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二章 無意味の象徴
54話 『大切』
しおりを挟む「右! おっせーなぁ! もっと速く動け!」と言いながらレイの足を払う「予測して躱して攻撃!」
「そ、そんな事言われたって……!」
なんとか見えてはきている。だけど、体が追い付かない。まるでドッジボールみたいだ。
右、拳、来る。手で払おうとしても追い付かない。肘に当たった。なんか、ジーンって来た……。それでもまだ止まない。
左、足、右、足、右、左、右──
「一旦きゅーけい!」
「や、やっと……!」
疲れた……。もう、ホントに。でも、これでも実感はある。コーイチくんに攻撃されただけで骨が折れていたのに、今は軋むかジーンってくる程度にまで大丈夫になってきた。残り四日。今日含めて五日。特訓が始まって二日目。まだ左腕の所は痛い。右足はもう痛くないけど。
「レイ、お前なぁ……もうちょっとなんかあるだろ」
「何か……って?」
「例えばこう、フェイントかけられた時とか。お前の場合そこんとこ弱い! あと普通に体つきが脆いから筋トレも込みな! 今日から!」
「ぐ、具体的には……?」
「そうだなぁ……。んー……あっ。いや、なんもない。ンー……? 具体的には? 具体的具体的……。あ、腹筋二百を三セットとかあとは反復横跳び千の五セットとか……? いや、分かんねーけど」
腹筋……六百回と……反復横跳び五千回……。なんだか……途轍もない数字が出て来た……。
「よし! 実践以外もやってみよーぜ! 例えば……あ! マラソン!」
「マラソン……?」
「持久力つけろって話だ! バーカ! ちゃんと考えろ! おーよーだよ! オーヨー!」
「お、応用……?」
「ああ! ……ぁれ? 何がオーヨーなんだよ」
「分からない」
「……よし! 続きやるぞー」
「えっ!? 休憩、昨日より短くない?」
「バーカ! バカレイ! レイバカ! もっと考えろっつったろ! もうあと四日? 五日? まあ、そんくらいしかねーんだ! それまでにオレを鍛えるつもりで居るくらいの努力はしやがれ!」
「え、ええぇ……」
「イヤならこれ止めても良いんだぞ! とっととやるぞ! 早く準備!」
「は、はいっ!」
これでも、コーイチくんなりの優しさなんだろうか。顔や掌。目立つ所に傷を残さないようにしてくれている。
だけど「遅い! オレの動きをよく見て躱せ! 避けろ! どうしても避けれない時は……考えろ!」
ッ……来た。真正面。拳が。避けれない。だから、守る……!
お腹目掛けて飛んできた拳を右の二の腕で防御したけど……、けっこう……応えるものがある……。また来た。左から。これも避けれない。
「っ……!」
「やるじゃねーか!」
やった! 初めて払えた! 払えたと言うよりは左手で防御しようとした時にたまたまコーイチくんの左手を下から叩いた形になってしまっただけだ。だからすぐに足を引っ掛けられて倒されてしまった。
「やっぱ前言撤回な。お前はぜんぜんザコい! さっきのもたまたまだろ! マグレだマグレ! さっきので何か掴めたか? ンンんー? 掴めてねーだろー? じゃあアウッッット……ッ! よし! あと一回やってから家まで全力疾走だ! 良いなッ!?」
「分かったよ……!」
こうなったら本気でいってあげるよ! ……今までのも本気じゃなかったわけじゃないんだけど……なんて言うか、少し、イラッとしてしまった。さっきの事と言い、少し言い過ぎだと思う。
「さあカモンッ! バカレイ!」
「ッ!」
………………また、ボロボロに負けてしまった。走って向かって行った瞬間に足を踏み入れる引っ掛けられてなんとか堪えたけど頭を横から殴打されて倒れてしまった。
けっこう、グワングワンしている。
「よし! 走れ! バカレイ! 言われたくなきゃオレに勝ってみろ! 話はそれからだマヌケ! ワハハハハハ!」
何も言い返せない……。物凄く悔しい……。悔しくて堪らない。走り出したい。でも体力が尽きた……。だけど、まだ朝だ。そう。朝だ。
起きた時、誰かに見られているような不快感を覚えて目を覚ました。そして、コーイチくん? と思って一階に下りて玄関から外を見るとコーイチくんが立っていた。
呼ばれて、ネネさんに言い残して着替えてコーイチくんと一緒にまた特訓場と化している神社を使ってずっと組手をしていた。それも体感で二時間くらい……。今はまだ六時くらいだと思う。
「おらおら、立てよ。立ってとっとと走って戻れ!」
「いづっ……!」
身体が熱くて、寒い。ドクドクと波打っているのが分かる。分かると言うか……血管が浮き出ているし、その血管がピクピク動いている。血管が動くなんて初めて見た気がする。
「ったく、ホント体力ねーのな」
「ごめんなさい……」
「はあ……ったく……今日の放課後もやるからな!」
「えっ……!?」
「当たり前だろ? あと、よく食ってよく寝ろよ。よく食えばその分強くなれるしよく寝ないと体力持たねーぞ。特にお前は」
「分かった……」
「うっし。今日は歩いて良いから帰れ!」
「ありがとう」
「気にすんな」
少し、照れている……? っぽい。照れなくても良いのに。だけど、本当に感謝している。何から何まで……コーイチくんは面倒見がとても良いと思う。僕は……自己中で、自分勝手な人だから、そんな人に憧れてしまう。……戻ろう。
「じゃあ、またね。コーイチくん」
「おうっ。じゃーな」
手を振って神社を出て行く。早い人はもう学校に行こうとしている。部活かな……? 体中が痛いけれど……あまり目立っていないと思う。頑張って普通を装っている。ウソを吐いている事になるけれど……だけど……周りの人に迷惑をかけちゃいけない……と思うんだ。
ごめんなさい。
……家に着いた。朝刊が届いていたから一応それを取って帰宅する。
「あ、レイくん、お帰りなさい。遅かったわね」
「はい。その……少し、色々と教えてもらっていたので……」
「んー……それなら、良いんだけどね。本当なら良いんだけどねっ」
こう言われると……罪悪感に来るものがある……。本当の事を言ってしまおうか……でもそれだとネネさん達が危なく……なる……。
「本当ならねっ!」
「す、すみま……せん……。本当は……その……えっと………………体を……鍛えて、ました……」
「体を?」
「えっと……はい……」
「うーん……。男の子の考える事ってやっぱり良く分からないなぁ……、コウくんも昔、体を鍛えてたって言うし……そういうのが好きなのかしら。男の子って」
「あ、あはははは……」
「はあ……それでも、体は大切にね?」
「はい。分かっています」
「それじゃあ朝ごはんにしましょう。手を洗って来てね。良ければレイカちゃんも起こして来てくれると嬉しいな」
「分かりました」
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