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番外編
05.5 閑話
しおりを挟むこれは「05 岬のカモメ亭」と「06 フログスの目覚め」の間のエピソード。
「それではコースケ様、先に休ませていただきます」
「うん。今日もありがとうミュゼ。明日もよろしく」
「はい。でも、あまり遅くまでお勉強されませんよう」
「わかってるよ」
魔法師隊の臨時隊長に就任しデスクワークをすることになった功助だが、まだまだこちらの世界の文字を覚えられていない。なのでミュゼリアに教えてもらいつつ就寝前には時々自習をしている。
「ホントですよ、ご無理なさらないでくださいね。それではコースケ様、おやすみなさい。また明日よろしくお願いいたします」
「うん。お休み。明日もよろしく」
「はい。では、失礼します」
ペコリと頭を下げて功助の部屋を退室するミュゼリア。
時間はもう少しで22時になろうとしている。
「うぅん!」
ググッと伸びをするともう少し勉強するかとあまり使うことのない大きなデスクに向かった。
そして、30分ほどたったころだろうか、部屋の窓をコンコンと叩く音に気付きそちらを向いた。
「ん?なんだ?何かいるのかな?」
功助はデスクから立つと窓際に歩いていく。そして窓の外を見た功助は素っ頓狂な声を出してしまった。
「ふぇ?あれ?えっ?あれ?えっ?なんで?」
窓の外には見知った顔が浮かんでいた。
「な、なんでゼフじいさんが?」
窓の外でニカッと笑うのは、有翼人で庭師のゼフだった。
「どうしたんですゼフじいさん」
功助は窓を開けるとパタパタと背中の羽根をはばたかせてホバリングしているゼフを部屋に招き入れた。
「うひひ、いやな、そろそろええんちゃうかと思てな。迎えに来たでコースケはん」
部屋の中に入ったゼフは功助の肩をポンと叩くとニヤリとする。
「迎えに?って俺を?……で、どこに?」
意味もわからずいまだプチパニックの功助。
「もう、かなんなあ。言うたやんか今度一緒に行こうなって」
「一緒に?どこに?……って、もしかして……」
一歩後退る功助。
「グフフフフ。もうええ時間やで。さ、行こか。なあに、大丈夫や、もうミュゼ嬢の部屋も灯りは消えたし、他に起きてるんは警邏の騎士や兵士らやし、それにワシと一緒やと見逃してくれはるモンばっかりやし。大丈夫や。秘密は守ってくれはるさかい。さ、行こ行こ」
「でも、俺としては、ちょっと……」
「まあまあ、そんなことはええさかい、な。そや、金はあるんやろ?」
「ま、まあ、ありますけど……」
チラッと普段あまり使わない大きな机の上を見る功助。
「ん?あれか。よっしゃ持って行こ」
ゼフは机に近づくとその金の入った袋を持ち上げると功助に手渡した。
「で、でも……」
「ほら、それ持って行くで。さ、早よいくらか持ちや」
で、でも……」
「もう、しゃあないな。グズグズしてたらどんどん時間は過ぎてくで。ほら!」
ゼフは功助に手渡した袋の中から銀貨や金貨を何枚も取り出すと功助の服のポケットにねじ込んだ。
「えと……。あっ?ちょ、ちょっと……」
「行くで」
グイグイとさっき入ってきた窓まで功助の手を引っ張るゼフ。
「えっ、いや、でも、俺、行くとは……」
「かまへんかまへん。さ、行くで!」
「いや、かまへんと言われても……。わ、うわっ!」
功助の腕を持ったまま窓の外に飛び出すゼフ。そして……。
「うわああああ!」
「ちょっと、静かにせなあかんでコースケはん。寝てはる人を起こしてしまうやんか」
苦笑するゼフ。
「で、でも……これは……」
優雅に背中の羽をはばたかせて飛ぶゼフ。その右手は功助の右手首を握り飛んでいる。だがかなりの高齢に見えるが功助の手首を握る手はゆるむことなくしっかりと握っている。
「あのゼフじいさん。できれば左手も持っていただける方がいいんですけど、今のこの格好じゃちょっと右手が痛くてですね……」
「ん?ああ、わかっとるわかっとる。もうすぐ降ろすさかい我慢しといてくれはるか」
そして間もなく裏門にある詰所の光が見えてきた。
「降りるで」
ゼフは門の前まで飛ぶとゆっくりと降下し着地した。
「ほら、行くで」
ゼフは功助の手を離すとテクテクと城門の真ん中を堂々と超えていく。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよゼフじいさん」
「何ボヤボヤしてるんや。早よ来なあかんでコースケはん」
ガハハと笑いまた前を向いて歩きだした。そして後を追いかける功助。
城門の左右で見張りをしている兵士たちが「お早いお帰りを」と言いながらクスクスわらっていた。そして一人、鎧の男はなぜか敬礼をしていた。
「こっちやでコースケはん。こっちの道や。あ、そっちはこないだ来た中央公園や」
「えっ、あ、はい。でも、本当に行くんですか?」
「ここまで着て行かへんなんちゅうたらわし泣くで。ぐわっはっは」
バシバシと功助の肩を叩くゼフ。
「は、はあ……。いいのかなあ……行っても……。なんか罪悪感と言うか……、後ろめたいと言うか……」
「何言うてんねん。もしかしてシオン嬢やミュゼ嬢のこと気にしてるんか?大丈夫や。そやから根性決めんかい!ついてるもんはちゃんとついてんねんろ?それとも、使いモンにならんくらいのモンしか持ってへんのんか?ん?」
「あは……、あはは。いや、そういうわけじゃ……。ま、まあ、俺だって男だし、こういう店には興味はあるけど……」
「ほんならええやんか。さ、行こか」
ゼフは高笑いをするとさっさと魔石灯煌めく花街通りに入って行った。
「へえ、けっこうにぎわってるんだ」
色鮮やかな魔石灯は昼間のように通りを照らし、客引きの男は大きな声で呼び込みをしている。その呼び込みの横には寒くないのかと心配させるような薄着の女が艶めかしい視線を欲望満ちる男たちに向けている。
「どやコースケはん、ええ感じやろ?でもな、今から行くんはこんなガラの悪いとことちゃうねんで。ええか、そこに行くまで呼び込みや色っぽい姉ちゃんに引っ張られんようにな。ほんであんまりジロジロ見てたらあかんで。無効はプロやさかい客の視線には敏感なんやからな」
「あ、は、はい……」
と言われても功助のその目は色っぽい女たちの身体をチラチラ見ていた。
「あらお兄さん。どうだいアタシに決めちゃいな」「どうですぅこのおっぱい、大きいのがお好きだろぉ」「素敵な殿方だねえ。寄ってってよぉ」「お兄さぁん、○○○○に元気な×××を△△て濃い◇ー◇◇出したくないかいぃ~」
あっという間に通りの両側から功助に声をかける色街の女たち。
「お~お。下品な女やなあ。コースケはん、あんなんに捕まったらあかんで。さ、早よ行くで」
「あっ、はい」
「待ってよぉお兄さんたちぃ!うちで遊んでってよぉ」
超爆乳のダークエルフがゼフの腕にその胸を押し付けてどうにかして自分の店に引き込もうとする。
「悪いなべっぴんのダークエルフの姉ちゃん。ワシらは’パラダイスヘヴン’に行くとこなんや」
「えっ!あ、あ、あそこにかい?ま、まあ……それじゃしょうがないね。……無事に帰っておいでよね」
ゼフの腕を離すダークエルフ。
「パ……、パラダイスヘヴン……かい……」「またあそこか……」「このお兄さんたち……、大丈夫……?」「あそこには逆らえ……、いや、なんでもない……」
周りにいた女たちはゆっくりと二人から後退る。
「(ん?なんだろう……)」
功助は女たちの気の毒そうな表情に内心で首を傾げた。
「ねえゼフじいさん」
「なんや?」
「今から行く店はパラダイスヘヴンっていうんですよね」
「そや。ええ店やで。ちゅうても、もう3年ほど行ってへんねんけどな」
「そうですか。さっきの女の人たちの様子がちょっと気になったんですけど」
「うーん。そやな……。もしかしたらオーナーが代わったんかもしれへんけど、まあ、そないに変わったりはせえへんで、たぶん」
とゼフ。功助は一抹の不安を持ったままゼフのあとを着いていった。
「ほら見えたで。あれや、あれが今晩の目的地’パラダイスヘヴン’や」
角を曲がると五階建ての立派な石造りの娼館が現れた。
「あれですか、立派な館ですね」
「そやろ。この城下一の娼館やさかいな」
きらびやかな魔石灯に照らされたその娼館は位闇の中堂々とそびえ建っていた。
「よっしゃ、今晩は頑張る……、ん……?」
急にゼフの歩調が遅くなり立ち止まってしまった。
「どうしたんですかゼフじいさん?」
「……なあコースケはん……。あれ、診てみ」
「はい?あれ……ですか?……ん……?」
店の前では客引きの男が前を通る男を見せに引き込もうとしている。
「客引きしてますね」
「ああ。でもな、あれってちょっと強引ちゃうか?」
よく見ると客の腕を強引につかみ力づくで店内に連れ込もうとしている。
「ちょっと強引かなとは思いますが。ここまで来る途中の娼館もみんなおんなじようなことしてたみたいですけど」
元の世界では通行人を強引に引き込む行為は禁止されているが、こちらの世界では腕や肩を引っ張る程度のことは普通にしている。さすがに強引に店内に連れ込む店は無いがあの店は少し強引過ぎるように見えた。
「いや、ちゃうねん。あの店はな、ああいうことはせぇへん店やったんや。あんな強引な客引きなんかせぇへん優良店やったんやけどな……。やっぱりそうなんか……」
「やっぱり?」
「あ、ああ。いやな……」
「で、どうします?」
「コースケはん。話があるんやけど」
「はい?」
ゼフは功助を道の端に連れていくと何やら話をし始めた。
「わかりましたゼフじいさん。言う通りにしますよ。で、どうします?」
「うーん、そやな……。まあ、行ってみるか。大丈夫やろ、たぶん」
「……たぶんですか。でも、ぼったくりされたらどうしましょう?」
「まあ、そん時はそん時や。さ、行こか」
再び歩き出したゼフ。功助も不安の中ゼフの後に続いた。
「いらっしゃい。おっ、じいさん、うちに入ってくれるのか?いいねいいね。じいさん、今日はいい娘ばっかりだぜ。より取り見取りだ。さあさあ、入ってくれ。おっと、そっちの兄ちゃんも入った入った」
「おいおい。そんなに押しなさんな。接客の悪い呼び込みやなほんま」
ブツブツと文句を言うゼフだが呼び込みの男は知らん顔。
「まあまあ、スッキリしていってくれよじいさん」
何も言わず店の前に立った二人を呼び込みの男が二人の背中をグイグイと押して店内に押し込んだのだった。
薄暗い店内に入る二人。
「なんか陰気臭いな。雰囲気はあんまり無いしただ暗いだけやないか」
周囲をキョロキョロ見渡すゼフは以前よりかなり見劣りのする店内を見渡して小さくため息をついた。
「まあまあ気にしなさんなじいさん。ただいま改装中だ、すまねえな。おい!お客だ、お連れしろ!」
「へへへ。すいやせん。さあお客さん、こっちに来てくだせぇ」
ボーイらしき目つきのあまりよろしくない男が廊下の先に二人を案内する。そして突き当りのドアの前に立つとポケットから鍵を取り出し開錠しそのドアノブをゆっくりと回した。
「へへ、どうぞ入ってくだせえ」
「(なんで鍵なんかかけてるんだ?)」
功助がいぶかしそうにするが気づいてない男は鍵をポケットに突っ込んだ。
ゆっくりと開かれるドア。その先には何人もの女たちが無言で立ちゼフと功助を出迎えた。
「どうですかい?みんないい女たちですぜ。左が一番安い娘でして、銀貨1枚。右側になればなるほどだんだんと料金は高くなって一番右側の女は金貨1枚となってやす。どれでもお好きなのを選んでくだせえ。まあ、何人でもいいですぜ」
揉み手をしながらニヤニヤ笑うボーイ。
「そやな……」
女は全員で7人。種族もバラバラで、しかし全員美しい容姿をしている。安いと言われた一番左側は猫の獣人。そして一番高いと言われた右端の女はダークエルフだった。
女たちはみんな首に赤く細いチョーカーをしている。そして7人全員表情はなんとなく硬く化粧で隠してはいるが、なんとなく顔色も優れないように見えた。ただ一番右端の女はキッと二人をにらみつけていた。
「コースケはん、誰にする?」
「えと……。ゼフじいさんはもう決まってるんですか?」
「ああ。ワシは左から三番目の有翼人でええかな」
「ほほお、やっぱり同族がお好みかじいさん。それにじいさんあんた熟女好きだな。くくく。いい趣味してるねえ。それにあれはテクニシャンだからな、満足するぜじいさん」
にやにやするボーイ。
「……そやろそやろ」
ジロッとボーイを見て腕組みするゼフ。
「で、兄さんあんたはどれにする?」
「うーん、そうだな」
相変わらず無表情で立っている女たちを見る功助。そして一人の女と目が合った。
「それじゃ一番右端のダークエルフの人で」
「ほほお。いいねいいねいいじゃねえか兄ちゃん。うちの一番だぜあのダークエルフはよ」
うひひひといやらしく笑うボーイ。
話を聞いている女たち。その中で二人に選ばれた有翼の女は目を潤ませ小刻みに身体を震わせている。そして功助の選んだダークエルフは小さく唇を噛んでいた。
「それじゃ前金で。じいさんは銀貨2枚、兄ちゃんは金貨1枚だ」
「わかった。ほら銀貨2枚や」
ゼフは懐から財布を取り出すと銀貨2枚をボーイに渡した。
「それじゃ金貨1枚だ」
功助は上着のポケットから金貨を1枚取り出すとニヤニヤ笑うボーイに手渡した。
「毎度ありぃ。それじゃじいさんは左の部屋で、兄ちゃんは右の部屋に行って楽しんでくれ」
そして有翼の女とエルフの女に命令する。
「ほらてめえら何してやがる。早くお客の手を取って部屋にご案内しねえか!」
有翼人とダークエルフは少しうつむき加減でゼフと功助の手をその手で取るとそれぞれの部屋に入って行った。
「グヘヘ。けっこう持ってそうだぜあの二人。くくくくく」
ボーイは二人の入って行った部屋を見ながらいやらしく笑った。残った女たちは眉間を寄せたり唇を噛んだり……。首にはまった黒い首輪をそっと触った。
「なんだここ?殺風景で雰囲気ゼロの部屋だな」
ダークエルフの女に連れられ入ったそこは、ベッドだけが置かれたとても優良店とは思えない部屋だった。
「床も壁もシミだらけだし、全然掃除してなさそうだな。……まあいいか。で、これからどうしようか?」
ダークエルフの女をチラッと見る。女はドアの前に突っ立ったまま功助を睨んでいた。
「何ブツブツ言ってんだい。ほら、服を脱ぎな。やることやれたらいいんだろ」
功助をにらんだまま近づくダークエルフ。
「ふふふ。そんなにあせらなくてもいいよ」
「だ、誰があせってるって?!いいから早く服脱ぎなって言ってるんだよ」
ますます睨む力を強くする。
「まあまあ。それより君の名前を教えてくれる?」
「何言ってんだあんた。名前なんてどうでもいいだろ」
「そんなこと言わずにさ、名前が聞きたいだけだよ。あっ、俺、功助ね。よろしく」
「へ?あ、あんた……。面白い人だねあんた。アタシの名前を聞きたいって?」
「うん」
「……アタシはミク」
「そうかミクさんか。それじゃミクさんもうちょっと俺のそばに着て」
「……」
無言のまま功助に近づくミク。
「そんなに警戒しなくてもいいよ」
苦笑する功助。
「さ、もうちょっとこっちに」
功助がミクの細い肩を優しく持つとそのエルフ独特の細長い耳に口を近づけた。
「今からすることに驚かないで。いい?」
「へ?な、何をする気だい……」
「ま、いいからいいから」
功助はミクの肩から手を離すと右手首の先を大きく回した。
「ま、魔法……?」
「うん。さすがエルフだ。気づいたみたいだね」
「あ、ああ。でもこの魔法……、もしかして防音の魔法……」
「正解。これでどんなに大きな声で話しても盗聴できないよ。だから俺の質問に答えてくれるとうれしい」
「……えと……、何をしようとしてるんだいあんた?」
少しとまどうミク。
「大丈夫だよミクさん。俺とゼフじいさん、あっ、さっきの有翼のじいさんね。俺たち二人は白竜城の者だ。君たちを助けに来た」
「……アタシたちを……?」
功助の顔を見上げるミク。
「俺、ここに来る道中でゼフじいさんに聞いたんだけど、公にはなってないけど最近このパラダイスヘヴンの悪評が裏の世界で広まってるみたいでさ、調査することになったんだ」
「……ち、調査……」
「うん。だからミクさんの知ってることを教えて欲しいんだ」
「……ほんと……、ほんとかい?アタシを、アタシたちを……。助けてくれるのかい」
「ああ。だから安心してくれ。もうこんなことしなくてもいいようになるから」
「ほ、ほんとに?本当に?……で、でも……、もしこのことが元締めや店長に気づかれたら……、知られたら……」
「大丈夫だって。俺、白竜城の関係者だから」
「……いくら関係者と言ってもだよ、一人じゃなんにもできないって」
「大丈夫だって。俺、魔法師隊の臨時だけど隊長やってるし」
「た……隊長……?」
あっけにとられるミク。
「わかった?安心したかな」
微笑む功助。
「あ、ああ……、いや……、はい。安心して驚いたし」
苦笑するミク。
「よし。それじゃその前にその忌まわしい首輪をなんとかしようか」
細い首に巻き付いてる赤いチョーカーを指さす。
「へ?あ、あんたこのチョーカーのこと知ってるのかい?」
「いや知らないよ。ただそのチョーカーから嫌な魔力が出ててさ。まがまがしくて嫌悪感いっぱいなんだ」
「そっか、わかるんだ……」
「他の娘たちも同じの着けてたよね」
「うん。忌まわしいけど……、これは無理だよ。ものすごく協力な闇魔法が付与されてるから。はずそうとか切ろうとかしたら首が締まるようになっててさ、アタシもとろうとして何回も死にそうになったし。これは無理さ」
暗い表情で息を吐くミク。
「そうみたいだな。でも、大丈夫だと思うよ」
功助はちょっと失礼といいながらそのチョーカーに両手を伸ばし指で摘まむと浄化の魔力を込めてあっという間に引きちぎった。
「へ?」
功助が持っている赤いチョーカーを見て目を真ん丸にするミク。
「これで大丈夫だ」
ニコリとする功助。
「な……、なんだいあんた……。これでもアタシ魔力がとても強いって言われるダークエルフなんだよ。アタシがどう頑張ってもとれなかったチョーカーを……、こんなにあっさりと……」
「まあ、これでも魔法にはちょっと自信あるんだ」
「い、いやいやいやいやいや!自信があるとかないとかいうことじゃない次元の話だよ!これはずそうと思ったらたぶんいくつも魔法陣描かないといけないくらいなんだよ。それをだね……」
「まあまあ、そんなことはどうでもいいからいいから」
「……どうでもいいからって……」
「まあ、とりあえずこれで大丈夫だから安心して」
「……あ、うん……。あり、ありがとう……」
なんとも言えない表情のミク。
「それじゃ話を聞かせてくれる?」
「あ、ああ。なんでも話するよ」
「ふーん。なんてことはない、って言ったら怒られそうだけど。つまり、2年前に新オーナーになってから優良店だったパラダイスヘヴンが表向き優良店のまま最悪な店になったってことだな」
「そう。今いる女たちはほとんど無理やり奴隷契約を結ばされたんだ。その娘たちから聞いた話じゃかなり遠くの町や村から攫われてこられたみたいだよ。働かせるだけ働かせて病や孕んだりして稼げなくなったらどこかに連れていかれて処分されたり。逆らった女たちは拷問を受けて二度と逆らえないようにされて、死ぬまで働かされて……」
ミクは次第に涙ぐみ怒りに強く手を握っていた。
「それから、客の中で話を聞いて独り身だったりすると労働奴隷として売り払われたり……。違法な薬も扱ってるらしい……」
「胸糞悪いな……」
「……うん。アタシもそう思う。それから、普通のお客にもいろいろしてるんだ」
「いろいろ?」
「うん。さっきあんたたちを部屋に案内した男がプレイ中の部屋の中に天井から睡眠の魔法をお客にかけてさ、お客が寝てる間に財布の中から金盗ったりしてるんだ。たぶん今頃は有翼のじいさんの部屋の天井裏にいると思うよ」
「セコいことするんだな。まあ、ゼフじいさんは大丈夫だと思う。……それより、女の子たちのことが気になる。誘拐されて無理やり性奴隷にされてるなんて……。腹立つよな」
「うん」
悔しそうに目を閉じるミク。
「そうか。それじゃそろそろ動き出すか」
「どうするんだい?」
「さっきからこの娼館の中の魔力を探ってたけどだいたいの人数はわかったし、女の子たちの居場所もわかった」
「えっ!わ、わかるのかいあんた?」
「わかるよ。俺魔力の感知得意なんだ。まあ、それより、さっき言ったよな、俺はあんたじゃなくて功助だ」
「あ、うん。わかったコースケ。ってそれより魔力感知が得意だなんて……、ま、まあいっか。何度も驚いてるときりがなさそうだし」
ミクは苦笑した。と、その時……。
バギッ!グワッシャーン!ガガガガガ!ドガーン!
何かが壊れるような異常な音が聞こえたかと思えば横の壁が突然ぶち破れ濛々と白煙が舞い上がった。
「ななななななんだいなんだい!」
飛び上がるほど驚いたミクがあわてて功助の後ろに身を隠す。
「大丈夫だよミクさん。たぶんゼフじいさんだ」
「えっ?!あの有翼のじいさんが?いいい一体何をやらかしたんだいあのじいさん?!」
功助の体の横からチラッと顔を出してぶち破られた壁を見つめるミク。
そして白煙煙る中壁の無効に人影が見えた。
「よっ、お二人さん」
右手をひょいと上げてゼフが壁の穴から顔を出したのだった。
「ゼフ爺さん。大丈夫ですか?」
「おう、ワシらは大丈夫や。なあパロ」
「あ、はい。ゼフさん」
肩越しにゼフの選んだ有翼の女が顔を見せた。
「パロ姉さん!大丈夫だった?!」
「あらミクちゃん。うん、大丈夫だったよ。このゼフさんが助けてくれるって」
と言いながらニコニコ笑うパロ。
「そうなんだ。アタシもこのコースケが助けてくれるって」
「そう。みんな助かるといいわね」
微笑みあうパロとミク。と、その時。
「どうした!何があった……?!ってなんだこれは!て、てめえ!何しやがった!」
ゼフのいた破壊された部屋のドアの隙間からドヤドヤと娼館の顔つきのあまりよろしくない男たちが入ってきて部屋の惨状を診て激怒している。
「おう兄ちゃんら、来るの遅いで」
ゼフは振り向き掌を力いっぱい突き出した。
「うわあああああ!」
そのとたん入ってきた数人の男が何かに吹き飛ばされたように壁にぶち当たり動かなくなった。
「ゼフじいさん?」
「ワシは大丈夫やで」
「いや、男たちのことなんですけど……」
「わっはっは。大丈夫や、気絶してるだけやさかい心配せんでええで。たぶん」
「たぶんですか?」
「ああ。それより早よ娼館の中にいるお姉ちゃんらを助けてオーナーを縛り上げなあかんでコースケ隊長はん」
「あはは。そうですね。でも、その前にそちらの女性のチョーカーをはずしましょう」
功助はゼフといた有翼の女性パロの首元に手を伸ばすとその赤いチョーカーを摘まみ浄化の魔力を込めてこちらもいとも簡単に引きちぎった。
「あらら?このチョーカーってこんなに簡単に引きちぎれる物だったの?」
「違うから。パロ姉さん、それ違うから。このコースケがすごいってだけのことだし」
あきれ顔でパロを見てそして、功助をちらっと見る。功助ははははと頬をかいた。
「ま、まあ、そんなことは今は……。それよりさっき顔出ししてた人たちは今どこにいるかわかる?控室とかあるのかな?」
「この部屋出てすぐ左側に控室があるけど、どうするんだい?」
「みんなのチョーカー外さないと、だろ」
「そ、そうだね」
「それじゃちょっとはずしてくる」
「ほんならワシらは少しあとに部屋から出るわ。ほんでこの二人と顔出ししてたお姉ちゃんたちを外に送っていったら隊長はんを追っかけてくわ」
「わかりました。女の娘たちのチョーカーはずしたら声かけますね。それじゃ行ってきます」
「おう」
功助はミクに外で待っててと言い肩をポンと叩くと歪んだドアを無理やり開けて部屋の外に出て行った。
「あ、うん……」
呆けて功助を見送るミク。そしてゼフに視線を戻すと口を開いた。
「な、なあじいさん……。あんたら何者なんだい?城の者だっていってたけど、本当に隊長さんなのかいあのコースケって人」
「そうやで。城の中でもたぶん力は一番とちゃうか。なあに、心配せんでええで。あのコースケ隊長がみんなを助けてくれはるさかいな」
ニコリと笑うゼフ。
部屋から出るとさっき最初に入ってきたドアから次々と人相の悪い男や獣人の男たちが入ってきていた。
「ああ、けっこう来るの早かったな。先に女の娘たちのチョーカーはずしたかったんだけどな」
苦笑すると男たちが手に武器を持ち功助に向けて怒声を上げる。
「てめえ!何しやがった!」
男たちは歪んだドアとヒビの入った壁を見ると再び功助を睨む。
「えと、まあ、壊れちゃったかな」
「なめてんのか!いいから説明しろ!」
「えと……。断る」
「て、てめえ!かまわねえおめえら、こいつを殺っちまえ!」
「おう」
男たちは問答無用と功助に襲いかかる。
「おっと。よっ。危ないな。おとなしくしてくれるか」
功助はひらりひらりと攻撃をかわしながら徒手で次々と男たちの急所を確実に狙い撃ちして十人はいた男たちをあっという間に沈黙させた。
「ふう。それじゃ控室に行くか」
功助は女性たちの控室のドアに向かう。
「やっぱりな。この鍵、魔具だな。おそらく簡単にははずれないようになってるし。でも」
と功助はドアノブに手を伸ばすと魔力を流した。
ガヂャッ
あっけなく鍵は壊れる。そしてゆっくりとドアを開けた。
「みなさん無事ですか?」
急に入ってきた功助に驚く5人の女性たち。
「あれ?あんたさっきミクちゃんとプレイに入ったお兄さん?なんでここに?」
その中の一人、おそらく人族の女性が見上げてきた。
「えと、みなさんを助けに来ました。くわしいことはあとで話しますので、とりあえずここから逃げますよ」
「なんだい藪から棒に?いきなり逃げますって言われても……」
女性たちは無意識に首のチョーカーを触る。
「大丈夫。そのチョーカーは俺がはずしますので」
と言うと人族の女性に近づきチョーカーに指を伸ばす。そして浄化の魔力を込めて簡単に引きちぎった。
「はい。これで大丈夫。自由ですよ」
「……へ?……」
首にはめられていた忌々しいチョーカー。それがいとも簡単にはずされていた。
「さあ、他の方のも処分します」
功助は5人の女性のチョーカーをすべて引きちぎった。
よしっと。それじゃほんのちょっと待っててください」
功助はそう言うとさっきのプレイの部屋に戻り中に声をかける。
「ゼフじいさん、あとよろしく。俺は上に上がります」
「おう。まかしとき」
功助は部屋から廊下に出ると念のため誰かいないか気配を探る。
「よし。1階にはいないみたいだな。それじゃ上に上がるか」
功助は階段を見つけるとゆっくりと上がっていく。
「何やら下で騒ぎがあったようだな」
人族の男から連絡を受けたが問題ないとソファーに座っている熊の獣人の男。話をしながら横に座らせた女を弄ぶ。
「まあ、大丈夫だろ。血の気の多い獣人だらけだ。ちっとやそっとじゃ抵抗できねえさ」
こちらのワニの獣人は何やら机で作業している。が、やはり女の身体をまさぐっている。
「それによ、この部屋の扉は超頑丈だぜ。魔力砲の一つや二つじゃびくともしねえんだからよ」
三人目の男もやはり獣人でどうやら牛の獣人だ。この男は盃を持ち酒をつがせている女の身体中をいじくっている。
ここはパラダイスヘヴンの中枢。三人の獣人が侵入者があったのにのんきにしている。
「うおっ。酒がこぼれたじゃねえか!この役立たずが!」
バシッ!
「うぐっ!」
空の盃に酒を継がせていた女が酒をこぼしてしまったことに腹を立てた牛の獣人がその女の腹に蹴りを入れ壁までふっ飛んだ。女はうずくまり腹をかかえ口から血を吐く。
「けっ!」
牛の獣人はうずくまる女に近づくと再び蹴りを入れた。
「あぐっ!」
女は床をゴロゴロと転がらされ壁に当たり止まった。そして身動き一つしなくなった。
「おいおい。もったいねえことするなよ。まだまだ使えるんだからな」
ワニの獣人が笑いながら言う。
「大丈夫だぜ。ちょっと気絶してるだけだからな。でも、無様だねえ」
ガハハと笑う二人の獣人。ほとんど全裸の女はあまり意味がなさそうに面積の小さすぎる下着を丸出しにして気絶していた。
功助は階段を迷うことなく上がりそして3、階に着いた。
「確かここだったよな。うん、いるな」
さっきミクといた時に探査したとおりこの4階には獣人らしき気配がいくつかあった。
廊下に出ると迷うことなくまっすぐに進む。つきあたりには頑丈そうなしかし豪華な扉があった。
「いるな。でも、弱い気配もある」
功助はその扉の前に着くと中の気配を探る。
「たぶん獣人が三人。そして非力な魔力が三人。一人はかなり危険な状態か……。迷ってる暇はないってことか。よし」
功助は右手を閉じたり開いたりするとグッと強く拳を作る。
「せえの!」
腕を後ろに引き、そして一気に前に突き出して扉に拳をぶつけた。
ドグァァァァン!
すさまじい爆裂音とともに木っ端みじんになる扉。中から驚愕の怒号が聞こえてきた。
「なんだ!誰だ!」
濛々とほこりが舞う中、一人の男がそこに立っていた。
「て、てめえ何者だ!」
「連絡のあった侵入者だな!命は無いと思え!」
熊の獣人が侵入者にその剛腕をぶちかます。が、それを片手で受け止めると周囲を見渡す。
「あれ?お前ら?確かお前たちこの間中央公園で母子にちょっかい出してた獣人?」
「な、なんだと?あ、ああ!お前は!」
思い出したのだろう熊の獣人は腕を引っ込めると両目を見開き、そして吊り上げた。
「許さん!許さんぞぉぉぉ!」
再び剛腕を突き出す熊の獣人。
「俺も思い出したぞ!あの恨みはらしてやる!」
「今度は手加減しないぜ!覚悟しやがれ!」
ワニの獣人に続いて牛の獣人も功助に襲いかかった。
「お前らにかまってる暇は無い!」
三人の攻撃をいなしながら功助はあっけにとられている女性たちを見る。みんなで三人。うち一人はあられもない姿で床に倒れていて血まで吐いているようだ。あとの二人の女性はほとんど全裸に近い服を着ていて身体のあちこちに殴られたようなあとがあった。
「酷いことしやがる。許さないからな!」
功助は獣人たちを睨むと拳に力を入れた。
「おらっ!静かに寝てろ!」
三発、功助はたった三発で三人の獣人を昏倒させた。男たちは唸り声をあげることなく床に倒れた。
功助は懐から頑丈そうな縄を取り出すと三人の獣人を縛り上げた。
「ふう」
功助はこれでOKといいながらあっけにとられている女性たちを見る。
「二人とも大丈夫?」
「……あ、……は、はい」
「だ、大丈夫……」
呆然としている二人の女性。
功助は二人に近づくと、失礼といいながら首のチョーカーに手を伸ばし引きちぎる。
「へ?」
あっけにとられる二人の女性。
「これで大丈夫だ。さ、それじゃ逃げますよ。と、その前に」
功助は床で倒れている女性に近づくとしゃがみ込み容体を診る。ぐったりしていて呼吸も細くなっている。
「今助けるからね」
功助は掌を女性に向けると白い治癒の光を充てた。白い光に包まれる女性。それを見ている二人の女性は口をポカンと開けてその様子を見ていた。
「よし。これで大丈夫」
口から流れ出た血を拭うと顔色のよくなった女性をそっと抱き上げた。
「さあ、二人ともここから出ましょう」
「えと、あの……」
「あのあなたは?」
恐る恐る尋ねてくる二人の女性。
「あ、そうか。言ってませんでしたね。俺は功助。白竜城の関係者です。さ、出ましょう」
功助は二人の女性を伴って廊下に出る。すると階段をコツコツと誰かが上がってきたのに気づく。
立ち止まり様子を伺う功助。功助の後ろで心配そうにしている女性に大丈夫ですよと声をかけた。そしてついに階段から出てきた影を見てホッとする。
「よっ」
「ゼフじいさん。さっきの女性たちは?」
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「そや偶然や偶然。まあ、そんなことはええねんけど、その姉ちゃんはどうしたんや?」
腕に抱えている女性を指さすゼフ。
「あ、はい。ちょっと暴行されたようでケガが酷かったんで治療したんです」
「そっか。ほんで気ぃ失のうてんねんな。それから後ろのお姉ちゃんたちも大事ないか?」
「あ、はい」
「それはよかった。で、コースケ隊長、元締めたちは?」
「後ろの部屋でノビてます」
と今出てきた部屋をチラッと見る。
「ぐわっはっはっは。それはええ」
大笑いをするゼフ。
「で、コースケ隊長。他のお姉ちゃんたちは?」
「今から助けにいきます」
「そっか。ほんならこのお姉ちゃんたちはワシが外まで案内するわ。ほんでまた戻ってくるさかいな」
「はい、わかりました。よろしくです」
ゼフは気を失ってる女性を功助から受け取ると二人の女性とともに階段を降りて行った。
「さて。あとの女性たちを解放しに行くか」
功助は階段を5階に上がっていった。
5階に上がった功助。
階段から廊下に出るとぐるっと見渡す。左の先には一枚の扉があった。そして右を見るとそこにも一枚の扉があった。功助はここでも迷うことなく右へ進む。
そのドアに小走りで近づくとガヂャリと開けた。
「あれ?鍵かかってなかったのかな?」
と思ったがどうやら力が入りすぎて鍵を捩じ切ったようだった。
「まっ、いいか」
功助はそっと中に入った。そしてそこには十数人の女たちが半裸のまま身動き一つせず床の上に座っていた。
「みなさん、大丈夫ですか?」
そう声をかけると近くにいた一人の女が功助を見上げ言った。
「……あんた誰?」
死んだ魚のような目をしたその女性はおそらく人族だろう。
「もう大丈夫ですよ。俺は白竜城の者です。みなさんを助けに来ました」
「へ?」
女たちは一斉に功助を見上げると「何言ってるんだ」とばかりにチラッと功助を見るとまた床に視線を移す。
「かなり精神的にまいってるみたいだな。それならこうしたらどうかな」
功助は今入ってきた半分開いたドアまでいくとそのドアをつかむ。
「そらっ!」
掛け声とともにドアは壁から無理やりもぎ取られた。
「……?!」
女たちはその力に唖然とする。そして再び人族の女が声をかけてきた。
「……ほんとに、ほんとに助けにきてくれたの?」
「そうですよ。さあみなさん逃げましょう。中にいた奴らはほとんど無力化したし、元締めたち三人も拘束してあります」
「……でも、無理だよ。ほらこれ」
よく見ると女性たちの足首には足枷がはめられ床に打ち付けた釘に鎖でつながれていた。
「な、なんてひどいことを。大丈夫、俺がなんとかします」
「それにこれ」
といいながら首に巻かれた赤いチョーカーを指さした。
「大丈夫。俺に任せて」
功助はまずその人族の女性に近づくと床に膝をつく。そして首の忌まわしいチョーカーを両手で摘まむと浄化の魔力を込めて引きちぎった。続いて足と床を繋いでる鎖に手を伸ばしつかむとそれもいとも簡単に引きちぎった。
「な、なんて力なんだ。でも……、ありがとう」
女は功助にギュッと抱きつくと泣き出した。
「うおっ!」
小さく声を上げる功助。女性のたわわな胸が功助の胸に押し付けられてクニクニと形を変える。
「あ、あはは。いや、あの……。……よかったです。もう大丈夫ですよ」
功助は小さく深呼吸をすると女性の細くやせ細った背中をポンポン叩くとやさしく言った。
そして他の女性たちのチョーカーと鎖も引きちぎると全員を連れて廊下に出た。
すると階段を誰かが上がってくる音に気づき立ち止まる。功助は後ろを振り向いてしゃべらないようにと口に人差し指を充てると階段からあがってくる足音に耳をすます。すると階段の踊り場から見えた顔にホッとした。
「よっ、コースケはん。お待たせ」
「ゼフじいさん。待ってましたよ」
「コースケ隊長、そのお姉ちゃんたちがそうか?」
「あ、はいそうです。囚われてた人たちです。それで元締めたちは?」
「緑の騎士団の人らが連れてったわ」
「そうですか。それじゃもうお暇しましょうか」
「そやな。こんなとこ早よ出よか。さあきれいなお姉ちゃんたち、ここから出るで、行こか」
ニカッと笑うとおいでおいでと手招きをするゼフ。
「えと……」
「大丈夫だよ。この人も城の人だ。俺と一緒にこの娼館を探りにきたんだ」
ホッとする女性たち。
「ほな行こか」
ゼフと功助、そして囚われていた女性たちはゆっくりと階段を降りて行った。
ベンチに座り白み始めた空をぼんやり見上げる功助とゼフ。
ここは城下の中央公園。パラダイスヘヴンの大捕り物のあと緑の騎士団中央公園詰所で詳細を聴取されついさっき解放されたところだ。
「ゼフじいさん」
「なんやコースケはん」
「俺を嵌めましたね」
「ん?さあて、なんのことやら」
と言うと鼻をほじくるゼフ。
「なんかおかしいと思ったんですよねぇ。城を出る時もあんなに見送るなんてことないだろうし。店に近づいた時もなんかわざとらしく話をし始めたし。女の娘たちを外に逃がした時にも、なぜか緑の騎士団がいたみたいだし」
「そうか?まあ、偶然や偶然。気にしなさんな」
「でも、それならそうと最初から言ってくれれば後ろめたい気持ちにならなかったのに」
「そやから、偶然や偶然」
カッカッカッと笑うゼフ。
「まあ、いいですけど」
功助はそう言うとググッと伸びをする。
「さあコースケはん。今回は全然遊べへんかったけど、近いうちにも一回行こか。今度はまともな優良店に」
「ははは。どうしましょう」
苦笑する功助。
「また部屋に向かいに行くさかいな。いつになるかわからんけど、期待して待っててや」
というと功助の背中をパシッと叩いた。
「へ?あ、はい……」
苦笑する功助。
「さてとコースケはん。そろそろ城に帰ろか」
「そうですね。そろそろ何も知らないミュゼが俺を起こしに来てくれますから」
二人はベンチから立つと白竜城に戻っていった。
これで『異世界人と竜の姫』終わりです。
ありがとうございました。
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