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第7章 魔王
02 ゼドン
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「ああ。つまり心で話して奮起させればいいんだよな」
でかい目だなとシャリーナの見開いた目を見て内心で苦笑したハンス。
「ま、まあ、そうだけど……。どうやって?」
ハンスを見るシャリーナ。
「俺が直接ミュゼリアに触れれられれば可能だと思う」
「直接触れる……、あっ、それって?」
「ああ。俺の家計は思念話ができる。ただ相手に触れてないとできないし家族間でないとできない。つまり今は俺とミュゼリアの間でしか使えん」
「でも使えるのね。……いけるかもしれないわね」
「ああ、たぶんな。でも、あいつが……。……ミュゼリアからゼドンが離れてくれたらな……」
ハンスがミュゼリアの頭の上で腕組みをして立っているゼドンを睨む。
「なあ、コースケ砲でなんとかならんか?」
ベルクリットが横目でシャリーナを見た。
「コースケ砲で……。うん、いいわねそれ。ダーリンやってみて。契約の紋章があるかどうかも知りたいし」
「そんな簡単に……」
「できるわよきっと。ね」
「頼む、やってくれコースケ」
とベルクリット。
「うーんできるかなあ。、でも、やってみます、やってみるけど、ミュゼには当てたくないし…」
と迷う功助。
「ならさ…」
功助はシャリーナのアドバイスとおりに右腕を上げるとその人差し指を黒い鱗に覆われたゼドンの腹部に向ける。するとその指先が白く輝く。指先には功助の体内魔力が集約し爆発的な魔力砲として打ち出される。
「発射!」
指先から放たれた魔力砲は真っすぐにゼドンの腹に向かって行く。
「ん?あの魔力砲はやっかいだな。仕方ない」
功助の魔力砲に気づいたゼドンはそう呟くとミュゼリアの頭部から跳躍した。
「あっ、やっぱり…。契約の紋章ねあれは」
ゼドンがミュゼリアの頭から離れるとそこにはあのフログスに刻まれたのと同じ契約の紋章が描かれていた。
「許さないんだから!」
シャリーナは目を吊り上げてゼドンを睨んだ。
「ダーリン!もっとゼドンをミュゼちゃんから離して!」
「了解!連発だ!」
空中に舞い上がったゼドンは再びミュゼリアの頭部に着地しようとしたが功助は魔力砲を連射しそれを阻止する。
ズババババババババババ!
超高速のマシンガンのように魔力砲を指先から連続射出する。
「ミュゼの頭にはもう戻さない!」
功助の攻撃はどんどんとゼドンをミュゼリアから遠ざける。憎々し気に功助を見るゼドン。
それを見てシャリーナが大声で命令する。
「魔法師隊、ゼドンを一斉攻撃!撃てぇぇぇぇっ!」
四大元素を基とする攻撃魔法がゼドンに集中砲火を浴びせる。
二十人もの精鋭の魔法師隊の攻撃にさしものゼドンもたまらず障壁を張る。
「今だベルクリット大将、竜化してミュゼリアの動きを止めてくれ!俺はミュゼリアに話しかける!」
功助の攻撃でミュゼリアからゼドンが離れたこのチャンスにハンスが叫んだ。
「よし、わかった!青の騎士団、総員竜化せよ!そしてミュゼリアの動きを止めろ!」
ミュゼリアを取り囲み攻撃をしていた青の騎士団の総員十名が白い光に包まれると十メートルの青い竜たちへと変じた。
暴れまわるシッポを止め両側からその翼の動きを止める。ミュゼリアに十頭もの竜が覆いかぶさりその動きを止める。
「ふふふふふ」
魔法師隊の攻撃をその堅固な障壁で防いでいるゼドンだったが、ミュゼリアを力づくで抑え込んでいる竜たちを見てニヤリと笑む。
そしてベルクリットも竜化しハンスをそのまずるに乗せミュゼリアの顔に近づける。
「今助けてやるからなミュゼリア!」
今ミュゼリアの頭に飛び移ろうとした時。
「暴れろ」
ゼドンが呟いた。
「ウギャワアアアアア!」
その言葉にミュゼリアの目が真っ赤に光ったかと思えばその身体から凄まじい威力の黒い靄が暴風のように噴き出した。
「グワルルルルルル!」「ガウウウウウウ!」
ミュゼリアを抑え込んでいた青い竜たちが四方に弾き飛ばされた。
「うおあああああああ!」
まさに飛び移ろうとしていたハンスはまるで大砲から飛び出した鉄の球のごとく吹き飛ばされ白竜城に向かって飛んで行く。
だが、白竜城の壁に激突する寸前、ハンスはくるっと反転、壁を蹴ると地面に着地した。
「大丈夫ですかハンス副団長!」
その声がした方に顔を上げると、そこには窓から顔を出し心配そうにハンスを見ているシオンベールがいた。
「姫様……?はい、問題ないです。それよりもそこにおられると危険です。ただちに避難してください」
ハンスはそう言うと戦場に向き駆けだそうとした時。
「ハンス副団長」
「はい」
振り向き上を向いてシオンベールを見る。
「ミュゼリアを助けてあげてください」
「姫様……。わかってますよ、俺の大事な妹だ」
「はい。そして私の大切な戦友です」
二人はニコリと笑む。
「それでは行ってまいります」
「はい。ご武運を」
戦場に駆けだしたハンスを見つめるシオンベール。
「姫様。ハンス副団長のおっしゃるとおりです。さあ、避難いたしましょう」
ライラが促すがシオンベールは去っていくハンスとその向こうで暴れているミュゼリアを睨むように見ている。
「ええ。でも……」
そして少し離れたところで魔法攻撃を浴びているゼドンと必死に戦っている魔法師隊と功助を見つめた。
「(さて、どうするか……)」
駆けながら前を見ると黒い靄を出しながら狂ったように暴れている我が妹のミュゼリアを観て歯噛みする。
青い竜たちは何度もミュゼリアに覆いかぶさったり両側から抑え込もうとしているがその力はとても強く、おまけにブレスや水魔法を使い青い竜たちを攻撃している。
「(ベルクに乗せてもらって近づくのも難しそうだ。ならばどうする……?)」
一旦停まると戦場をよく見た。
ゼドンはコースケのおかげでかなり離れたところにまで遠ざかっている。ミュゼリアは竜たちが抑え込もうとしている。ゼドンとミュゼリアの距離、およそ200メートル。
「よしっ!……悪いなミュゼリア、今からお前を行動不能にする。安心しろ、あとで文句は聞いてやる」
ハンスは再び駆け出した。そして駆けながら竜化すると翼を拡げ空に舞い上がった。
「ハンス……、何をする気だお前……」
竜化を解除し人化したベルクリットは上空を飛んできたハンスを仰ぎ見て眉間を寄せた。
ハンスはミュゼリアの上空をゆっくりと一回りすると背後から気づかれないように近づいた。
「ガルルゥゥ!」
一声合図すると青い竜たちが一斉に後方に飛び退いた。
なんとハンスは口を大きく開けるとミュゼリアの背に向けて赤いブレスを吐き出した。
「ギャワアアアア!」
ハンスのブレスはミュゼリアの背に当たるとまたたくまに全身を包み込んだ。炎に包まれるミュゼリア。
「ギャワワワァァァ!ギュワワワワワァァァァ!」
身体の火を消そうと地面を転がるミュゼリア。
それを呆然と見ている青い竜たち。
そして、ハンスは空中に静止しのたうち回る自分の妹を見つめていた。
ゴロゴロと転がり火を消すミュゼリア。数回転がると纏わりついていた炎を消したが身体を大きく揺らし息を切らしている。
そして、その時ハンスはミュゼリアの背後から覆いかぶさるように両手両足と翼を使い抱き着いたのだった。
急に背後から抱き着かれミュゼリアはもがき逃れようとする。だがハンスは全身を使いその動きを静止しようとしている。長い首もミュゼリアの首に巻き付け必死に動きを止める。
『ミュゼリア!目を覚ませ!ミュゼリア!いつもの優しいお前に戻るんだ!ミュゼリア!ミュゼリア!』
ハンスはミュゼリアにしがみつきながら何度も何度も念話を行使する。
だがその時ふと違和感を感じた。
『(な、なんだこの魔力は……。ミュゼリアの体内魔力が……)』
疑問を浮かべかけたその時。
『う、ううっ……』
ミュゼリアの唸り声が聞こえた。
『ミュゼリア!目を覚ませ!ミュゼリア!答えろミュゼリア!』
何度か声をかけるとミュゼリアの動きは緩やかになり停まる。
『……だ……れ……?』
「おっ!よしっ!ミュゼリア、俺だ!ハンスだ!お前の兄のハンスだ!しっかりしろミュゼリア!』
『……兄……、ハンス……。あ、……ああ……、お兄……ちゃん…』
『そうだ!俺だ、お前のお兄ちゃんだ!ミュゼリア!」
『な、なんでお兄ちゃんが……。それより私、どうしちゃったの……、ああ、ううっ……』
『しっかりしろミュゼリア。お前はいまゼドンの契約の紋章で操られているんだ!いいかミュゼリア、そんな契約の紋章に負けるな!自分を強く持て!ゼドンなんかに屈するな!』
『うぅ…っ!あ、あああああ!』
ミュゼリアは自分の置かれた状況を確かめようとしているようだ。だが契約の紋章はそれを許さない。
『ミュゼリア!しっかりしろ!お前の愛するベルクリットも、お前の専属主のコースケもお前のことを心配している!ミュゼリア、契約の紋章なんかに惑わされるな!』
『……ベルクリット様……、コースケ様……。そうだ、私、戻らないと…みんなのところに……!』
ミュゼリアの人竜球の色が徐々に薄れて行く。
「よしっ!人竜球の色が戻っていくぞ!」
拳を握りミュゼリアとハンスを見ているベルクリットが歓喜の声をあげる。
だが……、
「ほお、あれはおそらく精神感応系の魔法か。少しやっかいだが…。問題ない」
ゼドンはパチンと指を鳴らした。
『ううっうわああああああ!』
『どうした!どうしたミュゼリア!』
『い、いやあああああ!助けてええええ!おにいちゃーん!ベルクリット様ぁ!コースケ様ぁ!』
『ミュゼリア!うわあああああ!』
そして、ミュゼリアの思念が乱れた。
「ウギャワアアアアア!」
突然ミュゼリアが苦悩の咆哮とともに暴れその身体から黒くまがまがしい靄を噴き出した。それにより抱き着いていたハンスが後方に大きく弾き飛ばされたのだった。
「邪魔だな」
ゼドンは魔法師隊の攻撃を障壁で受けながらその右手を弾き飛ばされたハンスに向ける。そして掌から赤い火炎球を放つ。
「ギャワアアアアアア!」
その炎の球はハンスに当たると瞬く間に全身に広がった。のたうちまわり暴れるハンス。
「ハンスウウウウ!」
燃え上がるハンスを見て絶叫するベルクリット。
「魔法師隊!ゼドンに最大攻撃開始!」
地面に落ちたハンスを見てシャリーナは魔法師隊にゼドンの攻撃を命令する。
「ダーリン!……あれ?」
功助にハンスの救助を頼もうとしたシャリーナだが、そこにはもう功助の姿はなかった。ハンスの方を見ると水魔法で身体の炎を消している功助がいた。
「ハンスさん!今助けます!」
水魔法で炎を消した功助はうめき声をあげている竜化したままのハンスに近づき両の掌を向け白い治癒の光を放った。
みるみる癒されるハンスの身体。そして青い鱗に輝きが戻るとその長い首を持ち上げた。そして功助を見たかと思えば白い光を出して元の人の姿に戻った。
「すまないコースケ。助かった」
「いえ。でも……」
そう言ってミュゼリアの方を見ると再び兵士たちがミュゼリアに剣を向けて突撃していた。
「ああ。もう少しでミュゼリアの意識が戻ったんだがな。……くそっ、ゼドンの野郎!」
悔しそうにミュゼリアとゼドンを睨みつける。
ベルクリットたちのところに戻る二人。
「シャリーナさん、他に、他に手段はないんですか!ミュゼを助ける手段は!」
「う、うん。あとは、ゼドンを倒すしか……」
「へ?……そうか、ゼドンを倒せばいいんですね」
そういうと功助はゼドンの方に向かい歩き始めた。
「ちょっ、ちょっとダーリン、もしかして一人でゼドンを倒す気?」
「へ、はい。行ってきます」
「ちょっと待ったぁ!」
とシャリーナは功助の腕を持って引き留める。
「はい?」
「正気なの?ゼドンはね一人で相手できるような敵じゃないの!今この大陸にいる竜族と魔法師が全員で一斉攻撃しても偶然が重なっても勝てるかどうかわからないような相手なの!一人で言ったら……死ぬから!」
「わかってますよ。でも行かないとミュゼが」
功助はシャリーナの制止を振り切る。
「でも、でも!」
「俺ってけっこう魔力量あるんですよね。ゼドンになんか負けませんから。シャリーナさん、頑張ってって送り出してくださいよ」
「ダーリン……」
「それじゃ行ってきます」
功助がゼドンの方を見る。
「ま、待って、せめて、せめて少しでも落ちた体力を戻させて」
そういうとシャリーナは体力回復の魔法を功助に放つ。薄いオレンジ色の光が功助を包む。
「あれ?疲れてなかったと思ったんだけどけっこう気持ちいいですねこれ」
とシャリーナに礼を言う。
「そうよね。ダーリンの魔力量は桁違いですものね。もしかしたらダーリンならゼドンに打ち勝てるかもしれないわ。でも、無理だと思ったらどんな手を使ってでも戻ってきて。絶対に死なないで」
「わかってますよ。もしそうなったらどんな汚い手を使ってでも逃げてきますから」
「うん」
「それじゃ行ってきます!」
「ダーリン……、頑張って!」
「はい」
功助は足に力を込めるとゼドンに向かって走った。
それを見送ったハンスとベルクリット。
「ベルク、とにかくミュゼリアを抑え込んであいつの体力と魔力を使わせるんだ。疲れさせれば再び接触念話をする」
「わかった」
そういうと二人はミュゼリアの方に走って行った。
功助は速度を緩め真下に着くと魔法師隊の攻撃をいなしているゼドンを見上げた。それに気づきゼドンも地上にいる功助を見る。
功助はおもむろに右腕をゼドンに向けると俊二にコースケ砲を放った。一瞬驚くが少し横にずれるとゼドンの真横をコースケ砲は直進していった。
「なかなかの魔力砲だ」
「褒めてくれてありがたいが、あと3秒だ」
「何?」
「3、2、1」
功助が秒読みする。
「ゼロ」
「うがっ!」
カウントがゼロになった瞬間ゼドンの背中に何かがぶち当たった。通り過ぎたはずのコースケ砲がぶち当たったのだった。
「な、なんだと!かわしたはずだが…」
背後から魔力砲が当たったことにゼドンは驚愕した。だがそれだけだった。
「き、貴様。小癪な真似を」
そう言って煙の上がった背中をチラッと見た。そして黒い靄が群がり背中の傷は瞬く間に治癒する。
「ふふふ。よかろう。お前の相手をしてやる」
ゼドンはそういうとゆっくりと降下し功助と対峙した。
「魔法師隊攻撃中止!そしてまだ生き残ってるザコの魔物たちを討伐して!」
「はい!」
魔法師隊からの返事を聴き頷くと功助とゼドンの対峙に視線を移す。
「シャリーナ隊長……」
「ラナーシア、あんたはミュゼちゃんを止めてきて」
「……隊長……、はい、了解しました。カレット班!ミュゼリアを止める、私に続け!」
ラナーシアは振り向くとカレット率いる五人を連れてミュゼリアに向かった。
「ダーリン……」
功助とゼドンを見つめるシャリーナ。
「なあゼドン。お前はなぜここを、白竜城を襲いにきた!?」
「ん?なぜだと?教えてほしいのか?よかろう」
そう言ってゼドンは話始めた。
「俺達魔族はこれまでもこの世界に繁栄してきた文明を滅亡させてきた。それは、面白いからだ」
「面白いだと……」
功助は眉間を寄せる。
「汗を流し作り上げた世界を滅亡させられる時のあの絶望の表情。なんとも美味ではないか。苦しみもがき、恐怖に震える姿を診るだけで心が躍る。どうだ、楽しいだろう?くくくくく」
「き、貴様……」
強く手を握りしめる功助。
「それにこの世界の者は魔法を使える。魔法は本来魔族のもの、汚らわしい獣の竜やなんの価値もない人族に使えてはならぬものだ。だがこの世界は魔力が満ちている。気に食わん。滅亡に値する世界だ」
「……」
ゼドンが何を言っているのかわからずとまどう功助。
「だから数十年ほど前からゆっくりと世界を滅亡させる準備をしてきた。そして、今日から本格的に滅亡へと誘うのだ」
「……させない」
「ん?なにか言ったか?」
「そんなことはさせない!
ゼドンを睨む功助。
「多くの人たちが生きているこの世界を、お前なんかに滅ぼさせない!」
「ふーむ。生きている…か。たかだか数十年から数百年存在するだけで生きているとはな。片腹痛いわ。俺たち魔族は数十万年から数百万年存在している。これを生きているというのだ。俺達にとって貴様らの生など瞬きする時間以下なのだ」
「お、お前……。時の長さなど関係ない。たとえお前らにとって瞬きする程の時間以下しか存在していなくても生きているんだ。それを……!」
目を吊り上げる功助。
「何を激怒している。こんな程度の世界などまたすぐに湧いて出てくる。気にするな」
「き、貴様!命をなんだと思ってる!」
「ん?ゴミと同じだろう」
そういうとニやりと笑んだ。
「許さない。俺はお前を倒す!」
そう言うと戦闘の構えをとる。
「ふむ。もしかしてダンニンやデイコックを倒しただけで俺に勝てるとでも?」
「……」
睨む功助。
「だがな、お前らは殺したと思ってるあいつらは魔界にいるぞ。あれごときでは死なん。まあ、一度消滅しているから今は核の状態だがな。あとたった千年もすれば復活する」
「ちっ!死なないのかあいつらも。もしかしてお前も…」
「ああ。俺は死なん。だがもし俺が死ねば魔界が消える。しかし数十万年後には俺も魔界もまた復活する」
「くそっ、なんてことだ。もしお前を殺しても無駄なのか……」
「俺たち魔族は永久に存在する」
「でも、でもお前を倒せば数十万年だけでも平和な世界が続くということだよな」
「……、何が言いたい?」
「数十万年でも平和な世界が続くなら……。ゼドン、お前を、倒す!」
構えた拳を強く握った。
「いくぞ!」
功助はゼドンまでの距離を一気につめるとその顔面に拳を叩きつける。
だがゼドンはそれを避けようともせず左頬で受けた。
「うっ!」
腕を引く功助。拳には鈍い痛みが走る。
「なんだその拳は?それで殴ったのか?」
「く、くそっ!それならこれはどうだ!」
今度功助は拳に魔力を集めると再びゼドンに拳を叩きつける。
「うおわっ!」
今度ゼドンはその拳に数メートル吹っ飛んだ。だが倒れもせず地面に降り立った。
「ほお、まあまあ効いたぞ。少し痛かったが、少し痛かっただけだ」
ゼドンは今度は俺から行くぞと俊二に功助の間合いに入るとその顔面に拳を見舞う。
「うっ!」
功助はとっさに腕をクロスして受けたがそのまま後に吹っ飛ばされゴロゴロと地面を転がった。
「くそっ、なんて重い拳だ。受けた腕が痺れてる」
そう言って腕を摩りながら起き上がった。
「ほお、あれを受けたか。それではもう少し力を出さんといかんな。……50パーセントでいいだろう」
再び一瞬で功助の間合いに入ると今度は目に見えないほどの速度で功助の左顔面を殴った。
「うがっ!」
横に飛んで行き地面にぶつかると地面をえぐりながら転がった。濛々とあがる土煙の中功助は歯噛みする。
「いっ痛ぇ…。くそっ、脳がシェイクされたみたいだ」
頬を抑える功助。口の端から血が流れ出た。
「ぺっ!」
その血を吐き出すとゆっくりと立ち上がる。
「ほお、なかなか頑丈だなその身体」
「……行くぞゼドン!」
功助は体内魔力を上げるとゼドンの間合いに潜り込みその顎に掌底を見舞う。
「うぐっ!」
身体を浮かばされそのまま後方に飛ばされ地面に頭をぶつけるゼドン。
「うぐっ。……なかなかやるではないか。面白くなりそうだ」
ゼドンは起き上がるとうれしそうに功助を見た。
そして再び戦いの構えをとる功助。ゼドンもうれしそうに構えをとる。
一拍後、二人は同時に地を蹴った。
「……す、すごい……」
今の攻防を見て唸るシャリーナ。
「それにしてもすごい衝撃波だわ……。200メムは離れてるのに……。ほんと、なんて力なのあの二人。何気なくやってるけど一つ一つの拳は一軒家くらいの大岩なら粉々にするくらいの威力があるわよ……。桁違いっていうより、次元が違うわよ……」
「おいシャリーナ隊長、聞きたいことがある!」
呆然と立ちすくんでいるシャリーナにハンスが近寄り声をかけた。
でかい目だなとシャリーナの見開いた目を見て内心で苦笑したハンス。
「ま、まあ、そうだけど……。どうやって?」
ハンスを見るシャリーナ。
「俺が直接ミュゼリアに触れれられれば可能だと思う」
「直接触れる……、あっ、それって?」
「ああ。俺の家計は思念話ができる。ただ相手に触れてないとできないし家族間でないとできない。つまり今は俺とミュゼリアの間でしか使えん」
「でも使えるのね。……いけるかもしれないわね」
「ああ、たぶんな。でも、あいつが……。……ミュゼリアからゼドンが離れてくれたらな……」
ハンスがミュゼリアの頭の上で腕組みをして立っているゼドンを睨む。
「なあ、コースケ砲でなんとかならんか?」
ベルクリットが横目でシャリーナを見た。
「コースケ砲で……。うん、いいわねそれ。ダーリンやってみて。契約の紋章があるかどうかも知りたいし」
「そんな簡単に……」
「できるわよきっと。ね」
「頼む、やってくれコースケ」
とベルクリット。
「うーんできるかなあ。、でも、やってみます、やってみるけど、ミュゼには当てたくないし…」
と迷う功助。
「ならさ…」
功助はシャリーナのアドバイスとおりに右腕を上げるとその人差し指を黒い鱗に覆われたゼドンの腹部に向ける。するとその指先が白く輝く。指先には功助の体内魔力が集約し爆発的な魔力砲として打ち出される。
「発射!」
指先から放たれた魔力砲は真っすぐにゼドンの腹に向かって行く。
「ん?あの魔力砲はやっかいだな。仕方ない」
功助の魔力砲に気づいたゼドンはそう呟くとミュゼリアの頭部から跳躍した。
「あっ、やっぱり…。契約の紋章ねあれは」
ゼドンがミュゼリアの頭から離れるとそこにはあのフログスに刻まれたのと同じ契約の紋章が描かれていた。
「許さないんだから!」
シャリーナは目を吊り上げてゼドンを睨んだ。
「ダーリン!もっとゼドンをミュゼちゃんから離して!」
「了解!連発だ!」
空中に舞い上がったゼドンは再びミュゼリアの頭部に着地しようとしたが功助は魔力砲を連射しそれを阻止する。
ズババババババババババ!
超高速のマシンガンのように魔力砲を指先から連続射出する。
「ミュゼの頭にはもう戻さない!」
功助の攻撃はどんどんとゼドンをミュゼリアから遠ざける。憎々し気に功助を見るゼドン。
それを見てシャリーナが大声で命令する。
「魔法師隊、ゼドンを一斉攻撃!撃てぇぇぇぇっ!」
四大元素を基とする攻撃魔法がゼドンに集中砲火を浴びせる。
二十人もの精鋭の魔法師隊の攻撃にさしものゼドンもたまらず障壁を張る。
「今だベルクリット大将、竜化してミュゼリアの動きを止めてくれ!俺はミュゼリアに話しかける!」
功助の攻撃でミュゼリアからゼドンが離れたこのチャンスにハンスが叫んだ。
「よし、わかった!青の騎士団、総員竜化せよ!そしてミュゼリアの動きを止めろ!」
ミュゼリアを取り囲み攻撃をしていた青の騎士団の総員十名が白い光に包まれると十メートルの青い竜たちへと変じた。
暴れまわるシッポを止め両側からその翼の動きを止める。ミュゼリアに十頭もの竜が覆いかぶさりその動きを止める。
「ふふふふふ」
魔法師隊の攻撃をその堅固な障壁で防いでいるゼドンだったが、ミュゼリアを力づくで抑え込んでいる竜たちを見てニヤリと笑む。
そしてベルクリットも竜化しハンスをそのまずるに乗せミュゼリアの顔に近づける。
「今助けてやるからなミュゼリア!」
今ミュゼリアの頭に飛び移ろうとした時。
「暴れろ」
ゼドンが呟いた。
「ウギャワアアアアア!」
その言葉にミュゼリアの目が真っ赤に光ったかと思えばその身体から凄まじい威力の黒い靄が暴風のように噴き出した。
「グワルルルルルル!」「ガウウウウウウ!」
ミュゼリアを抑え込んでいた青い竜たちが四方に弾き飛ばされた。
「うおあああああああ!」
まさに飛び移ろうとしていたハンスはまるで大砲から飛び出した鉄の球のごとく吹き飛ばされ白竜城に向かって飛んで行く。
だが、白竜城の壁に激突する寸前、ハンスはくるっと反転、壁を蹴ると地面に着地した。
「大丈夫ですかハンス副団長!」
その声がした方に顔を上げると、そこには窓から顔を出し心配そうにハンスを見ているシオンベールがいた。
「姫様……?はい、問題ないです。それよりもそこにおられると危険です。ただちに避難してください」
ハンスはそう言うと戦場に向き駆けだそうとした時。
「ハンス副団長」
「はい」
振り向き上を向いてシオンベールを見る。
「ミュゼリアを助けてあげてください」
「姫様……。わかってますよ、俺の大事な妹だ」
「はい。そして私の大切な戦友です」
二人はニコリと笑む。
「それでは行ってまいります」
「はい。ご武運を」
戦場に駆けだしたハンスを見つめるシオンベール。
「姫様。ハンス副団長のおっしゃるとおりです。さあ、避難いたしましょう」
ライラが促すがシオンベールは去っていくハンスとその向こうで暴れているミュゼリアを睨むように見ている。
「ええ。でも……」
そして少し離れたところで魔法攻撃を浴びているゼドンと必死に戦っている魔法師隊と功助を見つめた。
「(さて、どうするか……)」
駆けながら前を見ると黒い靄を出しながら狂ったように暴れている我が妹のミュゼリアを観て歯噛みする。
青い竜たちは何度もミュゼリアに覆いかぶさったり両側から抑え込もうとしているがその力はとても強く、おまけにブレスや水魔法を使い青い竜たちを攻撃している。
「(ベルクに乗せてもらって近づくのも難しそうだ。ならばどうする……?)」
一旦停まると戦場をよく見た。
ゼドンはコースケのおかげでかなり離れたところにまで遠ざかっている。ミュゼリアは竜たちが抑え込もうとしている。ゼドンとミュゼリアの距離、およそ200メートル。
「よしっ!……悪いなミュゼリア、今からお前を行動不能にする。安心しろ、あとで文句は聞いてやる」
ハンスは再び駆け出した。そして駆けながら竜化すると翼を拡げ空に舞い上がった。
「ハンス……、何をする気だお前……」
竜化を解除し人化したベルクリットは上空を飛んできたハンスを仰ぎ見て眉間を寄せた。
ハンスはミュゼリアの上空をゆっくりと一回りすると背後から気づかれないように近づいた。
「ガルルゥゥ!」
一声合図すると青い竜たちが一斉に後方に飛び退いた。
なんとハンスは口を大きく開けるとミュゼリアの背に向けて赤いブレスを吐き出した。
「ギャワアアアア!」
ハンスのブレスはミュゼリアの背に当たるとまたたくまに全身を包み込んだ。炎に包まれるミュゼリア。
「ギャワワワァァァ!ギュワワワワワァァァァ!」
身体の火を消そうと地面を転がるミュゼリア。
それを呆然と見ている青い竜たち。
そして、ハンスは空中に静止しのたうち回る自分の妹を見つめていた。
ゴロゴロと転がり火を消すミュゼリア。数回転がると纏わりついていた炎を消したが身体を大きく揺らし息を切らしている。
そして、その時ハンスはミュゼリアの背後から覆いかぶさるように両手両足と翼を使い抱き着いたのだった。
急に背後から抱き着かれミュゼリアはもがき逃れようとする。だがハンスは全身を使いその動きを静止しようとしている。長い首もミュゼリアの首に巻き付け必死に動きを止める。
『ミュゼリア!目を覚ませ!ミュゼリア!いつもの優しいお前に戻るんだ!ミュゼリア!ミュゼリア!』
ハンスはミュゼリアにしがみつきながら何度も何度も念話を行使する。
だがその時ふと違和感を感じた。
『(な、なんだこの魔力は……。ミュゼリアの体内魔力が……)』
疑問を浮かべかけたその時。
『う、ううっ……』
ミュゼリアの唸り声が聞こえた。
『ミュゼリア!目を覚ませ!ミュゼリア!答えろミュゼリア!』
何度か声をかけるとミュゼリアの動きは緩やかになり停まる。
『……だ……れ……?』
「おっ!よしっ!ミュゼリア、俺だ!ハンスだ!お前の兄のハンスだ!しっかりしろミュゼリア!』
『……兄……、ハンス……。あ、……ああ……、お兄……ちゃん…』
『そうだ!俺だ、お前のお兄ちゃんだ!ミュゼリア!」
『な、なんでお兄ちゃんが……。それより私、どうしちゃったの……、ああ、ううっ……』
『しっかりしろミュゼリア。お前はいまゼドンの契約の紋章で操られているんだ!いいかミュゼリア、そんな契約の紋章に負けるな!自分を強く持て!ゼドンなんかに屈するな!』
『うぅ…っ!あ、あああああ!』
ミュゼリアは自分の置かれた状況を確かめようとしているようだ。だが契約の紋章はそれを許さない。
『ミュゼリア!しっかりしろ!お前の愛するベルクリットも、お前の専属主のコースケもお前のことを心配している!ミュゼリア、契約の紋章なんかに惑わされるな!』
『……ベルクリット様……、コースケ様……。そうだ、私、戻らないと…みんなのところに……!』
ミュゼリアの人竜球の色が徐々に薄れて行く。
「よしっ!人竜球の色が戻っていくぞ!」
拳を握りミュゼリアとハンスを見ているベルクリットが歓喜の声をあげる。
だが……、
「ほお、あれはおそらく精神感応系の魔法か。少しやっかいだが…。問題ない」
ゼドンはパチンと指を鳴らした。
『ううっうわああああああ!』
『どうした!どうしたミュゼリア!』
『い、いやあああああ!助けてええええ!おにいちゃーん!ベルクリット様ぁ!コースケ様ぁ!』
『ミュゼリア!うわあああああ!』
そして、ミュゼリアの思念が乱れた。
「ウギャワアアアアア!」
突然ミュゼリアが苦悩の咆哮とともに暴れその身体から黒くまがまがしい靄を噴き出した。それにより抱き着いていたハンスが後方に大きく弾き飛ばされたのだった。
「邪魔だな」
ゼドンは魔法師隊の攻撃を障壁で受けながらその右手を弾き飛ばされたハンスに向ける。そして掌から赤い火炎球を放つ。
「ギャワアアアアアア!」
その炎の球はハンスに当たると瞬く間に全身に広がった。のたうちまわり暴れるハンス。
「ハンスウウウウ!」
燃え上がるハンスを見て絶叫するベルクリット。
「魔法師隊!ゼドンに最大攻撃開始!」
地面に落ちたハンスを見てシャリーナは魔法師隊にゼドンの攻撃を命令する。
「ダーリン!……あれ?」
功助にハンスの救助を頼もうとしたシャリーナだが、そこにはもう功助の姿はなかった。ハンスの方を見ると水魔法で身体の炎を消している功助がいた。
「ハンスさん!今助けます!」
水魔法で炎を消した功助はうめき声をあげている竜化したままのハンスに近づき両の掌を向け白い治癒の光を放った。
みるみる癒されるハンスの身体。そして青い鱗に輝きが戻るとその長い首を持ち上げた。そして功助を見たかと思えば白い光を出して元の人の姿に戻った。
「すまないコースケ。助かった」
「いえ。でも……」
そう言ってミュゼリアの方を見ると再び兵士たちがミュゼリアに剣を向けて突撃していた。
「ああ。もう少しでミュゼリアの意識が戻ったんだがな。……くそっ、ゼドンの野郎!」
悔しそうにミュゼリアとゼドンを睨みつける。
ベルクリットたちのところに戻る二人。
「シャリーナさん、他に、他に手段はないんですか!ミュゼを助ける手段は!」
「う、うん。あとは、ゼドンを倒すしか……」
「へ?……そうか、ゼドンを倒せばいいんですね」
そういうと功助はゼドンの方に向かい歩き始めた。
「ちょっ、ちょっとダーリン、もしかして一人でゼドンを倒す気?」
「へ、はい。行ってきます」
「ちょっと待ったぁ!」
とシャリーナは功助の腕を持って引き留める。
「はい?」
「正気なの?ゼドンはね一人で相手できるような敵じゃないの!今この大陸にいる竜族と魔法師が全員で一斉攻撃しても偶然が重なっても勝てるかどうかわからないような相手なの!一人で言ったら……死ぬから!」
「わかってますよ。でも行かないとミュゼが」
功助はシャリーナの制止を振り切る。
「でも、でも!」
「俺ってけっこう魔力量あるんですよね。ゼドンになんか負けませんから。シャリーナさん、頑張ってって送り出してくださいよ」
「ダーリン……」
「それじゃ行ってきます」
功助がゼドンの方を見る。
「ま、待って、せめて、せめて少しでも落ちた体力を戻させて」
そういうとシャリーナは体力回復の魔法を功助に放つ。薄いオレンジ色の光が功助を包む。
「あれ?疲れてなかったと思ったんだけどけっこう気持ちいいですねこれ」
とシャリーナに礼を言う。
「そうよね。ダーリンの魔力量は桁違いですものね。もしかしたらダーリンならゼドンに打ち勝てるかもしれないわ。でも、無理だと思ったらどんな手を使ってでも戻ってきて。絶対に死なないで」
「わかってますよ。もしそうなったらどんな汚い手を使ってでも逃げてきますから」
「うん」
「それじゃ行ってきます!」
「ダーリン……、頑張って!」
「はい」
功助は足に力を込めるとゼドンに向かって走った。
それを見送ったハンスとベルクリット。
「ベルク、とにかくミュゼリアを抑え込んであいつの体力と魔力を使わせるんだ。疲れさせれば再び接触念話をする」
「わかった」
そういうと二人はミュゼリアの方に走って行った。
功助は速度を緩め真下に着くと魔法師隊の攻撃をいなしているゼドンを見上げた。それに気づきゼドンも地上にいる功助を見る。
功助はおもむろに右腕をゼドンに向けると俊二にコースケ砲を放った。一瞬驚くが少し横にずれるとゼドンの真横をコースケ砲は直進していった。
「なかなかの魔力砲だ」
「褒めてくれてありがたいが、あと3秒だ」
「何?」
「3、2、1」
功助が秒読みする。
「ゼロ」
「うがっ!」
カウントがゼロになった瞬間ゼドンの背中に何かがぶち当たった。通り過ぎたはずのコースケ砲がぶち当たったのだった。
「な、なんだと!かわしたはずだが…」
背後から魔力砲が当たったことにゼドンは驚愕した。だがそれだけだった。
「き、貴様。小癪な真似を」
そう言って煙の上がった背中をチラッと見た。そして黒い靄が群がり背中の傷は瞬く間に治癒する。
「ふふふ。よかろう。お前の相手をしてやる」
ゼドンはそういうとゆっくりと降下し功助と対峙した。
「魔法師隊攻撃中止!そしてまだ生き残ってるザコの魔物たちを討伐して!」
「はい!」
魔法師隊からの返事を聴き頷くと功助とゼドンの対峙に視線を移す。
「シャリーナ隊長……」
「ラナーシア、あんたはミュゼちゃんを止めてきて」
「……隊長……、はい、了解しました。カレット班!ミュゼリアを止める、私に続け!」
ラナーシアは振り向くとカレット率いる五人を連れてミュゼリアに向かった。
「ダーリン……」
功助とゼドンを見つめるシャリーナ。
「なあゼドン。お前はなぜここを、白竜城を襲いにきた!?」
「ん?なぜだと?教えてほしいのか?よかろう」
そう言ってゼドンは話始めた。
「俺達魔族はこれまでもこの世界に繁栄してきた文明を滅亡させてきた。それは、面白いからだ」
「面白いだと……」
功助は眉間を寄せる。
「汗を流し作り上げた世界を滅亡させられる時のあの絶望の表情。なんとも美味ではないか。苦しみもがき、恐怖に震える姿を診るだけで心が躍る。どうだ、楽しいだろう?くくくくく」
「き、貴様……」
強く手を握りしめる功助。
「それにこの世界の者は魔法を使える。魔法は本来魔族のもの、汚らわしい獣の竜やなんの価値もない人族に使えてはならぬものだ。だがこの世界は魔力が満ちている。気に食わん。滅亡に値する世界だ」
「……」
ゼドンが何を言っているのかわからずとまどう功助。
「だから数十年ほど前からゆっくりと世界を滅亡させる準備をしてきた。そして、今日から本格的に滅亡へと誘うのだ」
「……させない」
「ん?なにか言ったか?」
「そんなことはさせない!
ゼドンを睨む功助。
「多くの人たちが生きているこの世界を、お前なんかに滅ぼさせない!」
「ふーむ。生きている…か。たかだか数十年から数百年存在するだけで生きているとはな。片腹痛いわ。俺たち魔族は数十万年から数百万年存在している。これを生きているというのだ。俺達にとって貴様らの生など瞬きする時間以下なのだ」
「お、お前……。時の長さなど関係ない。たとえお前らにとって瞬きする程の時間以下しか存在していなくても生きているんだ。それを……!」
目を吊り上げる功助。
「何を激怒している。こんな程度の世界などまたすぐに湧いて出てくる。気にするな」
「き、貴様!命をなんだと思ってる!」
「ん?ゴミと同じだろう」
そういうとニやりと笑んだ。
「許さない。俺はお前を倒す!」
そう言うと戦闘の構えをとる。
「ふむ。もしかしてダンニンやデイコックを倒しただけで俺に勝てるとでも?」
「……」
睨む功助。
「だがな、お前らは殺したと思ってるあいつらは魔界にいるぞ。あれごときでは死なん。まあ、一度消滅しているから今は核の状態だがな。あとたった千年もすれば復活する」
「ちっ!死なないのかあいつらも。もしかしてお前も…」
「ああ。俺は死なん。だがもし俺が死ねば魔界が消える。しかし数十万年後には俺も魔界もまた復活する」
「くそっ、なんてことだ。もしお前を殺しても無駄なのか……」
「俺たち魔族は永久に存在する」
「でも、でもお前を倒せば数十万年だけでも平和な世界が続くということだよな」
「……、何が言いたい?」
「数十万年でも平和な世界が続くなら……。ゼドン、お前を、倒す!」
構えた拳を強く握った。
「いくぞ!」
功助はゼドンまでの距離を一気につめるとその顔面に拳を叩きつける。
だがゼドンはそれを避けようともせず左頬で受けた。
「うっ!」
腕を引く功助。拳には鈍い痛みが走る。
「なんだその拳は?それで殴ったのか?」
「く、くそっ!それならこれはどうだ!」
今度功助は拳に魔力を集めると再びゼドンに拳を叩きつける。
「うおわっ!」
今度ゼドンはその拳に数メートル吹っ飛んだ。だが倒れもせず地面に降り立った。
「ほお、まあまあ効いたぞ。少し痛かったが、少し痛かっただけだ」
ゼドンは今度は俺から行くぞと俊二に功助の間合いに入るとその顔面に拳を見舞う。
「うっ!」
功助はとっさに腕をクロスして受けたがそのまま後に吹っ飛ばされゴロゴロと地面を転がった。
「くそっ、なんて重い拳だ。受けた腕が痺れてる」
そう言って腕を摩りながら起き上がった。
「ほお、あれを受けたか。それではもう少し力を出さんといかんな。……50パーセントでいいだろう」
再び一瞬で功助の間合いに入ると今度は目に見えないほどの速度で功助の左顔面を殴った。
「うがっ!」
横に飛んで行き地面にぶつかると地面をえぐりながら転がった。濛々とあがる土煙の中功助は歯噛みする。
「いっ痛ぇ…。くそっ、脳がシェイクされたみたいだ」
頬を抑える功助。口の端から血が流れ出た。
「ぺっ!」
その血を吐き出すとゆっくりと立ち上がる。
「ほお、なかなか頑丈だなその身体」
「……行くぞゼドン!」
功助は体内魔力を上げるとゼドンの間合いに潜り込みその顎に掌底を見舞う。
「うぐっ!」
身体を浮かばされそのまま後方に飛ばされ地面に頭をぶつけるゼドン。
「うぐっ。……なかなかやるではないか。面白くなりそうだ」
ゼドンは起き上がるとうれしそうに功助を見た。
そして再び戦いの構えをとる功助。ゼドンもうれしそうに構えをとる。
一拍後、二人は同時に地を蹴った。
「……す、すごい……」
今の攻防を見て唸るシャリーナ。
「それにしてもすごい衝撃波だわ……。200メムは離れてるのに……。ほんと、なんて力なのあの二人。何気なくやってるけど一つ一つの拳は一軒家くらいの大岩なら粉々にするくらいの威力があるわよ……。桁違いっていうより、次元が違うわよ……」
「おいシャリーナ隊長、聞きたいことがある!」
呆然と立ちすくんでいるシャリーナにハンスが近寄り声をかけた。
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