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番外編:しぶき隊、正義の亡命者たち
しおりを挟む夕方のシンジュク、仕事帰りの勤め人やこれから遊びに行く大学生など、あらゆる人々が混在するこの街で、ハートランドの街頭演説が静かに行われている。だが、その隣では「しぶき隊」と名乗る一団が、まるで自分たちが地球の正義そのものかのように狂騒を巻き起こしていた。
「差別をやめろー!男尊女卑をやめろー!ヘイトをやめろー!戦争反対ー!レイ⚪︎ストは全員地獄へ堕ちろー!」
「レイ⚪︎スト!レイ⚪︎スト!」
「お前らのような右翼クソ野郎どもは日本から出て行け!お前らがいる限り、平等なんて存在しない!」
彼らの声は凶暴にして無慈悲、そして無知性。まるで古代の野蛮人が現代に蘇り、少ない語彙力を駆使して一生懸命に発語しているようだ。言葉はノイズの棘となり通行人の耳を裂いた。だが通りすがりの人々は彼らを一瞥し、とても冷ややかに距離を取る。
「差別反対って叫びながら、他人の意見を認めないあんたらこそが差別主義者じゃねえか……」と、通行人Aが呆れ顔で漏らす。
スマホを凝視しつつ足早に去るサラリーマンは、「うるせえんだよ、こちとら仕事中なんだよ。帰れや。平日に何してんだよ。まともに働けよ。」と無言の怒りを込めて視線を注いだ。
また、しぶき隊の連中は見るからに汚らしく、明らかに社会から隔絶された存在だった。服は見窄らしく、臭いが酷かった。それもそのはずで、普通に働けない人間か低所得者しかいないのだ。
「くっさ、こいつら…。」と道行く通行人が冷ややかな視線を送っているのも知らずに、自分たちをまるで正義の代弁者かのように振る舞っていた。
ハートランドの松村みずえ議員は、気にせず演説をしていた。
「正直ね、ノーダメですわ。アンチの言うことなんて効かへん。まぁ、私はね、彼らの努力も讃えたいんですよ。あんなデカいね、看板作ったりして、労力どんだけかけてんねんってね。まぁ書いてある事は褒められたもんじゃあございませんがね。」
「効かへんだって?なんだその態度は!自分と違う意見と対話する気はないのか!?レ⚪︎シスト!」としぶき隊のメインメンバーっぽい汚らしい男が言った。
「対話する気がないのはどっちだよ…完全にブーメランじゃん。」と帰宅中の疲弊したサラリーマンがゴミを見るような目で一瞥した。
そんなしぶき隊に注がれるのは、やはり"働け"という言葉である。 "An idle mind is the devil’s workshop"まさに小人閑居して不善を為すという言葉が彼らには適切であった。
日本の為を思って行動している、それはそれは素晴らしいことであるが、彼らが密集してヤジをとばしている間、その道を通れない仕事帰りのサラリーマンが大量発生しているのはどう考えているのか。明らかに迷惑をかけている事は無視するのか。自身のクソみたいなイデオロギーのためなら他人は犠牲にするのか。答えはおそらくYESだろう。
その日のSNSはしぶき隊大勝利と大騒ぎだった。
「ハートランドの支持者全然いなかったww」
「大勝利ww」
しかし、それも長く続かなかった。中に強酸党の関係者が紛れ込んでいることがSNSで暴露されると、ネットの炎は彼らを丸焼きにした。また、某国のSNS経由で招集された人員がいることが明らかになり、しぶき隊の正体に対して、大衆はただ答え合わせをしただけであった。
また、邪民党は関係ないというスタンスを貫いていたが、過去のスキャンダルとズブズブの関係が掘り返され、「結局お前ら仲間やんけ」と大衆から見透かされる。というかただの答え合わせである。
政党要件すら満たさないくせに声だけデカく、まるで世界の救世主を気取るその姿は、現代日本が生んだ最大の茶番劇。
シンジュクの夕暮れは、喧騒と冷笑が入り混じる、狂騒の舞台となった。
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