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第一章 転移編

15 師団長

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「ではまずわしらがどんな存在なのかを教えるとするか」

「あぁ、頼む」

 正直この世界や国のことよりも俺が一番知りたいことである。

 俺が転移してきた戦場にギルバードがいて、周りが男だらけのところを見ると彼らは戦争に参加している兵士だと考えられる。テントが設営されているということは遠征しに来ているのだろうか。

 しかし朝から活気あふれる声が聞こえ、あまり緊張感が感じられず、とてもじゃないが戦争中の兵士たちには見えない。

 パスカルはひとつ咳払いをすると、改まった態度で自分達が何者なのかを説明し始めた。

「わしらはクロノス王国に属する魔法軍だ」

「魔法軍?」

「サタローのいた世界で言えば軍隊みたいなものだ。ただ魔法を駆使して戦うがな」

 なるほど流石はパスカルだ。俺にもわかるよう前世の例えを用いて説明してくれる。軍隊ということは俺の予想は当たっていたわけだ。

「今は特別部隊で遠征訓練をしているところだ」

「なるほど、大体わかった」

 つまりパスカルたちはクロノス王国を守る魔法軍で今は訓練のためにここにいるわけだ。だからあんなに和気あいあいとして緊張感がなかったのかと納得する。

「じゃあ俺の転移してきた戦場ってのは?」

「あれは別の国との合同軍事演習をしている場所だな」

 本気で戦争を行なっているわけではないことに安堵する。しかしそれでも魔法を使い戦っていたのだから敵でも味方でもない俺は殺されていた可能性があったわけだ。
 あまりに危険な場所が最初の転移場所だと知り身震いする。

 もしこの転移場所が神様による、ギルバードに助けられパスカルやアルフレッドと出合わせるための策略だったとしても、もう少しいい場所はあったと思う。

「つまりパスカルたちはそのクロノス王国の兵士ってことでいいんだよな」

「まぁ、兵士がいるのは間違いないがギルバードもアルフレッドも指揮する側だがな」

「……やっぱりあの二人って偉いのか」

「何だ気づいていたのか……さすがのお前もそれに気づかないほどバカではないか」

 見直されたようでよかったが、バカにされていたことはなんだか納得いかない。
 しかし、やはりギルバードもアルフレッドもここにいる男たちの中でも高い地位にいると知り、あんなことを頼んでしまってよかったのだろうかと心配になる。
 だか、今更後悔しても後の祭り。

 そもそもパスカルが二人に事情を話したわけだし、俺は悪くない……はずだ。

「それであの二人って何者なんだよ」

「クロノス王国魔法軍第一師団長と副師団長だ」

「……師団長と副師団長!?」

「あぁ、因みにわしは軍医だ」

「それはどうでもいい」

「おい!」

 高い地位だとは思ってはいた。隊長クラスだと思っていたらまさかの師団長クラスだった。師団長って確か団とか旅団なんかよりももっと大きい組織をまとめ上げる人だよな。階級にしたら中将レベルじゃないのか……

 知らなかったとはいえ俺はとんでもない二人にとてつもなく失礼なお願いをしていたことを知る。
 遠征訓練にそんなお偉いさんが二名も来ていることにも驚きだ。

 二人の身分を知りかなり動揺する俺だが、ここでひとつ大きな疑問が湧いてくる。一体どっちが師団長で副師団長なのかだ。
 俺の予想ではギルバードが師団長だと予想する。あの鋭い目付きと纏うオーラは只者ではないと思うからだ。それに比べるとアルフレッドの方は威厳なんかはあまり感じられないし、人の上に立つような性格には失礼ながら見えない。ギルバードが厳しい分アルフレッドの穏やかさで中和している感じがする。

 探偵の如く推理した俺の予想は当たっているのだろうか。俺は身を乗り出して二人の役職をパスカルに尋ねた。

「で! どっちが師団長で副師団長なんだ!」

「アルが師団長でギルが副師団長だ」

「ええ! 逆じゃないのか!?」

「言いたいことは分からんでもないが本当だ」

 まさかの俺の予想は全くのハズレで、アルフレッドが師団長でギルバードが副師団長らしい。
 優しすぎるアルのせいでギルバードが厳しくなったってことだろうか。

 パスカルも俺の反応に同意していたところを見ると、結構アルが師団長をやっていることに違和感を覚えている者が多そうだ。
 別に似合っていないというだけで、みんなからの信頼は厚そうだなと勝手に思う。「みんな喧嘩はやめて仲良くしよーよ」とか言ってそうだし。

 二人に後でとんでもない要求されないか心配になる。

「なんでそんな偉い二人に頼んだんだよ……別に違う奴らでもよかっただろ」

「偉い地位にいるということは魔法を使うのが純粋に上手い、つまり魔力操作も人より長けているし、魔力量も多い」

 つまり、パスカルの気遣いで二人に話してくれたわけか。ぶっちゃけヤるんだったらイケメンに越したことないしいいんだけどね。
 こちらの世界にきて思ったが俺ってだいぶ面食いだったのかな?友人は女にモテてなかったしそういうわけではない筈なんだが……。
 本気で恋するなら中身で選ぶけど、セフレならイケメンに限るってことなのか?
 ってセフレってそんな軽い関係、なんか嫌なんだけど……
 
 だがそんな軽い関係じゃないような、もっとこう俺が生きるために欠かせない人とか、俺を生かしてくれる人的な感じだろうか。それだとちょっと重すぎる気もする。

 アルとの関係について悶々としているとパスカルがボソッと何かを呟いた。

「まぁ、心配だったから話したんだけどな」

「心配ってあの二人がか?」

 とても心配するような点は見られない。真面目で魔法も上手くて尚且つイケメンという非の打ち所がない人たちだ。
 俺が不思議そうに尋ねると、パスカルは何かを思い出すかのように遠い目をした。

「この遠征訓練は一ヶ月あって、ちょうど昨日で折り返し地点だったんだ。他の連中は週末には街に降りて遊び回っていたようなんだが、あの二人ときたら真面目に仕事の続きをしていたからな……ちゃんと性処理してるか心配になって」

「ちょっと待て、それって俺で性欲処理させるために紹介したってことかよ!」

 俺はデリヘルか!
 大の大人2人の性事情まで口出しするとかちょっと過保護すぎないか。

「まーまー、一石二鳥でいいかなと思って」

 よくないわ、異世界に急に現れたピュアな男子高校生をなんだと思っているんだ。
 一ヶ月ぐらい一人でどうにかなるだろう。訓練の合間に遊び呆けるってそんな兵士でいいのか。
 軍のことについて他人の俺が口出しするのもおかしいので何も言わずにいておいてやったが。

「子どもじゃないんだからそのくらい一人でどうにかしてるだろ」

 他人の性事情なんて知ったこっちゃないが、どんだけ真面目な男だろうと超絶イケメンだろうが一人でこっそりしてるのが男の性ってものだろう。
 他人にとやかく心配されることではない。

 あの性格は違えど真面目そうな二人が一人でテントの中でしていると思うとエロいな、なんて思ったり想像なんてもちろんしない。

「言っただろ、この世界では三大欲求が満たされてないと魔力で補う事となる……だから一、ニヶ月禁欲しても問題はないが、その分魔力も減り続ける。前にそれで戦争中にアルとギルのやつぶっ倒れたことがあってな。話に聞くと二人とも三ヶ月も性処理していなかったらしい、食事も睡眠もろくにとっていなかっただろうしな」

「まじかすごいな……」

「すごくない、阿呆だ!」

 俺は禁欲期間の長さに驚きとともに感心してしまったが、パスカルは呆れ返っていた。仕事を真面目にこなすのは賞賛出来るがそれで戦争中に師団長と副師団長が倒れたらそれはそれで一大事だ。指揮するものがいなくなるわけだし。

 この話は聞いてもよかったのだろうか……。彼らにとってはだいぶ恥ずかしいエピソードだと思う。パスカルが勝手に話したのだから俺にはなんの罪もない。

 ──彼らのことが徐々にわかり始めた。
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