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第四章 カズミちゃんはアイドル?
09 両手に茶碗お椀を持った、昭刃和美は、「さあ、くっそ
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両手に茶碗お椀を持った、昭刃和美は、
「さあ、くっそ不味い朝メシが出来たぞー」
ちゃぶ台にそれらを置くと、キッチンに戻って、今度は料理の乗った平皿を運んでくる。
雀が元気に騒ぐ時間帯、これから昭刃家は出勤前登校前の朝食である。
カズミが行ったりきたり、あくせく準備をしていると、兄の智成と弟の駆が、眠たそうな顔で、隣の部屋からずるずる這い出て来て、眠い目を擦りながら、這い上るように席へ着いた。
眠気で頭フラフラぼーっとしている男子二人は、なーんとなく視線を上げたその瞬間、揃ってあ然とした顔になっていた。
「いつもは、していないエプロン……」
ぽそぽそっ、と呟く駆。
「しかし、ただそれだけではないような」
こそこそっ、と小声で口を動かす智成。
二人はお互いに顔を見合わせると、揃って小首を傾げた。
「なんだよ?」
小皿を持って、立ったまま尋ねるカズミ。
「いや、その、なんというか。……料理は相変わらずそんな美味そうには見えないけど……お前、ちょっと可愛らしく……なった?」
いきなりそんなこといわれ、カズミはちょっと身を引くように驚きの表情を浮かべたが、すぐに照れた笑顔になった。
「そ、そ、そう見える? つうか当たり前だろ! まだ中二されど中二、可愛さどんどん成長中なんだ。美少女から美女へ、ロケットスタートで置いてかれないよう、今のあたしの姿をしっかりそのしょぼい目に焼きつけとけええええええい!」
ぐるるるんと回った瞬間、遠心力で皿の中身が吹っ飛んだ。
「うおお、しまったああ!」
「しまったじゃないよ! 皿を持ったままそんな勢いで回ったらそうなるに決まってるだろ! バカか!」
「で、でもっ、吹っ飛んだのが、たまたまちゃぶ台の茶碗の中にキャッチされてる! 神! コロッケが一つ、床に落ちただけだ! ……だからこの落ちたコロッケは兄貴が食ってな」
「えーー! だからの意味が分かんねえ。……今日、仕事行くのやめようかな」
「行けよ!」
怒鳴りながら洗面所へ。
床を拭くために、雑巾を取り出して水に濡らした。
ぎゅーっと絞りながら、ふと顔を上げ鏡を見る。
笑顔の自分を。
なんだろう、ただの日常、楽しいことなんか今なんにも起きていないのに。
昨日の楽しさが忘れられず、顔に残ってしまっているのだろうか。
楽しいというより、嬉しかった。
みんなが自分なんかのために、色々とやってくれたことに。
「もう、憧れない……」
星川絵里奈に、というよりも、アイドルとか、そういう可憐な世界に。
なれたらいいなー、とかも思わない。
目指さない。
あたしは、これでいいんだ。
と、そう思えるようになったから。
アサキのバカに感謝だ。
そういう気持ちにさせてくれたことに。
「さあ、くっそ不味い朝メシが出来たぞー」
ちゃぶ台にそれらを置くと、キッチンに戻って、今度は料理の乗った平皿を運んでくる。
雀が元気に騒ぐ時間帯、これから昭刃家は出勤前登校前の朝食である。
カズミが行ったりきたり、あくせく準備をしていると、兄の智成と弟の駆が、眠たそうな顔で、隣の部屋からずるずる這い出て来て、眠い目を擦りながら、這い上るように席へ着いた。
眠気で頭フラフラぼーっとしている男子二人は、なーんとなく視線を上げたその瞬間、揃ってあ然とした顔になっていた。
「いつもは、していないエプロン……」
ぽそぽそっ、と呟く駆。
「しかし、ただそれだけではないような」
こそこそっ、と小声で口を動かす智成。
二人はお互いに顔を見合わせると、揃って小首を傾げた。
「なんだよ?」
小皿を持って、立ったまま尋ねるカズミ。
「いや、その、なんというか。……料理は相変わらずそんな美味そうには見えないけど……お前、ちょっと可愛らしく……なった?」
いきなりそんなこといわれ、カズミはちょっと身を引くように驚きの表情を浮かべたが、すぐに照れた笑顔になった。
「そ、そ、そう見える? つうか当たり前だろ! まだ中二されど中二、可愛さどんどん成長中なんだ。美少女から美女へ、ロケットスタートで置いてかれないよう、今のあたしの姿をしっかりそのしょぼい目に焼きつけとけええええええい!」
ぐるるるんと回った瞬間、遠心力で皿の中身が吹っ飛んだ。
「うおお、しまったああ!」
「しまったじゃないよ! 皿を持ったままそんな勢いで回ったらそうなるに決まってるだろ! バカか!」
「で、でもっ、吹っ飛んだのが、たまたまちゃぶ台の茶碗の中にキャッチされてる! 神! コロッケが一つ、床に落ちただけだ! ……だからこの落ちたコロッケは兄貴が食ってな」
「えーー! だからの意味が分かんねえ。……今日、仕事行くのやめようかな」
「行けよ!」
怒鳴りながら洗面所へ。
床を拭くために、雑巾を取り出して水に濡らした。
ぎゅーっと絞りながら、ふと顔を上げ鏡を見る。
笑顔の自分を。
なんだろう、ただの日常、楽しいことなんか今なんにも起きていないのに。
昨日の楽しさが忘れられず、顔に残ってしまっているのだろうか。
楽しいというより、嬉しかった。
みんなが自分なんかのために、色々とやってくれたことに。
「もう、憧れない……」
星川絵里奈に、というよりも、アイドルとか、そういう可憐な世界に。
なれたらいいなー、とかも思わない。
目指さない。
あたしは、これでいいんだ。
と、そう思えるようになったから。
アサキのバカに感謝だ。
そういう気持ちにさせてくれたことに。
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