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(18) 胸の痛みがする

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それから、毎日のように届く花束。花は指定されてないらしく、違う花が届く。芙蓉の部屋の中は、花があちこちに飾られるようになった。

遊びに来た太が、誰が買って来るのだろうと聞くのだ。芙蓉は苦笑いで答える。


「親切なオジサンだよ。」


そのオジサンは、どういう人。太は、会ってみたいと思う。どうしてだろう。

母親が文句を言うので長居できないから、夕食を皆と食べると太は部屋を出た。帰ると居ずらいが仕方ない。帰ろう。


(あ、あの人。花束を持ってるよ。)


マンションの前に花束を持ったイケメンを発見。何故か入らずに立っている。その姿が目立つと分かってない。

何だか、視てられない。衝動にかられて、声をかけていた。


「あの、木村さんの部屋に来たんですか?」


俯いていた長身の顔が、ゆっくりと向けられる。その瞳が自分を捕らえると、胸が痛んだ。


チクン・・・


どつしてだろう、知ってる気がするのは。そして、「嫌い!」と思うのは。


「何故、木村さんだと?」


柔らかく笑みを浮かべながら、その人は問いかける。目の前の見知らぬ少年に。



「それ、花束を持ってるから。パトリシアさんの?」
「そうだ、会ってくれるかな?」



チクン・・・と、また、胸が痛んだ。



「もしかしたら、前世では敵だったのかな。」
「え、何の事だい。敵って?」
「ううん、気にしないで。思いついただけだから。」
「そう、僕は好かれやすいんだけどね。」



太は、笑った。そうだね、あんたは好かれる。カリスマ性があって、女からも男からも。


「行ってみたら。やらないと、始まらないからさ。」


そう勧めると、男はマンションの中へ入って行った。


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