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昼時を過ぎたこの時間は、映画が終わった直後でもすぐにテーブルにつくことができた。木製品を基調とした店内は、落ち着いた雰囲気があって、映画を見た後の団欒に最適だと言えるだろう。
ケーキセットもお手頃な値段で、また女の子が好きそうな甘味が結構そろえてある。
見た目よりも柔らかなソファーに深く座ってまたひと伸びする。たまにはこんな休日もいいかもしれないと思っていたら、やっとだんまりついて来るだけだった日滝久遠が口を開けた。
「大地さん」
「んぁ?」
「これも、映画の見方ですか」
俺的映画の後の定番なひと時、ではあるが、それが一般的とは限らない。
が、さてこれをなんて説明したものか。
「映画の見方っつーか……俺は映画見た後にこういうとこで珈琲飲んで、物語のこと話すのが好きだけど。まぁデートなら大抵俺はこういう感じ」
まぁこいつは間違いなく直行ラブホだったんだろうと思うけど。
「よく、映画見に来るんですか?」
「んー? いや、実を言うと何年振りってぐらい。映画は好きだけど、映画館では見てねぇな」
店のメニューを見ながら適当に答える。外は暑いが中は冷房が結構効いていて、これは上着を持ってくるべきだったかな、と思う。まぁ今回は一緒に来てんのが野郎だから持ってこなくても問題ないけど。
「何でですか」
「あー、映画って高ぇからな」
ホットコーヒーがいいかなーと思いつつ日滝久遠を見た。奴はただ俺を見ていて、思わず怪訝な顔をすると、同じように怪訝な顔をした。
「なに、お前何飲むの」
「いや、俺は」
「遠慮すんなよ、ここ払うのお前だから」
言うと、日滝久遠はまた何度か瞬きをして、それからやっとメニューに手を伸ばした。
やっぱり、俺がまた出すんじゃねぇかと思って遠慮したらしい。
映画館の中は乾燥してるし、その上でポップコーンなんて塩気のパサつくものを食べて飲み物は飲んでいないのだから、ドリンクは欲しいだろうに。
その証拠に水に手を伸ばすのがすげぇ早かったし。
よほど倉田に何か言われたか、それとも案外そういう金銭面は気にする方とか?
日滝久遠という人間は、行動は分かりやすく、内面が分かりにくい。
しかもだ。
「ホットのカプチーノと、お前は?」
「チョコのパフェと珈琲のホットで」
自分の金と分かって自分の喰いたいものを存分にオーダーしたようだけど。
「チョコパフェって……ッ」
「ダメでしたか?」
いや、って首を振りながら、でもやっぱ笑いが抑えられなくて、顔を逸らす。
別におかしくはねぇけどさ。
「お前、実はキャラメルポッコーンのが好きだったろ」
「そうですけど。……あ、でも塩も食べれます」
淡々とした付け足しは、俺が買ったの塩味へのフォローのつもりらしい。
……なんだ。
「ははっ!」
結構かわいいとこもあるんじゃねぇの。
「甘いもん好きなの、お前」
「好き、ですね。俺は」
「にしては太ってねぇなー」
「太りにくいみたいで」
珈琲は早々に来て、それを口にしながらとりとめない話をする。日滝久遠は多くは答えない。普段から、話は聞く側、相槌専門なのだろうか。
「あの」
「ん?」
「さっき、映画見た後はこういう所に入って話す、って言ってましたけど」
「あぁ、おう。映画の話」
「映画の話?」
「何が面白かった、とかここは納得できねぇ、とか。せっかく同じもんみてるんだから、相手の意見が聞きてぇじゃん? お前はそういう話しねぇの?」
聞いて、答えは聞くまでもなく分かってたけど。
「俺は、あんま見てないし。でも女はしてる時があったかもしれない」
つまり適当に相槌うってやがったな、コイツ。
「まぁデートの後にこういうとこは行ったら嫌でもそういう話題になるだろうよ。でって今日は見てただろ。どうだった?」
話を振ってやる。その瞬間、見るからに困惑の表情を浮かべた日滝久遠に、なんでもいいってと言ってやる。
「……とりあえず、男はバカだなぁと」
「はは! 違いねぇ。最後の最後でいっつも逃げ腰なんは男の方だったな」
「でも男が覚悟決めると、今度は女が周りを気にしてくっついてもいつも自分から手放そうとする」
「女の子ってのはそういう生き物なんじゃんぇの? お前みてぇな男が気にしなすぎなんだよ」
「俺、ですか」
「男は一つのことに夢中になるとそれに一直線だけどな。女は一つの事のほかに意識を回せるんだとよ。その分周りが見えすぎるんじゃねぇかと俺は思うけど」
「でも、彼女は周りを気にし過ぎじゃないですか。好きなのは変わらないし、思いが通じても、そこから周囲の言動や影響に気が向いて、結局男を自分から切る。これは勝手だと思う、ます」
断言し、丁寧語をとってつける。その時パフェがやってきて、それを食べながら日滝久遠は俺の意見を待つように俺をじっと見た。
「自分の幸せとその犠牲を計りにかけるっつーのは、一種の逃げだな。その犠牲の責任を背負う覚悟がない。でもガキの恋愛でそこまで背負う覚悟を持てるか? そこまで人を愛せるか?」
「俺が男なら、もう既に女との縁きってます、めんどくさい」
違いねぇ、コイツはそりゃ捨てるな。
「でも彼女は捨てた後にまた追いかける。そんなものは勝手すぎる」
日滝はやけにそこに拘った。
「最初の方は完全男の落ち度だけどな」
「何でですか?」
「いくら女の子が告白の後に関係を変えないで欲しいつったからと言って、その後にまた女の相談とかデートの相談するっつーのはあまりに無神経じゃねぇ?」
「……」
「お前、やったことあんのか」
「……デートじゃないですけど。彼女でもない。ただ似たようなことは」
「あー……まぁ男はやるよな。そういう子ほど、なんつーかもうなんでも相談していい女友達っつー感じになるんだよな。もちろん逆もあるけどよ」
ケーキセットもお手頃な値段で、また女の子が好きそうな甘味が結構そろえてある。
見た目よりも柔らかなソファーに深く座ってまたひと伸びする。たまにはこんな休日もいいかもしれないと思っていたら、やっとだんまりついて来るだけだった日滝久遠が口を開けた。
「大地さん」
「んぁ?」
「これも、映画の見方ですか」
俺的映画の後の定番なひと時、ではあるが、それが一般的とは限らない。
が、さてこれをなんて説明したものか。
「映画の見方っつーか……俺は映画見た後にこういうとこで珈琲飲んで、物語のこと話すのが好きだけど。まぁデートなら大抵俺はこういう感じ」
まぁこいつは間違いなく直行ラブホだったんだろうと思うけど。
「よく、映画見に来るんですか?」
「んー? いや、実を言うと何年振りってぐらい。映画は好きだけど、映画館では見てねぇな」
店のメニューを見ながら適当に答える。外は暑いが中は冷房が結構効いていて、これは上着を持ってくるべきだったかな、と思う。まぁ今回は一緒に来てんのが野郎だから持ってこなくても問題ないけど。
「何でですか」
「あー、映画って高ぇからな」
ホットコーヒーがいいかなーと思いつつ日滝久遠を見た。奴はただ俺を見ていて、思わず怪訝な顔をすると、同じように怪訝な顔をした。
「なに、お前何飲むの」
「いや、俺は」
「遠慮すんなよ、ここ払うのお前だから」
言うと、日滝久遠はまた何度か瞬きをして、それからやっとメニューに手を伸ばした。
やっぱり、俺がまた出すんじゃねぇかと思って遠慮したらしい。
映画館の中は乾燥してるし、その上でポップコーンなんて塩気のパサつくものを食べて飲み物は飲んでいないのだから、ドリンクは欲しいだろうに。
その証拠に水に手を伸ばすのがすげぇ早かったし。
よほど倉田に何か言われたか、それとも案外そういう金銭面は気にする方とか?
日滝久遠という人間は、行動は分かりやすく、内面が分かりにくい。
しかもだ。
「ホットのカプチーノと、お前は?」
「チョコのパフェと珈琲のホットで」
自分の金と分かって自分の喰いたいものを存分にオーダーしたようだけど。
「チョコパフェって……ッ」
「ダメでしたか?」
いや、って首を振りながら、でもやっぱ笑いが抑えられなくて、顔を逸らす。
別におかしくはねぇけどさ。
「お前、実はキャラメルポッコーンのが好きだったろ」
「そうですけど。……あ、でも塩も食べれます」
淡々とした付け足しは、俺が買ったの塩味へのフォローのつもりらしい。
……なんだ。
「ははっ!」
結構かわいいとこもあるんじゃねぇの。
「甘いもん好きなの、お前」
「好き、ですね。俺は」
「にしては太ってねぇなー」
「太りにくいみたいで」
珈琲は早々に来て、それを口にしながらとりとめない話をする。日滝久遠は多くは答えない。普段から、話は聞く側、相槌専門なのだろうか。
「あの」
「ん?」
「さっき、映画見た後はこういう所に入って話す、って言ってましたけど」
「あぁ、おう。映画の話」
「映画の話?」
「何が面白かった、とかここは納得できねぇ、とか。せっかく同じもんみてるんだから、相手の意見が聞きてぇじゃん? お前はそういう話しねぇの?」
聞いて、答えは聞くまでもなく分かってたけど。
「俺は、あんま見てないし。でも女はしてる時があったかもしれない」
つまり適当に相槌うってやがったな、コイツ。
「まぁデートの後にこういうとこは行ったら嫌でもそういう話題になるだろうよ。でって今日は見てただろ。どうだった?」
話を振ってやる。その瞬間、見るからに困惑の表情を浮かべた日滝久遠に、なんでもいいってと言ってやる。
「……とりあえず、男はバカだなぁと」
「はは! 違いねぇ。最後の最後でいっつも逃げ腰なんは男の方だったな」
「でも男が覚悟決めると、今度は女が周りを気にしてくっついてもいつも自分から手放そうとする」
「女の子ってのはそういう生き物なんじゃんぇの? お前みてぇな男が気にしなすぎなんだよ」
「俺、ですか」
「男は一つのことに夢中になるとそれに一直線だけどな。女は一つの事のほかに意識を回せるんだとよ。その分周りが見えすぎるんじゃねぇかと俺は思うけど」
「でも、彼女は周りを気にし過ぎじゃないですか。好きなのは変わらないし、思いが通じても、そこから周囲の言動や影響に気が向いて、結局男を自分から切る。これは勝手だと思う、ます」
断言し、丁寧語をとってつける。その時パフェがやってきて、それを食べながら日滝久遠は俺の意見を待つように俺をじっと見た。
「自分の幸せとその犠牲を計りにかけるっつーのは、一種の逃げだな。その犠牲の責任を背負う覚悟がない。でもガキの恋愛でそこまで背負う覚悟を持てるか? そこまで人を愛せるか?」
「俺が男なら、もう既に女との縁きってます、めんどくさい」
違いねぇ、コイツはそりゃ捨てるな。
「でも彼女は捨てた後にまた追いかける。そんなものは勝手すぎる」
日滝はやけにそこに拘った。
「最初の方は完全男の落ち度だけどな」
「何でですか?」
「いくら女の子が告白の後に関係を変えないで欲しいつったからと言って、その後にまた女の相談とかデートの相談するっつーのはあまりに無神経じゃねぇ?」
「……」
「お前、やったことあんのか」
「……デートじゃないですけど。彼女でもない。ただ似たようなことは」
「あー……まぁ男はやるよな。そういう子ほど、なんつーかもうなんでも相談していい女友達っつー感じになるんだよな。もちろん逆もあるけどよ」
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