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62話 みんなで円陣組むぞ!

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 こうして、大霊廟に戻ったことで、思い切って準備に力を入れることにした訳だ。巫女服はメイド服作成チームで製作。小物はアケノ爺さんsが作ってくれる。人数分なので大仕事だと思ったが、ホバー装備などの付与魔法陣とかつける必要が無いので思っていたより早く済むそうだ。いや、ホバーってひよこのミニメイド服だっけ、何、あのメイド服を量産化する気か?
 そんな中、時間的な余裕が生まれた事で、それに並行して作戦を円滑に進める補助装備の提案があると、グリセンティとノボリトが執務室に来た。

「無線機?」
「はい。離れたところと円滑な情報交換が可能になれば作戦展開が容易になります」

 グリセンティの提案は一考の価値があるものの、いろいろと解決しなければならない課題がある。

「でも、電源はどうすりゃいい? 大霊廟の電気製品は基本的に電気で動くぞ。雷魔法じゃ動かないからな。複数の発電機が必要だし、まず無線機も数が揃わないだろう?」
「それに関してはノボリトから説明します」

 二人揃って来たって事はすでに解決済みか。ホント、俺の仕事って、彼女たちの有能っぷりに驚く事じゃなかろうか? 後はトラブルを持ち込む事かな?

「無線機ですが、まずM113に搭載された無線機が有ります。これはゴーレム化したことで、搭載された発電ユニットを動かせば電源を取れます。あと、諸処のリスクを減らす為、車両を統一すれば良いのです! 大霊廟にあるM113A1なら数が揃えられますし、本部の指揮車両はM577が使えるのです。これは形は違いますがM113の派生型だとベイカー様から伺いました。これで203高地全域をカバー出来ます!」

 M577か、部隊の指揮を取るために改造された車体だ。あれを基点に搭載無線機で相互連絡が取れれば今回の作戦が容易に進む。つか、車載の発電ユニット見つけたんかい! それがあれば大霊廟のご家庭ゲーム機とTVが使えないか!?

 小躍りしかけた俺をノボリトの言葉が打ち砕く。え、電源規格が米軍と日本じゃ違うの? マジ? とほほ。

「それでは作業を続けますね!」
「義雄様の許可も出たし、チャチャっとやっちゃいましょう!」

 俺の許可を得て作業エリアに向かって駆け出す二人。この子たちに任せておけば、いずれ大霊廟のアーティファクトの全てを使いこなせるようになるのは時間の問題のような気がする。とりあえずこれ終わったら日本製の発電機見つけてもらおう。イケネ、目前の危機的状況よりそっちの方が気になってしょうがないぞ。

 ああ、そういえば俺の仕事がもう一つあった。彼女たちの提案を承認する、いや、やらかした事を追認する事だな。俺が責任は取らされるという訳だ。それって、勇者の仕事? なのかな? 違くね?まあ理想の管理職ではあるかもな。

 ささっと準備を進めようぜ!



 大慰霊祭に向け、突貫作業で神楽舞特訓のため騎士団の練兵場を借りてレッスンに励むメイドさん達。徹夜でナカノの考えた振り付けと音楽は俺のイメージにピッタリのものだ。さすが腐ってもエルフ。うん、貴腐人だし。

 で瞬く間に10日が過ぎた。
 準備万端、綿密な作戦計画、周到な準備の上で、俺たちは大慰霊祭メインステージに集結しているのだ。
しかしまあ、巫女さんが四十八人揃うと壮観だよなあ。もう、なんかの仇討ちか、アイドルグループもかくやというか、戦闘力なら吉良上野介討ち取れるし、可愛さとパフォーマンスなら、紅白狙えるわ。

「いけるかナカノ?」

 今回の音曲プロデューサーの表情は硬い。いや、いつになく本気なのだろう。ナカノの目の下のクマがそれを物語っている。

「短い期間でしたが、全力投入しました。正直、拙い部分もありますが必ず観客のハートを鷲掴みしてご覧にいれます」

 いや、成仏させような。間違ってもリピーターとかいらんからな。

「私達のテクで」とヴィラール。
「昇天させる」とペロサ。

 おい双子! なにげにエロ発言してんじゃないよ!

 まあ、意気込みはわかるよ。この10日間、装備の準備の合間をぬっての地獄のレッスン。目を瞑ればまぶたに浮かぶーー



「ハイそこ!! ワンテンポ遅れてる!」
「ハイ! コーチ!!」
「そこでターン!」
「ああっ!!」

 足元がふらつき転倒する巫女メイドさん。

「倒れてるヒマはなくってよ! さあ、立ちなさい!」

 ナカノさん、なんすか、その小芝居は?

「お、お姉さま……も、もう立てません……」
「バカ!! あなたの夢はそんなものなの? 諦めたらそこで試合終了よ!」
「コーチィ!!」
「さあ、共に巫女メイドの星を目指すのです!」
「ハイ!」

 なんだこれ? あ、サイガ? これって……あの、何してんすかねサイガさん?

「よ~し! 神楽鈴千本素振り始め~!!」
「ハイッ!!」

 いや、なんだそれ? 素振り? 千本?

「音色が揃わなかったら一からやり直しだよ~!」
「ハイ! 教官!!」

 なにげにスパルタ? あ、エイブル! これはいったい……ちょっと聞くけど、その歩き方、つか足さばきは何ですかね?

「これは禹歩うほです」
「ウホッ?」
「違います。陰陽道における退魔の歩法です。現在、メイド隊全員がこの歩法を習得中です」
「そ、そんなの教えたっけ?」
「グリモワールに記載がありましたので、採用しました」

 ……そうですか。ガンバッテクダサーイ。……んん?

「なあ、エイブルさんや」
「なんでしょう義雄様?」
「この常軌を逸した……いや、積極的な特訓はわかるんだが(わかろうと努力するけどさ)」
「はい?」
「あの、みんなが腰に付けたロープで引っ張っているのはナニかな?」
「ああ、コンダラですね」
「ええっと、ナニそれ?」

 なんか、見覚えのあるものがみんなの腰に結わえられたロープの先で引きずられているんですよ。

「昔、某国に召喚された勇者の方が作られたとされるアーティファクトです」

 ほう、この黒くて太いゴム製の輪っかがねえ……なんじゃそりゃあ!? どう見てもタイヤだろ! 熱血スポ根漫画御用達の!

「ルイスゥ!! 解析ぃ!!」
「は、はい!」

 君ら絶対騙されてるぞ! それ、昔のスポ根アニメのオープニングを勘違いしたネタ話だからな!

「コンダラですね、技能習得にプラス補正が付きます」

 ま、マジですか……

「コレを装備することで某国の騎士団の練度が飛躍的に上がったそうです」

 コンダラを引きずり、フラフラになりながらレッスンを続ける双子が目に入る。

「重い……」とヴィラール。
「コンダラ……」とペロサ。

 ダメだぞ。それ以上は色々。しかし、どこからあれだけの数のタイヤ、いや、コンダラを調達……あ!

 同刻。大霊廟。

「なんじゃあこりゃあああああぁぁ!?」

 ベイカーの血を吐くような叫びが大霊廟に響き渡る。

「ぼ、ぼくのぉ……きじゅうがあ!?」

 大霊廟に保管されていた非装甲車輌群ーーキューベルワーゲン、ウィリスジープ、ハーフトラック等々の車輌群。その全てがタイヤを抜かれ、屍の如く無残な姿を晒されていた。

※コンダラは特訓終了後、スタッフにより元に戻しました。



 一体、うちのメイドさんはどこに向かっているのだろう……

「義雄様? どうかされましたか?」
「いや、ちょっと回想を……」

 と、とにかく! みんな頑張ったのだ。それは必ず報われる!

「よし。気を取り直して、みんなで円陣組むぞ!」
「円陣ーー知ってます!  集団戦闘でそれをやると潜在ステータスが解放されると言う……」とナカノ。
「違います。友情パワーです!」とサイガ。
「べんどらべんどら」とヴィラール。
「すぺーすぴーぷる」とペロサ。
「違ーう!! あと、双子は何を呼び出す気だ? いいか、今からやる円陣はお前たちの力を目覚めさせる為に必要なことだ。じゃあ隣と手をつなげ」

 俺の言ってる事もそこそこ胡散臭いが、コレ大事だからね。全員が手を繋いで結構大きな円が出来たところで次のステップに進もう。

「まずは、右手からアーティファクトに魔力を流し込むように少しずつ魔力を放出してみろ」
「はい」

 見た目での変化はよくわからないが、本人達には感じるものがあるのだろう、みんなの表情はすこし驚いているように見える。

「どうだ、何か感じるか?」
「えっ? あ、これは!? 流れのような ものが感じられます」
「やな感じはしないねえ」
「それは君たちの魔力が同質のものだと言う事だ。忌み子と言われている者の魔力は同質の魔力を有する。そして、ここからが本番だ。ひよこ、エイブルの背中に手を当ててみな」
「うん!」
「どうだ? 」
「あったかい! ポカポカするよー!」

 焚き火にでもあたってるかのようにほんわかした顔になるひよこ。

「チクチクとか、いやな感じはするか?」
「んーん! きもちいいよ~」
「じゃあ今度はひよこが魔力を送ってみな。ゆっくり、少しずつだぞ」
「は~い。こう?」
「エイブル、どうだ?」
「ひよこちゃんと同じです。背中が暖かくて気持ち良いです」
「あ……!」
「これ……」

 やがて、繋がれた手を通して皆が何かを感じ取る。
 
 抵抗なくひよこの魔力を受け入れられたのはやはりみんなの魔力はひよこの魔力と同質なのだろう。これで準備は整った。あとは本番だ。

「よーし、本番だ。エイブルメイド隊! ファイッおー!!」
「おー!!」×ALL


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