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第二章
初依頼
しおりを挟む「あ、ディーライトさん。お疲れ様です。予定よりだいぶ早かったですね」
「まあね。クイーンが居たから、それを始末するだけで統率を失って逃げ出してくれたから楽だったよ」
そう言ってディーライトは、サインの書かれた書類を此方に見せた。
おそらくそれが依頼者との契約書で、依頼終了のサインが書かれているのだろう。
「そうだったんですか、流石ですね。では、依頼達成の報告ですか? でしたら担当者を呼んで来ますので、一番カウンターの方で――」
「あー、いや、違う違う。それもあるけど、声を掛けたのは別の理由だよ」
リリアさんの言葉を遮ったディーライトは視線を落とし、私とノーニャを見据える。
「な、何か?」
「なに、大したことじゃないさ。君達二人は新人だろう? 丁度依頼も終わったことだし、俺が指導者になろうかと思ってね」
「え、貴方がですか!?」
突然、リリアさんが驚いて声を上げる。
「リリアさん?」
「あ、すみません。ですが、ディーライトさんが直々にというのは、聞いたことが無かったもので……」
リリアさんの様子からすると、ディーライトという人物はそういう雑事に関わるような人物ではないのかも知れない。
「まあ、偶にはいいかなと思ってね。それに、毎回俺が付いて行く訳でもないさ。誤解の無いように言うと、俺のクランで面倒を見ようかってことだよ」
(ふーん……。まあ新人の間だけだし、大外れでなければ誰に付いてもらってもいいか)
「じゃあ、お願いできますか?」
「ちょっ、タガヤ君!?」
「ジ……タガヤがいいなら私も」
「ターニャちゃんまで、もっとよく――」
パンッ
「よし、決まりだ! さあ、そうと決まれば、早速これから一件片付けようか。リリアさん、依頼票を……お、もう出してあるのか、見せてもらうよ」
「ちょっ、ちょっとディーライトさん、勝手に――」
ディーライトは説明のためカウンターの上に出してあった依頼票を取り上げ、パラパラと目を通すと、その中の一枚を千切り取りリリアさんに見せる。
「これにするよ。文句なら後で聞くから、日が落ちる前にさっさと行こうか」
リリアさんに有無を言わさず、私達を連れてカウンターを離れるディーライト。
「人の話を聞いて下さい! その子達はまだ検査も終わってないんですよ?」
「その検査結果、早くしないと結果が変わってしまうよ」
ディーライトは出口へと向かいながら手をひらひらさせてそう言うと、私達の肩に手を置き「よろしく、おチビさん達」と言って笑った。
◆ ◆ ◆
「タガヤ、そっち行ったわ!」
「わかった!」
私が身構えて少しすると、猫のガーデンオーナメントが蛇のように這いずりながら、家の角を猛スピードで曲がって来た。
(うわキモっ!)
石にしか見えない、猫の形をした物が骨格を無視してグニャグニャと蠢いているのは、強烈な違和感を感じさせるのに十分だった。
「このっ!」
ガーデンオーナメントが私を避けて逃げようとするのを、足甲を作って横合いから蹴り飛ばす。
庭を囲んでいる石の塀に向かって飛んでいったオーナメントは、そのままぶち当たると鈍い音を立てて落下した。
「やったか?」
無意識にフラグを立ててしまうが、近付いて確認してもうんともすんとも言わないので大丈夫だろう。
「うわっ」
安心していると、フラグを回収せんとしてか次なるガーデンオーナメントが飛び出してくる。
「クソめっ」
私とノーニャは今、冒険者としての初依頼でウィミックの駆除を行っている。
依頼内容をディーライトに告げられた際、ウィミックが何なのか全くわからなかったが、帝国の宮殿で厄介になっている時一度出くわしているとノーニャに教えられて思い出した。あの時は植物が動き出した物だと思っていたが、どうやらウィミックと言うのは動物以外の物、特に草花や無機物が突然動き出した魔物の事らしい。
本来なら簡単な仕事のはずなのだが、ウィミックは視覚から動きを予測できないため、ノーニャはともかく私はやり辛いことこの上なく、かなり苦戦していた。
「ほら二人共、そんなんじゃ日暮れまでに終わらないぞー!」
庭の入り口で門柱にもたれ掛かったディーライトが、大声で私達を急かす。
空を見ると、かなり日が傾いてきていた。
「くあーーっ、切りが無い!」
雑草に扮していたウィミックを踏み潰し、溜まっていたイライラを吐き出すように叫ぶ。
数時間ほど続けているが、一向に減る気配がないウィミックに対して、いい加減我慢の限界だった。
「ジミー、まだやるの?」
藪のような庭の茂みからひょっこり顔を出すルチア。
「うん……やらないと駄目なんだ。退屈させてごめんだけど、もうちょっとだけ待っててくれる?」
「むぅ……」
言わなくてもわかるくらいに不機嫌な顔をされてしまった。
それでも、一度受けた依頼を途中で投げ出すのはいろいろな意味で良くないため、なんとかルチアを宥めてわかってもらおうと近付い「えいっ!」たぇあ?
一瞬視界が揺れた後、視界いっぱいにルチアの小さな握りこぶしがあった。
(あれ? 指刺さって……またか)
よく見るとルチアの人差し指が眉間の辺りに突き刺さっている。
これから何をされるのか分かった私は、甘んじて受け入れるべく、体の力を抜いて膝をついた。
覚えのある感覚が体に広がっていき、勝手に動き出す。
パンっ!!
私は柏手を打つ様にして両の手を思い切り打ち合わせると、広がっていく音に魔力を乗せて、周囲に薄く広く伸ばしていく。
「あっ」
魔力が広がっていくにつれ、頭の中に周囲の情報が浮かび上がってきた。
広がった魔力を維持しながら脳内マップを見ていると、ノーニャが居る辺りや門柱のところが歪んでいた。
(生き物の近くは歪むのか?)
さらに、何かが動いた後は、魔力が押しのけられるようにしてその軌跡が残っている。イメージとしては長時間露光で撮影された写真に近いので、激しく動いてるだろうノーニャの辺りはもう既に何がなんだか分からなくなっていた。
パンっ!!
また両手を打ち合わせる。
今度は先程広げた魔力を押し出すようにして、また薄く広く広げていく。
すると、動いた軌跡がリセットされ見易くなっていた。
(まるでソナーだな……魔力ソナーってところか)
今度は細かく観察すると、庭の至る所に小さな歪みがあった。ルチアが魔力ソナーをやらせた意図から考えると、おそらくその歪みの一つ一つがウィミックなのだろう。
ズヌるっ
嫌な感触や音と共に、ルチアの指が眉間から引き抜かれる。
「うぅ……あ……ありがとう、ルチア。助かるよ」
「ん」
視界が複視になっていてよく見えない中、頭を振りつつルチアにお礼を言うと、彼女が頭を出してきた。
「ん、あ、そっか。よしよし、ありがとね」
「ん!」
ルチアがニマーっとした後ドリュアス達の所へ走り去っていくのを見送り、頬を叩いて気合を入れる。
パン、パンっ!
「よしっ!」
そこからはウィミックを探す必要がなくなったので、一気に駆除が進んでいった。
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