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(12) 偵察に来た人

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数ヶ月前に訪ねて来て土地を借り受け、この男は見たことの無い植物を植えたのだ。


「あれは、その昔に魔法使いの必需品でした。魔法使いの居なくなった国では、無用になりましたが。種を見つけて栽培した物で中和剤になる薬草です。」


魔力が強ければ強い程に、身体に濁りが溜まって行く。それを放置すると、体調が悪くなるのだそうだ。伯爵には、初めて聞く話だ。



「魔法使いが居ないのに、誰が高値を?」

「呪術師ですよ。彼等は、魔法使いが居なくなったので増加した。術を高める必要になって、同じように濁りが溜まるように。」

「そうなのですか。ならば、売り上げは私では無く植えたゴメスさんの物なのでは?」

「私は手を貸しただけです。あなたが、良い事業がないかと聞かれたので。」



伯爵は疑問を抱きながらも、受け入れた。そうする事で借りを作る事を気がついていても。この商人は、本当の目的を明かしはしないだろう。やり手だ。

辺境という土地柄、兵士を抱えていなければならない。モンスターの襲撃から良民を守る義務もある。

城の補修も、資金が出て行くばかり。現れた救いの主の商人は、何をさせるつもりなのか?気を許せない相手だった。

村の中を町からゾロゾロと馬車が通って行く。



「また、町からの馬車だ。野菜や家畜を積んでるぞ!」

「カーター葡萄園の新しいご主人様が、私達に下さるって本当だったのね!」



エレンを追い出した後、叔母夫婦は遊び暮らして財産を使い潰した。その間に、葡萄園で働いていた村人達を首にして。金目の物を持って逃げ去った後には、食べる物も無い村人達が残されていたのだ。

カーター家の庭に積み上げられた食料をエレン達が配る。村人達は、列を作った。


「エレンお嬢様、ありがとうございます!」


エレン達の中に見知らぬ美男子の顔。様子を見に来たスペンサー伯爵も手伝う事にしたのだが。遠慮の無いエリザベスが、こき使っている。


「何なの?ドミニクったら、男でしょ。女に重い物は持たせないの!」


聞いていたガブリエルが驚いて注意した。


「リズったら、やめてよ。伯爵様を呼び捨てないで!」


スペンサー伯爵は、笑う。


「いいんですよ、気にしないで。でも、彼女は貴族のようですね。」


エレンとガブリエルは、ドキリとする。都を離れて違う土地で平民として暮らすのは無理なのだろうか。心配になった。


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