勇者だった俺は死に戻りして知った――魔王を殺せば世界が滅ぶので、今度は勇者を止めることにした

ポポリーナ

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花畑の記憶

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 二つ目の神殿は、南大陸の西にあった。

 砂漠を二日かけて越え、オアシスの街アルジャーンで水と食料を補充した。砂漠の果てに——枯れた大地が広がっていた。

 かつてはここに花畑があったと、ヴェルディアが言った。

「三千年前——地平線まで花が続いていた。赤と白と紫の花。風が吹くと、花が波のように揺れた」

 今は——茶色い大地に、雑草すら生えていない。地脈の損傷が最もひどい地域だ。

 枯れた大地の中央に、砂に半ば埋もれた石の構造物があった。神殿の入口。風化した柱が二本だけ残り、石段が砂の下に消えている。

 傭兵たちが砂を掘り、石段を露出させた。地下に降りると——一つ目の神殿と同じ構造の広間が現れた。だがここはさらに古い。壁面の文字は完全に風化し、読めない。

 中央の台座に結晶球があった。青い光は——ほとんど消えかけていた。黒い染みが表面の半分以上を覆い、脈動は不規則で弱い。

「ひどい状態です」リーシャが顔を曇らせた。「封印の強度が——一つ目の半分以下。ここから深淵の眷属が大量に漏れ出している可能性があります」

「補修に必要な魔力は」

「一つ目の三倍以上。私とレイドだけでは——足りないかもしれません」

 沈黙が落ちた。

 ヴェルディアが前に出た。

「私も手伝う」

「ヴェルディアさん。あなたには——」

「魔力はない。だが知識がある。結晶球の構造を読み、最も効率的な魔力の注入経路を指示できる。それだけでも——必要な魔力量を半分に減らせる」

「体が——」

「前回は準備なしに無理をした。今回は違う。ゆっくりやれば——大丈夫だ」

 リーシャとレイドが結晶球に手を翳し、ヴェルディアが指示を出した。

「左上の劣化部分から。そこに集中的に注入して——次は右下へ。円を描くように——」

 ヴェルディアの声が、広間に響いた。三千年分の知識が、正確に魔力の流れを導いていく。リーシャの魔法とレイドの魔力が結晶球に注がれ、黒い染みが一つずつ消えていった。

 一時間。

 二時間。

 三時間が経った頃——結晶球が、均一な青色を取り戻した。

「完了」リーシャが膝をついた。汗が滴り落ちている。レイドも肩で息をしている。

 ヴェルディアだけが、不思議と平然としていた。

「今回は——大丈夫だったのか」

「ゆっくりやったからだ。脳を酷使するのではなく——知識を少しずつ引き出した。人間の体でも——焦らなければ、使える」

 フェリクスが結晶球を計測した。

「封印強度——完全回復。素晴らしい」

「二つ目、完了だ」レイドが立ち上がった。

 地上に戻ると、夕暮れだった。枯れた大地が夕陽に赤く染まっている。

 ヴェルディアが地面に手を当てた。

「……少しだけ——温かくなった気がする」

「封印が回復したことで、この辺りの地脈にも良い影響があるかもしれません」リーシャが言った。

「花が——咲くだろうか。いつか」

「咲きます。時間はかかりますが」

 ヴェルディアが空を見上げた。夕陽が沈み、最初の星が瞬き始めている。

「三千年前の花畑を——また見たい」

「見れるさ。——次に来る時には、芽が出ているかもしれない」

 枯れた大地に立つ三人の影が、夕陽に長く伸びた。二つの封印を修復した。残り三つ。

 旅は続く。花が咲く日を待ちながら。


  ◇


 帰路の宿営地で、フェリクスがレイドに報告した。

「北の大陸から伝書が届きました。アルヴィンからです」

 レイドが伝書を開いた。

 『レイド。南大陸の聖教会支部が独立を宣言した。強硬派が指導権を握り、マルティウスの教義を復活させようとしている。南大陸に向かう使者を送ったが、受け入れを拒否された。——お前がそちらにいるなら、状況を確認してくれ。なお、ガレスが海村から王都に戻ってきた。「じっとしてられねえ」だそうだ。必要なら送る。——アルヴィン』

「ガレスが——」レイドの唇に笑みが浮かんだ。

「聖教会の強硬派か」ジークが伝書を覗き見た。「聞いてる。南大陸の支部長アウグストゥスって爺さんが、マルティウスの弟子を自称して独立を宣言した。信者の三割がついてる」

「三割か。——無視できない数だな」

「ああ。しかも——あの連中が神殿の情報を知ったら、封印を利用しようとする可能性がある。マルティウスと同じだ。古代の力を聖教会の権威に利用する」

「情報が漏れないようにしないと」

「もう遅いかもしれねえぜ。俺の傭兵が二つ目の神殿に入ったのは——目立つ。アウグストゥスの耳にも入るだろう」

 レイドは伝書を畳み、考え込んだ。

 封印の修復は急がなければならない。だが聖教会の強硬派も放置できない。二つの問題が同時に進行している。

「ジーク。アウグストゥスの拠点は」

「南大陸の北端。港町サルディスだ。ちょうど——三つ目の神殿がある方角だ」

「重なっているのか」

「偶然か必然かは分からんが——三つ目の神殿に向かう途中で、サルディスを通ることになる」

 レイドは空を見上げた。星が瞬いている。

「なら——一石二鳥だ。三つ目の神殿を目指しつつ、聖教会の強硬派も見る」

「欲張りだな」

「欲張りじゃない。——効率的だ」

 ジークが笑った。レイドも笑った。

 旅は——ますます忙しくなりそうだった。
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