【ハズレスキル】鑑定しかない俺がダンジョン配信したら、隠し部屋も罠もボスの弱点も丸見えで世界最速クリアしてしまった件

ポポリーナ

文字の大きさ
24 / 34

十万人の目撃者

しおりを挟む
 リポスト、引用、まとめ記事。「鑑定士イブキ、サードダンジョン十層ボスに挑戦」のハッシュタグがトレンド入りし、業界ニュースサイトが速報を出した。桐生から「記事にしていいですか」とメッセージが来た。凛は「アクセスログが急増しています。注目度が閾値を超えました」と冷静に数字を報告してきた。

 告知配信の時点で、同時接続が八万人を超えた。

 事前に三日間、準備に費やした。凛がエリアスキャンのデータを解析して十層ボスの情報を抽出。三島が体力を回復し、装備を久我山に調整してもらった。桐生が取材クルーとして同行を申し出たが、安全上の理由で断った。代わりに配信のアーカイブを優先提供することで合意。

 十層ボスエリアの扉の前に立った。扉から漏れる低周波の振動が足裏から全身に伝わる。三島が剣の柄を握り直した。革の手袋が軋む音。

「先輩。これ倒したら、サードダンジョンの最速記録更新っすよね」

「記録はどうでもいい。問題はその先だ。十・五層——未登録エリア」

 三島が頷いた。エリアスキャンで検出された、管理局のマップに存在しない空間。あの空間に辿り着くためには、まずこのボスを倒さなければならない。

「配信、始めます」

 カメラの赤いランプが点灯した。

 【十層ボス戦!!!!!!】

 【八万人突破!!!!!!】

 【マコト:全力で応援する。世界最速を見せてくれ】

 【ドクター:薬草三セット持ってるな? 結界符は?】

「皆さん、鑑定士イブキです。十層ボス戦、始めます」

 扉を開いた。

 ボスエリアは巨大な円形の空間だった。天井高二十メートル。壁面が生体鉱物で覆われ、青白い光が空間全体を照らしている。空気が温かい。壁が——脈動している。ダンジョンの心臓に近い場所であることを、全身で感じた。

 中央に立つ巨体。十層ボス——層守護者(レイヤーガーディアン)。

 石造りの巨人。高さ六メートル。全身が積層構造の石板で構成されている。頭部に刻まれた紋様が、壁面の生体鉱物と同じ光を放っている。足元の地面に亀裂が走るほどの重量感。

 ┌──────────────────────────────────┐

 │ 十層ボス:層守護者(レイヤーガーディアン)  │

 │ 分類:無機型守護魔獣                    │

 │ 等級:A+                               │

 │ 高さ:6.2m / 推定重量:8,500kg          │

 │ 構造:十層分の素材が積層した複合装甲     │

 │ コア位置:胸部中央(多層装甲内部)       │

 │ 攻撃パターン:                          │

 │  拳打→地面衝撃波→石板射出→繰り返し    │

 │ コア露出条件:                          │

 │  外殻を段階的に剥離させる必要がある     │

 │  ——各層の装甲には固有の弱点属性がある   │

 │ 設計メモ:十の試練を一つに凝縮した       │

 │  守護者。力だけでは倒せない             │

 └──────────────────────────────────┘

「十の試練を一つに凝縮——つまり、一層から十層までの全てのボスの要素が詰まってる」

 凛の声がイヤホンから聞こえた。

「一颯さん、各層の装甲に固有の弱点属性があるということは、一枚ずつ剥がしていく必要があります。鑑定で属性を読み取って、三島さんに伝えてください」

「了解。三島くん、長期戦になる。ペース配分を意識してくれ」

「了解っす!」

 戦闘が始まった。

 層守護者が一歩を踏み出した。それだけで地面が揺れた。ボスエリア全体が振動する。壁面の生体鉱物が共鳴して、青い光が脈動のように明滅した。

 層守護者の拳が空を裂いた。風圧だけで三島の体が押し返される。六メートルの巨人の一撃は、八層のゴーレムとは比較にならない質量だ。衝撃波が地面を走り、石畳に放射状の亀裂が入った。

 一層目の装甲を鑑定。弱点属性——衝撃。関節部の隙間に強化打撃を叩き込めば剥離する。

「第一装甲、関節部に衝撃!」

 三島が走った。巨人の膝関節に強化打撃を叩き込む。石板が砕けた。一枚目の装甲が剥離し、地面に落ちた。粉塵が舞い上がる。

 【一枚目剥がした!!】

 【あと九枚!!】

 二枚目。弱点属性——熱。

「炎の付与石! 肩の装甲の接合部に!」

 三島が炎の付与石を装甲に叩きつけた。赤い光。石板が焼け、亀裂が広がり、剥がれ落ちた。

 三枚目。四枚目。五枚目——

 装甲が剥がれるたびに、層守護者の動きが速くなった。防御が薄くなる分、攻撃に転じている。六枚目を剥がした直後、石板射出攻撃が来た。巨人の体表から石板が弾丸のように射出される。三島が防御結界符で凌ぎ、俺は柱の影に飛び込んだ。

 【うわああ石飛んできた!!】

 【三島、結界符で防いだ! 久我山さんのやつか!】

 七枚目——衝撃波。壁面に反射させた振動で剥離。

 ここで三島が膝をついた。呼吸が荒い。強化打撃を連発した反動で、腕が震えている。

「三島くん、大丈夫か」

「大丈夫っす……あと三枚っすよね……」

 ドクターのコメントが流れた。

 【ドクター:三島、左足を庇ってるな。軽い肉離れか。薬草を足に巻け。あと三十秒で効き始める】

 三島が素直に薬草を足に巻いた。三十秒の間、俺が囮になって層守護者の注意を引いた。鑑定データで攻撃パターンを先読みし、柱の影を移動しながら回避する。戦闘力ゼロの鑑定士が、八千五百キロの巨人の前で踊っている。冷静に考えれば正気の沙汰じゃない。

「回復したっす! 行くっす!」

 三島が立ち上がった。薬草の効果で足の動きが戻っている。

 八枚目。三島の強化打撃が一撃ごとに重くなっている。疲労が蓄積している。だが一撃の正確さは衰えていない。この男の集中力は——限界を超えてからが本番だ。

 九枚目を剥がした時、層守護者の動きが変わった。紋様が赤く輝き始めた。暴走モード。

「最終装甲! 弱点は——」

 鑑定眼鏡のレンズが光った。最後の装甲の弱点属性が表示される。

「共鳴だ! 壁面の生体鉱物と同じ周波数で振動させれば——」

「どうやるんすか!?」

「壁を殴れ! 生体鉱物の壁面を強化打撃で叩けば共鳴波が出る! それをぶつける!」

 三島が壁面に向かって走った。ボスではなく、壁を殴る。渾身の強化打撃が壁面の生体鉱物を揺らした。

 共鳴波が空間に広がった。低い——人間の耳にはギリギリ聞こえる——振動。その波が層守護者の最終装甲に到達した瞬間、石板が共振で砕けた。ガラスが超音波で割れるように。

 コアが露出した。

 青く脈動する球体。今までのボスの赤いコアとは違う。青い光が——壁面の生体鉱物と同じ色だった。

「三島くん!」

「了解っす!!!」

 三島の最後の一撃。渾身の。腹の底から搾り出した気合とともに、剣がコアを貫いた。

 青い光が爆発的に膨張し、一瞬で収縮した。層守護者の巨体が崩壊する。六メートルの石造りの巨人が、瓦礫の山に変わった。

 轟音が反響して消えた後——不自然な静寂が降りた。

 【うおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!】

 【十層クリア!!!!!!!!!!!!】

 【十万人超えた!!!!!!!!!!!!!!】

 視聴者数を見た。十万。十万人が、この瞬間を見ていた。

 三島が剣を地面に突き立てて、仰向けに倒れた。汗だくの顔が笑っている。

「先輩……十万人っすよ……十万……」

 十万人。リストラされた元営業マンの配信を、十万人が見ている。

 胸の奥が熱かった。何者にもなれなかった男が——十万人に見守られている。五層クリアの時と同じ感覚だが、桁が違う。桁が違うと、感覚も変わる。これは——重い。嬉しさだけじゃない。十万人の期待の重さが、肩にのしかかっている。

 コメント欄が祝福で埋め尽くされていた。

 【マコト:お前ら最高だ。十の試練を二人で超えた。歴史に残る配信だぞこれ】

 【シロ:サードダンジョン十層、史上最速クリア確定です。記録更新おめでとうございます】

 【ドクター:二人とも無事で何よりだ。水分補給を忘れるなよ】

 水を飲んだ。喉が乾ききっていた。水が体に染み渡る感覚。生きている実感。隣で三島も水筒に口をつけている。二人とも汗だくで、粉塵まみれで、疲労困憊で——だが生きている。

 だが喜びに浸る暇はなかった。

 エリアスキャンが——反応していた。

 鑑定眼鏡のレンズに、点滅する警告のようなデータが表示されている。ボスエリアの北東壁面。通常の鑑定では見えないデータ。エリアスキャンが捉えた——異常値。

 北東壁面の向こうに——ダンジョン管理局のフロアマップに存在しない空間が広がっている。

「三島くん」

「はい?」

「まだ終わってない。この先に——まだ何かある」

 三島が起き上がった。顔の汗を拭い、剣を拾い上げた。疲れ切った体に、もう一度力を込めている。

「行くっすよ。先輩が行くなら、俺も行くっす」

 北東壁面の方向を見た。壁の向こうに——管理局も知らない空間がある。十万人が見ている。配信はまだ続いている。ここから先は——誰も足を踏み入れたことのない領域だ。

 鑑定眼鏡のレンズに、データが静かに明滅していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界配信中。幼馴染みに捨てられた俺に、神々(視聴者)がコメントしてくるんだが。

葉月
ファンタジー
コルネ村で、幼なじみであり恋人でもあったユリアナと、ささやかな幸福を分かち合って生きていたロイド。 だがある日、ユリアナは女神の愛子として目覚め、国王の命により王都へと連れ去られる。 突然、日常を奪われ、運命に引き裂かれたロイドは、抗う術も持たぬまま、否応なく大きな流れへと呑み込まれていく。 これは、奪われたものを取り戻すため、そして理不尽な運命に抗おうとする、一人の少年の物語である。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

「魔神」を拾ったら、なぜか懐かれてトップ配信者に!? 最強の美少女魔神と、巨大すぎるワンコ(フェンリル)と送る、バズりまくりの同

伊部 なら丁
ファンタジー
現代日本、ダンジョン配信全盛期。 視聴者数「0人」が定位置の底辺配信者・ソラは、ある日、ダンジョンの未踏破区域で「人類の天敵」とされる伝説の魔神と遭遇する。 死を覚悟したソラだったが、絶世の美少女の姿をした魔神・ティアグラが興味を示したのは——ソラの持っていた「焼きそばパン」と「スマホ」だった!?

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

殲滅(ジェノサイド)ですわ~~!! ~異世界帰りの庶民派お嬢様、ダンジョン無双配信を始めます~

SAIKAI
ファンタジー
「わたくしの平穏なニート生活を邪魔するゴミは……殲滅(ジェノサイド)ですわ~~!!」  ブラック企業の理不尽な上司に対し、「代わりがいくらでもいるとおっしゃるなら、さっそくその有能な方を召喚なさってはいかが?」と言い残し、颯爽と退職届を置いてきた華園凛音(はなぞのりおん)。  実家で優雅なニート生活を満喫しようとした彼女だったが、あろうことか自宅の裏庭にダンジョンが出現してしまう。 「お庭にゴミを捨てるなんて、育ちが悪くってよ?」  実は彼女、かつて学生時代に異世界に召喚され、数多の魔王軍を「殲滅(ジェノサイド)」してきた伝説の勇者だった。 現代に戻り力を封印していた凛音だが、暇つぶしと「デパ地下のいいケーキ代」を稼ぐため、ホームセンターで購入したお掃除用具(バール)を手に、動画配信プラットフォーム『ToyTube』でのダンジョン配信を決意する!  異世界の常識と現代の価値観がズレたままの凛音がバールを一振りするたび、世界中の視聴者が絶叫し、各国の専門家が物理法則の崩壊に頭を抱え、政府の調査団が土下座で資源を請い願う。  しかし本人はいたって庶民派。 「皆様、スパチャありがとうございますわ! これで今夜は高い方のメンチカツですわ! 最高ですわ~~!!」  これは、本人は至って普通の庶民派お嬢様だと思っているニートが、無自覚に世界ランクをのぼり詰める殲滅の記録。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

{完結保証}規格外の最強皇子、自由に生きて無双する〜どこへ行っても、後世まで語られる偉業を残していく、常識外れの皇子〜

Saioonji
ファンタジー
母に殴られ、命を奪われた――そのはずだった。 だが目を覚ました先は、白く豪奢な王城の一室。 赤子の身体、仕えるメイド、そして“皇子”という立場。 前世では愛されず、名前すら価値を持たなかった少年が、 今度は世界の中心に生まれ落ちてしまった。 記憶を失ったふりをしながら、 静かに、冷静に、この世界を観察する皇子。 しかし彼の中には、すでに常識外れの思考と力が芽生えていた。 ――これは復讐でも、救済でもない。 自由を求めただけの少年が、 やがて国を、歴史を、価値観そのものを揺るがしていく物語。 最強であることすら、彼にとってはただの前提条件だった。 重複投稿作品です 小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。

処理中です...