バニラ(仮)

mito

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「……それが、なんで俺は二週連続で野郎に休日奪われてんの……」

「なんでじゃ、日滝は良くて俺はあかんのが気に入らん!」

「いや倉田だからだろ」

「どういう理由なん、それ」


状況を説明しよう。

今、俺は1週間前も来た駅前の映画館に居る。
それもあの倉田と一緒に。



納期も無事終わり、まただらだらと始まった日常のうちに、倉田が何度も電話をかけてきたのは知っている。着信拒否を設定したら工場まで尋ねられたのも知っている。
逃げ切ったけどな。

それで安心すべきでなかったのだろう。

もはやストーカー化した幼馴染は、恐怖すら感じる執念で俺を追いかけ、とうとう今日の朝、自宅を襲撃、俺を叩き起こし引っ張り出すという暴挙に出た。

俺は今日休日出勤だったはずだが、倉田曰く。



「大地の今日、1万で買ったさけぇ」




倉田の癖に、昔の御曹司ドラマのセリフを言ってみたりしたのだから、むしろ悪寒、吐き気、鳥肌ものだったが、それはともかく。

たった一万で俺を売ったのかあのくそ親父。
……いや、一万あれば一週間の食費は余裕で浮くけど…。



「映画代も出すし、そのあとのカフェも夕飯代も俺が持つから頼むって!」



つまりはその後のカフェと夕飯も付き合えと暗に要求されているわけだが、さてこの幼馴染が一度言い出したらどうなるか。
もう説明する気にもならない。



「別に金の問題じゃねぇよ……俺、休日はゆっくりしてぇんだけど」

「来週があるやん」

「来週来たらマジで張っ倒すからな」

「大地にやったら抱かれてもえぇよ」

「おう、逝け」

「……大地さん、今の漢字がマジ臭漂ってますよって」


マジな感じじゃねぇ。
マジだ本気だ、真剣だ。


「お前大学の友達居んだろ、そいつらと行けよ」


俺としては至極当たり前のことを言ったにすぎないのだが、唐突に倉田は立ち止まって、いつになく真剣な顔で俺を見た。

「なに?」

「……俺、実はまだ大地に言ってないことがあるんよ」

「は?」


まさか、大学三年にもなって友達ゼロとかそういうナイーブな話か。
いや、中学まで見てきて倉田は人懐っこい性格から自然と人の輪にいたし。


本性タダの変態ストーカー気質だけど、そういうの晒していい人間とダメな人間の区別は、しっかりつけてたし。


倉田に限ってそんなことはないだろう、そう思っていたら。


「俺、大学で無口ミステリアスキャラなんよ」


「ぶっ!! はぁ!?」


こいつのどこをどう見たら!?
ミステリアス! こんなに分かりやすい奴はいないってのに!

よっぽどコイツの友達は見る目がないと見える。


「何がどう、して、そんな、ことに……ッ」

やべぇ、笑いがとまらん。


「それがな、俺一年の時好きな子おうて、その子じっと見つめとってん。でもみんなまさか俺がゲイで男見つめとったとは思わんやん? だからただ無口で、ほら俺黙っとるとイケメンやし」
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