魔法使いは廃墟で眠る

しろごはん

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第ニ章

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「ロイバーについての質問なんだけど」
「なんだ?」
飛鳥の視線が痛い中とりあえず気になった事を聞いておく。
「ロイバーが変わった魔術師というのはなんでだろう?金銭で動くというのは人としてよくある事じゃないんだろうか?」
「そうだな。確かに魔術師にとっても金は大切だ。魔術師と言えど人である事には変わらない。生きる為には金が必要になるのは間違いねぇ。だがーー」
「基本的に魔術師は自分の欲を叶えるために魔生きているので、誰かに『雇われる』ということが少ないんですよ」
「なるほど」
難しい基準だが何となくわかる様な気がする。つまりは、自分の為に戦い、魔術を研鑽しているのであって決して他の誰かの為に使う訳では無いということ。
例えばアーサー・ロスチャイルドは生粋の戦闘狂だったが誰かの為ではなく自分が楽しみたいためだけに気に入った相手を探し、倒しに来た。戦えれば誰でも良い訳では無く、誰に命令された訳でも無く。常人には理解し難いことだがそれこそが彼にとって何よりも優先すべきことだったのだろうと今では思う。
「だがロイバーは違う。奴は金で雇われればどんな仕事でも受けやがる。殺し、盗み、護衛、戦闘なんでもだ。何かの専門という訳でもなく依頼内容に一貫性が無い」
「だから珍しいのか...」
少し考えてみる。ロイバーの理念について。話したことも見たことも無いため予想を超えることは無いが、なぜ彼は雇われ続けるのだろう。単純に金銭のためだけなのだろうか。何となくだがそれは違う気がする。邪な考えではあるのだがもし自分が魔術を行使し人ならざる神秘を操ることが出来たのなら金が欲しければ強盗でもするほうが早いと考える。どのぐらいの相場で働いているかは知らないが命をかけるリスクとリターンがあっていないのではなかろうか。それともそのスリルが楽しい?もしくは雇われるということに意味がある?必要とされる、承認欲求が満たされたいのか?
謎は深まるばかり。考えても答えが見つかる訳でもなし、これ以上は時間の無駄と判断する。するのだが、この問題は避けてはいけない様な気持ちも同時にあった。それはこの事件に関してだけではなく、魔術師、魔法使いという人種と関わる上で。これからの紅蓮院椿という人間の進む先に必ず立ちはだかる問題ではないだろうか。そう直感していた。
「後もう一点、彼が特殊な存在である理由があります」
「それは?」
「私は直接戦った訳ではありませんので真偽はわかりかねますが...彼は魔術を殆ど使わないと聞きます」
「魔術を使わない?魔術師なのに?」
コクンっと飛鳥が頷き、続ける。
「彼の戦闘スタイルは魔術兵装をフルに利用するものです。騎士団でいう王鍵ですね。魔術を行使するのに式を展開してたのでは一瞬のやり取りが生死を別つ戦場では致命的になりかねません。ですので武器や道具に魔術的概念を既に込めておき魔力を注ぐだけですぐに能力が発揮出来るようにしているんです」
「話だけを聞くと利点しかないように聞こえるけど...」
「そうでもありません。結局魔術兵装自体は魔術の汎用性を高めるために作られたものなんです。誰でも使えるようにするために簡単な想いや概念しか宿っていないので一流の魔術師であればその程度一瞬で式を展開できます。不要と判断する人の方が多いでしょう。王鍵の様な特別な例外を除き魔術兵装の多くは戦闘時の局所的な部分で使われたり、未熟な人が補助的な意味で使うことのほうが多いです」
「だが奴はそうじゃねぇ。戦いの殆どを魔術兵装で行い自分の魔術自体を殆ど見せねぇ。魔術師でありながらその矜持を示さない」
「魔術師としての矜持ーー」
プライド、魔術師たる由縁。それが無いとエレオノーラは主張する。魔術師ではない自分にはあまり実感はないが魔術師にとって大切な事なのだろう。

ああーーそう言えば、飛鳥はどうなのだろう。

飛鳥も魔術師として自らの欲望を優先して動くのだろうか。だとしたらそれはどんな欲なのか。
彼女がそれに囚われる姿など想像することも出来ないが、思っていた以上に自分は彼女を知らなさすぎる。助けて貰ってばかりで無知な自分が少し恥ずかしくなった。
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