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第五章
『変面(二)』
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夕刻、拓飛と凰華は張豊貴の屋敷にやって来た。今回は玄関から堂々と入っていく。
「おお、先生! よくぞ参られた!」
張豊貴は嬉しそうに拓飛を迎え入れる。
「この者らをご自由にお使い下され」
広間には十数名の男たちが整列している。男たちは張豊貴が新たに雇った用心棒のようだ。だが拓飛は男たちに見向きもしない。
「猴野郎は俺がぶっ倒す。手助けなんぞいらねえから、すっこんでろ」
「それは心強い。それでは頼みますぞ、先生」
拓飛の腕前を知っている張豊貴は敢えて反論しない。
「おめえもだ、凰華。邪魔すんじゃねえぞ」
「分かったわよ。でも、拓飛の戦い方を観ててもいいでしょ?」
「好きにしろ」
その時、広間の扉が開き、張豊貴の使用人が慌てて駆け込んで来た。
「旦那様! 奴が…… 斉天大聖が現れました!」
その声を聞くや否や、拓飛は飛ぶように外へ飛び出していった。凰華や用心棒たちが急いで後へ続くが、張豊貴はお宝を奪われることを警戒しているのか、あるいは走れないのか、追ってくる様子はない。
凰華が屋敷の外に出ると、中庭で二つの影が激しく交差している。拓飛と猿猴面の男・斉天大聖だ。
斉天大聖は拓飛の猛攻に押され受けに回っており、拓飛の中段突きが胸に迫るが寸前でとんぼ返りして距離を取った。
「どうしたよ? 今日は調子悪いんじゃねえのか?」
拓飛は挑発するように斉天大聖に手招きする。だが斉天大聖は突如跳躍し、屋敷の屋根の上に着地すると、そのまま駆け出した。
「あっ! 逃げる気よ、追いかけて拓飛!」
「逃すかよ、猴野郎!」
凰華の声と同時に拓飛が斉天大聖の後を追う。しかし予想に反して、斉天大聖は屋根の上を二、三棟走ると足を止めた。
「んだよ? 逃げるのは諦めんのか?」
呆気にとられた拓飛が話しかけると、斉天大聖はゆっくりと振り返った。
「……別に逃げたんちゃうで」
仮面越しではあるが、その声は間違いなく朝市で会った男のものであった。
「やっぱおめえか。逃げたんじゃなけりゃ、なんだってんだよ?」
「暴れ虎を檻におびき寄せたんや」
拓飛はハッとして足元を見た。逃げる獲物を追いかける虎よろしく何も考えずに追いかけてしまったが、どうやら足元が不安定な屋根の上に誘導されたらしい。
「お前の技は震脚が肝やろ。威力半減やな」
斉天大聖の読みは当たっていた。足元が不安定な場所での鍛錬もしてはいるが、しっかりと踏み込みができなければ拓飛の技の威力は失われてしまう。しかし、いつもの調子で踏み込めば、瓦ごと屋根を踏み抜いてしまうだろう。
「……ふーん」
拓飛は少し考えるそぶりを見せると、脚を開いて左拳を足元に向けて構えた。
「おい? 何やってんねん?」
「ハッ!」
撃ち出された拓飛の左拳によって、雷が落ちたような轟音と共に屋根が梁ごと吹き飛んだ。斉天大聖は慌てて隣の棟へ飛び移る。
「お前えっ! 何考えとんねん! 他人様の家やぞ!」
斉天大聖は泥棒とは思えない台詞を、一緒に飛び移って来た拓飛に言い放った。
「知るかよ。俺んちじゃねえし。修理代は全部てめえに押し付けてやるぜ」
拓飛の鋭い眼光が斉天大聖を捉える。このまま屋根の上で闘おうとしても目の前の虎は乗り移る屋根を全て壊してしまうだろう。
「……暴れ虎やな。ホンマに……!」
斉天大聖の仮面の下で冷や汗が流れ落ちた。
「おお、先生! よくぞ参られた!」
張豊貴は嬉しそうに拓飛を迎え入れる。
「この者らをご自由にお使い下され」
広間には十数名の男たちが整列している。男たちは張豊貴が新たに雇った用心棒のようだ。だが拓飛は男たちに見向きもしない。
「猴野郎は俺がぶっ倒す。手助けなんぞいらねえから、すっこんでろ」
「それは心強い。それでは頼みますぞ、先生」
拓飛の腕前を知っている張豊貴は敢えて反論しない。
「おめえもだ、凰華。邪魔すんじゃねえぞ」
「分かったわよ。でも、拓飛の戦い方を観ててもいいでしょ?」
「好きにしろ」
その時、広間の扉が開き、張豊貴の使用人が慌てて駆け込んで来た。
「旦那様! 奴が…… 斉天大聖が現れました!」
その声を聞くや否や、拓飛は飛ぶように外へ飛び出していった。凰華や用心棒たちが急いで後へ続くが、張豊貴はお宝を奪われることを警戒しているのか、あるいは走れないのか、追ってくる様子はない。
凰華が屋敷の外に出ると、中庭で二つの影が激しく交差している。拓飛と猿猴面の男・斉天大聖だ。
斉天大聖は拓飛の猛攻に押され受けに回っており、拓飛の中段突きが胸に迫るが寸前でとんぼ返りして距離を取った。
「どうしたよ? 今日は調子悪いんじゃねえのか?」
拓飛は挑発するように斉天大聖に手招きする。だが斉天大聖は突如跳躍し、屋敷の屋根の上に着地すると、そのまま駆け出した。
「あっ! 逃げる気よ、追いかけて拓飛!」
「逃すかよ、猴野郎!」
凰華の声と同時に拓飛が斉天大聖の後を追う。しかし予想に反して、斉天大聖は屋根の上を二、三棟走ると足を止めた。
「んだよ? 逃げるのは諦めんのか?」
呆気にとられた拓飛が話しかけると、斉天大聖はゆっくりと振り返った。
「……別に逃げたんちゃうで」
仮面越しではあるが、その声は間違いなく朝市で会った男のものであった。
「やっぱおめえか。逃げたんじゃなけりゃ、なんだってんだよ?」
「暴れ虎を檻におびき寄せたんや」
拓飛はハッとして足元を見た。逃げる獲物を追いかける虎よろしく何も考えずに追いかけてしまったが、どうやら足元が不安定な屋根の上に誘導されたらしい。
「お前の技は震脚が肝やろ。威力半減やな」
斉天大聖の読みは当たっていた。足元が不安定な場所での鍛錬もしてはいるが、しっかりと踏み込みができなければ拓飛の技の威力は失われてしまう。しかし、いつもの調子で踏み込めば、瓦ごと屋根を踏み抜いてしまうだろう。
「……ふーん」
拓飛は少し考えるそぶりを見せると、脚を開いて左拳を足元に向けて構えた。
「おい? 何やってんねん?」
「ハッ!」
撃ち出された拓飛の左拳によって、雷が落ちたような轟音と共に屋根が梁ごと吹き飛んだ。斉天大聖は慌てて隣の棟へ飛び移る。
「お前えっ! 何考えとんねん! 他人様の家やぞ!」
斉天大聖は泥棒とは思えない台詞を、一緒に飛び移って来た拓飛に言い放った。
「知るかよ。俺んちじゃねえし。修理代は全部てめえに押し付けてやるぜ」
拓飛の鋭い眼光が斉天大聖を捉える。このまま屋根の上で闘おうとしても目の前の虎は乗り移る屋根を全て壊してしまうだろう。
「……暴れ虎やな。ホンマに……!」
斉天大聖の仮面の下で冷や汗が流れ落ちた。
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