10 / 122
第三章
『鏢局荒らし(一)』
しおりを挟む
拓飛と凰華が麓の町に着いた時には、すっかり日が暮れて夜になっていた。
「すっかり遅くなっちゃったね」
明るく話しかける凰華だったが、その顔には疲労感が漂っている。
「そうだな。今日はもう宿を探すか」
「賛成!」
拓飛のこの言葉を待っていた凰華は両手を叩いて大喜びだ。
ほどなくして一軒の旅籠が見つかり、中に入ると番頭が笑みを浮かべて二人を迎え入れた。
「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」
「二人だ。部屋は別々にしてくれ」
拓飛と凰華の姿を見た番頭の顔からみるみる笑顔が消えてゆき、不審気な表情に変わった。
「失礼ですが、お客様方はどのようなご関係で?」
「えっと、あたしたちは……」
凰華が答えようとするが、拓飛が身体を入れてその言葉を遮った。
「兄妹だ」
番頭はますます訝しげな表情になり、拓飛と凰華の顔を代わる代わる見比べる。歳の頃は近そうだが、男の方は白髪赤眼で凶悪そうな面構え。女は黒髪黒眼で、全く血の繋がりがあるようには見えない。
全然似ていない兄妹もいないことは無いだろうが、本当の兄妹ならば部屋を別々でというのもおかしい。
「カネは先に払うぜ」
言うなり拓飛は懐から銀錠を取り出すと、受付へ乱暴に置いた。番頭は銀の輝きを眼にすると再び笑顔に戻り、
「これは失礼致しました! お部屋をご案内致します。ささ、こちらへどうぞ!」
旅慣れた拓飛はカネは口より物を言うことを知っていた。
「ねえ、何で拓飛とあたしが兄妹なの?」
凰華が後ろから小声で話しかける。
「おめえ、さっきバカ正直に全部話そうとしたろ? んなことしたら怪しまれるだけだぜ」
「でも拓飛とあたしじゃ全然兄妹に見えないと思うけど」
「いーんだよ別に」
そうこうしている内に旅籠の一番奥から二部屋を案内された。
「じゃあな、明日の朝まで入って来るんじゃねえぞ」
「うん、おやすみ。お兄ちゃん!」
「けっ!」
嫌そうな顔をして拓飛は乱暴に扉を閉めた。凰華が自分の部屋に入ると、中には粗末な卓と椅子が二つと、硬そうな寝台と窓があるだけの殺風景なものである。
「ふう……」
凰華は水を一杯飲んで一息ついた。
今日も色々なことがあった。生まれて初めて故郷を離れて旅に出て、妖怪と闘った。自分の力では退治できなかったが、拓飛が助けてくれて、同行の許可を得た。
拓飛にまで思いを馳せると凰華は急に不安を覚え、拓飛の部屋の前まで行き、様子を窺った。部屋の中からは物音一つ聞こえない。扉に耳を当ててみるが、やはり無音である。眠っているだけならいいが、別れ際の一言が気になった凰華は扉を開いた。
「拓飛!」
部屋に入ってみると、拓飛は寝台の上で眼をつむって座禅を組んでいた。
「……入って来んなって言っただろ」
「ご、ごめん拓飛。あたし、てっきり……」
「今さら逃げねえよ。いいから早く出てけ」
拓飛が行っているのは代表的な内功の修錬法であった。全身に氣を巡らし内功を高めるものである。この時は精神を統一し、無心で行わなければならない。もし、精神が乱れ氣が逆流すると心身を痛めることもあった。このことを父親から聞いていた凰華は静かに扉を閉め、心の中で拓飛に詫びた。
「すっかり遅くなっちゃったね」
明るく話しかける凰華だったが、その顔には疲労感が漂っている。
「そうだな。今日はもう宿を探すか」
「賛成!」
拓飛のこの言葉を待っていた凰華は両手を叩いて大喜びだ。
ほどなくして一軒の旅籠が見つかり、中に入ると番頭が笑みを浮かべて二人を迎え入れた。
「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」
「二人だ。部屋は別々にしてくれ」
拓飛と凰華の姿を見た番頭の顔からみるみる笑顔が消えてゆき、不審気な表情に変わった。
「失礼ですが、お客様方はどのようなご関係で?」
「えっと、あたしたちは……」
凰華が答えようとするが、拓飛が身体を入れてその言葉を遮った。
「兄妹だ」
番頭はますます訝しげな表情になり、拓飛と凰華の顔を代わる代わる見比べる。歳の頃は近そうだが、男の方は白髪赤眼で凶悪そうな面構え。女は黒髪黒眼で、全く血の繋がりがあるようには見えない。
全然似ていない兄妹もいないことは無いだろうが、本当の兄妹ならば部屋を別々でというのもおかしい。
「カネは先に払うぜ」
言うなり拓飛は懐から銀錠を取り出すと、受付へ乱暴に置いた。番頭は銀の輝きを眼にすると再び笑顔に戻り、
「これは失礼致しました! お部屋をご案内致します。ささ、こちらへどうぞ!」
旅慣れた拓飛はカネは口より物を言うことを知っていた。
「ねえ、何で拓飛とあたしが兄妹なの?」
凰華が後ろから小声で話しかける。
「おめえ、さっきバカ正直に全部話そうとしたろ? んなことしたら怪しまれるだけだぜ」
「でも拓飛とあたしじゃ全然兄妹に見えないと思うけど」
「いーんだよ別に」
そうこうしている内に旅籠の一番奥から二部屋を案内された。
「じゃあな、明日の朝まで入って来るんじゃねえぞ」
「うん、おやすみ。お兄ちゃん!」
「けっ!」
嫌そうな顔をして拓飛は乱暴に扉を閉めた。凰華が自分の部屋に入ると、中には粗末な卓と椅子が二つと、硬そうな寝台と窓があるだけの殺風景なものである。
「ふう……」
凰華は水を一杯飲んで一息ついた。
今日も色々なことがあった。生まれて初めて故郷を離れて旅に出て、妖怪と闘った。自分の力では退治できなかったが、拓飛が助けてくれて、同行の許可を得た。
拓飛にまで思いを馳せると凰華は急に不安を覚え、拓飛の部屋の前まで行き、様子を窺った。部屋の中からは物音一つ聞こえない。扉に耳を当ててみるが、やはり無音である。眠っているだけならいいが、別れ際の一言が気になった凰華は扉を開いた。
「拓飛!」
部屋に入ってみると、拓飛は寝台の上で眼をつむって座禅を組んでいた。
「……入って来んなって言っただろ」
「ご、ごめん拓飛。あたし、てっきり……」
「今さら逃げねえよ。いいから早く出てけ」
拓飛が行っているのは代表的な内功の修錬法であった。全身に氣を巡らし内功を高めるものである。この時は精神を統一し、無心で行わなければならない。もし、精神が乱れ氣が逆流すると心身を痛めることもあった。このことを父親から聞いていた凰華は静かに扉を閉め、心の中で拓飛に詫びた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる