遇者の初恋

おみや

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無題1

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 たくさんの人を自分勝手に殺してきた。
 男、女、年齢も関係なく。
 それこそ、産まれたばかりの赤ん坊だって、容赦なく消してきたし。
 その殺し方も多岐にわたり、どんどん過激になっていった。



 だから、自分が恋をして、殺せなくなる日が来るなんて想像もしていなかった。



 だって、まさかだろ。




 小国の姫である彼女は、金色に輝く美しい髪。エメラルド色に輝く瞳は見える角度によっては七色にも見える。それは王家特有の色だ。




 誰にでも優しく、いつも笑顔で。姫としてはちょっとお転婆ではあるが、誰からも慕われ、誰からも愛される存在の彼女。


 彼女もいままでように、俺が殺すべき存在だった。



 そう。彼女は最初から俺に殺される為に存在しているはずだったんだ。






『産まれてきた命はすべて何か使命を持っているのです』



『私は負けない!この世界に生きるすべての人が笑顔になるまで』



『たとえ、この身を犠牲にしても、私は世界を守りたい』



 綺麗毎だ。




 どんなに崇高な思いを掲げても、やっぱりクズはいるんだ。
 彼女の周りにもそうだ。


 彼女の親友面して一緒にいた女は、彼女を陰で裏切っていた。
 彼女に愛をかたむけられていた男は、隣国の女と繋がっていた。
 彼女の父親である王も、彼女をいけにえにして、太古の魔術を蘇らせようとした。





 だから、殺した。





 彼女に害のなすもの、すべて。この手で。
 彼女に気づかれないように、思いつくかかぎりの残虐な方法で。




 
 世の中ではそれを「ざまぁ」なんて言い方をするらしい。


 
 でも、きっと彼女は「ざまぁ」なんて言わない。
 彼らの事を思い、胸を痛め、涙を流してしまう。



 あんな奴らに、彼女の涙はもったいない。




 彼女に花を贈ったらどんな顔を見せてくれるのだろう。



『…素敵。とっても、いい香りね』
 そういって、まるで彼女が大輪の花のようにほほ笑むんだろう。




 彼女に大好物の甘いものはどうだろう。


『美味しい!でも、食べ過ぎて太ってしまうわ』
 きっと、そんな風にいって少し頬を膨らませるのだろう。




 愛の言葉を告げたら…。





 彼女はなんて言ってくれるだろうか。






 両目からぽたりぽたりと涙が零れる。
 右手をしっかり噛んで、叫び声を封じ込める。






 殺したくない。





 でも、殺さないといけない。






 彼女の心臓には、この世界を構成する格が埋め込まれている。
 それは彼女が産まれる前から決まっていた事。


 

 そう、俺が決めた事だ。


 彼女を核にして、この世界を再構築する事を。




 彼女の細い首に手をかける。

 今まで自分から手を下した事はなかったが、彼女には僕自身が手を下そう。





 手に力を込めるが、彼女は全く抵抗しなかった。



『これでいいのです。あなたはあなたの成すべき事をしてください』

「出来ない…」

『大丈夫。あなたなら、きっとやり遂げる事が出来ます』

「出来ない…。君を殺したくないんだ」

『でも、あなたが決めてきた事でしょう?』



 彼女を殺しても、また何度でも生き返らせる事も出来るし。魔法を使ってもいい。

 過去に戻してもいいし。

 異世界転生させてもいい。




 全知全能の僕にならそれが出来る。




 出来るんだ…。










 僕は出来なかった。

 今まで書き上げてきた小説のラストを書ききることが。
 


 すべてをdeleteした僕は、彼女を一番に考えてくれる親友と、彼女だけを一途に思う婚約者。厳しいながらも彼女の幸せを願う父親に囲まれ、幸せに笑う彼女を書いて電源を落とした。





 きっと、彼女は今日もあの話の中で、幸せに笑っているだろう。 
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