バニラ(仮)

mito

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コイツはマジで言ってんのかと。
問うまでもなく、コイツはマジで言ってるんだろうと分かった。
マジ、ていうか。
そういうことがどうでもいいんだろう。






俺の態度からして、俺が惚れた腫れたなんていう倉田の話が本当なわけがないのは一目瞭然。

どこの誰が、惚れた本人目の前にガチで珈琲を吹くというのだろう。
百年の恋も冷めるわ、俺がやられたら。




あぁやべぇなこの感じ。



唖然とする俺を置いて、日滝久遠はさっさと店の入り口に立つ。そうして動かない俺に気付いて、怪訝な顔をする。いや、あれは鈍い俺への苛立ちか?


「あの、お客様……」


コーラを持ってきてくれたウェイトレスと顔を見合わせる。俺は奴についていくべきなのか。ついていって喰われろって。冗談じゃねぇそんなものは死んでもごめんだ。


だがこのままでもいかないだろう。斜め後ろの倉田の視線を考えても。


先に行動を起こしたのは、日滝久遠だった。




「そのコーラいいから。料金は、斜め後ろに座ってる人が払う。伝票はそこへ」




ビーサン慣らして戻ってきたやつは、気だるい話し方を事務的に変えて、端的に指示を出して、ついでに俺の腕を掴んだ。



「何してるんですか、大地さん」


ヤる意思がないことを察知して帰るのでなくわざわざ迎えに来てくれたらしい。
実は状況把握できない子か。


ただでさえ目立つ人種の日滝久遠が、見間違えるはずもない男の俺の腕を引く図というのは、もうそれは視線を集めるもので。


この店結構利用するんだけど、とか思う俺を他所に、日滝久遠は店を出た。


灼熱の太陽が振りそぐ。先ほどまでクーラーの効く店の中にいただけに、その暑さが際立って、そして容赦なく差し込んだ真夏の射光に目を瞑る。




そうして暑さに溶けて呆けたままの脳味噌が働きだしたとき、俺は見事に生涯男と入る予定のなかったホテルのベッドに寝転んでいた。

なぁ倉田よ。



この展開、マジか。


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