【完結】正義のオメガとクズアルファ

西胡瓜

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3 デート

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「ほら、動かないで」

「もういいだろ、テキトーで」

「ダメだよ! 可愛くなきゃ僕じゃないってバレちゃう。後その話し方ダメだからね」

「はぁー」

 クズ野郎と買い物という名のデートをする日の朝、俺は日向に人形のように色々と弄くり回されていた。

 いつものオールバックも昨日は日向が使っているサラサラになるシャンプーとリンスで髪を洗うよう指示され、ふわふわセットされている。前髪が鬱陶しい。

 服も俺が普段着ない格好でむずむずする。大体俺の私服といえばTシャツに短パン、サンダルが定番だ。

「なんだよこれ、袖長くないか手がでねぇ」

「これは萌え袖だよ可愛いでしょ」

「これじゃすぐに相手を殴れねぇ」

「殴らなくていいの! 殴るの防止でもあるの」

 どうやら服のサイズを間違えたわけではないらしい。腕まくりしようとしたら怒られた。やっぱりオッケーするんじゃなかったと後悔している。

「できた♡ うんやっぱり正義可愛いね。さすが僕のおにーちゃん」

「はぁー、だりぃ」

「言葉遣い! あとガニ股禁止!」

 疲れた俺はベッドに脚を広げて座ると、すぐさま日向が指摘をしてくる。

「はぁ!? これもダメなのかよ!」

 男なら座る時ガニ股になるのは自然なことだろうが! そういえば日向は座る時脚広げてないな、こいつの体どうなってるんだ。
 実は女なんじゃないのかと怪しんだが、風呂に一緒に入った時にちゃんと男のシンボルがついていたっけ、それも俺よりデカい。双子なのにそこが違うのが一番腹立つ。

「ほら練習! 可愛く自己紹介」

「っち、おれ……僕の名前は御子柴日向です。よろしくねクズ野郎先輩♡」

「うん、うん。やればできるじゃない可愛いよー正義」

 出来るだけ高い声を意識する。自分で喋っててびっくりするぐらい日向だった。日向はパシャパシャとスマホで写真を撮っている。凛にでも送りつけているのだろう。

「とりあえず、それとなくやんわりと断ってくれればいいから」

「へいへい、じゃなくて……うん、りょーかい」

 敬礼のポーズをとり首を少し傾げる。ペコっと効果音がしそうだ。こんなことしてた気がするのでとりあえず俺がやらなそうなことを片っ端からやってみる。なんか少し楽しくなってきた。

「あ、そうだこれを付けてっと」

「なんだこれ」

「ピンだよ、この方がもっと可愛くなるから」

 そういうと日向は俺の髪にヘアピンをつけた。

「あと……久住はそれはそれは絵に描いたようなアルファ様だからね! 気をつけて!」

 ──アルファねぇ

 この世界には男女の他に3つの性別が存在した。全てがハイスペックでムカつく野郎のアルファ様、パンピーのベータ、負け組のオメガだ。
 ぶっちゃけそんな性別俺には関係ないのであまりよくわかっていない。

 支度が終わった俺は、自宅を出て待ち合わせ場所である駅に向かった。



◇◇◇



「どこだよ……あっ、あいつか」

 駅に着いた俺はスマホを片手に日向から送られてきた写真を見ながら、待ち合わせ相手であるクズ野郎……ではなく久住を探す。

 すると駅前にある像の前に長身の男が立っているのが見えた。待ち合わせの5分前には着ているとはいい心掛けではないか。
 
 遠目ではあるが整った顔立ちで長身、私服のセンスもいいじゃねーか。周りの女子たちがジロジロと見て、話しかけようか迷っているようだった。日向の言う通り見るからにアルファって感じだ。

 別に羨ましくなんかねぇ。クズらしいしな、その爽やかな顔をひん剥いてアルファの本性を曝け出させてやる。

 深呼吸を一つした俺は、久住が待つ像の前に歩いていった。

「ごめんなさい、お待たせしちゃって久住先輩」

「いやいや、待ってないよ。それにしても……」

「どうかしましたか? 僕何か変ですかね」

「いや、とっても可愛くて見惚れちゃっただけだよ」

 ──うげー
 甘いセリフに背筋がゾクゾクとして身体中に鳥肌が立つのがわかる。男に見惚れるとか目腐ってんじゃねーのかといつもの俺だったら言い返すのだが、今の俺は日向なのだ。ここは可愛くお礼を言わなければならない。

「あ、ありがとうございます。先輩もとってもカッコいいですよ」

「そうかな、ありがとう」

 なんなんだこの気持ち悪いやりとりは、楽しもうとか思ったけどもう既に走って帰りたい。笑顔もだいぶ引きつっているに違いない。せっかくの休みをこんなクソ野郎のせいで潰れるなんて最悪だ。

「じゃ、行こっか」

「えっ! あ、はい」

 こいつ俺の腰に手を回してきやがった。反射的に肘打ちしてしまいそうになった俺だが、なんとか耐えることができた。

 落ち着け、たかが男に腰を触られたぐらいでいちいち反応するなんてガキじゃあるまいし、久住の顔を見ると平然とした顔をしている。

 とりあえずニコニコ笑っていれば勝手に時間が過ぎていくだろう。俺は久住になされるがまま目的地まで歩いて行った。



◇◇◇



 おかしい、久住とデートは案外普通だった。むしろ俺が女だったら惚れてしまうと思うほどにスマートで気が利いていた。

 まず向かったのはショッピングモールだった。買い物という名目なわけだから当たり前なのだが、服なんて全く興味がなく退屈にしていると、それに気付いたのかゲーセンに行こうと言ってくれた。

 次にお昼だが、既に予約してあったらしく待つことなくスムーズにお店に入り食事を食べることができた。普段ファストフード店にしかいかない俺だが、そんな貧乏舌の俺でも驚くほどに料理は美味しかった。

 そしてその後は美味しいと評判のスイーツの店があるらしくそこでパフェを食べた。

 そして今は公園のベンチで休んでいるところだ。久住は飲み物を買ってくると何処かへ行ってしまった。

「ふー、まじでサイコー」

 ゲーセンで遊んで美味しいもの食べて、おまけに全部久住が払ってくれたため俺は1円もお金を出していない。最初は嫌とか思っていたが変わってラッキーだったかもしれない。

「お待たせ、はいジュース」

「さんきゅ……ありがとうございます♡」

 危ない危ない、リラックスしすぎてボロが出るところだった。俺は久住が渡してきたお洒落なジュースをストローで吸い上げる。

「んー、美味しい」

 これまた、随分と美味しいジュースだ。俺は甘いもの大好きなんだよな、日向は辛いものの方が好きみたいだけど。

 久住は俺の座っているベンチの隣に座る。
 美味しいジュースに俺は一気にそのジュースを飲んでしまった。

「はー、美味しかった」

「それは良かった」

「久住先輩は美味しいお店たくさん知っててすごいですね」

「そうかな、日向くんに喜んで貰えて嬉しいよ」

 謙虚でいい奴ではないか、噂というのも嘘なのかもしれないな。もしかしたら日向がデートするのが嫌で嘘を言ったのかもしれない。あいつならやりかねない。

 ──あれ、なんか意識が……

 いい気分になっていた俺に急に睡魔が襲ってくる。おかしいな昨日はぐっすり眠ったから寝不足ではないはずなのだが。
 俺は襲いくる睡魔に抗うことができず、そのまま横にいる久住の肩に寄りかかる形で意識を手放した。

「やっと寝たか、楽しませてもらうよ日向」
 






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