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(22) 助けが来た

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アグアニエベは、当たりを見回した。ここのはずなのだが。


「パトリシアちゃん、どこなの?オジサンに返事してー!」


と言ってみたが、返事があるわけが無い。ここは、異世界なのだから。新たにネットワークを作って道を繋がなくては。


「やり過ぎましたかね、私。魔女と戦わせたのは面白かったのですけど。手駒(てごま)が異世界に飛んで行ってしまうと後が面倒です。」


運命に転生させられた魂だ。神や閻魔などの意志があるからには、失態(しったい)は避けたい。遊びに使ったとバレたら降格(こうかく)だ。

私、心を改めて必死に尽くしますよー。










芙蓉が客の訪問を教えたので自分の部屋から出て来たパトリシアは、客を見て驚く。


「アグアニエベ・・・!?」


開けたドアの外に立っている銀色の髪の美男子。疲れた顔で笑いかけてきた。


「探しましたよ、パトリシアさん。あー、疲れた!部屋に入れて下さい。」


異世界なので、魔力が半減します。何処でも侵入できません。
この世界の神の了承(りょうしょう)を頂かないと。神の縄張りを侵しておりますから。


「わっ、え?」


アグアニエベは、戸惑った。少女に抱き付かれたからだ。

パトリシアは、出会った時に目覚めたのでアグアニエベとは32歳で出会った事になる。だから、こんな風にされた事が無かった。


「良かった、貴方が来てくれて!」


正直、心細かったのだ。何の知識も無く異世界で「茹で玉子」チームのメンバーを世話をする自信が無い。

本心を見せてないような悪魔を信用していないのだが、こんな時は頼りになる存在だ。


「そ、そうですか。任せて下さい!」


こうなった原因を作ったのは自分だけに、アグアニエベの良心が痛む。だけど、嬉しかった。

どうしましょう。とっても、嬉しいです。私は、パトリシアさんに愛されてますよ!(それは、違うでしょう)









張り切っている悪魔の仕事は、早かった。あっという間に捜索システムを造りあげる。


「この世界の裏ネットワークに繋ぎました。これで、知りたい事は出て来ます!」


試しに、ワードを入力してみよう。ポチッ!


『黒厳呀伊兔(くろいわ かいと)24歳。黒厳興産の会長の孫であり後継者とされている。』


それは、表上の公開されている情報です。裏メニューを出してみましょう。



『黒厳家には、天の子が産まれるという噂あり。神がりとなる者が産まれて何でも願いを叶えてきたのだと。その事で家を繁栄させてきた歴史がある。』



天の子。何でも願いを叶える。それは、もしかしたら、「魔法」が使えたという事か。

アグアニエベが説明する。この世界では、「超能力」と呼ばれる才能を持った人間が居るそうだ。


「人の心が読めるテレパシーや、物を動かす浮遊の力とか、未来を読む力。まれに、居るとか。私は、会ったことが有りませんけど。」


死者と会話できるという話を聞くと、呪術師に近い。黒厳は、「術」と呼ばれていると言っていた。呪術師に近いのだろう。


「あちらの金貨を「勇者」と呼ぶのが気にかかります。それに、魔女が出た事も。私が調べてみましょう。」


と言うので、芙蓉の部屋の居候が1人ふえました。パトリシアは、即、天井の部屋を1部屋増築しました。

芙蓉には事後報告だけ。芙蓉は、自分の部屋なのに彼等の物になっているのを実感している。

思い出したように、太が尋ねた。


「お母ちゃん、怒ってたね。話してなかったの?」


芙蓉は、項垂(うなだ)れた。自分のやった事の重い現実を重い知らされたのだ。



「うん、言えなくて。」
「お母さん、芙蓉さん命なんだよ。泣いてたじゃん。謝ってね。」
「うん、ごめん。」
「あのさあ、本当に離婚したかったの?」
「え、何で?」
「だって、仲良かったし。芙蓉さんが別れたいて思えない。泣いて追いかけると思ってた。」
「そうか、僕もだよ。」



芙蓉は、こみ上げる涙をこらえた。泣けない、泣いちゃいけない。これで、女性を2人も泣かせたんだから。

悪いのは、僕なんだよ。

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