11 / 25
第11話 望まぬ敗退
しおりを挟む
練習試合が終わり、私とミズキちゃんは片付けなどで最後になり、2人で帰ろうとしていた。
体育館の扉を開けると、冬の冷たい空気が一気に肌に刺さった。
それと同時に、もう日が沈みそうで綺麗なオレンジ色の夕焼けの景色が目の前に広がっており、この空に包まれながら帰路に着いた。
「今日の練習試合は楽しかった。やっぱりみんなとバスケすると楽しいよね。現役で試合していた時のこと思い出しちゃった。」
ミズキちゃんは高く跳ねるような声で話していた。
しかし、私は実力の差を目の当たりにし、今後私たちが勝つためにはどうしたら良いかという考えに耽ていた。
すると、ミズキちゃんは低く慎重な声で発した。
「…今日で練習に顔を出すの最後にしようと思ってるんだ。」
「え…。」
さすがにこの言葉は耳に入った。
「受験勉強に集中しようと思うんだ。もちろん、今までも勉強しているけど、もっとがんばろうって思ってね。」
「……そっか、残念だな。もっとバスケを教えて欲しかったな。」
「ごめんね。」
「ううん、受験がんばってね。」
ミズキちゃんの眉は下がり、寂しそうな表情をしながら頷いた。
(これでまたしばらくミズキちゃんとバスケできないんだな…。)
高校でまた一緒にバスケをすると考えると1年以上はお預けになる。
中学校のバスケ部に入った頃、ミズキちゃんとまたバスケできたときの高揚感を思い出すと感慨深くなる。
少しの間思い出に浸っていたが、今まで聞くことがなかった疑問がふと浮かび、口からこぼれた。
「…そういえば、聞いてなかったけど、どの高校を受験するの?」
そして、ミズキちゃんはまた低い声で丁寧に伝えた。
「…国立第一高校を受けようと思っているんだ。」
「え………。」
冬の寒さも相まってか、私の頭はフリーズした。国立第一といえば有数の進学校である。
私の学力では到底届きそうもない。
(…もう一緒にバスケができない…?)
しばらくフリーズしていたが、徐々に解氷され思考ができるようになってから、なんとか、口に出すことができた。
「…ミズキちゃん、バスケ上手いんだから、バスケが強いところ行こうよ…!」
なんとかして繋ぎ止めたい思いで、声に力がこもっていた。
「実際バスケ推薦の話をもらっていたんだけど…。でも、私、医者になりたいって思ってるんだ。」
すがるような目をしている私に対して、ミズキちゃんは私を諭すように続ける。
「ヒカリちゃんや、私のお兄ちゃんが怪我したとき、…特にヒカリちゃんは苦しんでいたから、私、治してあげられるとどんなにいいんだろうと思ってた。それに、お兄ちゃんの場合練習しすぎでしょ、世の中多くの人がもっと練習したいのにできないって、同じように苦しんでるんじゃないかなって思ったの。」
ミズキちゃんは真剣な表情から笑顔を私に向け続けた。
「もっとみんなにバスケを、スポーツを、元気に楽しんで貰いたいなって思ってるんだ。子供から高齢者の方まで生活の一部としてスポーツが側にあるといいなって。」
さすがミズキちゃんだ。将来のことも考えているし、みんなのことも考えている。
そういうミズキちゃんだから、私はずっと慕っている。
だけど、今は私のことでいっぱいで、ミズキちゃんを応援したい気持ちが心の奥にどんどん押し込まれていく。
「…嫌だよ。嫌だよ!私と一緒にバスケしようよ!」
私は子供のように駄々をこねていた。
「もちろん、高校でもバスケは続けていくよ。バスケなしじゃ考えられないよね。」
ミズキちゃんは視線は合わせずも微笑みながら伝えてきた。
そう返されるとすぐにでも私はミズキちゃんの正面に立ち、両手で肩を掴み歩みを止めた。
涙を浮かべながらミズキちゃんの目を見て訴える。
「私は一緒のチームでやりたいの!一緒にまた全国大会に行きたいの…!…なんで…なんで!」
肘を怪我する直前、ミズキちゃんの言うことを聞いていれば、私も一緒に全国大会に出られたかもしれない。
この後悔が今の辛い気持ちを増幅させていき、私は幼児のように泣きじゃくってしまった。
幼い頃から私のことをずっと見てくれていたミズキちゃんは、この光景をよく目にしてきたであろう。
「…私、怪我した時に…ミズキちゃんが支えてくれなかったら、バスケ…止めてたかもしれない…!PGのことを教えてくれて、バスケの楽しさを…もっと教えてくれたのはミズキちゃんだよ…。ミズキちゃんなしじゃバスケできない!」
嗚咽混じりで途切れ途切れになりながらも必死で伝える。
すると、私はミズキちゃんに体を引き寄せられ抱きしめられた。
小さい時もよくこのようにされた反射なのか、わんわんと声に出して泣き始め、嫌だ嫌だとただ声をあげていたところを、「うん、うん」「ごめんね」と良いながら、頭をぽんぽんされた。
これも小さい頃からされていたからか、徐々に落ち着きを取り戻し、ミズキちゃんから離れた。
私の顔は間違いなくぐしゃぐしゃになっているであろう。
ミズキちゃんには見慣れている顔だろうが、私はその顔を見せたくなくそっぽ向きながら、家へ向かって歩き始めた。
先ほどまで綺麗な光景を映し出していた夕日はすっかり沈み、辺りは暗くなっており、お互い沈黙のまま歩いていた。
しばらくしてミズキちゃんと別れるT字路に着いた時、私は僅かながらにあった気持ちを振り絞って言った。
「…国立第一受かると良いね。…応援してるよ。」
「ありがとう、しっかり勉強がんばるね。」
ミズキちゃんの目尻は下がっているように見えたが、優しい笑顔で返してくれた。
◇
冬の新人戦が始まったが、昨年の準優勝の結果が嘘のように、2回戦敗退とあっけなく終わってしまった。
私には悔しいとかもっと頑張ろうという感情がなく、ただ試合をこなしていた。
試合中は、勝利を目指すという意識はしているのだが、如何せん気持ちが乗っていないと、こうも簡単に負けてしまうんだということがよくわかった。
次の大会である中総体に向けて、気持ちを切り替えながら日々練習していたが、練習試合で負けてしまうと、口では頑張っていこうとみんなを励ますが、いざ試合をすると気持ちが伴わずにミスを連発する。
そして自信もなくなり、さらに負けていくという負のループに入っていく。
これが負け癖というものなのかとも思い、スポーツはメンタルが大事だなというのが身に染みてわかった。
冬休み前の3年生とシャッフルして組んだ最後の練習試合は、誰もが気持ちを乗せてプレイしていたし、誰もが点を決めるという自信を持っていただろう。
(またあのようなチームでプレイしたい…。)
体育館の扉を開けると、冬の冷たい空気が一気に肌に刺さった。
それと同時に、もう日が沈みそうで綺麗なオレンジ色の夕焼けの景色が目の前に広がっており、この空に包まれながら帰路に着いた。
「今日の練習試合は楽しかった。やっぱりみんなとバスケすると楽しいよね。現役で試合していた時のこと思い出しちゃった。」
ミズキちゃんは高く跳ねるような声で話していた。
しかし、私は実力の差を目の当たりにし、今後私たちが勝つためにはどうしたら良いかという考えに耽ていた。
すると、ミズキちゃんは低く慎重な声で発した。
「…今日で練習に顔を出すの最後にしようと思ってるんだ。」
「え…。」
さすがにこの言葉は耳に入った。
「受験勉強に集中しようと思うんだ。もちろん、今までも勉強しているけど、もっとがんばろうって思ってね。」
「……そっか、残念だな。もっとバスケを教えて欲しかったな。」
「ごめんね。」
「ううん、受験がんばってね。」
ミズキちゃんの眉は下がり、寂しそうな表情をしながら頷いた。
(これでまたしばらくミズキちゃんとバスケできないんだな…。)
高校でまた一緒にバスケをすると考えると1年以上はお預けになる。
中学校のバスケ部に入った頃、ミズキちゃんとまたバスケできたときの高揚感を思い出すと感慨深くなる。
少しの間思い出に浸っていたが、今まで聞くことがなかった疑問がふと浮かび、口からこぼれた。
「…そういえば、聞いてなかったけど、どの高校を受験するの?」
そして、ミズキちゃんはまた低い声で丁寧に伝えた。
「…国立第一高校を受けようと思っているんだ。」
「え………。」
冬の寒さも相まってか、私の頭はフリーズした。国立第一といえば有数の進学校である。
私の学力では到底届きそうもない。
(…もう一緒にバスケができない…?)
しばらくフリーズしていたが、徐々に解氷され思考ができるようになってから、なんとか、口に出すことができた。
「…ミズキちゃん、バスケ上手いんだから、バスケが強いところ行こうよ…!」
なんとかして繋ぎ止めたい思いで、声に力がこもっていた。
「実際バスケ推薦の話をもらっていたんだけど…。でも、私、医者になりたいって思ってるんだ。」
すがるような目をしている私に対して、ミズキちゃんは私を諭すように続ける。
「ヒカリちゃんや、私のお兄ちゃんが怪我したとき、…特にヒカリちゃんは苦しんでいたから、私、治してあげられるとどんなにいいんだろうと思ってた。それに、お兄ちゃんの場合練習しすぎでしょ、世の中多くの人がもっと練習したいのにできないって、同じように苦しんでるんじゃないかなって思ったの。」
ミズキちゃんは真剣な表情から笑顔を私に向け続けた。
「もっとみんなにバスケを、スポーツを、元気に楽しんで貰いたいなって思ってるんだ。子供から高齢者の方まで生活の一部としてスポーツが側にあるといいなって。」
さすがミズキちゃんだ。将来のことも考えているし、みんなのことも考えている。
そういうミズキちゃんだから、私はずっと慕っている。
だけど、今は私のことでいっぱいで、ミズキちゃんを応援したい気持ちが心の奥にどんどん押し込まれていく。
「…嫌だよ。嫌だよ!私と一緒にバスケしようよ!」
私は子供のように駄々をこねていた。
「もちろん、高校でもバスケは続けていくよ。バスケなしじゃ考えられないよね。」
ミズキちゃんは視線は合わせずも微笑みながら伝えてきた。
そう返されるとすぐにでも私はミズキちゃんの正面に立ち、両手で肩を掴み歩みを止めた。
涙を浮かべながらミズキちゃんの目を見て訴える。
「私は一緒のチームでやりたいの!一緒にまた全国大会に行きたいの…!…なんで…なんで!」
肘を怪我する直前、ミズキちゃんの言うことを聞いていれば、私も一緒に全国大会に出られたかもしれない。
この後悔が今の辛い気持ちを増幅させていき、私は幼児のように泣きじゃくってしまった。
幼い頃から私のことをずっと見てくれていたミズキちゃんは、この光景をよく目にしてきたであろう。
「…私、怪我した時に…ミズキちゃんが支えてくれなかったら、バスケ…止めてたかもしれない…!PGのことを教えてくれて、バスケの楽しさを…もっと教えてくれたのはミズキちゃんだよ…。ミズキちゃんなしじゃバスケできない!」
嗚咽混じりで途切れ途切れになりながらも必死で伝える。
すると、私はミズキちゃんに体を引き寄せられ抱きしめられた。
小さい時もよくこのようにされた反射なのか、わんわんと声に出して泣き始め、嫌だ嫌だとただ声をあげていたところを、「うん、うん」「ごめんね」と良いながら、頭をぽんぽんされた。
これも小さい頃からされていたからか、徐々に落ち着きを取り戻し、ミズキちゃんから離れた。
私の顔は間違いなくぐしゃぐしゃになっているであろう。
ミズキちゃんには見慣れている顔だろうが、私はその顔を見せたくなくそっぽ向きながら、家へ向かって歩き始めた。
先ほどまで綺麗な光景を映し出していた夕日はすっかり沈み、辺りは暗くなっており、お互い沈黙のまま歩いていた。
しばらくしてミズキちゃんと別れるT字路に着いた時、私は僅かながらにあった気持ちを振り絞って言った。
「…国立第一受かると良いね。…応援してるよ。」
「ありがとう、しっかり勉強がんばるね。」
ミズキちゃんの目尻は下がっているように見えたが、優しい笑顔で返してくれた。
◇
冬の新人戦が始まったが、昨年の準優勝の結果が嘘のように、2回戦敗退とあっけなく終わってしまった。
私には悔しいとかもっと頑張ろうという感情がなく、ただ試合をこなしていた。
試合中は、勝利を目指すという意識はしているのだが、如何せん気持ちが乗っていないと、こうも簡単に負けてしまうんだということがよくわかった。
次の大会である中総体に向けて、気持ちを切り替えながら日々練習していたが、練習試合で負けてしまうと、口では頑張っていこうとみんなを励ますが、いざ試合をすると気持ちが伴わずにミスを連発する。
そして自信もなくなり、さらに負けていくという負のループに入っていく。
これが負け癖というものなのかとも思い、スポーツはメンタルが大事だなというのが身に染みてわかった。
冬休み前の3年生とシャッフルして組んだ最後の練習試合は、誰もが気持ちを乗せてプレイしていたし、誰もが点を決めるという自信を持っていただろう。
(またあのようなチームでプレイしたい…。)
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
妹の仇 兄の復讐
MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。
僕、孝之は高校三年生、十七歳。妹の茜は十五歳、高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。
その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる