クロスアーチ

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第1話 かけがえのない出会いと苦い味

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私はワンハンドシュートの虜になっていた。


「え、バスケって普通両手でシュートするよね。何で片手なのに入るの?朝比奈さんすごいね!」

孝橋たかはしアイナは驚いた様子で手を叩いて私を褒めた。

アイナは私が通う小学校に今日転入してきたばかりだ。私より背が高く、スラっとしていて少し大人びた雰囲気を感じる。

「かっこいいでしょ!」

私が思っていたよりアイナが興味をもった様子で顔が綻んだ。そして、アイナに満面の笑顔を見せながら続けた

「バスケって面白いんだよ、アイナちゃんもバスケやろうよ!背が高いからすぐ活躍できるよ!あとヒカリでいいよ。」

そう言いながら、ボールをワンバウンドさせて、アイナの胸の位置に届くようにパスをした。
ボールを受け取ったアイナも私の見様見真似で片手でシュートしてみたが、リングの手前で力なく落ちていった。

「えっ!全然届かない。」

アイナはびっくりした様子で目を見開いていた。
私は落ちたボールを拾い、くるっと素早くリングに向かって回転し、勢いよくジャンプして再び片手でシュートした。
そのボールはリングに当たることなく潜り抜けていった。

「えー!すごい!ヒカリちゃんまた決めた!」

「アイナちゃんも練習したらすぐできるようになるよ。」

私はにっこりした笑顔と親指を立てながらアイナに言う。
アイナから素直に褒められたのが嬉しく、その分余計に口角が上がっていた。

この後も体育館で、私はレッグスルー(ボールを股下に通すドリブル)などトリッキーなボール捌きをしながら、アイナにバスケの面白さを伝えていった。
その甲斐があったのか、私の希望通りにアイナは私と同じ小学生向けのバスケであるミニバスクラブに入ってくれた。



私がワンハンドシュートに魅了された日は、小さい頃の記憶が曖昧な中でも、特別鮮明に覚えていた。
幼稚園の夏休みのある日、ママは近所のママ友と公園でおしゃべりしていた。

その公園には、小学生用のバスケリングが設置されていたが、奥まった大きな木の1つに小さなバスケのリングが括り付けられていた。
炎天下の中、それに向かって、汗だくになりながらひたすらシュートをしている子供が2人いた。

その1人の男の子は低学年の小学生で、ある程度様になったフォームでワンハンドシュートを何度も決めていた。
もう1人は私より少し大きいくらいの女の子で、その男の子と瓜二つのシュートフォームでゴールを決めていた。

「ミズキー!ヒカリちゃんも混ぜてあげて!」

その女の子のママは私の背中に手を添えて大きな声で伝えた。

「うん、わかった!ヒカリちゃんおいで。」

月島ミズキちゃんは私の前に近づいてきて「こっち」と手招きしながらゴール近くまで誘い出し、私にボールを手渡しした。

「こうやってボールもって、えいってするんだよ!」

ミズキちゃんはシュートのそぶりをしながら教えてくれた。
私は「えい!」と叫びながらそれっぽくボールを放ってみたが、当然のようにボールはあらぬ方向に飛んでいった。

悔しい気持ちが湧き上がり、何度も何度も拾ってはボールを放ってみても一向に入らなかった。

私はぐずりながらも続けていたが、1度も入ることなくとうとう声に出して泣きじゃくってしまった。
ミズキちゃんは悲しい顔をしながら近づき、私の頭をぽんぽんし、抱きしめながら言う。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」

「こうするんだよ。」

そう言いながら、ボールを抱えた男の子が近づいてきて、私の隣で素早くシュートを放った。
そのボールはリングに当たることなく吸い込まれていった。

「さすがおにいちゃん!」

ミズキちゃんは満面の笑顔で手を叩いていた。

ミズキちゃんのお兄ちゃんであるハヤトくんはその後も何度もシュートを決めた。
その度にミズキちゃんは喜々とした声で自分ごとのように喜んでいた。

ミズキちゃんはことあるごとに、お兄ちゃんの後ろを付いて回っており、バスケの動作は何でも真似ていた。
私も同じように真似していたら、たまにではあるがシュートが入るようになっていた。
シュートが入る度に両手を叩いて大喜びしてくれるミズキちゃんに乗せられて、シュートを決めるのが楽しくなっていた。

ときおり放つハヤトくんのシュートは、整ったフォームで速いモーションで繰り出されており、子供ながらも格好の良さを感じ、手が止まって釘にづけになっていた。

「ハヤト、ミズキ、ヒカリちゃん、暑いから木陰で休憩しよう。」

長時間炎天下の中でずっと遊んでいるのを心配して、ミズキちゃんのママから呼ばれた。

私も一緒に木陰に戻ると、にっこりした笑顔でママが言った。

「ヒカリ、すごく楽しそうにしてたね。ミズキちゃんと同じミニバスクラブに入ってみようか。」

私が何度もシュートをしている姿を見ていて、活き活きとした光景に映ったのか、ミズキちゃんのママから誘われたようだった。



幼稚園、小学校の間は地元のミニバスクラブに参加した。
ミズキちゃん、ハヤトくんと一緒に通いながら、日々バスケするのは楽しかった。
1対1の練習をしたり、動画のプレイを真似てみたりと一緒の時間を過ごすことが楽しくいつも心が満たされていた。

そして、私が小5、ミズキちゃんが小6の頃は、クラブ設立以来、初めての全国大会に手が届きそうな実力があり、地区予選には自信をもって臨んだ。

全国がかかった予選最後の試合では、コート上のミズキちゃんが得点ボードと時間を横目で見ながら、みんなを落ち着かせながらドリブルをしていた。  

「点差開いているから、今は落ち着いて攻めよう。」

ミズキちゃんが指揮をとるとみんなの意思が統一される。

「ナイシュー!次も決めていこう!」

「惜しい!次のディフェンスでは止められるからね!」

みんなも声を掛け合うが、ミズキちゃんの声かけはとくに心に響いていた。

試合終盤のある局面のとき、ミズキちゃんは私にパスした。
私は相手ディフェンスのスキをついて、低い姿勢を瞬時にとり、素早い動きでドライブ(ドリブルで相手を抜き、リングに向かうプレイ)し、得点を決める。

ミズキちゃんは大事な局面ではよく私を頼ってパスをしてくれて、私はその期待に応えられるように点を決めていた。
決める度にミズキちゃんは笑顔になり、それを見る私も嬉しくなっていた。

試合は終了に近づき、「3、2、1…」と周囲のカウントダウンの終了とともにブザーが鳴った。
この試合は見事に勝利し、全国大会の切符を手に入れた。

「やったー!」とコート上の私たちはハイタッチしながらみんなと大はしゃぎしていた。

「ミズキちゃん、全国大会だよ!嬉しい!」

「ヒカリちゃん、私たち頑張ったもんね!」

私は、ミズキちゃんと抱き合い飛び跳ねながら、お互いを称えあっていた。
ミズキちゃんとの小学生最後の大会で全国の切符を掴み取ることができて有頂天になっていた。

この時期はワクワクが止まらなかった。
全国大会のチーム紹介記事では、「ワンハンドシュートのダブルエース」と書かれており、私たちは何度も見返してはニヤニヤしていた。

全国大会自体は決して良い結果とは言えなかったが、ミズキちゃんと晴れの舞台で一緒にバスケできたのは幸せな時間だった。

「次はヒカリちゃんがキャプテンだね、また全国大会に出場してね!」

直に来るのはわかってはいたが、ミズキちゃんから次のことの話をされると、実感が湧いてくる。
幼稚園から一緒にバスケをしていたが、ミズキちゃんとできなくなるとわかったとき、ぽっかりと心に大きな穴が空いた。



アイナが転入してきたのは、ミズキちゃんがクラブに来なくなって間もない頃だった。バスケという身長が大事な競技において、偶然にも小学生の中でもひときわ背の高いアイナが同じクラスに入った。

(また全国大会に行くには絶対にクラブに入って欲しい。)

アイナを初めて見るや否や、そう心の中で意気込んだ。
その勢いのまま、転入初日の放課後にアイナを口説き、体育館に連れ出し、見事にアイナを口説き落とした。

アイナは私の家の近所に引っ越してきており、学校から帰る道が一緒だったということもあり、この日からいつも一緒に帰る仲になった。
帰り道で話をしていると、動画のことやアイドルの好きなものが似ていることに気づき、私たちは意気投合するのも早かった。
特にアイナはファッションに興味があり、この話題ではあれやこれやと意気揚々に喋っていた。

アイナのクラブ初参加の日、練習の最初に行うランニングで、アイナは私のペースに合わせて走っていたにも関わらず、息も大して上がっていなかった。
私はこれまでずっとバスケをしてきたので体力は十分についているはずだが。

「アイナって何かスポーツしていた?」

「うん、昔水泳をしていたんだ。体力は自信あるかも。」

その後、2人対面でのパスの練習が始まった。
初めてだから当然ではあるが、ボールがキャッチできなかったりと、ボールの扱いはこれからいっぱい練習しなきゃいけない。
しかし、試合形式の練習のとき、アイナがゴール前で手を伸ばすと、身長とさらに長い手が相まって、すごく高く感じた。

アイナのディフェンスに向かってドリブルシュートすると、バスケをやってきている人でも、リングからボールが溢れやすく、その後のリバウンド(シュートが外れたボールが、リング等に当たり跳ね返ってきたところを捕球する)はよくアイナの手に吸い込まれていった。

(私のスカウト力すごいなぁ。)

そう自讃していたが、アイナが加入してもチームとしてはなかなか良い結果が出なかった。
他クラブとの試合で思い知らされたが、ミズキちゃんの代が抜けてからは、戦力ダウンが否めなく、試合に負けることが増えていた。

「最近試合に勝てなくなったけどどうしたら良いかなぁ?」

私はことあるごとにミズキちゃんには相談していた。

「みんなといっしょに考えて、みんなを信じて楽しんでプレイするんだよ。」

よくこの言葉で返ってきていた。

(だって、ミズキちゃんの代うまかったじゃん…)

私自身はこの言葉に納得していなかった。

試合に負ける度に、ミズキちゃんと一緒にプレイしていた頃を思い出し、全国大会に出場したい気持ちが膨らんでいった。

チームメイトが上手くいかないプレイをすると私の口からは否定的な言葉が増えていき、チームメイトも消極的なプレイが増えたからか、余計に点が入らなくなっていた。

それでも勝ちたかった私は強引にでも点を取りにいくことが増えた。
最初の頃はそれで点は取れていたが、相手チームは私さえ止めればとマークを増やして対応され、結局は負けるという悪循環が生まれた。

「上手いからって、調子に乗ってんのよ。」

というチームメイトからの陰口もよく耳にするようになった。

「ヒカリは気にしないで。上手くない私たちが悪いんだよ。」

アイナからはその都度フォローしてもらっていたが、チームとしての雰囲気は最悪。
私は曇った表情のままバスケすることが多く、アイナを誘い出した時の笑顔とはかけ離れ、このまま小学校のバスケ生活は終わった。
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