上 下
1 / 64

プロローグ

しおりを挟む
ドルウ・ゴメス。ある時は、商会の会長。その裏の姿は、魔法使いであった。転生する前は魔法省のエリートだった彼だが、現在は国に1人きりの正魔法使い。ゆえに、寂しい。


「魔法使いを増やす為には、もっと、魔術を使いやすくしょう!」


と、誰でも使える呪文を造り出した。そして、それを自分が講師となって教えている魔法学校の生徒に与えていく事にしたのだ。







光りによっては金髪にも見える赤茶色の巻き毛を持った愛らしい娘。エレン・カーターは、16歳。

男の人と、なんちゃってーな関係になった事なんてございません。両親に家庭教師を付けられて学校へ行かずに育った箱入り娘ですわ。なのに。


「私に、愛娼(あいしょう)ーーですか?」


驚いて、口にしてしまいました。「あいしょう」という禁句を。母親が聞いたなら、数日は会話してくれないでしょう。下品な事ですもの。


「そうだよ。弟も病院での治療が必要でしょ。自立もしなくちゃいけないし、手っ取り早いだろ。ね?」

「そそそそそそ、そうですね(だけど)」


仕事を紹介してくれたから文句は言えない。拾ってもらって弟と病院に入れてくれて家に引き取ってくれてお金も使わせてるから。断るわけにもいかない。断りたい、断れない、やっぱり嫌、でも、その、あの、嫌なんですけど(相手の話は聞いてません)


「愛娼といっても、一緒に暮らすだけで何もしなくていい。家事は家政婦がやってくれるし。君は、安全だから。」
「一緒にいいいいい!?(ひえええええ!)」


顔から血の気が引いて行く私。ぶっ倒れそうです。婚約者に婚約破棄された時のような気分です。でも、懸命に我慢。私が頑張らないと、弟の為にも。誰も頼る人が、この都に居ないんですもの。


「ほら、泣かないで。大丈夫だから、涙を拭いて。」


ハンカチを手渡されて優しく言われたから、涙が止まらない。

貴方が悪いのに。私に娼婦のように男の人に「なんちゃら」して愛娼になって囲われろと言うから。そんな素敵な微笑で見ないで下さい。


「だって、だって。」

「大丈夫だよ。魔法の呪文を教えてあげるから。困った時は、それを使って。「クソオヤジ」だ、簡単だろ?」

「はあ、あうあうー(冗談よね)」

「後は、パトリシアに聞いてくれ。」


何だか、放り投げられた気分。もう少し、一緒に居たいのに。この美男子は、優しいけど子供扱いしてくるけど。

ソファーに座って組んだ長い脚。青みがかった黒髪はウェーブがついていて、時々、分けて流してる前髪が額に落ちてくる。整った顔から宝石のように輝くエメラルド色の瞳。あの瞳で見つめられたら身体がフワフワしてきちゃうんですってば。あ、魂が飛びそー。


「じゃあ、宜しく!」


えっ、えええー!私、その愛娼をやるとか言ってないんですけど。ゴメスさん?

しおりを挟む

処理中です...