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(3) 出会ったのは

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エレン・カーターは、地方にある葡萄園を経営する富豪の娘であった。

16歳になったが、子供の頃に親の決めた婚約者もいて18歳で結婚する事になっていたのだ。婚約者のリック・ハリソンは父親の友人である伯爵の子息で幸福な人生が約束されているような物だ。

カレンも、そう思っていた。あの時までは。


「カレンお嬢様、大変です。旦那様の馬車が崖崩れに巻き込まれたそうです!」


何時ものように葡萄酒の商談に出ていた父親の事故。そして、帰らぬ人となった父親の後を追うように母親の病死。短い間にエレンと弟の2人きりになってしまった。

押し掛けて来た叔父と家族に屋敷も葡萄園も乗っ取られてしまい、追い出されたエレンが頼った婚約者は。


「財産も無い娘と結婚なんて、冗談じゃない。二度と顔も見せるな。婚約破棄だ!」


と、相手にもしなかった。仕方なく、遠い都の親類を頼って弟と2人で町を出る。そうするしか、方法が無かったからだ。結局、都には辿り着けなかった。







誰かが、側に立った。それは、小さな頃から親しんだ相手。目を開けなくても誰だか分かる。エレンには。


「私・・、駄目みたい。お父様やお母様に会えるのかしら。」


諦めてたのかもしれない。だって、何日も食べてない。柄の良くない男達に追いかけられて逃げ回り知らない女に騙されて持ち金を奪い取られてしまったから。結局、お嬢様で世間を知らな過ぎたのだ。

グッタリとして動かない弟の身体を抱き締めて路地の隅に座り込んでいるしかない。このまま、終わる事を覚悟していた。


『大丈夫だからーー』


何時も光りに包まれている人は、声では無い声で励ましてくれてるようだった。ここまで、来てくれたのかと嬉しい気持ちになる。皆んなが冷たく扱うのに。


「おい、お前?大丈夫か!」


よく通る声で呼び掛ける男。子供が2人いると聞いて様子を見に来た彼は、直ぐ様、病院へ運び込んだ。それが、商会を経営しているゴメス会長だった。

もし、ゴメスが来てくれなかったら生きて無かったかもしれない。あの時、あの光に包まれた人が呼んでくれたとエレンは思っている。彼女を守護が守っているようだ。


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