上 下
42 / 43

(41) 役に立つ仕事

しおりを挟む
ゴメスは調べなくてはいけない事があった。魔法で幾つもの国を飛び越えて行く。目指すは、島国サニーだ。

そこには、古来より大きな神殿があった。霊験あらたかで国々からの参拝者が絶えない。そこに、ゴメスが来た理由があるのだ。


「もし、神官のコンシリア様にお会いしたいのだが?」


神殿で働く使用人に問いかける。すると、意外な答えが返ってきた。


「知らないんですか?コンシリア様は、神官を辞めて出て行かれましたよ。」


驚いた事に会いたかった神官は、神殿を退官していたのだ。あの有名な男達を虜にして生き血を吸っていたサキュバス「宵闇のエリカ」と対決して倒した凄腕の神官が。

それが、アンジェラの再生した身体に入れられた心臓の持ち主「宵闇のエリカ」の恋い焦がれた相手だった。

アンジェラの心臓を今になって取り出す事は出来ないとアグアニエベか言う。ならば、後は神官に説得させるしかない。行方を探すしかないだろう。

しかし、アグアニエベは真実を教えたのか疑問が残る。信用しきれない男だ。所詮、悪魔であった。








アグアニエベは、ジョバンニに仕事を紹介していた。


「利用できる物は、利用しましょう。これが、私のモットーです!」

「あのね、あのね、おかしくないですか。アグアニエベさん?」

「いいえ、ちっとも。私の渡した衣装がお似合いですよ。」

「この羽根は、必要ないと思うんだけど。」


 恥ずかしそうに、ジョバンニは背中に付けた大きな白い羽根をパタパタさせた。肩の筋肉に連動して動くようにしてあるのだ。金髪クリンクリン頭の少年は、本物の天使より輝いて見える。


「さあ、頑張って下さいね。人が救われるかは、あなたの力にかかっています!」


励まして民家の1つへ押し込む。言われた通りに、ジョバンニは声を上げた。


「誰か、おらぬか?私は天の使いだぞよ。」


呼ばれて出て来た家の主人は、驚いた。何と神々しい光に包まれた天使が居るではないか。アグアニエベは魔法で作り出した光輪で背後から照らしております。


「今日は、お告げに参った。お前の商談は、アグアニエベという者と決めるのだ。ゆめゆめ、疑うなかれーぞよー。」


天使が言う事にしては、変だと思うジョバンニ。この仕事を紹介した人の商談を成功させる為では??でも、お仕事だから、やりました。後で頂いた報酬が2万円で大喜び。


「ありがとう、助かったあ。これで、お姉さまの宿泊費が払える。今夜、移らないといけないから。」

「おや、変えるんですか?」

「うん。その家の人が息子と結婚させようとするんだもん。ロペスさんの方のアンジェラさんが宿替えを手伝ってくれるから。」

「そうなんですか、アンジェラさんが(メモメモ)」


興味深いお話なので、アグアニエベは覗きに伺います。小説のネタになりそうなので。








そして、その夜の事。アグアニエベは出かけてみた。インベル国の第2皇女イライザの宿泊している富豪の屋敷へと。

すでに、ジョバンニは到着している模様。屋敷の家政婦が鍵を取り出してジョバンニを部屋へ入れるのを確認。


(おや、まー。隣国の皇女を鍵を掛けた部屋に入れているんですか。警備に気をつけていますね。素晴らしい!)


しかし、その実態は誉められた物では無かった。ジョバンニは、1人きりで部屋に居る姉を気遣う。


「イライザお姉さま。侍女も無く不自由な生活は、辛いですよね。可哀想ー!」


本国であれば何人もの使用人に世話をされて何不自由の無い生活なのだ。皇女なので。皇太子は、殆どの事は自分でやらされる。イライザは、腕を振り回した。


「そうだ、不自由でたまらない。剣の練習も出来ぬ。アンジェラにも、ナヨナヨ三つ編みにも、今度は勝たないと気持ちが治まらない!」


この前、負けた悔しさが消えてないようだ。それより、大事な事があるでしょう。恐る恐る、ジョバンニは聞いてみた。


「それで、結婚式は何時になったの?」
「うがああああ、あの豚馬親子(とんまおやこ)が、明日だと言うのだ!」


ひっーと、ジョバンニは飛び退いて壁へ貼り付く。イライザお姉さまは、激怒しています。勝手に決められた結婚式は、明日だそうです。どうするのか?

天井裏でメモしていたアグアニエベは大喜び。良い案が浮かびました。早速、ストーリーを書かせようと帰ってしまうのだ。イライザ皇女は、助けないのか。

ボンッー、ボンッー!

音がして、部屋に出現した人影にイライザ皇女は剣を取り出す。暗殺者か?


「こんばんは、イライザ皇女様。アンジェラ・ロペスでございます!」


会釈したアンジェラは、何の反応も無いので顔を上げた。ビックリして固まる。あろう事か、イライザ皇女とフランソワが顔をくっ付けていたからだ。


(ちょっと、何?あれは、何?)


顔と顔を付けて唇が重なっていたら、何と呼ぶのか。幼稚園レベルの問題だ。次の瞬間、イライザ皇女が声にならない悲鳴を上げて飛び離れる。顔から血の気が引いてガタガタと震えていた。


「お、おおおおおおおおお前は、我の唇を奪ったな!我の初めての口付けをーー、打ち首じゃああ!!」


イライザ皇女は、18歳。19人の婚約破棄をしたというのに、初めてだったのか。驚きだ。フランソワは、首を捻る。指で喜美と僕の導線を辿り説明した。


「フラン、たー(フランソワの着いた場所に君が居た)」


今夜は、アンジェラが皆んなを空間移動させる為にフランソワに頼んだのだが。新たな問題を作る事になったらしい。後々まで、揉めそうだ。


しおりを挟む

処理中です...