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四章 進む道の先に映るもの
227話 『終わり告げる涙』
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油の跳ねる音が、ゲームの音楽に紛れて部屋中に流れる。
それと同時に漂う香ばしい匂いに、レイカの口からはじゅるりとよだれが軽く溢れていた。
時は夕刻。既に日も傾いており、早い家庭では夕飯にありついていてもおかしくはない時間帯。ゲームをしているレイカは、ちらりと左右を見た。
左に男性、右に少女。その間にまるで仕切りのように座っているのがレイカ。
二人の間に漂うのは香ばしい匂いだけではなく、どこか落ち着かない、気まずい空気も漂っていた。そしてそれをゲームで紛らわせたまま時間は過ぎていく。
「……二弥」
すると、耐えかねたのか、まず初めに二弥の父親が泣きそうな声で娘の名前を呼んだ。
びくんと背筋を伸ばし、かつてない程に慌てた様子で震え、いつの間にやら足の間に滑り込ませていた茶色い毛並みの尻尾を握り締めながら思いっ切り唾を飲み込んだ。
「にやちゃん」
呼ばれて条件反射の如き速度で振り向くと同時、レイカに両手でほっぺたを挟まれて瞳が小さくなる。ジッと見据えられ、尻尾を掴む腕に力が入る。
小さくなった瞳で見つめ返すも、返事は帰って来ない。
そのまましばらくの時間が流れた。
肉の焼ける良い匂いが部屋中に漂い、ゲームの音が最後まで流れて二周目に入る頃、カチンと高い音が誰もが黙り込んでいた部屋中に響き渡る。
「……お、ねえ、ちゃん……?」
しびれを切らした二弥は震える声で、レイカに問いかける。
「どっ……どう、したの……?」
「ヘーキだよ。安心して」
ふっ、と。絞られて小さくなっていたその黒い瞳が元に戻る。
震えが少しだけ治まり、肩の力が抜けた二弥の手にはもう、力は籠もっていない。
「にやちゃんも、お父さんも、二人とも嫌い同士になった訳じゃないんだから」
レイカが笑って見せると、二弥も、こわごわとだが、けれど確信した顔で、決意を示した目で、こくんと頷いて返した。
ほっぺたから手を離したレイカは「さてっ!」とソファから立ち上がり、くるりと振り返って二人を交互に見て、にっこりと笑う。
「にやちゃんも、お父さんも、仲直りして! 私? トイレ!」
にゃっふっふ~、とスキップしながらリビングを出て行くその背中を目で追いかけた二弥は、その後ろ姿が見えなくなると、ソファに再び座り込んだ。
「……二弥」
「は、い……」
目が咄嗟に父親へと向き、その瞳を見た父は泣きそうな顔で息を吸い込んだ。それは、彼女にまるで、怪物を見るような目で見られていたからだ。
その目を見て、これまで自分達が彼女に対して何をしてきたのか。それを改めて知って悔いるも、もう遅い。やってしまった後では、いくら後悔しようが相手にしてしまった事は変わらないから。
「……すまなかった」
「……うん」
俯いた二弥の姿に、父は眉をひそめて目尻を少し引き上げ、目を細める。
爬虫類のような瞳が細められるその傍ら、二弥は俯いて、黙り込んでしまっている。
「私はお前にただ、真っ当に、清く正しく、生きていってほしかった。ただ、それだけだったんだ……。お父さんもお母さんも二人揃って、今まで、すまなかった……!」
涙が溢れた。それは自らの行いへの後悔と、娘を思いやっていると過信していた自分への憎しみと、娘にしてやれた事をしてこなかった事に対しての怒り。
そして同時に、これまで傷ついてきた娘の姿を想像した、悲しみが入り混じり、滝のような涙を流していた。爬虫類のような、思考の読み取りにくいその顔は、果たして一目で分かる泣きっ面をしていた。
両手で目を隠し、包み、涙を止めようとしても叶わない。ダムが決壊したかのような洪水が、彼の顔をびっしょりと濡らし続けていた。
とん、と。
背中を叩かれる感覚に顔を上げる。隣を見れば、そこには優しく微笑む二弥の顔があった。どこか妙に落ち着いて見える二弥の瞳は、薄く赤らんでいる。
しかし、
「泣か、ないで……? オトーサン……」
「二弥ぁぁぁ……!」
そんな些細な変化には気づく余裕すら無く、彼は力強く二弥を抱き締めた。
延々と謝り続ける彼のその背中を擦りながら、二弥は慈愛のようなものを浮かべた微笑みで自らの父親を見つめ、それから、そっと目を閉じた。
※※※
「にゃふぅ……。すっきりスッキリ……」
スッキリしたお腹を撫でながら満足した顔でリビングに戻ったレイカは、食卓に並ぶ新顔を見てぱちくりと目を瞬かせる。
そこには二人の親子がいた。二弥はまだ緊張した面持ちで、父親の隣に座っている。また父親の方も緊張している様子で固まって動かない。
目元が少し腫れているのは数分前の泣き声が原因か。
「レイカちゃん、早く来て来て。ご飯、皆で食べましょ」
にっこりと深い笑みを浮かべたネネの、その優しそうな笑顔にゾッと背筋を走った悪寒に身震いして両腕を抱える。きょとんとするネネに対し、警戒心を顕に身構えたレイカは低く唸り声を上げた。
「なんかその笑い方ヘンだよネネさん!」
「え? そう?」
「いや怖い! 怒ってる時と同じ笑い方! 今回なんにもしてないよ私!?」
「いや怒ってないんだけど……。え何? 私そんなにヘンな顔してた?」
自分の顔を捏ねながらネネは首を傾ける。
「──て、そんな事よりも早く席着いちゃいなさい!」
「はーい」
二弥の対面に座ると、二弥はレイカににっこりと笑いかけた。レイカが椅子に座ったのを見届けてから、二弥は耳を立たせて髪の間に隠していたそれを顕にする。
「ありがとう、おねーちゃん」
「にゃふふ~。どーいたしましてっ!」
にかっと白い歯を見せて笑ったレイカは、乾いた音を立ててその手を合わせる。
破裂音にも似た合掌に、他の三人も手を合わせる。それを見届けてから、レイカは元気いっぱいの声で高らかに叫んだ。
「いっただっきまーすっ!」
その声に合わせて三人が声を合わせて目の前の食べ物達に感謝の言葉を述べる。
久々に楽しく食事ができると、レイカは満面の笑みで今日リクエストした『生姜焼き』をぺろりと平らげて鼻唄を歌う。
「まだ食べ始めて十秒経ってないわよ!?」
「ふぉいひー……」
「んー……まあ、美味しく食べてくれるんならいいけど……。喉に詰まらせないようにね?」
「ふぁーい」
「仲良いですね」
「え?」
話しかけられたネネはきょとんと目を瞬かせて二弥の父親の方を向いた。
彼は温かい表情で二人を眺めていた。
「……まあ、愛着、かな? もありますしね」
「愛着、ですか?」
「ええ──」
隣に座っているレイカの頭に手を乗せて、ネネはにこりと笑う。ご飯を口に含みながら片眉を上げて、ネネを見たレイカは小首を傾げた。
「嫌いなわけじゃないけど、好きにもなり切れない。どちらかと言えば好き、かな? くらいでちょうどいい距離だと私は思ってますから」
「私はネネさん好きだよ! なんか親戚のおばさんみたい!」
ご飯を飲み込んだレイカの発言にネネは鋭く睨みつけて黙らせる。その上頬まで引っ張るものだから、レイカは軽く涙を目に浮かべた。
「……ほんと、一言余計よ」
「ごめんらひゃい……」
「ふふっ……。ほんと、仲が良いんですね」
彼は料理を口に運んで、感慨に耽るように目を閉じ、そんなことを言った。
瞬間、カラン、と金属同士をぶつけ合わせたような音が鳴る。正確には陶器と金属を打ち合わせた音だった。その音を聞きながら、俯いたネネの顔を見る者は誰一人いない。
ネネ以外の三人は卓上にうつ伏せ、倒れていた。
「……ほんと、私って嫌な女」
シンと静まり返ったリビングで、ガタリと椅子を引いて立ち上がるネネ。
倒れ伏す三人を見下ろして、どこか陰鬱なため息を吐いた後に携帯電話で電話を掛ける。そこに表示されたのは『社長』の文字のみ。プルルルルル、と発信音が十秒ほど流れた後に通話。声は掛からない。
「薬を盛りました」
静まり返ったリビングで、その声はよく耳に響いた。
『今回は少し特殊でね。彼女と、精霊王を一緒に運んでくれ』
「精霊、王……?」
『ああ、そこで眠っている娘の方だよ。彼女は、『器』だ』
息を詰めて、ネネは携帯を持っているのとは反対の手を固く握り締めた。
「……了解、しました」
悔しげに言葉にしたそれを聞き届けた後、携帯電話の通話は切られ、ツー、ツー、と無機質な音だけが部屋の中に虚しく木霊した。
聞こえてくる電子音にただただ無力感を押し付けられた気がして、きつく歯噛みした。
「精霊王……はは……マンガみたい……」
口から溢したそれを忘れるかのようにレイカの頭を優しく撫でて、そっと微笑む。その顔はまさに家族そのものであり、滲む愛の温かさが、そのまま涙となってその頭に落ちる。
「……ほんと、ヤになっちゃう」
泣き腫らしながら、食事に一切手を付けず、ネネはリビングから立ち去った。
※※※
────。
暗闇の中、曖昧な意識の下で漂い続けていた。
自分と言う概念はあまりに儚く、脆く、消えやすい。
いとも簡単に塗り潰された自我に覆い被さるは大いなる闇。人々の悪夢、憎悪、嫉妬、苦痛──そう言った負の感情達。それらにその身を奪われて、意識は刈り取られ、挙げ句、飲み込まれ取り込まれた。
果たして、彼女の行く末は途絶え、その道も閉ざされた。押し寄せる絶望ももう無く、あるのは目の前に広がる『死』と言う名の暗黒のみ。
たった一つ、その『運命』を変えられた要因は、彼女が『勇者』だからか、はたまた、光と熱を帯び始めた首飾りの恩恵か。
やがて彼女の体が、白き光に包まれる。
辺りに纏わりついていた暗黒は引き千切れ、焼き切られていった。
しかし、しつこくその体に執着する『暗黒』は手を伸ばし掴み取るが、そのたびに手を焼き切られ、灰となり消えていく。
その白い光は温かく少女の体を包み込んだ後、その暗闇が少女に触れないように守り始めた。近づく魔手は焼け焦げ灰となり、少女を包む光の奔流に焼き切られていった。
短かった白い髪がたちまち伸びて長くしなり、大人になりつつあったその顔体は縮み始め、少女の体が小さく仰け反る。
うっすらと寂しげに開かれたその瞳には小さな涙が滲み、ぽつりと少女は呟いた。
「ぁ、れ……。……何も、思い出せない……」
[あとがき]
四章、なんとか終わったァァァ──ッ!
全七章の予定なので、まだ続きますけどね?
レイくんが『暗黒』に飲まれちゃったので、主人公チェンジはしますが。
所々、プロットから外れたりはしましたが、ほとんど既定路線です。
字数は……ちょっと予想外でしたが。
四章の話はここまでにして、次は五章の話しましょう。
設定的には、この件から三年後の世界です。
世界は雪と氷に包まれてます。なぜって?プライドちゃんとか言う、ヤベー奴が出てきて色々してくれちゃったせいです。この作品で、上から五番目までに入るくらい強いですから。
一番強いのは、レイカちゃんか、是枝さくらさんのお父さん(まだ未出)のどちらかですね。まだ力比べしてないので、どちらか分かりゃしませんが。はい。え、レイくん?あの子は上から十番目くらいです。ぶっちゃけると、二弥ちゃんよりも弱いです。
ちなみに、二弥ちゃんはこの作品で三番目くらいに強いです。ほんとに。
話が逸れましたが、とにかく五章は『色が変わる』と思います。
前々から言ってるように、たぶん、ディストピア系に入ると思います。
あと、五章はこれまでで一番短くなるかも。
五章までは、少し時間が欲しいので、二週間で一話更新で、短編を二つ出します。
読まなくても良いです。
説明不足あったかなあ、と思った所を補足するために作りました。
なので、五章は11月までお待ち下さい。
次回は十月十四日!まだまだ続くよ!それじゃあまたね!
それと同時に漂う香ばしい匂いに、レイカの口からはじゅるりとよだれが軽く溢れていた。
時は夕刻。既に日も傾いており、早い家庭では夕飯にありついていてもおかしくはない時間帯。ゲームをしているレイカは、ちらりと左右を見た。
左に男性、右に少女。その間にまるで仕切りのように座っているのがレイカ。
二人の間に漂うのは香ばしい匂いだけではなく、どこか落ち着かない、気まずい空気も漂っていた。そしてそれをゲームで紛らわせたまま時間は過ぎていく。
「……二弥」
すると、耐えかねたのか、まず初めに二弥の父親が泣きそうな声で娘の名前を呼んだ。
びくんと背筋を伸ばし、かつてない程に慌てた様子で震え、いつの間にやら足の間に滑り込ませていた茶色い毛並みの尻尾を握り締めながら思いっ切り唾を飲み込んだ。
「にやちゃん」
呼ばれて条件反射の如き速度で振り向くと同時、レイカに両手でほっぺたを挟まれて瞳が小さくなる。ジッと見据えられ、尻尾を掴む腕に力が入る。
小さくなった瞳で見つめ返すも、返事は帰って来ない。
そのまましばらくの時間が流れた。
肉の焼ける良い匂いが部屋中に漂い、ゲームの音が最後まで流れて二周目に入る頃、カチンと高い音が誰もが黙り込んでいた部屋中に響き渡る。
「……お、ねえ、ちゃん……?」
しびれを切らした二弥は震える声で、レイカに問いかける。
「どっ……どう、したの……?」
「ヘーキだよ。安心して」
ふっ、と。絞られて小さくなっていたその黒い瞳が元に戻る。
震えが少しだけ治まり、肩の力が抜けた二弥の手にはもう、力は籠もっていない。
「にやちゃんも、お父さんも、二人とも嫌い同士になった訳じゃないんだから」
レイカが笑って見せると、二弥も、こわごわとだが、けれど確信した顔で、決意を示した目で、こくんと頷いて返した。
ほっぺたから手を離したレイカは「さてっ!」とソファから立ち上がり、くるりと振り返って二人を交互に見て、にっこりと笑う。
「にやちゃんも、お父さんも、仲直りして! 私? トイレ!」
にゃっふっふ~、とスキップしながらリビングを出て行くその背中を目で追いかけた二弥は、その後ろ姿が見えなくなると、ソファに再び座り込んだ。
「……二弥」
「は、い……」
目が咄嗟に父親へと向き、その瞳を見た父は泣きそうな顔で息を吸い込んだ。それは、彼女にまるで、怪物を見るような目で見られていたからだ。
その目を見て、これまで自分達が彼女に対して何をしてきたのか。それを改めて知って悔いるも、もう遅い。やってしまった後では、いくら後悔しようが相手にしてしまった事は変わらないから。
「……すまなかった」
「……うん」
俯いた二弥の姿に、父は眉をひそめて目尻を少し引き上げ、目を細める。
爬虫類のような瞳が細められるその傍ら、二弥は俯いて、黙り込んでしまっている。
「私はお前にただ、真っ当に、清く正しく、生きていってほしかった。ただ、それだけだったんだ……。お父さんもお母さんも二人揃って、今まで、すまなかった……!」
涙が溢れた。それは自らの行いへの後悔と、娘を思いやっていると過信していた自分への憎しみと、娘にしてやれた事をしてこなかった事に対しての怒り。
そして同時に、これまで傷ついてきた娘の姿を想像した、悲しみが入り混じり、滝のような涙を流していた。爬虫類のような、思考の読み取りにくいその顔は、果たして一目で分かる泣きっ面をしていた。
両手で目を隠し、包み、涙を止めようとしても叶わない。ダムが決壊したかのような洪水が、彼の顔をびっしょりと濡らし続けていた。
とん、と。
背中を叩かれる感覚に顔を上げる。隣を見れば、そこには優しく微笑む二弥の顔があった。どこか妙に落ち着いて見える二弥の瞳は、薄く赤らんでいる。
しかし、
「泣か、ないで……? オトーサン……」
「二弥ぁぁぁ……!」
そんな些細な変化には気づく余裕すら無く、彼は力強く二弥を抱き締めた。
延々と謝り続ける彼のその背中を擦りながら、二弥は慈愛のようなものを浮かべた微笑みで自らの父親を見つめ、それから、そっと目を閉じた。
※※※
「にゃふぅ……。すっきりスッキリ……」
スッキリしたお腹を撫でながら満足した顔でリビングに戻ったレイカは、食卓に並ぶ新顔を見てぱちくりと目を瞬かせる。
そこには二人の親子がいた。二弥はまだ緊張した面持ちで、父親の隣に座っている。また父親の方も緊張している様子で固まって動かない。
目元が少し腫れているのは数分前の泣き声が原因か。
「レイカちゃん、早く来て来て。ご飯、皆で食べましょ」
にっこりと深い笑みを浮かべたネネの、その優しそうな笑顔にゾッと背筋を走った悪寒に身震いして両腕を抱える。きょとんとするネネに対し、警戒心を顕に身構えたレイカは低く唸り声を上げた。
「なんかその笑い方ヘンだよネネさん!」
「え? そう?」
「いや怖い! 怒ってる時と同じ笑い方! 今回なんにもしてないよ私!?」
「いや怒ってないんだけど……。え何? 私そんなにヘンな顔してた?」
自分の顔を捏ねながらネネは首を傾ける。
「──て、そんな事よりも早く席着いちゃいなさい!」
「はーい」
二弥の対面に座ると、二弥はレイカににっこりと笑いかけた。レイカが椅子に座ったのを見届けてから、二弥は耳を立たせて髪の間に隠していたそれを顕にする。
「ありがとう、おねーちゃん」
「にゃふふ~。どーいたしましてっ!」
にかっと白い歯を見せて笑ったレイカは、乾いた音を立ててその手を合わせる。
破裂音にも似た合掌に、他の三人も手を合わせる。それを見届けてから、レイカは元気いっぱいの声で高らかに叫んだ。
「いっただっきまーすっ!」
その声に合わせて三人が声を合わせて目の前の食べ物達に感謝の言葉を述べる。
久々に楽しく食事ができると、レイカは満面の笑みで今日リクエストした『生姜焼き』をぺろりと平らげて鼻唄を歌う。
「まだ食べ始めて十秒経ってないわよ!?」
「ふぉいひー……」
「んー……まあ、美味しく食べてくれるんならいいけど……。喉に詰まらせないようにね?」
「ふぁーい」
「仲良いですね」
「え?」
話しかけられたネネはきょとんと目を瞬かせて二弥の父親の方を向いた。
彼は温かい表情で二人を眺めていた。
「……まあ、愛着、かな? もありますしね」
「愛着、ですか?」
「ええ──」
隣に座っているレイカの頭に手を乗せて、ネネはにこりと笑う。ご飯を口に含みながら片眉を上げて、ネネを見たレイカは小首を傾げた。
「嫌いなわけじゃないけど、好きにもなり切れない。どちらかと言えば好き、かな? くらいでちょうどいい距離だと私は思ってますから」
「私はネネさん好きだよ! なんか親戚のおばさんみたい!」
ご飯を飲み込んだレイカの発言にネネは鋭く睨みつけて黙らせる。その上頬まで引っ張るものだから、レイカは軽く涙を目に浮かべた。
「……ほんと、一言余計よ」
「ごめんらひゃい……」
「ふふっ……。ほんと、仲が良いんですね」
彼は料理を口に運んで、感慨に耽るように目を閉じ、そんなことを言った。
瞬間、カラン、と金属同士をぶつけ合わせたような音が鳴る。正確には陶器と金属を打ち合わせた音だった。その音を聞きながら、俯いたネネの顔を見る者は誰一人いない。
ネネ以外の三人は卓上にうつ伏せ、倒れていた。
「……ほんと、私って嫌な女」
シンと静まり返ったリビングで、ガタリと椅子を引いて立ち上がるネネ。
倒れ伏す三人を見下ろして、どこか陰鬱なため息を吐いた後に携帯電話で電話を掛ける。そこに表示されたのは『社長』の文字のみ。プルルルルル、と発信音が十秒ほど流れた後に通話。声は掛からない。
「薬を盛りました」
静まり返ったリビングで、その声はよく耳に響いた。
『今回は少し特殊でね。彼女と、精霊王を一緒に運んでくれ』
「精霊、王……?」
『ああ、そこで眠っている娘の方だよ。彼女は、『器』だ』
息を詰めて、ネネは携帯を持っているのとは反対の手を固く握り締めた。
「……了解、しました」
悔しげに言葉にしたそれを聞き届けた後、携帯電話の通話は切られ、ツー、ツー、と無機質な音だけが部屋の中に虚しく木霊した。
聞こえてくる電子音にただただ無力感を押し付けられた気がして、きつく歯噛みした。
「精霊王……はは……マンガみたい……」
口から溢したそれを忘れるかのようにレイカの頭を優しく撫でて、そっと微笑む。その顔はまさに家族そのものであり、滲む愛の温かさが、そのまま涙となってその頭に落ちる。
「……ほんと、ヤになっちゃう」
泣き腫らしながら、食事に一切手を付けず、ネネはリビングから立ち去った。
※※※
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暗闇の中、曖昧な意識の下で漂い続けていた。
自分と言う概念はあまりに儚く、脆く、消えやすい。
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果たして、彼女の行く末は途絶え、その道も閉ざされた。押し寄せる絶望ももう無く、あるのは目の前に広がる『死』と言う名の暗黒のみ。
たった一つ、その『運命』を変えられた要因は、彼女が『勇者』だからか、はたまた、光と熱を帯び始めた首飾りの恩恵か。
やがて彼女の体が、白き光に包まれる。
辺りに纏わりついていた暗黒は引き千切れ、焼き切られていった。
しかし、しつこくその体に執着する『暗黒』は手を伸ばし掴み取るが、そのたびに手を焼き切られ、灰となり消えていく。
その白い光は温かく少女の体を包み込んだ後、その暗闇が少女に触れないように守り始めた。近づく魔手は焼け焦げ灰となり、少女を包む光の奔流に焼き切られていった。
短かった白い髪がたちまち伸びて長くしなり、大人になりつつあったその顔体は縮み始め、少女の体が小さく仰け反る。
うっすらと寂しげに開かれたその瞳には小さな涙が滲み、ぽつりと少女は呟いた。
「ぁ、れ……。……何も、思い出せない……」
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四章、なんとか終わったァァァ──ッ!
全七章の予定なので、まだ続きますけどね?
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所々、プロットから外れたりはしましたが、ほとんど既定路線です。
字数は……ちょっと予想外でしたが。
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一番強いのは、レイカちゃんか、是枝さくらさんのお父さん(まだ未出)のどちらかですね。まだ力比べしてないので、どちらか分かりゃしませんが。はい。え、レイくん?あの子は上から十番目くらいです。ぶっちゃけると、二弥ちゃんよりも弱いです。
ちなみに、二弥ちゃんはこの作品で三番目くらいに強いです。ほんとに。
話が逸れましたが、とにかく五章は『色が変わる』と思います。
前々から言ってるように、たぶん、ディストピア系に入ると思います。
あと、五章はこれまでで一番短くなるかも。
五章までは、少し時間が欲しいので、二週間で一話更新で、短編を二つ出します。
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