたです。その、レイくんの髪、白いですね。と、言うか、白くなったですよね?」
「ふぇっ? そ、そうかな……? わっ、ほんとだ……」
自分の髪を摘んで見てみたレイは驚きに眉を上げた。
それは白く、絹か何かのようにさえ見えた。
「どうしてだろ……」
声にしてはみたものの、その答えが得られる訳でもなく、レイは髪から手を離して前を向く。前には、先を歩くカエデの背中が見えた。
「でも、見た目が変わったからって中身も変わるわけじゃないでしょ?」
「うーん……。でも、ちょっと心配です」
「あっ、それなら帰ったらカツラ着けようかな。それならどう?」
「見た目の問題じゃないんです……」
苦笑いして、ミズキは正面、立ち止まったカエデを見る。それに釣られ、レイも正面へと視線を移動させた。そこでは、腰に片手を当ててレイをジッと見つめているカエデがいる、
「……『勇者』でも、そんなふうにおしゃべりするんですね」
「勇者かどうかは知らないけど……うん、するよ」
「英雄色を好むとも言いますしね」
「え、それって……ちょっとミズキちゃん!? ポって顔赤くしないで!?」
「えー、彼女なんですからいいじゃないですかぁー」
「そうだけど……でも、彼女って言うより、今のぼくからしたらどっちかって言うと……その、『お姉ちゃん』の方が近い感じだし……」
「彼氏だった時のレイくんもカッコよかったですよ」
「恥ずかしいから言わないでよぉ……」
俯いて、顔を赤くしてそんな事を言ったレイは、俯いたまま、泣いているような、焦っているような、そんな笑みを浮かべていた。
顔を上げないレイを不審に思ったミズキは「レイくん?」と声を掛けたものの、それにはあっさりと顔を上げて楽しげな顔で首を横に振った。
「なんでもないよ! ほら行こ。もしかしたら、これから起きる事を止められるかもしれないんだから! ──そうしたら、街の皆を助けられて、レイカちゃんの所に帰れる……」
きゅっ、と。
自分の左胸を締め付けるように鷲掴みにし、レイは決意を固める言葉を口にする。
「きっとまた、一緒に……」
その時は、その時までは、笑顔でいたいと、そう願うから。
だからこの戦いは、負けられない。負けたくない。
「私も、レイくんといつまでも一緒にいたいです。離れたくないですよ、もう……」
「うん。そのためにも、この街を、どうにかしよう」
そう決意を告げたレイは、立ち止まったカエデに追いついた。
「ここです」
指し示された部屋の中には、巨大な、ホログラム映像のようなモニターが、空中に大々的に浮かび上がっていて、その周りを幾つもの同じような小さいモニターが浮かんでいた。
「これが、『有馬家』と呼ばれるこの世界の管理者達の、魔王軍から奪い去った技術。通称、『失われた古代技術』です」
「ロス……え? なに?」
「ロスト、エンシェント。今この世界では、『有馬家』以外では恐らく再現できないであろう技術の事です。──大昔、魔王と呼ばれていた者が世界を支配していた際に作り出した技術だそうです」
「魔王って……」
苦笑しながら、レイは部屋の全容を見渡す。
──ここは、前回、ナツミ達を見つけた場所。前回、最期にいた場所。
中央奥、そこには筒状に高く立つ足場があった。それに巻き付くように螺旋状の階段があるのも、前回見た時と変わらない。──ふと、前回とは違う点に、レイは疑問を瞬きで再確認した。
「そう言えば、あの無駄に広い玄関? の部屋? って、何か仕掛けがあったりするの? それともただ無駄に広いだけ?」
「今となっては無意味ですしね。はい。仕掛け、ありますよ」
話を聞くと、『二点を繋ぐ道具』を使い、ある地点とある地点とを繋ぐ扉を設置できるのだそうだった。それを繋ぐためには、扉からある程度──十メートル程度は離れていなくてはならないのだが、それより近くに出口を作ると、まるで道が閉ざされたように繋がらなくなるのだと言う。
あの時、一箇所だけ繋がったのはそういう事だったんだ……。
あの後、どうなったのかを確認できていないろおざの安否を、歯がゆく感じながら、もう過ぎた事だと、振り切るように首を横に振ったレイは、改めて部屋を見渡した。
「──主様」
「ッ!?」
それは、まるで影から這い出てきたかのように、そこにいつの間にか膝をついていた。
カエデはぱちくりと瞬きしながら「どうしたんです」と尋ねる。
「あの少年が、孵化したばかりの不死鳥と共に逃げ出しました」
「──っ!」
「不死、鳥……」
聞き覚えのあるフレーズに、レイの耳がぴくりと反応する。
「現在、我々が総がかりで足止めしていますが……どうしましょう?」
「度会の名前で油断しましたか……」
苦虫を噛み潰したような顔で呟いたカエデは、一つ、息を吐いて表情を消した。
「彼と不死鳥を捕らえてください。──それと、あなたは彼について調べてきてください」
「了解しました」
鋭く目を細めてカエデを見つめるレイに気付いたミズキが、耳打ちしに側に来た。しかし、それとほぼ同時にカエデがレイの方に振り向いて「では、本題に入りましょう」と笑顔を向けてきたのだった。
「私達は、とあるものを目覚めさせようとしています」
話しながら歩き始めたカエデに、少し遅れてついて行く。
響く靴音が、嫌に鼓膜に響いた。
「地震も、それの副産物でしかありません。──ただ、こうしてあなたが来てくれた事で、『勇者』が誰か判別がついたので後はそれが正しいのか再確認する目的でしか、私には用はありませんが」
螺旋階段を上って、上にたどり着いたレイは、その中心にパネルのような台座が置かれている事に気が付いた。カエデはそれに近づいていき、一つ、何かボタンを押す。
「なので、私はアレを止めません。情報は提供しますが、それをするのはあなたです。──もし私の推測が正しければ、あなたがこの街を救いたいと願うのなら、救えるはずですよ」
そう告げて、カエデはにこりと愛想の良い笑みを向けてきた。
その笑みに、ミズキは良い顔をしなかったが、カエデは続ける。
「では、知りたい事をなんなりと。知っている限り、お教えしましょう」
※※※
数分前、レイが目覚めた少し後。
「アレが……」
一人の少女が、ビルの谷間を抜けて、吹いてきた風に片目をつむって呟くようにこぼした。そんな少女の前に立つ、黒い衣服に身を包んだ青年は「ええ」と一言だけ返すと、そこにある建物を、レイ達がいる屋敷を見据えて頷く。
「あそこが、『有馬家』の屋敷です」
その言葉を聞き、少女──ナツミの顔が、きゅっと強張った。
[あとがき]
五章の話の流れは纏まったよ。
でも四章まだ終わってない……なんでだ。
月末連続更新8月1日までね。よろしく。
自由の効く体が、縛りから解放されたばかりの体が、驚いたように力が入らなかった。
前に倒れ、四つん這いになったレイは、その姿勢のまま辺りを見渡す。
戻って来れた。
たったそれだけの事なのに、状況は何一つ変わっていないのに、レイにはとても嬉しく思えた。だが、それは正面に立った人物を見て、警戒心へと移り変わる。
「…………」
「気分はどうですか?」
「……最悪」
そっぽを向いてぼそりと言ったレイに、カエデは苦笑する。レイの前にしゃがんで、目の高さをできるだけ合わせたものの、少しばかりカエデの方が目線は高い。
「そう言わないでくださいよ。私も危なかったんですから」
「……あんな事、やめてよ」
少し冗談めかしたように話すカエデに、顔をしかめて頼んだレイは、ぱちくりと完全に的を外した態度を取るカエデに奥歯を強く噛み締める。
「あんな事……。──? あ、この街の事ですか?」
「それ以外に、何があるって言うんだよ……!」
怒りを内包した、静かな叫びにカエデは目を閉じ、思いを馳せるように静かな声音で返す。それはどこか寂しげな憂いを帯びていて、レイは頬を引き攣らせる。
「……これは、勇者に課した、試練のようなものなのです」
「……は?」
「知っていますか? この世界が今、どうなっているのか」
「なんでそんな話になるんだ……! ぼくは、この街を壊すのをやめろって……!」
「──続けますね」
一つのため息の後、カエデは、目の前の相手から浴びせられる罵詈雑言を無視して、その続きを、この世界の現状を説明し始める。
「この世界は、とある存在によってあらゆる生物の『可能性』と言う力を無理やり捻じ曲げられて、一つの方向に向くようになるよう、力が働いています。私は、私達は、その元々の可能性の力を全ての生物に還すため、こうして奔走しているのです」
「可能性なんて、誰でも持っているじゃないか……! そんな屁理屈、聞きたくもない!」
「……なら、その可能性が何者かに操られていないと、証明できますか?」
「…………」
「できませんよね? ──だから、その存在の影響を受けていない、元々の可能性の力を宿した『勇者』と呼ばれる人の力が必要なのです。それは、どれだけ絶望的な状況からでも、自分の願うものに限り無く近い未来を作り出せる力。その力を持つ勇者の力を借りなければ、可能性すらも得られないのが私達なのです。それが、あなたです」
「……仮に」
俯いて、レイは直前の内容を咀嚼しながら、ぽつぽつと罵詈雑言ではなくそれに対する答えを返す。それはまるで、諭された子供が、叱られたように縮こまったようだった。
「仮に、ぼくにその力があるとして、どうしてぼくが、そんな事をしなくちゃいけないんだ……。ぼくは、ただ、皆一緒に、仲良く暮らしたいだけなのに! 皆で笑って、遊んで、ご飯を食べて、お風呂に入って、眠って、朝起きて顔を合わせる! それだけで良い! なんで、どうして、そんな事もさせてくれないんだ……。ぼくから大事なものばかり奪っていくんだ……! ふざけないでよ! 大概にしろ! あの時、あの場所にお前が呼び出したせいで、あの子達は親を亡くして、ぼくも……」
まるで体に絡みつくように、あの時の血が、自分の手にべっとりと付いている気がして。あの時に手に掛けた人達が、自分を呪うかのように全身に纏わりついてくるような心地さえして。
「──レイくん」
「……っ」
かけられた声に気付いた時、見つめていた床に、雫が落ちた。
ぽた、ぽた、と。雨が降り始めたように、止み始めたように。
「……ミズキ、さん?」
顔は上げず、ただただ床を見続けて、言葉だけを返した。
「はいです。レイくんを大切に想っている、ミズキです」
「……なに」
「帰ったら、一緒にレイカちゃんにイタズラしてやろうです」
「……ぇ」
「そのためにも、今だけ、今だけは、この人達と協力しないですか? 可能性だとか、『勇者』だとかの難しい話は置いておいて、帰るために、協力する。そうしないですか?」
「…………」
「帰ったら、きっとレイくんも驚かされるですよ。楽しい事や嬉しい事、いっぱいいっぱいで。だから、そのために、この状況と、戦わないですか?」
それは、酷く簡単な事だった。
そんな力があるのなら、自分のために使えと、そういう事だった。
今までそうして来たように、これからもそうすれはいいじゃないかと。例え壮大な話を聞かされても何も変わらないと。つまりはそういう事だった。
──自分のために、戦わないですか?
「──ぁ」
思えばこれまで、誰かのために戦っていた。
初めてここに来たのは、ナツミのため。次にここに来たのも、皆を守るためで。何一つ、自分のために戦ってはいなかった。その事に気づき、不思議と笑いが溢れた。
「は、はは……はははは……」
「レイくん?」
「そ、だよね……。うん、うん。決めたよ、ミズキさん。──ミズキちゃん」
ぺたん、と。
その場に座り込んで、レイは正面にしゃがんでいたカエデに見つけた答えを告げる。
「ぼくも、レイカちゃんにイタズラしたくなっちゃった」
そう、涙を一筋流して、楽しげな笑みを浮かべたのだった。
※※※
ひとまず、この状況を打開するべく、彼女の『勇者』としての協力を申し出たレイは、どこまでも続いていそうな白く無機質な通路を歩かされていた。
「そう言えばレイくん」
「なあに、ミズキちゃん」
「懐かしいですけれど、なんだかむず痒いですね……。その呼び方……。あ、いえ、話が逸れたです。その、レイくんの髪、白いですね。と、言うか、白くなったですよね?」
「ふぇっ? そ、そうかな……? わっ、ほんとだ……」
自分の髪を摘んで見てみたレイは驚きに眉を上げた。
それは白く、絹か何かのようにさえ見えた。
「どうしてだろ……」
声にしてはみたものの、その答えが得られる訳でもなく、レイは髪から手を離して前を向く。前には、先を歩くカエデの背中が見えた。
「でも、見た目が変わったからって中身も変わるわけじゃないでしょ?」
「うーん……。でも、ちょっと心配です」
「あっ、それなら帰ったらカツラ着けようかな。それならどう?」
「見た目の問題じゃないんです……」
苦笑いして、ミズキは正面、立ち止まったカエデを見る。それに釣られ、レイも正面へと視線を移動させた。そこでは、腰に片手を当ててレイをジッと見つめているカエデがいる、
「……『勇者』でも、そんなふうにおしゃべりするんですね」
「勇者かどうかは知らないけど……うん、するよ」
「英雄色を好むとも言いますしね」
「え、それって……ちょっとミズキちゃん!? ポって顔赤くしないで!?」
「えー、彼女なんですからいいじゃないですかぁー」
「そうだけど……でも、彼女って言うより、今のぼくからしたらどっちかって言うと……その、『お姉ちゃん』の方が近い感じだし……」
「彼氏だった時のレイくんもカッコよかったですよ」
「恥ずかしいから言わないでよぉ……」
俯いて、顔を赤くしてそんな事を言ったレイは、俯いたまま、泣いているような、焦っているような、そんな笑みを浮かべていた。
顔を上げないレイを不審に思ったミズキは「レイくん?」と声を掛けたものの、それにはあっさりと顔を上げて楽しげな顔で首を横に振った。
「なんでもないよ! ほら行こ。もしかしたら、これから起きる事を止められるかもしれないんだから! ──そうしたら、街の皆を助けられて、レイカちゃんの所に帰れる……」
きゅっ、と。
自分の左胸を締め付けるように鷲掴みにし、レイは決意を固める言葉を口にする。
「きっとまた、一緒に……」
その時は、その時までは、笑顔でいたいと、そう願うから。
だからこの戦いは、負けられない。負けたくない。
「私も、レイくんといつまでも一緒にいたいです。離れたくないですよ、もう……」
「うん。そのためにも、この街を、どうにかしよう」
そう決意を告げたレイは、立ち止まったカエデに追いついた。
「ここです」
指し示された部屋の中には、巨大な、ホログラム映像のようなモニターが、空中に大々的に浮かび上がっていて、その周りを幾つもの同じような小さいモニターが浮かんでいた。
「これが、『有馬家』と呼ばれるこの世界の管理者達の、魔王軍から奪い去った技術。通称、『失われた古代技術』です」
「ロス……え? なに?」
「ロスト、エンシェント。今この世界では、『有馬家』以外では恐らく再現できないであろう技術の事です。──大昔、魔王と呼ばれていた者が世界を支配していた際に作り出した技術だそうです」
「魔王って……」
苦笑しながら、レイは部屋の全容を見渡す。
──ここは、前回、ナツミ達を見つけた場所。前回、最期にいた場所。
中央奥、そこには筒状に高く立つ足場があった。それに巻き付くように螺旋状の階段があるのも、前回見た時と変わらない。──ふと、前回とは違う点に、レイは疑問を瞬きで再確認した。
「そう言えば、あの無駄に広い玄関? の部屋? って、何か仕掛けがあったりするの? それともただ無駄に広いだけ?」
「今となっては無意味ですしね。はい。仕掛け、ありますよ」
話を聞くと、『二点を繋ぐ道具』を使い、ある地点とある地点とを繋ぐ扉を設置できるのだそうだった。それを繋ぐためには、扉からある程度──十メートル程度は離れていなくてはならないのだが、それより近くに出口を作ると、まるで道が閉ざされたように繋がらなくなるのだと言う。
あの時、一箇所だけ繋がったのはそういう事だったんだ……。
あの後、どうなったのかを確認できていないろおざの安否を、歯がゆく感じながら、もう過ぎた事だと、振り切るように首を横に振ったレイは、改めて部屋を見渡した。
「──主様」
「ッ!?」
それは、まるで影から這い出てきたかのように、そこにいつの間にか膝をついていた。
カエデはぱちくりと瞬きしながら「どうしたんです」と尋ねる。
「あの少年が、孵化したばかりの不死鳥と共に逃げ出しました」
「──っ!」
「不死、鳥……」
聞き覚えのあるフレーズに、レイの耳がぴくりと反応する。
「現在、我々が総がかりで足止めしていますが……どうしましょう?」
「度会の名前で油断しましたか……」
苦虫を噛み潰したような顔で呟いたカエデは、一つ、息を吐いて表情を消した。
「彼と不死鳥を捕らえてください。──それと、あなたは彼について調べてきてください」
「了解しました」
鋭く目を細めてカエデを見つめるレイに気付いたミズキが、耳打ちしに側に来た。しかし、それとほぼ同時にカエデがレイの方に振り向いて「では、本題に入りましょう」と笑顔を向けてきたのだった。
「私達は、とあるものを目覚めさせようとしています」
話しながら歩き始めたカエデに、少し遅れてついて行く。
響く靴音が、嫌に鼓膜に響いた。
「地震も、それの副産物でしかありません。──ただ、こうしてあなたが来てくれた事で、『勇者』が誰か判別がついたので後はそれが正しいのか再確認する目的でしか、私には用はありませんが」
螺旋階段を上って、上にたどり着いたレイは、その中心にパネルのような台座が置かれている事に気が付いた。カエデはそれに近づいていき、一つ、何かボタンを押す。
「なので、私はアレを止めません。情報は提供しますが、それをするのはあなたです。──もし私の推測が正しければ、あなたがこの街を救いたいと願うのなら、救えるはずですよ」
そう告げて、カエデはにこりと愛想の良い笑みを向けてきた。
その笑みに、ミズキは良い顔をしなかったが、カエデは続ける。
「では、知りたい事をなんなりと。知っている限り、お教えしましょう」
※※※
数分前、レイが目覚めた少し後。
「アレが……」
一人の少女が、ビルの谷間を抜けて、吹いてきた風に片目をつむって呟くようにこぼした。そんな少女の前に立つ、黒い衣服に身を包んだ青年は「ええ」と一言だけ返すと、そこにある建物を、レイ達がいる屋敷を見据えて頷く。
「あそこが、『有馬家』の屋敷です」
その言葉を聞き、少女──ナツミの顔が、きゅっと強張った。
[あとがき]
五章の話の流れは纏まったよ。
でも四章まだ終わってない……なんでだ。
月末連続更新8月1日までね。よろしく。
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