鏡合わせのミロワール

知己

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プロローグ

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 ————瓦葺かわらぶきの家屋が立ち並ぶ集落が茜色に染まっていた。
 
 しかし、空には墨をこぼしたような漆黒が延々と広がっており、茜色を生み出す夕陽はすでに地平線の彼方へと飲み込まれてしまっていた。
 
 時刻は夜、この世の全てを燃やし尽くさんとする業火が集落を支配下に置く中、付近の森を走る二つの影————。
 
 
 
「————姉上、戻りましょう! 例え敵わずとも父上と母上、里の皆の仇を討たねば日下部家くさかべけの男児としてご先祖様に顔向けが出来ません!」
「…………」
 
 少年は自らの手を引っ張り夜の森を先導する姉に声を掛けたが、姉は無言のまま弟の手をなおも離さず、脚を緩めるどころか益々その速度を早めた。
 
「姉上! 離してください!」
「……駄目よ……!」
 
 再び弟に呼び掛けられた姉は速度を維持したままようやく声を発した。
 
「どうしてです!」
「ここであなたが死んでしまえば日下部家直系の血が途絶えてしまう……! それだけは絶対に避けなければならないわ……!」
「俺が死んでも姉上さえ助かれば————ッ」
 
 その時、二人の行く手を遮るように大きな影が前方に立ち塞がっていた。
 
「くっ!」
「いけません、姉上! そっちは————」
 
 追っ手を回避するため進路を変えた姉だったが、木々を抜けた先には万丈の谷がポッカリと大口を開けて待ち構えていた。崖下には川が流れているものの、簡単に飛び込める高さではない。姉弟きょうだいは崖を背にして振り返った。
 
 木々の間から何か蠢くモノ・・が姿を現す。
 
「……これ以上、逃げることは出来なくなりましたね……!」
 
 弟は冷や汗を流しながらも強いて笑みを浮かべて刀のつかに手を掛けた。しかし山鳥の羽毛を彷彿おもわせる刃紋が露わになったところで、刀身は白魚のような手によって再び鞘へと押し戻された。
 
「姉上……! この期に及んでまだ、俺に皆の仇を討たせてはもらえないのですか……‼︎」
「慌てないで、まずは私が……!」
 
 姉ははやる弟の前に進み出て携えていた薙刀なぎなたを構えると、わずかに振り返り厳しくも愛情に包まれた表情を向けた。
 
「……あなたは必ず生き延びなければいけない。『あの技』を途絶えさせないためにも……!」
「姉上……⁉︎」
 
 姉の言葉に眉を寄せた弟は次の瞬間、信じられないといった表情を浮かべた。
 
「姉上……、どうして————」
 
 薙刀ので胸を押された弟は必死で腕を伸ばしたが、身体を包み込む重力には逆らえず崖下へと姿を消した————。
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