当たり前の幸せを

紅蓮の焔

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二章 無意味の象徴

50話 『表情』

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「うにゃああああああああ! 重たいぃぃぃ……っ!」
「ごめんなさい、その、もう持てないから……」
「大丈夫。レイくんは悪くない! 諸悪の根源は──ネネさん! アナタだっ!」
「ははは……」

 もう赤くなり始めている道路を三人で歩いている。レイカちゃんは不満みたいだけど僕はそれ程でもなかった。少し、嬉しいくらいだ。

「レイくん、笑ってるの?」
「え? えっと……」
「お洋服買って貰ったもんね! 嬉しいに決まってるよ!」
「誰も彼もがレイカちゃんみたいじゃないの! もうっ」
「でも私は嬉しいもん! レイくんもでしょ!」
「えっ……と……はい。嬉しいです」
「それはそれで嬉しいけど……なんだか言わされた感が否めないわね……」
「い、いえっ! その、本当に、嬉しいです!」
「ふふっ……レイくん。そう言われてもね、やっぱり言わされた感は変わらないのよ」

 レイの背後でレイカが「私の勝ち!」と拳を天に掲げようとしているが両手に持った荷物が重たいようで全く上がらない

「あ、そう言えば……レイくん、最近ケンカしてないみたいね。偉いわぁ」
「ありがとうございます」
「私もあんまり心配しなくて良くて助かるわぁ……。あ、でも今の所心配と言えばレイカちゃんの成績ね……。これはもうホントに酷くて。小学校の頃なんて全ての教科で一を取った事があるのよ」
「それは……すごいですね」
「そうよ。私でも一じゃなかったわよ。二とか、三とか……」
「えっ?」
「し、仕方ないじゃない! その……遊び過ぎて……」
「ネネさんだって人の事言えないもんねー。にゃふふふ……」
「あ、あああっ! 家に着いたわよー!」と少し先を指さして走り出す
「話を逸らさないでよっ!」
「今日の夜ご飯、レイカちゃんにもとっても手伝って貰うからね! 覚悟してなさい!」

 ちょっと、今のネネさんは怖かった……。レイカちゃんの言ってた事が分かったかもしれない。
 目がギラッとして、いつもの穏やかな物腰からは想像が出来なかった……。
 笑い方もとても怖くて……いつも鍵を開けた後に見せてくれる笑顔も何か裏がありそうで物凄く怖くなった。

「早く開けてー!」
「分かってるわよ! もうっ。……あれ? お財布こっちの袋に入れた筈なのに……あれ?」
「ま、まさか……失くしたの? 鍵を……。大人なのに……」
「そんな事無いわよー? ちょっとお財布の中に入れてただけで失くしたわけじゃないわよ」
「お財布は?」
「……ええっと」ネネさんが目を泳がせている。お財布……。僕の持っている袋には……入っていないみたい。「レイカちゃんの持ってる袋にあるわよ……きっと」
「ええー…………あっ」レイカちゃんが袋の中から高そうな革製の横長の財布を取り出した。「ホントにあった」
「ほらぁ! この犯人はレイカちゃんって事で一件落着! はい鍵ちょうだい!」
「これは陰謀だぁぁぁ! ぜったいのぜったい! 私じゃないもん! レイくん!
騙されちゃダメだよ! 私は財布なんて触ってなかったもん!」
「あれぇ? じゃあ今、その手に持ってるのはなんなのかしらー?」
「っ! ちがっ! これはさっき!」
「言い訳無用よっ」そう言ってネネさんがレイカちゃんから財布を取り上げた。「レイカちゃんには沢山手伝って貰うからね! いっぱい!」
「ぇぇぇぇぇえええええ!? 私じゃないもん!」
「口答えしないの」と鍵穴に挿し込んだ鍵を回す「さあ鍵開いたわよー。入って入って」
「ぐぐぐ……グニャァァァあああああああ!!」

 レイカちゃんの背中を撫でながら宥めると荷物を持たされたけれど大人しく家の中に入ってくれた。
 ギョーザの具はネネさんが作ってくれて僕とレイカちゃんは皮で包む作業を延々と続けている。

「ぅぅぅ……つまんなーい……」
「頑張ろう、レイカちゃん。コオロギさんも喜んでくれるかもしれないよ」
「えー、コウくーん? うーん……仕方ないっ。コウくんの退院祝に頑張る! そしてゲームの相手をしてもらう……! レイくんには勝てないし」
「そうこう言ってる内にあと三個じゃない。頑張ってー」
「うにゃぁああああああああああああ……!」

 ……結局、残りの二つを僕が包んで残りの一つをレイカちゃんが包んだ。
 それをネネさんがフライパンで炒めている間、色々な事を話している。

「ねーねー、レイくんは最近面白い事あったー?」
「どうかな。たぶん、無かったと思う」
「私は……あ、レイくんの体がとっても温かかったなぁ……」
「えっ……と……」
「大丈夫大丈夫! ぬくぬくしてほわぁ……って溶けるって言うか安心する? みたいな感じがしたんだよねぇー」
「あ、ああ……そう、なの……」
「いや、別にいやらしい意味とか無いからね!?」
「そう言い訳するって事はやっぱりそう思ってる証拠じゃない?」
「違うもん! 私はただレイくんがポカポカしてたって言いたかっただけだもん!」
「あ、ありがとう。別に、気にしてないから……」
「絶対に気にしてる! ネネさんが変な事言うからー!」
「ふふふ、もうすぐ出来るわよ。あと椅子の上に立たないの。早く手を洗ってきてー」
「はーい。行こっ、レイくん」そう言ってレイカは椅子から下りてキッチンの方へと走って行く
 キッチンの方が洗面所よりも近いのだ
 その後を追うように慌てた様子で椅子を下り、「う、うん」と頷いて見せる

 気にしていないって言えば嘘になるけれど、でも、僕も同じような気分だった。
 温かくて、何かが溶けていくような……それでいてなんだか凄く安心する……。
 そんな気持ちだった。
 だから、とても嬉しかった。
 ありがとうって言いたかった。
 レイカちゃんだけじゃなくて、皆にも。

「はいっレイくん交代」
「あ、うん。ありがとう」
「……? 別に感謝しなくても良いよこんなことー」

「あははー……」と笑っているレイカちゃんに微笑んで見せて手を洗った。
 皆で作ったギョーザはとても美味しくていっぱい食べた。
 ネネさんはあまり食べていなかったけれど……何か困り事があるのかな……? 聞いてみた。だけど返事は「なんでもないわよ」とだけ言われて終わった。

「ごちそうさまでした」
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