月の夜雨の朝 新選組藤堂平助恋物語 【青雲編】

凛花

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青雲編

第5話  つかの間の安らぎ

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 浪士組は昼夜を問わずの市中巡察を開始し、少しずつその活動が軌道に乗り始めたように見えた。

 平助も沖田や永倉の率いる小隊と時に合同で連日巡察に繰り出し忙しい毎日を送っている。

 巡察の無いときは隊の道場で新人隊士たちに稽古をつける。

 名都のためにも忙しい隊務の合間を縫って、三浦と今後の隊務の件で話し合おうと思うのだが心なしか避けられているようで話す機会が持てないままでいた。



 最初に三浦に声をかけた時、

「藤堂隊長は名都と……妹と特別親しい間柄なのでしょうか? 」と言って平助を見据える。

 その視線の鋭さに何も言えずにいると三浦は頭を下げ立ち去ろうとした。

 慌てて呼びかける。

「三浦さん……体は大丈夫ですか? 名都さんがずいぶん心配しています。

 きついようでしたら私から事務方の仕事に変われないか上に相談してみますが……」

「隊長、今後は余計なお気遣いは無用です。名都に何を聞いたか存じませんが、今の武官の隊務を続けたいと思っています。」




 名都から薬を預かった日からひと月ほど経った頃……

 平助が道場で剣術の指導をしているとなにやら屯所の門の当たりが騒がしい。

 様子を見に行くと門番の係りの隊士が大声を上げている。

 平助は眉をしかめ門番のところに向かう。



「どうしたんです? 屯所の門前で大声で騒ぐのはみっともないですよ」門番に注意をするが

「あ……藤堂先生。 申し訳ございません。 

 実はこの女が屯所に立ち入ろうとしたので入れるわけにはいかないと断りましたのにしつこくて……」

 そう言って平助に道を開ける。

「……名都さん!」

 名都も平助に気づく「藤堂はん……」

「どうしたんですか? こんなところで……もしかして三浦さんに会いに?」

 名都はうなずくと「今月のお薬を持ってきたんどす。兄を呼んでほしいってお願いしたんやけど……」

 
 門番が慌てて「一応、三浦には声はかけましたが。本人が会わないというものですから」



 平助に𠮟責を受けるのでは?と心配顔の門番を安心させるように『事情は分かりました』とうなづき名都へ声をかける。

「名都さん、すぐ隣の壬生寺で待っていてください。 

 三浦さんを連れていきます」

 名都は「お願いします。 」と言ってその場を離れた。



 三浦を呼びにいき、名都が壬生寺で待っているので行ってほしいと告げるが三浦は硬い表情のまま

「名都にあうつもりはありません。 」

「どうして…… 」

「藤堂隊長には関係の無いことです。 

 日頃から私の体のことまでお気遣いいただいてるようですがそれもやめてください 」

「しかし……顔を見せて名都さんを安心させてあげてもらえませんか 」

「私の不手際で大きな借金を作ってしまいその結果、

 妹があのような仕事をすることになってしまいました……合わせる顔などありません。

 巡察の手当ては格段に良いのです。 

 それで早く妹を自由にしてやりたい……

 お金で名都を抱いているあなたにはわからないことだと思います…… 」

「それは…… 」それは違う、誤解だ。 

 名都と自分はそういう関係になったことはない、そう言おうとしたが言えなかった。



 平助は思う、もしあのまま店で逢うことを続けていたら?



 ……そうしていただろう、金を払い名都を抱く。 三浦の言うとおりだ。




 複雑な気持ちになりながら名都の待つ壬生寺へ向かう。

 平助一人なのを見て取ると名都の顔ががっかりした。

「名都さん、隊士は屯所内で女人に会うことは許されていません。

 屯所に関係の無い人間の出入りも禁じられております。

 これからは三浦さんの薬は私がお預かりしましょう。門番の者には伝えておきますので…… 」



 申し訳なさげな平助の顔を見て名都も心が痛む

 うちのせいでこの人に余計な気苦労させてしもうた……



 平助に促されるまま本堂に上がる階段に二人で腰掛けると名都はぽつぽつと身の上を語りだした。



 両親は貧しい浪人だったこと。 

 それでも兄は文武を身に着け跡継ぎのいない家の養子となったのに藩のもめ事に巻き込まれ借金を抱え養子先を追い出されたこと。

 その借金を返すために荷主からのお見舞金をあてにして両親が荷馬車に飛び込み亡くなったこと。

 それでも残った借金のために無理をして病んだ兄は体だけでなく心までこわしてしまったこと。



「で……そのあとはうちが島原で働いてるんどす…… ようある話どす 」

「辛い思いを…… 」

「うちは今の生活には全然不満はあらへん。兄さんの体が早く良くなってくれたらそれでいいんどす。 」



 ちょうど壬生寺へお参りに訪れた夫婦つれが平助たちのほうをちらっと見て通り過ぎた。

 寺の本堂の階段に腰掛け睦まじく話す二人のことを恋仲とほほえましい気持ちで見たのだろうか……



「藤堂はんは、大丈夫なんどすか? 」

 京で功を上げることができずくすぶっている不満を抱えていた平助のことを想う。

 あれから少しでも心穏やかに過ごせる日があったのだろうか……

 そうであってほしい……



 店には行かないと言われたんやから、もう関係ない人や……

 でも逢えばこんなにも気になる。



 名都の気持ちが激しく揺れる




「はい、大丈夫です。隊務も忙しくなり毎日充実しています。 でも名都さんのおかげでもある。 」

 そう言って平助は笑いながら頭に指で角を作って見せる……

 今はまだ『かくれんぼ』の鬼の番なだけ……



 名都に対する淡い気持ちが本気に変わったあの日のことは

 今後名都との関係が進展することなく終わったとしてもきっと一生忘れないだろう……



 平助は寂しい気持ちを隠すように笑顔を名都に向けた




 にわかに寺の境内が騒がしくなり平助と名都は入口のほうを見る

 沖田がガキ大将のように子供たちを従えてやってきたところだ。



「あれ!平助さん……逢引きですか。 隅に置けないなぁ…… 」

 沖田が名都に軽く会釈しながら平助をからかう。



「沖田さん、羨ましいですか? 」平助も笑いながら応酬する。



「別にぃ、そんなんじゃありませんけどね。 

 こんな寺じゃなくてもっと楽しいところにいけばいいのに、まったく平助さんは野暮で困りますよ。

 じゃ、お邪魔のようなので 」

 そう言って沖田は名都に手を振りながら子供たちのほうへ駆けていき追いかけっこを始める。



 子供たちが歓声をあげながら走り回る様子を楽しそうに見ている名都。

 平助は立ち上がり名都の手を取る。

「え…… 」名都が戸惑うがかまわず名都の手をひき子供たちのほうへ走り出す。

 誰が鬼なのかもすでにわからないが子供たちにはそんなことは関係ないようで

 平助たちの参加を喜び追いかけまわす。

 子供につかまらないように全力で走り、笑いあう



 平助も名都も沖田でさえも、そうすることで嫌なことを忘れてしまえるような気がしていた……





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