奇跡の星

かず

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第一部 ライアス編

北へ

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バジリスクを倒したリナは泣いていた。目の前で殺された父と母の仇を討てた!コイツを倒すために相当な修行をしたに違いない。

ライアス、マリア、クラウドの三人はリナを見守っていた。声を失っていたリナからは声は出なくても叫びながら泣きじゃくる様子を感じる事が出来た。

マリアがリナに近寄りそっと抱きしめた。
リナもマリアに抱きつき泣き続けた…。

いつの間にか辺りから魔族の気配は消えていた。

「それじゃあ村に帰るとするかねぇ~」

「そうですね。もうバジリスクの脅威が無くなった事を皆に教えてあげないと。」

「それにリナのお父さんとお母さんのお墓にも報告しないとね。」

「……………………。」コクっとうなずいた。そのリナの表情は戦いとは違い、とても可愛い女の子の顔であった。

四人は村に向かって歩み出した。

一方、フォメルダル地方にて。

「ジギグラス将軍に続いてバジリスク将軍も討たれたというのか!?」

「はい、将軍直属の兵達も壊滅したとの事です。」

「場所からするとエルド王国か。確か姫将軍が相当な手練れと聞いていたな…その女が殺ったのか?」

「いえ、報告によれば勇者が現れたと…。」

「勇者だと!!人間どもめ!あくまでも魔族に抵抗するというのか!」

「いかが致しましょうか?魔王様にご報告を…」

「要らぬわ!人間の勇者程度で偉大なる魔王様のお耳に入れるまでもないわ!」

「申し上げます!ロラーク城を陥落させました。国王や兵士を皆殺しにしました。逃げ遅れた人間どもはどうしますか?」

「男は殺せ!女はゴブリンどもにくれてやれ!子供は奴隷として神殿に送るがよい!」

「ハハー、カシコマリマシタ!」

「それで、勇者の方は如何致しましょうか?」

「エルド王国から北に向かったという事は…聖林寺に向かうつもりか。」

「聖林寺は、かつて奇跡の勇者が建てたとされ勇者が残した装備や技が今も伝えられているとか…。」

「そうなれば厄介ですぞ!」

「慌てるな!宰相殿の命令を忘れたのか?今回は主力を総動員して狙うは…マルクト王国だ!!」

「人間共の中でやはり厄介なのは、あの魔法大国だ!いずれ各方面からも軍団が集結するであろう。だが、その前にマルクト王国周辺の城や村を全滅させる!行くぞー!!」

ライアス達がバジリスクを倒し村で感謝の宴を行っている間にも世界の情勢は変わろうとしていた。

まだ小さい光ではあるが、確実に魔族達はライアス達を意識し始めた。それは、これからの苛酷な旅の始まりに過ぎなかった。

その頃、ライアス達はトーラの村に戻りバジリスク退治の報告を村長にしていた。

村長はリナが両親の仇を討てた事、何よりも無事に戻って来てくれたのを涙を流し喜んでいた。

そして村の人達もリナの帰還とリナの悲しみと苦しみの元凶を倒したライアス、マリア、クラウドを豪華な料理と酒と歌や踊りで精一杯もてなした。

さすが人間とエルフが共存している村であって独自に融合した料理や振る舞いは絶品であった!

「この酒は旨いねぇ~」クラウドはほろ酔いで上機嫌だ。

一方でマリアは普段と違い酒豪であった…。
どんなお酒を持って来ても美味しそうに酔う事もなく楽しんでいた。

一方のクラウドはそろそろ限界が近いようだ…。

リナは何やら村長と二人で話しているようだ。

ライアスは村人達からの手厚いもてなしを受けている。どうやら朝まで逃げられそうにない。

宴が終わり、ライアス達が目覚めたのは昼も過ぎた頃だった。疲れもあったのだろうが、はしゃぎ過ぎたか…。ライアスは反省をした。隣ではクラウドが二日酔いでうなされながら寝ていた。

外に出るとマリアは既に起きていたようでライアスに気付くと側にやって来た。

「おはようライアス、良く休めた?」

「おはようマリア。……ご覧の通りたっぷり寝ていたよ。」ライアスは苦笑いをした。

その様子を見てマリアはニコニコ笑う。
「ライアスはいつも頑張り過ぎだからね。休めたのなら良かった。あっ村長様からお話があって皆揃ったら村長様のお部屋に来てほしいみたい。大事な話があるからって。」

「そうなんだ。じゃあクラウドが起きたら行ってみよう。まだ当分起きないかな…。僕も酔い覚めに少し散歩してくるよ。」

「あ、だったら私も一緒に行くわ。」

全員揃ったのは夕方になってしまった。

「いや~面目無いねぇ~。つい飲み過ぎてしまったよ、それにしてもマリア嬢ちゃんは強いねぇ~あんなに飲んでも平気だから驚いたねぇ~。」

「え?私、昨日はそんなに飲んでないわよ。村のお祭りではもっと強いお酒を倍以上飲むもの。」

クラウドは目をぱちくりさせてライアスを見た。

ライアスは無言で静かにうなずいた。

「皆様楽しんでもらえた様で何よりです。心からバジリスク退治とリナについて御礼申し上げます。」村長のエルフは深々と頭を下げる。それに合わせて周りの人達も頭を下げた。

「さて、皆様に伝えなければいけない事があるのです。」と神妙な顔つきで村長は話し始めた。

このトーラの村から北へ向かうにはいくつもの山々を越えなければならないが、その途中に掛けられている橋が焼け落ちていたことだ。そうなると聖林寺に行くのに大きく迂回しなければならず、山越えはかなり難しい。次のルートとなるとマルクト王国の領内に入る必要があり、そこから北へ目指す事になるのであった。

「仕方ないねぇ~通れないんじゃ…マルクト王国の領内に行きますかねぇ~。」クラウドがお手上げの素振りをして返事をした。

「そうですね。無理しないで安全なルートで行きましょう!」ライアスも納得した。

しかし、村長は続けて暗い雰囲気で話を続けた。

「まだ、はっきりした話ではないが…魔族が軍を動かし集結しているのです…。」

「えっ?それはどういう事なのですか?」マリアが驚き聞き返す。

「ライアス殿…魔族はマルクト王国に狙いを定めたようです。もう国境付近の砦や村には被害が出ています。さらにマルクト王国に従属している小国にも進攻していて、徐々にマルクト王国の中央を目指して各地方から攻めて来ているのです!」

「そいつは困ったねぇ~魔法大国のマルクト王国といえど魔族の大軍を相手にするのはねぇ~。……恐らくエルド王国や他の国からも援軍は来るだろうけど、魔族も将軍クラスが出てくるだろうからねぇ~。」

「ライアス、どうしよう?」マリアが不安気にライアスを見つめる。

「確かに今、聖林寺に向かって修行の場合では無さそうですね。マルクト王国はこれまでも魔族と戦い続けた国ですから。何か僕達でも力に慣れたら!」ライアスは力強く皆を見つめた。

「決まりだねぇ~、ではマルクト王国に向けて行くとしますかねぇ~。」

これからマルクト王国で人間と魔族の大戦が始まろうとしていた。
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