鏡合わせのミロワール

知己

文字の大きさ
4 / 50
第1章 東国の剣士

第3話 『神降ろし』

しおりを挟む
 意外な要求を受けたジャンは大事なことなので、先方に確認を取ることにした。
 
「————つ、つまり俺にアンタの運転手になれって……⁉︎」
「そうだ。俺はその『ばいく』とやらを操れないからな」
「じょ、冗談じゃねえ! 俺のゼフィール号の側車にはな、女の子しか乗せねえんだ! それもとびっきりの可愛い子限定だ!」
「……それが命を救ってもらっておいて礼をするどころか、逃げ出した奴が言うセリフか……⁉︎」
 
 タスクが眉根を寄せてカタナのつかに手を掛けると、ジャンは慌てふためいて手を振った。
 
「わあああっ! よせよせ、暴力反対! 人間らしく平和的に話し合いで解決しようぜ!」
「…………」
 
 ジャンの言葉にタスクはひとまずカタナから手を離した。ジャンはホッと一息ついて口を開く。
 
「————と、とりあえず改めて自己紹介といこうぜ。俺はジャン・ノロ。愛車のゼフィール号で気ままに旅をしてんだ。アンタは?」
「……名はタスク、姓はクサカベ」
「クサカベ……? やっぱ聞きなれねえ名字だな。その片刃剣サムライ・ソードといい、アンタもしかしねえでも東国の人間か……? 確か……『フソウ国』だったっけか?」
「……そうだ」
 
 タスクの返事を聞いたジャンは失礼にもジロジロと相手の顔を見回しながら会話を続ける。
 
「ほーん……。話にゃ聞いてたが、フソウ国のヤツと会ったのは初めてだ。で、その極東のサムライがはるばる西国までやって来て何やってんだ?」
「……人を捜している」
「そういや、さっきそんなこと言ってたな。ああ、つまりその人捜しに俺のゼフィール号をアシに使いてえってことか?」
「そうだ」
「人捜しっつったって、ここは広い広い『ウラジーア大陸』だぜ。何かアテはあんのかい? 例えば何処何処どこどこに住んでるとか、有名なヤツだとか」
「手掛かりは名前だけだ。俺と同じフソウ国の者だが、十年前にこの大陸に渡ったと聞いた」
「……一応、名前を聞いとこうか」
「————キョウカ・クサカベとゼンマ・ツキシロだ……!」
 
 後者の名を発した時、タスクの黒い双眸がより一層漆黒に染まったが、ジャンはその様子に気付かず首を横に振った。
 
わりいけど、全く聞いたことねえなあ」
「…………」
 
 タスクが黙り込む中、ジャンは腕を組んで何やら思案を始める。
 
(……なんだか面倒くせえことになっちまったなあ。目的地が決まってるってんなら送ってってやってもいいが、手掛かりが名前だけって……そんな砂漠の中に隠されたダイヤを探すような茶番に付き合ってらんねえぜ。やっぱ、隙を見てトンズラするのがイチバン————)
「————言っておくが、また逃げ出しても無駄だぞ。シュウがお前を見張っているからな。その『ばいく』の速度ではシュウを振り切れない」
 
 タスクが指差した上空へジャンが視線を向けると、一羽のハヤブサが悠々と旋回しつつも、その鋭い眼光は自分へとロックオンされていた。
 
「……脅迫かよ……! サムライってのは曲がったことはしねえと聞いてたが、どうやらデタラメだったみてえだな……!」
「お前が俺に協力してくれれば、こちらこそ礼はする」
「礼ったってな……」
 
 その時、上空から『ピィィィィィッ!』という警戒音のような鳴き声が響いてきた。
 
「な、なんだ⁉︎ アンタのハヤブサの鳴き声か、今の⁉︎」
「…………」
 
 慌てた様子のジャンとは正反対に無言でタスクがスラリとカタナを抜くと、後方の小高い岩山の陰から黒っぽい何かがのそっと姿を現した。ソレを視界に収めたジャンが眼を見開いて驚愕の声を上げる。
 
「————でっっっっか‼︎ ヤッベエ、大型『晄石獣ジェムート』だ‼︎」
 
 腰を抜かしたジャンが指差した先には、熊に似た一本角の生物がよだれを垂らしながら舌舐めずりしている姿があった。その体高は優に5メートルを超えており、人間の一人や二人などペロリと平らげてしまいそうだった。
 
「グォォォォッ‼︎」
 
 耳をつんざくような咆哮と共に一角熊の鋭い爪が振り下ろされた。タスクは冷静に躱し様に横薙ぎの一閃をカウンターで合わせたが、その剣は針金のような獣毛に阻まれ、わずかな手傷を負わせるのみに留まった。
 
「グルゥゥゥッ……‼︎」
 
 見事な切り返しではあったが、タスクの攻撃は相手を逆上させたに過ぎなかったようだ。一角熊は真っ赤な双眸をますます血走らせた。ジャンはその様子に絶望の表情を浮かべる。
 
「あああ、なんてツイてねえんだ! こんなところで『青角アオヅノ』に遭遇しちまうなんて‼︎」
 
 眼にした者を惹き付ける青く光る角を見せつけるようにして一角熊がズンズンと間合いを詰めてくる。タスクはジャンを守るように前に立つと、手にしたカタナを胸の前で横たえる構えを見せた。
 
「……ジャン。下がっていろ」
「何をする気だよ! いくらお前が強くても、そんなっそい剣じゃアイツの骨にゃ届かねえじゃねえか‼︎」
 
 苛立つジャンの声には応えず、タスクは眼を閉じて何やら唱え始めた。
 
「……オン ベイシラ マンダヤ ソワカ、我が呼び声に応えよ————『毘沙門天ビシャモンテン』……‼︎」
「————うわっ⁉︎」
 
 言葉の終わりと共に凄まじい風圧が巻き起こり、ジャンは反射的に眼を閉じて顔を覆った。
 
「……な、なんだ、今の突風は————⁉︎」
 
 数秒後、風圧が収まり恐る恐る眼を開けたジャンの瞳に映ったのは逆立った赤毛の男の後ろ姿であった。
 
「ア、アンタ……タスク、か……⁉︎」
「下がっていろ」
 
 ジャンに呼び掛けられた赤毛の男は眼前の一角熊から視線を外さず答えた。
 
「グアォォォォッ‼︎」
 
 先ほどの強烈な風圧に脅威を感じたのか、一角熊が両の爪を豪快に振り下ろした。
 
「ヒィィィィッ‼︎」
 
 目の前の地面が小型ミサイルを撃ち込まれたように深く陥没し、ジャンはその衝撃で後方へと吹っ飛ばされた。しかし、一角熊の爪に獲物を引き裂いた感触は残らず、キョロキョロと辺りを見回したその時————、
 
「————こっちだ」
 
 声に反応した一角熊が見上げた先には大上段の構えを取った獲物————タスクの姿があった。
 
 淡い光に包まれたカタナが振り下ろされ、赤髪姿のタスクが着地すると数秒遅れて一角熊が額の青い角の脇から股にかけて真っ二つに斬り裂かれた。『ズウゥゥン』と音を立てて一角熊が左右に倒れると、カタナを鞘に収めてタスクがゆっくりと振り返った。
 
 その双眸は先ほどまでの漆黒とは打って変わって金色こんじきの光を帯びており、面構えもどこか人間離れした荒々しさを漂わせていた。
 
「……な、なんなんだよ、アンタ……、その姿は……⁉︎」
 
 目まぐるしい状況に理解が追いつかない様子のジャンのつぶやきに、タスクは静かに口を開く。
 
「……これは我が一族に代々伝わる一子相伝の戦闘技法————『神降ろし』」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

キメラスキルオンライン 【設定集】

百々 五十六
SF
キメラスキルオンラインの設定や、構想などを保存しておくための設定集。 設定を考えたなら、それを保存しておく必要がある。 ここはそういう場だ。

処理中です...