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第4章 『ミロワ』
第17話 夢路
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~~~~~ 第3章のあらすじ ~~~~~
————タスクの姉と仇を効率よく捜すため、東洋人の『共同体』を当たることを提案するジャン。彼の提案を受け入れたタスクは、エティエンヌの街に姉らしき特徴を持った東洋人の『女晄石狩り』がいるという情報を得るが、その正体は同じ東洋の神州人であった。言葉の行き違いから神州人・リンファと刃を交えることとなったタスクだったが、新たな神を降ろして見事勝利したのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
————東国の山深き地に、白き龍を彷彿とさせる瀑布があった。
滝壺の中心に立つは白装束を身に纏った黒髪の少年。
眼を閉じた少年は左手で印を結び、何やらつぶやき出す。
『……オン ベイシラ マンダヤ ソワカ、我が呼び声に応えよ————『毘沙門天』……‼︎』
カッと眼を見開いた少年の髪がザワザワと逆立ち、にわかに黒から赤へと変色していく。
『……くっ』
しかし十数秒後、少年が呻き声を上げると、燃えるような赤髪が黒々としたものへと戻っていった。
『…………ッ』
納得がいかなかったのか悔しげに水面を叩いた少年は、水面に映った男の顔を恨めしそうに睨みつける。
『……こんな体たらくでは駄目だ。日下部の名を継ぐ者として俺は————』
『————佑、佑!』
その時、背後から誰かが少年の名を呼んだ。鈴を転がすようなその声は瀑布が生み出す自然の轟音にも掻き消されることなく少年の耳に響いた。
『……鏡花姉上。何か御用ですか……?』
佑と呼ばれた少年は素っ気ない態度で答えるが、縁に佇む姉の鏡花は慈愛に満ちた表情を崩さない。
『根を詰め過ぎよ。無茶な鍛錬をして身を崩しては本末転倒というもの。今日はそれくらいにしておきなさい』
『…………』
しかし、佑は姉の優しい言葉には答えず顔を背けたまま話題を変える。
『……聞きました。善磨殿と正式に婚約されたそうですね。おめでとうございます』
祝いの言葉とは裏腹にその声はどこか冷めたものだったが、鏡花は気にする様子もなく微笑を浮かべた。
『ありがとう。でも、すぐにという訳ではないわ。あなたが無事に元服するまでは日下部の家に残るから、焦らなくて大丈夫』
『……では、俺がこのまま——……』
消え入るような声で発せられた佑の言葉は滝の音に飲み込まれた。鏡花は艶のある漆黒の髪を掻き上げながら訊き返す。
『え? なんて言ったの?』
『……なんでもありません。もう少ししたら切り上げます。姉上は先に帰っていてください』
真面目で頑固なところがある弟の性分を鏡花は理解していた。鏡花は苦笑いを浮かべて眼を細める。
『分かったわ。うんと熱いお湯を沸かしておくから、戻ったら風邪を引かないうちに入るのよ?』
『ありがとうございます』
鏡花の気配が充分に遠かったことを確認した佑はうつむいて独りごちる。
『…………俺がこのまま『神降ろし』を会得できなければ、姉上は————ッ』
言葉の途中で佑は自らの頬を強く張った。下卑た思考を浮かべた己を戒めるように————。
◆
「————アニキ、アニキ!」
心配そうな男の声と共に身体を揺さぶられたタスクはガバッと身を起こした。
「わっ! 急に起き上がんなよ! ビックリすんだろ⁉︎」
「…………」
眼を覚ましたタスクはジャンの声には反応せず、ゆっくりと周囲を見渡した。
夜の荒野に焚き火の灯りが映え、ここでようやくエティエンヌの街を出て野営をしていたことが思い出された。
「大丈夫かよー……。メチャクチャうなされてたぜ?」
「…………俺は……」
「あ?」
「……俺は何か、うわごとを言っていなかったか……?」
「ああ、言ってたよ。『姉上、姉上』ってよ」
「————! ……そうか……」
額の汗を拭ってタスクが相槌を打つと、ジャンは焚き火に薪をくべながら尋ねる。
「でも、仇の野郎が出て来る夢なら分かるけどよ、姉ちゃんが出て来てうなされるって……叱られたことでも思い出したのかい?」
「……そんなところだ」
「ふーん……。まあ、いいや。ちょうどそろそろ起こそうと思ってたんだ。俺、寝るから見張り頼んだぜ。ふあーあ……」
「ああ、任せろ」
交代で寝に入ったジャンはほどなくして寝息を立て始めた。その様子を確認したタスクは漆黒の夜空を見上げる。
そこには数多の星々が輝き、見る者全員を等しく照らしている。
(姉上……。きっとこの大陸の何処かで、この星々を眺めていらっしゃいますよね……? 必ず俺が捜し出して差し上げます……!)
タスクは改めて姉・キョウカを見つけ出すことを満天の星々に誓った————。
————タスクの姉と仇を効率よく捜すため、東洋人の『共同体』を当たることを提案するジャン。彼の提案を受け入れたタスクは、エティエンヌの街に姉らしき特徴を持った東洋人の『女晄石狩り』がいるという情報を得るが、その正体は同じ東洋の神州人であった。言葉の行き違いから神州人・リンファと刃を交えることとなったタスクだったが、新たな神を降ろして見事勝利したのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
————東国の山深き地に、白き龍を彷彿とさせる瀑布があった。
滝壺の中心に立つは白装束を身に纏った黒髪の少年。
眼を閉じた少年は左手で印を結び、何やらつぶやき出す。
『……オン ベイシラ マンダヤ ソワカ、我が呼び声に応えよ————『毘沙門天』……‼︎』
カッと眼を見開いた少年の髪がザワザワと逆立ち、にわかに黒から赤へと変色していく。
『……くっ』
しかし十数秒後、少年が呻き声を上げると、燃えるような赤髪が黒々としたものへと戻っていった。
『…………ッ』
納得がいかなかったのか悔しげに水面を叩いた少年は、水面に映った男の顔を恨めしそうに睨みつける。
『……こんな体たらくでは駄目だ。日下部の名を継ぐ者として俺は————』
『————佑、佑!』
その時、背後から誰かが少年の名を呼んだ。鈴を転がすようなその声は瀑布が生み出す自然の轟音にも掻き消されることなく少年の耳に響いた。
『……鏡花姉上。何か御用ですか……?』
佑と呼ばれた少年は素っ気ない態度で答えるが、縁に佇む姉の鏡花は慈愛に満ちた表情を崩さない。
『根を詰め過ぎよ。無茶な鍛錬をして身を崩しては本末転倒というもの。今日はそれくらいにしておきなさい』
『…………』
しかし、佑は姉の優しい言葉には答えず顔を背けたまま話題を変える。
『……聞きました。善磨殿と正式に婚約されたそうですね。おめでとうございます』
祝いの言葉とは裏腹にその声はどこか冷めたものだったが、鏡花は気にする様子もなく微笑を浮かべた。
『ありがとう。でも、すぐにという訳ではないわ。あなたが無事に元服するまでは日下部の家に残るから、焦らなくて大丈夫』
『……では、俺がこのまま——……』
消え入るような声で発せられた佑の言葉は滝の音に飲み込まれた。鏡花は艶のある漆黒の髪を掻き上げながら訊き返す。
『え? なんて言ったの?』
『……なんでもありません。もう少ししたら切り上げます。姉上は先に帰っていてください』
真面目で頑固なところがある弟の性分を鏡花は理解していた。鏡花は苦笑いを浮かべて眼を細める。
『分かったわ。うんと熱いお湯を沸かしておくから、戻ったら風邪を引かないうちに入るのよ?』
『ありがとうございます』
鏡花の気配が充分に遠かったことを確認した佑はうつむいて独りごちる。
『…………俺がこのまま『神降ろし』を会得できなければ、姉上は————ッ』
言葉の途中で佑は自らの頬を強く張った。下卑た思考を浮かべた己を戒めるように————。
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「————アニキ、アニキ!」
心配そうな男の声と共に身体を揺さぶられたタスクはガバッと身を起こした。
「わっ! 急に起き上がんなよ! ビックリすんだろ⁉︎」
「…………」
眼を覚ましたタスクはジャンの声には反応せず、ゆっくりと周囲を見渡した。
夜の荒野に焚き火の灯りが映え、ここでようやくエティエンヌの街を出て野営をしていたことが思い出された。
「大丈夫かよー……。メチャクチャうなされてたぜ?」
「…………俺は……」
「あ?」
「……俺は何か、うわごとを言っていなかったか……?」
「ああ、言ってたよ。『姉上、姉上』ってよ」
「————! ……そうか……」
額の汗を拭ってタスクが相槌を打つと、ジャンは焚き火に薪をくべながら尋ねる。
「でも、仇の野郎が出て来る夢なら分かるけどよ、姉ちゃんが出て来てうなされるって……叱られたことでも思い出したのかい?」
「……そんなところだ」
「ふーん……。まあ、いいや。ちょうどそろそろ起こそうと思ってたんだ。俺、寝るから見張り頼んだぜ。ふあーあ……」
「ああ、任せろ」
交代で寝に入ったジャンはほどなくして寝息を立て始めた。その様子を確認したタスクは漆黒の夜空を見上げる。
そこには数多の星々が輝き、見る者全員を等しく照らしている。
(姉上……。きっとこの大陸の何処かで、この星々を眺めていらっしゃいますよね……? 必ず俺が捜し出して差し上げます……!)
タスクは改めて姉・キョウカを見つけ出すことを満天の星々に誓った————。
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